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190/268

190 宴の翌朝

 『紅の暁』の凱旋の宴に参加した翌日。

 俺はいつも通り午前4時に起床すると、ダンジョンに潜って遺物アーティファクト集めに向かった。

 もう、これは日課と言える。

 3時間近くみっちり狩りまくって、午前7時前に帰宅。

 我が家の扉を開けると、いつもより騒がしかった。


 昨日から雇った新入り5人娘がニーシャとルーミィの指示の下、開店準備に勤しんでいたのだ。

 ニーシャの話では、彼女たちはルーミィほどではないが十分に優秀で、一週間もあれば店を任せられるだろう、とのこと。

 これでニーシャも手が空き、次の行動に移れるな。


 彼女たちに挨拶して、2階に上がる。

 リビングでは、ビスケ、ミリア、カーサの3人組が朝食を取っていたのだが――。


「カーサ、顔色悪いぞ」

「カーサちゃん、昨日も飲み過ぎたですぅ」


 案の定、カーサは二日酔いのようだ。


「強くないんだから、あんま無理するなよ。【回復ヒール】――」

「ありがとう、アル。楽になったわ。今度から気をつけるようにするわ」

「といいつつ、次も飲み過ぎちゃうに100ゴルニャ」


 ニャハハと笑うミリア。

 うん。俺もそう思う。


「そういえば、フィオは?」

「まだ起きてこないですぅ」

「フィオも遅くまで飲んでたニャ」


 俺が先に引き上げたときも、楽しそうに飲んでいたもんな。

 まったく、しょうがないヤツだ……。


 俺も3人の輪に加わり、朝食を取る。

 朝食が済んだら、4人揃って1階へ。

 工房へ向かう前に、店舗部を覗いてみる。


 店内は開店早々の時間帯なのに、大勢の冒険者たちで賑わっていた。

 ニーシャの指導のおかげが、彼女たちが優秀だからか、新入りの売り子たちは慌てることなく、テキパキとお客さんたちを捌いている。

 この調子なら、問題なさそうだな。


 そんな光景を眺めながら、俺たちは工房へ向かう。


「売り子が増えたから、俺たちはより一層生産に打ち込めるな。みんな、頑張っていこう」

「はいっ!」

「はいですぅ!」

「はいニャ!」


 俺たちは自分の仕事に取りかかった――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


「おはよ〜〜」


 午前10時過ぎ。

 鍛冶に没頭していたら、フィオーナが起きてきた。


「おはよ…………ちょ、おま」

「ん?」


 寝ぼけまなこを擦りながら現れたフィオーナはパジャマ姿だった。

 さすがにこの格好はないだろ……。

 一国の王女とは思えない、だらけきった格好だった。


「ちゃんと着替えて、顔洗って来い」

「え〜」

「ほらほら」


 フィオーナを階段へと追いやる。

 渋々ながらも、諦めたフィオーナは階段を登っていく。

 店内からは見えないから良かったものの、それでも3人娘にはバッチリ見られてしまった。


「本当に王女さまかニャ?」

「信じられないですぅ」

「衝撃ですね」


 ほら、フィオーナがだらしないから、早くも疑われているじゃないか。

 まあ、その方が都合が良いっていえば良いんだけど……。

 いくらなんでも、もう少しちゃんとして欲しい…………。


 フィオーナがちゃんと着替えて降りてきたのは、その10分後だった。


「あらためておはよ〜」

「ああ、おはよ。最初からその格好で来いよ」

「えへへ」

「朝メシ食ったか?」

「ううん、まだ〜」

「なんか出してやるから、リビングで食べて来い」

「え〜、やだ〜、ここがイイ」


 フィオーナが駄々をこねる。

 まあ、これくらいなら甘えさせてもいいか。


「ほら、サンドイッチ。それなら、ここで食べれるだろ」

「やった〜。いっただきま〜す」


 俺が手渡すと、すぐさまサンドイッチにかぶりついた。


「はむはむ。うん、やっぱ、アルの料理はサイコーだな〜」

「ほら、飲み物も」

「ありがと」


 昨日と同じくグァバソーダだ。

 脂っこいサンドにはスッキリしたソーダが合うだろう。


「このお肉美味しいね〜。なんのお肉?」

「ミノタウロス」

「えっ!?」


 驚くフィオーナ。

 まさか、自分が昨日戦った相手だとは思わなかったようだ。


 絶品のミノ肉にハチミパウダーをまぶしたサンドイッチ。

 美味いに決まっている。


「ミノタウロスのお肉ってこんなに美味しかったっけ?」

「ハチミパウダーのおかげだな」

「ああ、美味しいよね〜、ハチミパウダー。でも、料理長のとちょっと味が違うよね?」

「ああ、ちょっとブレンドが違うからな。それにひと手間加えているし」


 ウチのハチミパウダーは、ダイコーン草を乾燥させる前に、魔力を流してひと手間加えている。


「そうなんだ〜。私はこっちの味の方が好きかな〜」


 俺が作った補正も入っているんだろう。

 昔から、フィオーナは俺が作った料理を美味しいって言ってくれる。


「ところで、今日の予定はどうなってんだ? 昨日行けなかった服選びに付きあってもいいぞ」


 どうせ、明日からはフィオーナはダンジョンに潜りっぱなしになるだろう。

 今日を逃したら、次はだいぶ先になってしまう。

 そう思って話を振ってみたんだけど――。


「大丈夫だよ〜。今日はね〜、ライラちゃんと一緒にお買い物行く約束したんだ〜」


 『紅の暁』の斥候職ライラ。

 フィオーナがダンジョンに潜るための案内役ナビゲーターを引き受けてくれた。

 早速、昨日の宴で二人は意気投合していたけど、プライベートで買い物に行くほどの仲になってたとは…………。


「すっかり仲良しだな」

「うん、昨日一杯お話して、お友達になったんだよ〜」


 ライラもまさか、仲良くなった相手が王女だとは思ってもいないだろう。


「早速、友達ができたか。良かったな」

「うん。ライラちゃんと一緒にダンジョンに潜るのも楽しみなんだ〜」

「そうか。良かったな」


 王女という立場上、なかなか対等な友人というのは作りづらい立場だ。

 今回みたいにお忍びじゃないと出来ないことだ。

 俺も「勇者の息子」のときはそうだった。

 同じ年頃で親しいのはフィオーナくらいだった。

 今は信頼できる仲間に囲まれているから、俺は幸せだ。


 そんな話をしていると――。


「アル、来客よ。『紅の暁』のライラさん」

「おっ、迎えが来たみたいだな。ほら、剣、直しておいたぞ」

「あっ、ありがとう。じゃあ、行ってくるね」

「じゃあ、楽しんで来いよ」

「うん、行ってきま〜す」

「あっ、そうだ。帰りの時間、分かってるな」

「分かってるよ〜。ちゃんとそれまでには戻ってくるから」


 フィオーナのお付きであるランシード卿から、到着は夕方と聞いている。

 それまでに戻ってこればいいのだが、ハメを外して遅れたりしないよな……。


 少し不安だ。

 まあ、いざとなったら、俺が迎えに行けばいいか。

 街から出ない限りは、【魔力探知マナ・サーチ】でどこにいるか把握できるからな。

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