183 新入り5人組
「ただいま〜」
「ただいまです」
ランシード卿と別れ、自宅に戻ってのんびり鍛冶をしていると、ニーシャとルーミィが帰ってきた。
新しく売り子になる人たちを連れて。
「「「「「よろしくお願いしまーす」」」」」
元気の良い声が響く。
全部で5人だ。
歳の差はあるが皆、女の子ばかり。
工房に篭っていた俺と3人娘は店舗部へ移動。
彼女たちと顔を合わせることになった。
全員揃って自己紹介を行う。
5人もいるので一気に全員覚えることはできない。
追々覚えていくとしよう。
今回雇用した彼女たちは3人娘やルーミィみたいに特別な才能に秀でた子たちではない。
普通の売り子だ。
数百人の中の上澄みなので、もちろん優秀な部類には入るのだが、あくまでも一般的な範疇に入る。
彼女たちに特別なことは期待していない。
『護身のアミュレット』を与えたり、『【共有虚空庫】』を貸したり、といった特別扱いもしない。
あくまでも普通の売り子をやってもらうだけだ。
接客と算術ができれば、それで十分だ。
それでも相場の2倍の給金を弾んだので、応募が殺到したのだ。
ちなみに、彼女たちは住み込みではなく通いだ。
皆、パレトの居住区に家があるそうで、一番遠い子でも徒歩30分。
十分に毎日通える距離だ。
彼女たちを雇ったことで、俺たちは生産に専念できることになった。
これで更なる増産が見込める。
別に、今までのシフトでも供給を賄うことは可能なのだが、ニーシャの頭には既に次のプランがある。
そのためにストックを貯める必要があるのだ。
自己紹介が済むと解散となった。
3人娘は自分の持ち場に戻り、ルーミィはニーシャの監督のもと新人指導へ。
今回の新人指導、メインはルーミィだ。
ニーシャは後ろで見ているだけ。
ニーシャが言うには、「ルーミィちゃんはもう全部の仕事を覚えちゃった」そうだ。
たった一ヶ月でニーシャの代わりを果たせるまでに成長したルーミィ。ステータスからも分かっていたが、やっぱり天才だ。
今後はルーミィがここパレトの店の店主を務めることになった。
新入りの売り子たちが慣れるまではニーシャがサポートに回るが、行く行くは完全にルーミィにこの店を任せるそうだ。
本人も責任ある仕事を任されて喜んでいた。
「がんばりますっ、ご主人様」とめずらしく気合いの入った声で言っていた。
そんなルーミィは新入りたちに商品の説明をしていく。
うちの店は他の店に比べると、取り扱い品目が多い。
覚えることはたくさんあるが、皆、メモを取ったりしながら、ルーミィの説明を真剣な顔で聞き入っている。
数百人の中からニーシャが選んだ者たちだ。
きっと即戦力になってくれることだろう。
さあ、俺も自分の仕事だ。
俺が打った武器は思ってた以上に評判だった。
この短期間で、「リンドワース製の次はノヴァエラ製」と言われるほどになった。
リンドワースさんの武器で10階層を突破した人たちが20階層を目指すための武器として、俺の武器を選んでくれたのだ。
もちろん、20階層代や30階層代で通用する武器も販売している。
俺の実力だけでなく、遺物である3種のオイルのおかげでもあるが、いずれも好調な売れ行きだ。
なので、気を抜くとすぐに品薄になってしまう。
遺物関連は一段落しているので、しばらくは鍛冶中心にやっていくことになるだろう。
――鍛冶をしていると、目を覚ましたフィオーナが工房の方までやってきた。
「ちょっと今、手が離せないから待ってて」
「うん」
フィオーナは空いていた椅子を持ってきて、俺の後ろに腰を下ろした。
3人娘も気になるのか、フィオーナの様子を伺っているが、相手が姫様ということで遠慮しているのか、話しかけたりはしなかった。
「お待たせ」
鍛冶が一段落した俺は、フィオーナに声をかける。
「ううん。アルの鍛冶姿って初めて見たけど、見てるだけで全然退屈しなかったよ」
「そうか?」
「うん。また、アルのカッコいいところ見つけちゃった」
えへへ、と笑うフィオーナ。
彼女に褒められると、俺も悪い気はしない。
「ここは暑いだろ、リビングに移動しよう」
「うん」
『吸気石』や『吸熱石』のおかげで、大分マシとは言え、話をするならリビングの方が快適だ。
それに、仕事に集中している3人の横で雑談するのも気が引ける。
2階のリビングに移動した俺たちはテーブルに向かい、椅子に腰を下ろした。
フィオーナは悩むことなく、俺の隣に座り――密着するほどに椅子を寄せてきた。
「近いって」
鍛冶でかいた汗は【清潔】で綺麗にしたが、臭わないか気にしてしまう。
「へへへ、アルの匂い〜」
フィオーナは気にしてないようだが。
「よく寝れたか?」
「うん。ぐっすりだよ〜。おかげで元気が回復したよ〜」
「そりゃあ、良かった」
俺は二人分の飲み物を【虚空庫】から取り出す。
グァバの炭酸割りだ。
「えへへ、嬉しいな〜」
「ん?」
「ちゃんと私の好みを覚えてくれてたんだ〜」
「ああ」
グァバはフィオーナの好物だ。
温暖な南国でしか育たず、ここカルーサ王国では育てることが出来ない。
一般庶民には手が出せないほどの高級果実であるが、王族であるフィオーナは何度か口にしたことがあった。
その味をいたく気に入ったと聞いていたので、カーチャンと南国に行ったときに、大量に買い付けておいたのだ。現地だと普通の果実と変わらない価格だったし。
そのときの残りが【虚空庫】にまだ数千個も入っている。
グァバソーダで機嫌が良くなり、ニコニコ顔のフィオーナだ。
「腹減ったろ。これ食え」
【虚空庫】からサンドイッチを取り出す。
「これ、アルの手作り?」
「ああ」
「やったあ〜、いただきま〜す」
さっと手を伸ばし、パクつくフィオーナ。
「おいし〜〜〜」
「そりゃ、どうも」
「アルの料理はやっぱサイコーだよ〜」
フィオーナがご機嫌になったところで、さっそく、本題を切り出そう。
「それで、なんでわざわざこっちまで来たんだ? 俺が王城に呼ばれたことは聞いてたんだろ?」




