195 【遺物(アーティファクト)解析】
即席の実験室に入った俺は、早速『カートリッジ』破壊検査に取りかかる。
俺の仮説が正しく、『カートリッジ』が中身の入ったミスリル箱なら、どっかに取り外しできる蓋の部分があってもおかしくないのだが……。
そう思いながら、『カートリッジ』をいじくり回してみても、出っ張りや取っ掛かりになる部分は見つからない。綺麗な直方体だ。
――やっぱり、壊してみるしかないか。
持ち込んだテーブルの上に『カートリッジ』を乗せる。
このテーブルは普通のテーブルだけど、バッチリ魔法障壁を張っておいたので、ちょっとやそっとのことじゃ壊れない。
安心して、『カートリッジ』に衝撃を与えられる。
まずは――ミスリルナイフで斬りつけてみる。
残念ながら、『カートリッジ』の魔法障壁に阻まれ、『カートリッジ』本体にはダメージが通らない。
結構強めに攻撃しても同じ。ピクリともしなかった。
物理攻撃がダメなら、次は魔法で攻撃だ。
俺は様々な魔法を放ってみるが、やっぱり障壁が全てを阻んでしまう。
もしかして、この魔法障壁はどんな物理攻撃も魔法攻撃も防いでしまうのでは?
普通だったら考えられない話だ。
どんな障壁であれ、上限はある。それ以上のダメージには耐え切れない。
でも、『カートリッジ』は古代のアイテム――遺物だ。
俺の知らない古代魔法なら可能かもしれない。
もし、そうなら、カートリッジを並べてくっつければ、最強の盾の出来上がりだな。
などと考えていたのだが――。
そんなに話は甘くなかった。
俺の単純な物理攻撃や初級魔法は防ぐが、ちょっと本気になって攻撃してみたら、魔法障壁は簡単に破れた。
破れただけならいいんだけど、ついでに『カートリッジ』本体も爆発して、跡形もなくなってしまった。
物理攻撃でも、魔法攻撃でも同様だった。
何回も試してみたけど、上手くいかなかった。
何十個かの『カートリッジ』をムダにした結果として得られた発見は、以下である。
すなわち、ある程度までの衝撃を与えても魔法障壁が防いでしまう。そして、ある閾値以上のダメージを与えると本体ごと爆発する。
要するに、力技で中を見ようというアプローチじゃ無理だってことだ。
ここまで分かったのが、数日前。
その後、いいアイディアも浮かばなかったし、王都に行ったり、フィオーナが来たりでバタバタしてたし、『カートリッジ』のことはそのまま放置していた。
そして、今日に至る――。
俺は工房の隅で椅子に座り、手に持った『カートリッジ』をジッと眺める。
数日前はお手上げだった。
しかし、今の俺には新しい作戦がある。
そう。【遺物解析】のスキルだ。
これから初めて使用してみるが、どうやって使えばいいのか、『カートリッジ』を手に握ると、直感的に理解できた。
「よし、やってみるか」
俺は直感の赴くままに魔力を『カートリッジ』に流し込む。
魔力は絶え間なく吸い込まれていく。
その速さは結構なもので、普通の人間だったらすぐに魔力枯渇してしまうだろう。
しかし、俺の膨大な魔力だったら、数時間は大丈夫だろう。
魔力を吸い取られるに従い、頭の中にぼんやりとしたなにかが浮かんでいく。
どうやら、【遺物解析】は【鑑定】や【魔力解析】など短時間で結果が分かるスキルではない様だ。
長時間魔力を流し込み続けて、それが一定値に達したら結果が分かるタイプのようだ。
感覚的には1時間や2時間ではきかなそうだ。
これは長帳場になるな。
「これ、一旦中断したらどうなるんだろうか?」
気になった俺は魔力供給を停止する。
そして、少し時間を置いてからもう一度【遺物解析】を起動する。
「うん。中断しても大丈夫だ」
【遺物解析】は途中で中断しても、その場所から再開できるようだ。
『カートリッジ』でも時間がかかりそうなくらいだ。大物を解析するのには数日がかりだな。
ただ、時間がかかるのは俺のスキルレベルが低いからかもしれない。
使い込んでいけば、短時間で出来るようになるかもな。というか、なって欲しい。
まあ、今の俺に出来るのはこれしかない。
俺はそのまま『カートリッジ』に魔力を注ぎ続けた――。
「――ご主人様、ご主人様」
誰かが呼んでいる声がする。
この声は――。
ようやく意識が浮上してきた。
俺は顔を上げ、声の主に話しかける。
「ああ、済まないな、ルーミィ。ちょっと集中してて」
言いながら、【遺物解析】を中断する。
「いえ、話しかけても返事がないので心配致しました」
どうやら、思ってた以上に集中していたようだ。
「すまんすまん。ところで今何時?」
「午前10時過ぎです」
「もうそんな時間か」
朝食が終わって工房に入ったのが午前7時頃。
3時間近くも集中してたことになる。
あっという間に時間が立ってしまった。
それに魔力も結構減ってるな。
直感的には【遺物解析】はまだ半分も解析できていないようだ。
まだまだ時間がかかるな。
「それで用件は?」
「はい。フィオさんがお越しです」
「フィオか。分かった。すぐ行く」
俺は『カートリッジ』を置くと店に向かった――。




