19 サンドイッチ
連日、ブクマ・評価いただきありがとうございました。
嬉しかったので、本日は2話更新!
1話目です。
2話目は夜に更新します。
今後ともよろしくお願いいたします。
昼時の食堂は朝や夜に比べ閑散としていた。
俺たちの他には数人いるだけだった。
「それで、あれだけポーションを作ったのはいいとして、容器はどうするつもりなのよ?」
ニーシャがサンドイッチをかじりながら尋ねてきた。
ファング・ウルフの肉と新鮮な葉野菜のサンドイッチだ。
ちなみに、ファング・ウルフの肉は相場より少し安い値で10キロほどを売ったものだ。
やはり、ファング・ウルフの肉は美味しいわりに市場に出回りにくいようで、宿の主人からエラく喜ばれた。
そのせいなのか、オレたちのサンドイッチにはやたら厚切りのファング・ウルフ肉が挟まっている。
「アルのことだから自分で作りたいっていうんだろうけど、大丈夫なの、素材とか場所とか? なんだったら、私が買い付けておくわよ?」
「うーん。できれば自分で作りたいなあ」
午前中のポーション作りで一段落し、ポーション作りたい欲求はある程度満たされた。
べつにポーション作りが嫌になったわけじゃない。
作れと言われたら、後3日は飽きずに作り続ける自信がある。
ただ、今は他のものを作りたい気分だってこと。
そういう意味では、容器づくりは持って来いだ。
問題となるのは素材と場所だけど、素材は【虚空庫】にたっぷり入ってる。
ポーション容器を1万本つくっても、まだまだ全然余裕の分量だろう。
問題となる場所だが…………。
「素材は大丈夫だけど、場所がなあ……」
ポーションづくりと違って、錬金で容器づくりをするのに宿屋の部屋だといろいろ問題がある。
魔法を使いまくれば可能っちゃあ可能なんだけど、できれば他の場所が望ましい。
「錬金ギルドか調合ギルド辺りで、時間貸ししてくれるわよ」
「うーん…………あまり、目立ちたくないから、それもなあ」
ニーシャにさんざん言われたから理解した。
俺は非常識なんだ。
だから、俺が普通と思う作り方をしたら、それだけで非常識。人前で披露したら、目立つことは必至。
ギルドでそんなことをしたら、俺の素性がバレてしまうかもしれない。できれば、人目は避けたいところだ。
他の場所について頭を巡らす。
他人に注目されずに、落ち着いて錬金できる場所だよな。
でも、そう考えると王都で都合いい場所はないだろう。
ということは、王都の外だな。
そこで第一に思い浮かぶのが――実家だ。
実家なら最高の錬金環境が整っている。
邪魔もカーチャンくらいだ。
そういう意味では最適なのだが、実家を出て3日目での帰宅は格好悪すぎる。
だから、他の場所はといえば……………………閃いたッ!
「森だ」
「森?」
「ほら、俺がファング・ウルフを倒しながら、薬草採取した北の森。そこなら邪魔も入らないし、誰にも見つからない。良し、決めたぞ、森だ森」
「はああ!?!?!?」
「どした? なんか変なこと言ったか? あの森は危険だからあまり人が立ち寄らないんだろ? だったら邪魔が入らなくて丁度いいじゃないか」
「ばかっ、モンスターはどうすんのよ?」
「結界張っておけば大丈夫だろ。それに一昨日の感じだとそんな強そうなモンスターいなかったし」
「…………はあ。呆れてため息しかでないわよ」
「なんかおかしいか?」
「もう、いいわよ。アルに常識を期待した私がバカだったわ」
「おっ、おう。なんかスマンな」
一生懸命に頭を働かせた結果が、やっぱり非常識扱いだった。解せぬ……。
謝る俺に呆れ顔だったニーシャだが、急に思い出したかのように、鞄から取り出した。
「そうだ、コレ」
取り出したそれを放おってくる。
「初級回復ポーションよ。市販で流通しているのは主にこのタイプよ」
「ずいぶん粗いな」
俺は【魔力解析】でポーションを分析してから答えた。
俺から見たら、ずいぶんと粗悪なものに思える。
よほど魔力操作が雑だったんだろう。
「これはCランクの初級回復ポーションよ。ランクは知ってる?」
「いや、知らん」
初耳な言葉だったので、俺は首を横に振る。
また、常識知らずだと思われるんだろう。
「ランクっていうのはギルドがつけた品質による分類なの。最高品質がAで最低がE。そのランクによって価格は異なるわ。今渡した奴が平均的なCランクで、ギルドの販売価格が300ゴル」
「ふむふむ」
「アルが作ったやつなら間違いなくAランクね。卸値で一本500ゴル。販売価格なら600ゴルね」
「そんなに違うもんなのか」
「ええ、効果の差だったら、アルもよく分かるでしょ」
「ああ」
確かに俺のと比べると魔素含有量は少ない割に、毒素が多い。
俺が買い手だったら多少高くても、間違いなく俺が作った方を選ぶな。
「でもね、みんながみんな良い品質のポーションを買うわけじゃないのよ。駆け出しの冒険者たちはギリギリの生活だから、品質は低くても、安いポーションを買い求めるのよ」
「なるほどな」
ニーシャの説明は分かりやすい。
知らなかったことを、理屈込みでちゃんと説明してくれる。
だから、理解しやすいんだ。
これからも頼りにさせてもらおう。
「そのポーションはアルに預けるから、容器作りの参考にしたらいいわよ。それ、ギルドの規格容器だから、その容器と同じものを作るのが良いわよ。出来るでしょ?」
「ああ、もちろん」
「ギルドには余裕をもって3日って言ったけど、どうせアルのことだからすぐに作れちゃうんでしょ?」
「ああ、今日中には終わらせるよ」
「ふふ。楽しみに待ってるわ」
◇◆◇◆◇◆◇
食事を終えたオレたちは泊まっている部屋に戻った。
午後は別行動だ。
ニーシャは自分の仕事――転売があるし、俺は森に行ってポーション容器作りだ。
「あっそうだ。ニーシャ」
出発の準備を整えているニーシャに声をかける。
「ちょっと、右腕を前に出してもらえるか?」
「なによ?」
「ちょっと魔力測定を。良いかな?」
「ええ、いいわよ」
ニーシャは困惑した様子だったが、素直に右腕を差し出してきた。
「微弱な魔力を流すから、ちょっと違和感あるかもしれないけど、身体に害はないから安心して」
「ええ」
突き出されたニーシャの右腕。
その手のひらを軽く両手でにぎり、【魔力解析】を発動。
俺の右手から出た微弱な魔力の流れがニーシャの右手から彼女の身体に入り込み、彼女の全身を一周してまた右手へと帰ってるくる。
一周した魔力は俺の左手から俺の体内に戻っていた。
これで完了だ。
「はい、お終い。大丈夫だったでしょ?」
「ええ、ちょっとピリッとしたけど、今はなんともないわ。でも、なんでこんなことしたの?」
「せっかく、仲間になったんだし、なにかプレゼントしようかなって思って。そのための準備だよ」
「そう。ありがとう。アルのことだから、きっとトンデモないものでしょうね。楽しみに期待しているわ」
「ああ、楽しみにしてくれ」
「それじゃあ、私は行くけど、アルはどうするの?」
「俺は【転移】で森まで飛ぶよ」
「そっ、そうよね……」
「じゃあ、気をつけて」
「そっちこそ、気をつけなさいよ。夕方までには帰ってくるから、アルもそれまでには帰ってきなさいよ。またクラフトに夢中になって忘れるんじゃないわよ」
「ちゃんと【警報】セットしておくから大丈夫!」
【警報】は時間を指定しておくと、その時間になると脳内で音がなる便利な時空魔法だ。
「そっ、そうね。じゃあ、行ってきます」
「俺も行ってきます」




