193 できること、やるべきこと、そして、やりたいこと
「アルの好きにしていい」
ニーシャの言葉を思い出す。
今の俺になにが作れるだろうか?
俺にしか作れない物はなんだろうか?
俺の強みと言えば――。
膨大な魔力量。
繊細な魔力操作。
『錬金大全』から得た錬金の知識。
そして、新たに得た【遺物解析】のスキル。
そう。俺は新たに遺物に関するスキルを得たのだ。
開店前後の期間、【遺物修理】のスキルを使いまくっていたら覚えたのだ。
しかも、覚えたことに気づいたのは昨晩。
週に1回ニーシャに新たなスキルを習得していないか、【鑑定眼】で見てもらっているのだが、昨晩見てもらったところ「あら、増えてるわよ、凄いのが」と言われ、ようやく自分でも気がついたのだ。
すぐにでもその効果を試したかったのだが、時間が遅かったので、泣く泣く我慢。
この後、試すのが非常に楽しみだ。
これらを強みに、俺が「できること」、「やるべきこと」、そして、「やりたいこと」。
多くの場合、この3つは一致しない。
しかし、今の俺の場合は幸運にもこれらが一致している。
それは遺物の改良、そして、出来ることならば、一から自分の手で遺物を作り上げること。
これが俺の行動指針だ。
まず、「できること」だが、俺はすでに手応えを感じている。
その根拠は言うまでもなく2つの遺物関連スキルだ。
あつらえたように最近になって覚えた【遺物修理】と【遺物解析】のスキル。
ギルドで調べたところ、俺が初めてというわけではなく、過去に何人かいたらしい。
それでも、ギルドが確認した限りでは、ここ数十年はいないほどのレアスキルだそうだ。
自分のスキルを報告しなきゃいけない義務はない。どんなスキルを持っているかという情報は、冒険者にとって生命線になりうるからだ。
実際俺だって、遺物絡みの2つのスキルを含め、多くのスキルを申告していない。
もちろん、在野に非公表のスキル持ちがいるかもしれない。
だけど、この可能性は低いと考えている。
ニーシャも言っているが、この2つのスキルを持っていたら、必ず目立つはずだ。
もしそのような者が存在するならば、遺物分野で特化した業績を上げているはずだが、今のところそんな個人や商会は存在しない、とニーシャも言っていた。
だから、きっとこの2つのスキルを使えるのはきっと俺だけだ。
このタイミングで【遺物解析】のスキルを覚えたことからも、スキルの神様が俺に遺物開発に励め、と言っているのだろう。
ここ1ヶ月【遺物修理】のスキルを用いて、結構大量の遺物を修理してきた。
といっても、劣化・破損したパーツを他の遺物から取ってきて交換し、魔力を流しこんだだけだ。
それでも、今まで人間が手を加えることは不可能と思われてきた遺物に手を入れることが出来たのだ。
今後、【遺物解析】のスキルも使っていけば、出来ることはさらに増えるだろう。
スキルを使い続ければ、やがて改良や新規作成も出来るようになるに違いない。
次に、「やるべきこと」だ。
パレトの街で商人・職人がするべきことはなにか?
それはもちろん、冒険者たちのダンジョン攻略をサポートすることだ。
サポートのかたちには、様々なものがある。
酒場や娯楽施設を提供し、英気を養ってもらうといった間接的なもの。
ポーションや携帯食料などの消耗品を供給すること。
初心者向けの道具・装備を作り、新人育成に加担すること。
トップパーティーがダンジョン攻略を進められるように、最高峰の物品を作ること。
俺は商会の運営が軌道に乗った後、自分の中でひとつの目標を定めた。
それは――。
――1年以内に『紅の暁』にダンジョン制覇をさせること。
今、この街でダンジョン制覇――ラスボスを倒し、ダンジョンコアを破壊すること――の最有力候補は『紅の暁』だ。
他のパーティーが力をつけて逆転することもありえるし、他の街からより強いパーティーが移住してくることもありうる。
しかし、現時点でもっとも可能性が高いのが『紅の暁』であることは間違いない。
俺のサポートなしでも、彼らはやがてダンジョン制覇を成し遂げるだろう。
しかし、それが何年後になるかは分からない。
俺のサポートがなければ、彼らはダンジョンから得られる素材や遺物のみで攻略を行わなければならない。
それだと、「1年以内のクリアは無理だろう」というのが俺の予測だ。
しかし、俺が遺物を作れるようになれば、話は別だ。
ドーピングポーションで能力を底上げし、使い捨ての魔法球をガンガン使い、聖剣に準ずる強力な武具で身を固める。
そうやって物量に頼った攻略を進めていけば、彼らが1年以内にダンジョン制覇するのも不可能ではない。
この目標を達成するためにも、遺物制作は、なんとしてもやるべきことだ。
そして、最後に「やりたいこと」だ。
俺に限らず、物づくりに携わる者であれば、誰しも一度は夢見る「自力での遺物作成」。
ほとんどの人間はそれを「夢物語」として、諦めてしまう。
だけど、俺は諦めていない。
子どもの頃に遺物の存在を知って以来、「いつかは自分で作ってやる」とずっと思っていた。
そして、今、こうやってそのための環境も整えられたし、スキルを覚えたことで自分の準備も万端だ。
遺物を作りたいという欲求は爆発寸前なくらいまで高まっている。
――今をおいて、いつトライするというのだ!
俺は強い欲求に突き動かされ、遺物作成への挑戦を始めるのだった。




