表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

192/268

192 朝の作戦会議

 フィオーナがランシード卿に連れて行かれた翌朝。

 ちなみに、フィオーナは領主邸で晩餐をともにし、そのまま領主邸に宿泊している。

 なんでもランシード卿の説明によると、王族が領地に訪れているのに領主邸に泊まらないことは、領主をないがしろにしていることになるので、絶対にやっちゃいけないことだそうだ。フィオーナは嫌がっていたけど。


 そういうわけで、ノヴァエラ商会創設メンバー6人揃っての朝食だった。

 いつもだったら、お店の休日以外は各自バラバラに朝食を取るのだが、今日はニーシャの招集で全員が集合していた。


 現在午前6時半。


「みんな、おはよう。それと、早朝から集まってくれてありがとうね」


 リビングのテーブルについたメンバーたちにニーシャがが語りかける。


「みんなに集まってもらったのは、今後の方針について報告するためよ」


 その言葉にみんな真剣な表情になり、視線がニーシャに集中する。


「まずは現状確認からだけど、今、我らノヴァエラ商会には40億ゴル近くの資金があるわ」


 その数字にざわつきが起こる。「40億ッ!」「そんなに……」「多すぎてどれくらい凄いのか、分からないニャ」、そんな声が3人娘たちから漏れてくる。

 俺とルーミィはすでに知っている内容なので、とくに驚いたりはしない。


「この資金を元に、大々的な商会の拡張を行うわ」


 誰かがゴクリとツバを飲む音が響いた。


「まずは既に確定したことから報告するわね。ウチの両隣の2件と裏の土地だけど、買収が完了したわ」

「え〜!?」

「よく買えたニャ」

「土地ってそんなに簡単に買えるんですか?」

「相場の2倍の値段で持ちかけたら、一発オーケーだったわよ」

「2倍……」

「1件1億ゴルですぅ」

「それでも、ウチの総資産からしたら、ごく一部ニャ」


 やはり、3人とも驚いている。

 俺も最初に聞いた時は、大胆だなと驚いた。

 だが、こっち方面は俺は素人同然だ。

 ニーシャの頭脳に任せるべきだろう。


「隣の1件はポーション生産工場よ。魔法建築士を大量導入して、急ピッチで完成させるわ。完成予定は2週間後よ」

「早っ!」

「2週間!」


 魔法建築士というのは、その名の通り土魔法を主体とした魔法を駆使して建築を行う者だ。

 建設速度は通常の何倍にもなるが、そのぶん費用もバカ高くなる。

 だけど、ニーシャはお金よりも速さを取った。

 資金は大量にあるので、使うべきところにはガンガン使っていくべきだと。


「新工場では、回復ポーションだけでなく、マナポーションや状態異常ポーションなど、ポーション全般の生産を行う予定よ。できれば、ドーピングポーションに類するものも出来るとさらにいいわね」


 ドーピングポーションはステータスを一時的に変化させるポーションだ。

 他のポーション類とは異なり、ドーピングポーションは遺物アーティファクト

 今のところは、人工的には作り出せないとされている。


 これを俺たちの手で作り出すのが、ノヴァエラ商会のひとつの目標だ。

 現時点ではドーピングポーションはダンジョンでのドロップ品でしか入手出来ない状態。

 品薄で高価、一部のトップパーティーがボス戦で使用するくらいの数量しか出回っていない。


 ドーピングポーションが人の手で作れるようになれば、ダンジョン攻略に大きな貢献が出来る。

 誰もが気軽にドーピングポーションを使えるようになれば、安全性も高まるし、攻略速度も上がるだろう。

 是非とも達成したい目標だ。


「工場はもちろん、魔法操作を用いての大量生産よ。これから50人ほど雇う予定。ミリアとカーサには彼らを率いてポーション工場を運営してもらいたいわ。そこで、ポーション開発主任にミリア、ポーション生産主任にカーサを任命するわ。頑張ってちょうだいね。それとアルはポーション開発顧問にするから、二人は気軽にアルを頼ってちょうだいね」


 ミリアには俺が作った小型の自動ポーション開発魔道具を元に、大規模な開発魔道具を製造してもらうことになる。

 今まで何度かミリアとは打ち合わせをしてきた。

 まだ完成には至っていないが、俺は手応えを感じている。

 きっと上手く行くだろう。


 一方、カーサには魔道具の運営を任せることになる。新たに雇用した人々を指導し、生産を実行するのが彼女の役目だ。

 彼女もきっと上手くやってくれるだろう。


「反対の隣1件は、アルとビスケの工房よ」

「師匠と一緒ですか。嬉しいですぅ」

「ビスケはこの工房の主任に任命よ」

「え〜、そんなエライ立場なんですかぁ!?」

「ええ、まあ、こっちもアルには顧問になってもらうけど、責任者はあなたよ」

「責任感を感じるですぅ」

「そこは慣れてもらわないとね」

「はい……頑張るですぅ」


 責任のある立場。

 ビスケは尻込みするかと思ったけど、俺が思っていたよりもやる気があるようだ。

 この1ヶ月でだいぶ自信をつけたのだろう。


「でも、広い工房に私と師匠の二人きりだともったいないです。こっちも人を雇うのですか?」

「ええ、それなんだけど、セレス教会から大口の依頼が入っているのよ」

「えっ? なんですか?」


 緊張気味にビスケが尋ねる。


「ステンドグラスと巨大聖像の作成依頼よ」

「ええええ〜〜〜〜!!!」

「アルにも協力してもらうけど、それでも人手不足でしょ?」

「はい、そう思いますですぅ」

「だから、こっちも人を雇う予定よ」

「そうなんですかぁ」

「ただ、熟練の職人を引き抜くのは難しいから、他の工房からの派遣っていうかたちをとることになるでしょうね」

「派遣ですかぁ……」

「自分より年上の職人を使うのは大変でしょうけど、頑張ってね。あなたには彼らには作れないものを作れる能力があるんだからね。自分を卑下する必要はないわ。自信を持ってやってちょうだい」

「はい。やってみるですぅ」


 戸惑いながらも、なんとか挑戦してみようという気概を感じる。

 これなら、大丈夫かな。


「それでウチの裏手の土地だけど、従業員寮にするわ」

「寮ですか……」

「雇用も奴隷もこれから大量に増えるわ。この家は私たちだけの住処にして、これから加わる人はそっちに住んでもらうわ。土地に関しては以上ね」


 一息ついたニーシャがルーミィに向かって言う。


「そして、ルーミィ」

「はい」

「あなたには、ここノヴァエラ商会パレート本店の店長を任せるわ」

「はい」


 責任ある立場を任されたルーミィだが、その表情に変わりはない。

 やっぱり、ルーミィは大物になるかも。


「それでアルは――好きにやってちょうだい」

「え?」


 なにか役目を振られると思ったら、好きにしろとの言葉。

 意外に思っていると――。


「もちろん、他のメンバーのサポートはしてあげてもらいたいんだけど、アルには自由に物づくりしてもらいたいのよ」

「…………」

「今まで商会のことを考えて、ダンジョンに潜らせたり、連れ回したりで、好きな物づくりに打ち込めなかったでしょ。これからは好きなだけやってちょうだい」

「いいのか?」

「ええ、それがウチの商会にとって一番いいと考えたのよ。中級回復ポーションを作ったときみたいに、また、とんでもないものを作ってくれることを期待しているわ」


 とんでもないものか。

 エラく期待されたものだ。


「最後になったけど、商会の今後のプランだけど、全国展開するわ」


 その言葉に、全員の視線が集まる。

 俺も聞いていなかった話なので驚いた。


「冒険者ギルドが設置されている町すべてに、ウチの商会の支店を置くことにするわ」

「ええええ〜〜〜〜!!!」


 他の街に出店することは想像していたけど、まさか、いきなりの大規模展開とは……。

 ニーシャも思い切ったことするなあ。


「せっかくの資金があるんだもの。遊ばせておくのはもったいないわ。さいわい、勅許状があるから出店も簡単に出来るし、ここは攻めの一番よ。一気に大商会の仲間入りするわ」


 壮大なプランを語るニーシャ、その顔は本当にトップを取れそうな自信に満ち溢れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ