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196 解析結果

 店にはフィオーナがいた。

 そして、彼女だけじゃない。2人の護衛騎士と案内役のライラもいる。

 皆、今すぐダンジョンに潜れる装備だ。


「おう、どうした? 何か用か?」

「用がなきゃ、来ちゃダメなの?」


 フィオーナがふくれっ面をする。

 まあ、怒ってますってポーズだ。

 本気で怒ってるわけじゃない。

 長年の付き合いだから、俺には分かる。


「そういうわけじゃない。フィオならいつでも歓迎だ」


 俺がそう告げると、すぐに笑顔になる。

 簡単なヤツだ。


「これからダンジョンに向かうから、その前に挨拶に来たんだよ〜」

「おお、そうか、頑張れ」

「うんっ!」

「どれくらい潜るんだ?」

「最初は3泊する予定。アルに言われたように、ちゃんと1階層から自力で攻略するよ。ライラちゃんにも『それが良い』って言われたし、ね〜?」

「うん」


 ライラが頷く。

 昨日とは違って、今日は冒険者の顔をしている。

 彼女になら、安心してフィオーナを任せられるな。


「フィオのことよろしく頼んだぞ」

「大丈夫だよね〜。私とライラちゃんの仲だもんね〜」

「ああ」


 ライラはちょっと困った顔をしている。

 ライラにはフィオが高貴な人だとは伝えてある。

 その高貴な依頼主から、距離を縮められて、どう対応するべきか、考えあぐねているのだろう。

 ここは助け舟を出してやろう。


「二人はだいぶ打ち解けたんだな」

「昨日、一緒にいっぱい遊んだもんね〜」

「あっ、ああ」

「ライラ、フィオはこの調子だから、友人だと思って軽く接して平気だぞ」

「そうなのか?」

「うんっ!!」

「じゃあ、よろしく頼む」

「こっちこそ、よろしくね〜」


 これでライラもフィオの扱い方が分かっただろう。


「それより、二人こそずいぶんと仲が良いじゃないか」

「ああ、妹みたいなも――」

「幼馴染だもんね〜」

「…………ああ」


 俺が話している途中でフィオーナが割り込んできた。

 俺としてはフィオーナは妹みたいな存在なんだけど、フィオーナはどうしても俺とは幼馴染という関係だと主張して譲らない。


「ふふっ、本当に仲良しだ。アルも隅に置けないな」


 ライラが温かい目で俺とフィオーナを見てくる。

 気まずいことこの上ない。


「まあ、頑張って行って来い」

「うん。行ってくるね〜」

「行ってきます」


 騒がしい挨拶だったが、フィオーナたちはダンジョンに向かって行った。


 さて、【遺物アーティファクト解析】を再開するか。

 でも、また集中しちゃうと昼食を忘れそうだな。

 ちょっと早いけど、昼食を取って、それからやるか。


 俺は工房に戻り、【虚空庫インベントリ】から取り出したサンドイッチをつまむ。

 食べ終えたら、トイレも済ませておく。

 トイレから戻ると、ちょうどビスケも手が空いたところだった。


「なあ、ビスケ」

「なんですか、師匠?」

「ちょっと集中するから、夕食の時間になったら声をかけてくれ」

「分かりました」

「すぐに反応しないと思うから、何回か声かけてくれ。それでもダメだったら、身体を揺すってくれ」

「はいですぅ」


 言ってから【警報アラーム】でも良かったか、と思ったけど、まあいいや。

 集中しすぎてると【警報アラーム】は聞き逃すこともあるし、他人に任せるのが一番確実だ。


 よし、食事もトイレもアラームもオーケーだ。

 準備万端。俺は『カートリッジ』の【遺物アーティファクト解析】を再開した――。


 ――頭の中のもやもやした像がいきなり鮮明なかたちで脳裏に浮かび上がった。


「はっ!!」


 いきなり意識が覚醒した感覚。


「終わった!」


 『カートリッジ』の【遺物アーティファクト解析】が完了したのだ。

 いや、違う。

 解析が完了した今になってようやく分かった。

 俺としては『カートリッジ』の解析をしていたつもりだったのだが、どうやら、俺が解析を行っていた対象は、『カートリッジ』を覆う魔法障壁だったのだ。


 俺としては「これで『カートリッジ』がなにか分かるかも」と期待していただけに、落胆は大きかった。

 でも、これで一歩前進したことは間違いない。そう思って、前向きにやっていこう。


 解析が完了したことによって、魔法障壁の構造が把握できた。

 この魔法障壁はある決まった魔力を流し込むことによって解除できる。

 後は鍵――正しい魔力を見つけるだけなのだが、これが大変だ。

 例えるなら、何万本もの線からなるあみだクジで当たりを見つけるようなもんだ。


 時間をかければ確実に解くことは出来る。

 しかし、そのためには膨大な量の試行錯誤が必要だ。

 ヒントはなにもない。総当りでやるしか方法がないのだ。


「続きは明日にするか」


 時計を見ると午後6時過ぎ。

 これから始めるには遅すぎるし、なによりひどく疲れた。

 実家を出てから、間違いなく今日が一番疲れた。

 魔力も全体の半分近く減っている。

 これ以上、疲れる作業はやりたくない。


「あれ、師匠。もう終わったんですかぁ?」

「ああ、終わったよ」

「なんか、凄い疲れてますね。こんなに疲れた師匠は初めて見たですぅ」


 ビスケが心配そうに俺を見てくる。


「ああ、俺も久々だよ。なにもする気が起こらない」

「へぇ〜、珍しいですぅ」

「ちょっと、ここでボーッとしてるわ。俺のことは気にせず作業してくれ」

「はいですぅ。師匠、お疲れ様ですぅ」


 それから夕食まで、俺はボケっとビスケの仕事姿を眺めていた。

 初めて見た頃に比べれば、格段に上達したな。

 まるで熟練の職人のような貫禄が出て来た。


 普段はのんびりほんわかした姿だけど、仕事中のビスケは凛々しくて新鮮だった。格好いいなという後ろ姿だった。


 その後、夕食を済ますと俺はすぐにベッドに横になり、すぐさま意識を手放した――。

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