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186 フィオーナと冒険者ギルド

 フィオーナの装備は万全に調った。

 護衛騎士が到着して、冒険者を雇えば、いつでもダンジョンに潜れる状態だ。


 後はフィオーナお楽しみの洋服屋巡りだ。

 現在、午後2時前。夕方まで付き合わされることだろう……。


 だが、その前に一箇所寄り道しないとな。


「よし、じゃあ出かけるか」

「わ〜い、デートだデート!」

「デート? 買い物だろ?」


 そう言う俺にフィオーナは密着し、腕を絡ませてくる。


「仲の良い男女が腕を組んでお買い物っていったら、どうみてもデートだよね? ね? ね?」

「分かった。デートでいいよ」

「えへへへ」


 緩みきった顔のフィオーナ。

 この姿を見て、フィオーナが王女だと思う人はいないだろう。

 ある意味安心だ。


「その気になっているところ申し訳ないが、買い物の前にちょっと寄りたい場所がある」

「え〜、どこ〜?」

「冒険者ギルドだ」

「なんで? ギルドになんか用事あるの?」

「さっき言ったろ。ダンジョンの案内者ナビゲーターを雇うんだよ」

「ああ、言ってたね〜」

「フィオのことだから、すぐにでもダンジョン潜りたいだろ?」

「うん」

「だから、明後日の朝から間に合うように、早めに申し込んでおくんだよ。冒険者だって暇じゃないからな。腕の立つ案内者を確保したいしな」

「分かったよ〜」

「じゃあ、行くぞ」

「うんっ!」


 フィオーナは嬉しそうに、腕に力を入れる。

 そうすると、以前は感じられなかった小さな胸の膨らみが俺の腕に当たる。

 そうだよな。もう13歳になったんだもんな。

 フィオーナも成長して、大人に近づいてるんだよな。

 これは注意した方が良いのだろうか?

 そう思ってフィオーナを見ると、気がついていないのか、無邪気な笑みを浮かべている。


「なあ、フィオ」

「なに?」

「当たってる」

「なにが?」

「胸が」

「うん。それが?」

「フィオももう年頃だし、こういうのは止めた方が良い」

「え〜、なんで? アルは不快なの?」

「……不快ではないけど」

「じゃあ、いいじゃん!」

「しかし…………」

「大丈夫だよ。アル以外にはこんなことしないから」


 俺が妹のように感じているのと同じく、フィオーナも俺を兄のように見ているのかもな。

 だから、俺は特別と。

 そういう理由ならば、せっかく楽しんでいる雰囲気に水を指すのもアレだ。


「分かった、行くぞ」

「うんっ!」


 腕を組んで歩く短い時間を過ごした後、俺たちは冒険者ギルドに到着した。

 フィオーナの美貌のせいか、道中やたらと視線を集めた。

 思わず【隠密ハイド】を使いたくなったくらいだ。


「さすがに腕組んでギルドに入るわけにはいかないから、ちょっと離れて」

「うん」


 名残惜しそうにしていたが、フィオーナはちゃんと聞き分けてくれた。


 ギルドに入った俺たちはカウンターへ向かう。


「いらっしゃいませ。冒険者ギルドのパレト支部総合受付係のベルと申します。本日はどういったご用件でしょうか?」


 時間帯のせいか、受付は空いており、すぐに話をすることが出来た。


「クラン『紅の暁』のリーダー、ナタリアさんと連絡を取りたいのですが」

「ナタリアさんたち『紅の暁』は、現在4パーティー合同のダンジョン遠征中で、帰還日時も未定です」


 俺の質問に受付嬢は即座に回答を返してきた。

 やはり、トップクランである『紅の暁』の動向は、ギルドもしっかりと把握しているのであろう。


 しかし、ナタリアさん不在か。

 そういえば、ウチの開店日に会った際、ウチの商品で装備を整えて、ダンジョン攻略に挑むって言ってたな。

 今頃、40階層ボス目指して攻略の真っ最中か。

 困ったな。


 ナタリアさんに腕の立つ案内者を紹介してもらおうかと思っていたのに、当てが外れた。

 他にツテがあるところといえば『鋼の盾』だけど、彼らは20階層代を攻略中のパーティー。

 フィオーナの案内役としては力不足だ。

 俺としては30階層まで安定して到達できる案内者が欲しい。


 『紅の暁』は優秀で層の厚いクランだ。

 今回の遠征に全員が参加しているわけじゃあないだろうし、優秀な案内者が残っているかもしれない。

 そこを当たってみるか。


「じゃあ、『紅の暁』の拠点を教えていただけますか?」

「はい。『紅の暁』の拠点は東大通りの――」


 受付嬢は淀みなく、拠点の住所を教えてくれる。


「分かりました。そちらに直接当たってみます」

「はい。お気をつけて。今後も、冒険者ギルドのご利用をお待ちしております」


 受付嬢に別れを告げ、踵を返す。


「ごめん、フィオ。もう一件寄らなきゃいけなくなった」

「ううん。アルが悪いわけじゃないし。これからも時間はたっぷりあるからね〜」


 ナタリアさんに頼めれば話は早かったんだけど、こうなったら拠点に残っている誰かに頼むしかない。

 きっと俺の顔を覚えてくれている人もいるはずだ。

 リーダーを通さずに話していいものか、クラン事情に疎い俺には分からないけど、ダメ元で行ってみるしか選択肢はない。


 俺はフィオーナを連れ、入り口に向かって歩き出す。


「ねえ、アル、『紅の暁』って?」

「この街のトップクラン。総勢80人で今も未踏破領域攻略の遠征に出てる最中」

「ナタリアさんってのは?」

「そこのリーダー。ふとした縁で知り合いになった」

「アルってば、不思議と女性に縁があるんだよね〜。それも美人な」

「たまたまだよ」


 まあ、確かにナタリアさんは美人だけど。

 そんな会話をしながら入り口に向かってると、入り口付近がざわめきだした。


 一体何事だろうか――。

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