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181 フィオーナ対策会議

「どう思いますか、ニーシャ?」


 フィオーナとアルがいなくなってから、最初に切り出したのはカーサだった。


「そうねえ……」


 ニーシャが思案顔を浮かべる。


「悪い子じゃあなさそうなんだけどねえ……」


 ニーシャは自分の気持を持て余していた。

 フィオーナ自身には悪くない印象を持っている。

 ただ、アルのとやり取りを見ているとモヤっとしてしまう。

 それが嫉妬心と言っていいものなのか、自分でも分かっていなかった。


「二人の距離が近かったですぅ」

「そうニャ」

「気心がしれた仲って感じでしたね」

「確かにこれぞ幼馴染って感じだったわね」


 みんなが言うように、アルとフィオーナは親密な関係だった。

 出会ってから高々2ヶ月の自分では築き上げれないほどの関係性を、二人は幼い頃から築いてきたのだろう。


「思わぬところから、新たなライバル出現です」

「幼馴染とか強敵ですぅ」

「しかも、お姫様ニャ」


 そう。幼馴染でお姫様。

 肩書きで見れば、まともに勝負どころか、勝負にすらなっていない相手。


 アルは素っ気なくあしらいながらも、なんだかんだ彼女の世話を焼いていた。

 間違いなく、アルはフィオーナに好意を抱いている。


 それがまだ恋慕の情にまでは発展していないようだが、いつそうなるか分からない。

 自分のアルに対する気持ちも同様だ。

 どうしたものだろうか……。


 ただ、ひとつだけ分かっていることがあった。

 今、この段階でフィオーナを拒絶したりするべきではない。

 アルは色んな場所でモテているみたいだけど、まだ本人にその気はないみたいだ。

 だったら、私たちも無理したり急いだりすることはないだろう。


「でも、そんなに焦る必要もないかなって思うの」

「えっ、どうしてですか?」

「アルがフィオーナさんと結婚する可能性はないと思うの」

「どうしてですか?」

「どうしてかニャ?」

「相手がお姫様だからよ?」

「えっ!? お姫様だからこそ、憧れるのでは?」

「私も王子様との結婚に憧れたニャ」

「お姫様と結ばれるのは、全ての男性の望みですぅ」

「確かに普通の男性の場合はそうでしょうね。最高の逆玉の輿ですものね」


 ニーシャは続ける。


「でもね、アルの場合は逆なのよ」

「そうなのですか?」

「そうかニャ?」

「ええ、アルは王族や貴族の嫌な面や大変な面もいろいろと見てきたらしくて、あまり良い印象を持っていないのよ」


 みんな、ニーシャの話に頷く。


「アルは王族になってその身を縛られたくないんですって。自由の身でいたいんですって」

「確かに、アルはそういう印象がありますね。なにものにも縛られないというか……」

「師匠に常識は通じないですぅ」

「普通の人だったら、勿体ないって考えると思うんだけど、アルの場合、自由の身でいた方がより多くのものを手に出来る。そうは思わない?」

「思うですぅ! 師匠を自由にさせたら、なんでも手に入れちゃいそうですぅ!」


 確かに、アルが立派な衣装に見を包み、人々を跪かせている姿は想像できない。

 ニーシャはその姿を想像して、あまりの似合わなさに噴き出しそうになった。


「でも、まだ心配があるニャ」

「あら、なにかしら?」

「フィオーナニャ」

「彼女がどうかしたの?」

「フィオーナだったら、王族という身分を捨てて降嫁することくらい平気でやりそうニャ」

「たしかに……」

「あまり王族らしくない振るまいでしたしね」

「王族であることにあまりこだわっていないみたいですぅ」

「最初は平民の冒険者だとばっかり思ったわ」

「私もです」

「ですぅ」

「ニャ」

「やはり、侮れない相手ですね」

「油断できないわ」

「ですぅ」

「ニャ」


 四人が団結した瞬間であった。

 そこに、今まで黙っていたルーミィが声を上げる。


「あのー、質問よろしいでしょうか?」

「あら、ルーミィ。もちろん、構わないわよ」


 みんなの視線がルーミィに集中する。


「皆さん、なにをそんなに心配しているんですか?」


 さも不思議そうにルーミィが尋ねる。


「ルーミィはまだ子どもだから分かってないニャ」

「アルがフィオーナに取られちゃわないか、みんな心配してるのよ」

「取られる? ご主人様は誰のものでもありません。ご主人様はご主人様のものです」


 みんなが黙り込む中、ルーミィは続ける。


「それにご主人様が誰を好きであっても、私にとってはなんの問題もありません。私がご主人様を好きっていう気持ちには何の関係もないですから」


 その言葉に、四人はハッとした顔になる。

 まだ子どもで恋愛感情なんて分からないだろうと思っていたルーミィに本質を突かれたからだ。


「そうね、ルーミィの言う通りね」

「そうですね」

「そうニャ」

「ですぅ」


 ニーシャがそれを認めると、他の3人も追随する。

 皆、気づいたのだ。

 そもそも、この中の誰もアルと付き合っているわけでもない。

 自分たちの中のアルに対する好意が恋愛感情であるのかすらも分かっていない。

 アルを取られるかもという焦燥感はあっても、自分たちからアクションを起こす気もない。


 そんな自分たちがなにを真剣に語り合っているのかと。

 フィオーナをダシに恋バナがしたかっただけなんじゃないかという事実に気づいてしまったのだ。


 結局、四人もまた恋愛感情なんて分かっていなかったのだ。


「フィオーナは悪そうな子じゃないし、みんなで仲良くやっていくってことでいいかしら?」

「そうですね」

「ですぅ」

「ニャ」


 結局、議論は無難なかたちに落ち着いたのだった。

 丁度、話が一段落したところで、ルーミィがまた口を開いた。


「ご主人様が戻って来ます」

「確かにアルの匂いが近づいてくるニャ」

「えっ、なんで分かるんですぅ?」

「足音と気配です」


 アルのいないところで、フィオーナについて好き勝手に話していた後ろめたさがあるのだろう。

 皆は示し合わせたかのように、一斉に口をつぐんだ。

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