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189 凱旋の宴2

 夜になって、凱旋の宴会は更に盛り上がっていた。

 噂を聞きつけた冒険者たちが集まってきたからだ。


 ギルド酒場は人で溢れており、立って飲んでいる奴、酔い潰れて横になっている奴、そいつを椅子代わりにして座っている奴、散々な有様だった。


 フィオーナはライラと気が合ったらしく、長い時間二人きりで話し込んでいたが、今は別の若い冒険者たちの輪に加わっている。


 王族の社交の難しさに比べたら、酔っ払った冒険者の輪に加わることなんて容易いもんだ。

 フィオーナは違和感なく、場に溶け込んでいた。


 それにしても、フィオーナがライラと仲良くなれたのは良いことだ。

 一緒にダンジョンに潜るのだから、できれば気の合う相手の方が望ましい。

 能力的にも性格的にも、ライラは最高の適任者だったようだ。


「ご主人様、眠いです」

「ん? もうおねむか」

「はい」


 時刻は午後10時過ぎ頃だ。

 俺はナタリアさんの向かいの席から何度か場所を移り、今は1桁階層に挑んでいる新人冒険者たちに、どんな装備が必要か、どんな道具を持つべきか、遺物アーティファクトの使い方などをレクチャーしていた。

 ルーミィは俺の膝の上で会話をじっと聞いていたのだが、さすがに限界が来たようだ。


「すまんが、そういうわけだ。分からないことがあったら、店に来て気軽に聞いてくれ」

「アルさん、ためになる話をありがとうございまいした」

「すっごく参考になったっす」

「また、お店に伺いますね」

「おう、よろしくな」


 俺は膝の上のルーミィを一度下ろす。


「歩けるか?」

「歩けます。でも…………」


 すでに目がトロンとしている。

 しょうがないヤツだ。


「ほら」


 俺はかがみ込み、ルーミィを背負う。


「ありがとうございます、ご主人様」

「気にするな」


 ニーシャたちに先に帰ることを伝える。

 俺の予想通り、ウチのメンバー5人ともこの宴会にやって来た。

 そして、たくさんの感謝の言葉を浴びていた。

 3人娘はみんな目が潤んでいたが、とくにビスケは人目もはばからず号泣していた。


 ビスケは前の工房で散々な目にあって来た。

 自分が作った物を他人に褒められるなんて初めての経験だ。

 感極まってしまってもしょうがない。


 そんなこともあったが、その後3人娘は思い思いに楽しく過ごしているようだ。

 ニーシャはクランの中核メンバーたちと軽く会話した後、ナタリアさんと話し込んでいた。


 チラッと会話を耳にしたが、みんなが浮かれてハメを外す中、ニーシャ一人だけは仕事をしていた。

 今回の成功談の聞き手に回るという役回りをしながら、適切な質問をはさみ、今後『紅の暁』がなにをどれくらい必要とするかを聞き出していた。

 ニーシャは聞き上手だ。ナタリアさんも気分良さそうに話していた。


 ナタリアさんは全然気づいていないだろう。

 しかし、ニーシャはここで情報を集め、次の商談の下準備をしているのだ。


 相手に気づかせず、気持ち良く話させて、必要な情報を入手する。

 ニーシャならではの技だろう。

 俺には到底マネできない。


 フィオーナのことはニーシャに任せた。

 ニーシャは周りに合わせて飲むフリをしているが、頭の回転が鈍らないようにセーブして飲んでいるだろう。だから、そんなに酔っていないはずだ。

 ニーシャに任せておけば、フィオーナのことは大丈夫だろう。


 そのフィオーナはと言えば、同年代の女子数人とかしましい女子トークに花を咲かせていた。

 ライラともそうだったけど、誰とでもすぐに打ち解けられるフィオーナだと感心する。

 だけど、顔色と言動がちょっと酔っ払いすぎな気がするけど大丈夫だろうか?

 今のフィオーナを見ても、彼女が王女だと気づくものはいないだろう。

 それくらい酔っ払っていた。


 フィオーナはお酒に強かったっけ?


 彼女と一緒には軽くしか飲んだことがないから分からない。

 両親のドブルーおじちゃんもメイサさんもお酒に強かったから、その血を継いでいれば大丈夫だろうけど……。


 まあ、いいや、ニーシャに任せた。

 丸投げだ。俺も酔っているのかも…………。


 最後にナタリアさんに別れを告げ、ルーミィを背負った俺はギルド酒場を後にした。


 外に出て通りを歩く。


「ご主人様?」

「なんだい?」

「お月さまが綺麗です」

「ああ、綺麗だな」


 普段一人の時は月なんて意識しないけど、こうやってルーミィと二人で眺めると不思議といつもと違う綺麗な月のように思えてくる。


「ご主人様?」

「なんだい?」

「私、幸せです」

「そうか、良かったな」

「助けて頂いた日も、こんなに幸せなことはないだろうって思いました」

「うん」

「でも、今日はもっと幸せです」

「そうか、もっと幸せになろうな」

「はい、ご主人様」


 それを最後にルーミィは黙りこみ、しばらくするとすーすーと寝息が聞こえてきた。

 俺は背中にルーミィの重さを感じながら、のんびりと我が家を目指した――。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは良い権謀術数発動してますね
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