表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

183/268

183 新入り5人組

「ただいま〜」

「ただいまです」


 ランシード卿と別れ、自宅に戻ってのんびり鍛冶をしていると、ニーシャとルーミィが帰ってきた。

 新しく売り子になる人たちを連れて。


「「「「「よろしくお願いしまーす」」」」」


 元気の良い声が響く。

 全部で5人だ。

 歳の差はあるが皆、女の子ばかり。


 工房に篭っていた俺と3人娘は店舗部へ移動。

 彼女たちと顔を合わせることになった。

 全員揃って自己紹介を行う。

 5人もいるので一気に全員覚えることはできない。

 追々覚えていくとしよう。


 今回雇用した彼女たちは3人娘やルーミィみたいに特別な才能に秀でた子たちではない。

 普通の売り子だ。

 数百人の中の上澄みなので、もちろん優秀な部類には入るのだが、あくまでも一般的な範疇に入る。


 彼女たちに特別なことは期待していない。

 『護身のアミュレット』を与えたり、『【共有虚空庫シェアド・インベントリ】』を貸したり、といった特別扱いもしない。

 あくまでも普通の売り子をやってもらうだけだ。

 接客と算術ができれば、それで十分だ。

 それでも相場の2倍の給金を弾んだので、応募が殺到したのだ。


 ちなみに、彼女たちは住み込みではなく通いだ。

 皆、パレトの居住区に家があるそうで、一番遠い子でも徒歩30分。

 十分に毎日通える距離だ。


 彼女たちを雇ったことで、俺たちは生産に専念できることになった。

 これで更なる増産が見込める。

 別に、今までのシフトでも供給を賄うことは可能なのだが、ニーシャの頭には既に次のプランがある。

 そのためにストックを貯める必要があるのだ。


 自己紹介が済むと解散となった。

 3人娘は自分の持ち場に戻り、ルーミィはニーシャの監督のもと新人指導へ。

 今回の新人指導、メインはルーミィだ。

 ニーシャは後ろで見ているだけ。

 ニーシャが言うには、「ルーミィちゃんはもう全部の仕事を覚えちゃった」そうだ。

 たった一ヶ月でニーシャの代わりを果たせるまでに成長したルーミィ。ステータスからも分かっていたが、やっぱり天才だ。

 今後はルーミィがここパレトの店の店主を務めることになった。

 新入りの売り子たちが慣れるまではニーシャがサポートに回るが、行く行くは完全にルーミィにこの店を任せるそうだ。

 本人も責任ある仕事を任されて喜んでいた。

 「がんばりますっ、ご主人様」とめずらしく気合いの入った声で言っていた。


 そんなルーミィは新入りたちに商品の説明をしていく。

 うちの店は他の店に比べると、取り扱い品目が多い。

 覚えることはたくさんあるが、皆、メモを取ったりしながら、ルーミィの説明を真剣な顔で聞き入っている。

 数百人の中からニーシャが選んだ者たちだ。

 きっと即戦力になってくれることだろう。


 さあ、俺も自分の仕事だ。

 俺が打った武器は思ってた以上に評判だった。

 この短期間で、「リンドワース製の次はノヴァエラ製」と言われるほどになった。

 リンドワースさんの武器で10階層を突破した人たちが20階層を目指すための武器として、俺の武器を選んでくれたのだ。

 もちろん、20階層代や30階層代で通用する武器も販売している。

 俺の実力だけでなく、遺物アーティファクトである3種のオイルのおかげでもあるが、いずれも好調な売れ行きだ。


 なので、気を抜くとすぐに品薄になってしまう。

 遺物アーティファクト関連は一段落しているので、しばらくは鍛冶中心にやっていくことになるだろう。


 ――鍛冶をしていると、目を覚ましたフィオーナが工房の方までやってきた。


「ちょっと今、手が離せないから待ってて」

「うん」


 フィオーナは空いていた椅子を持ってきて、俺の後ろに腰を下ろした。

 3人娘も気になるのか、フィオーナの様子を伺っているが、相手が姫様ということで遠慮しているのか、話しかけたりはしなかった。


「お待たせ」


 鍛冶が一段落した俺は、フィオーナに声をかける。


「ううん。アルの鍛冶姿って初めて見たけど、見てるだけで全然退屈しなかったよ」

「そうか?」

「うん。また、アルのカッコいいところ見つけちゃった」


 えへへ、と笑うフィオーナ。

 彼女に褒められると、俺も悪い気はしない。


「ここは暑いだろ、リビングに移動しよう」

「うん」


 『吸気石』や『吸熱石』のおかげで、大分マシとは言え、話をするならリビングの方が快適だ。

 それに、仕事に集中している3人の横で雑談するのも気が引ける。


 2階のリビングに移動した俺たちはテーブルに向かい、椅子に腰を下ろした。

 フィオーナは悩むことなく、俺の隣に座り――密着するほどに椅子を寄せてきた。


「近いって」


 鍛冶でかいた汗は【清潔クリーン】で綺麗にしたが、臭わないか気にしてしまう。


「へへへ、アルの匂い〜」


 フィオーナは気にしてないようだが。


「よく寝れたか?」

「うん。ぐっすりだよ〜。おかげで元気が回復したよ〜」

「そりゃあ、良かった」


 俺は二人分の飲み物を【虚空庫インベントリ】から取り出す。

 グァバの炭酸割りだ。


「えへへ、嬉しいな〜」

「ん?」

「ちゃんと私の好みを覚えてくれてたんだ〜」

「ああ」


 グァバはフィオーナの好物だ。

 温暖な南国でしか育たず、ここカルーサ王国では育てることが出来ない。

 一般庶民には手が出せないほどの高級果実であるが、王族であるフィオーナは何度か口にしたことがあった。

 その味をいたく気に入ったと聞いていたので、カーチャンと南国に行ったときに、大量に買い付けておいたのだ。現地だと普通の果実と変わらない価格だったし。

 そのときの残りが【虚空庫インベントリ】にまだ数千個も入っている。


 グァバソーダで機嫌が良くなり、ニコニコ顔のフィオーナだ。


「腹減ったろ。これ食え」


 【虚空庫インベントリ】からサンドイッチを取り出す。


「これ、アルの手作り?」

「ああ」

「やったあ〜、いただきま〜す」


 さっと手を伸ばし、パクつくフィオーナ。


「おいし〜〜〜」

「そりゃ、どうも」

「アルの料理はやっぱサイコーだよ〜」


 フィオーナがご機嫌になったところで、さっそく、本題を切り出そう。


「それで、なんでわざわざこっちまで来たんだ? 俺が王城に呼ばれたことは聞いてたんだろ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ