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18 作りすぎたポーション

「ただいま〜」

「おう、おかえり」


 俺がポーション作りに没頭していると、ニーシャが帰ってきた。

 時間的には昼頃だろうか。


「って、なによっそれッ!?!?」

「ん? ああ、ポーション作ってるんだけど?」

「いったい、どんだけ作んのよ!」

「もうちょっとで、キリがいいところだから、ちょっと待ってて」


 俺は【飛翔フライ】で大鍋の上に浮かばせたダイコーン草200株を【空斬エアカッター】で両断。

 そして、【空圧エアプレス】で魔素を絞り出す。

 大鍋を軽くかき混ぜて、


「よしっ、完成〜!」


 大鍋の中身――出来立ての初級回復ポーション――を【創造混凝土クリエイト・コンクリート】で作ったプールに移す。

 なみなみとプールに満たされたポーション。

 綺麗な薄緑色を放っている。


「完成じゃないわよっ」

「えっ?」

「相変わらず、なんて非常識な作り方してるのよ」

「えっ、なんか変だった?」


 確かに、風魔法を多用した製法ではあるけど、手を魔法で代用しただけで、道理から外れたことはしていないのだが……。


「今のでいったいいくつの魔法使ったのよ」

「3つだよ」

「しかも、詠唱破棄してるし。どうして、そんなことしながら薬草のマナコントロールまでできてんのよ」

「慣れればたいして難しくないよ」

「…………はあ。それより、なによコレ」


 ニーシャは呆れた顔で部屋の隅のプールを指差す。


「なにって、初級回復ポーションだけど?」

「はああああ?????」


 ニーシャは驚いたように大声を上げる。


「作りすぎよ。アンタはまったく。これどんだけあるのよ?」

「丁度2000本分だ。それがあと4つあるから、全部で1万本分あるぞ」

「……………………」


 ニーシャに言ったように、【虚空庫インベントリ】の中に満杯のポーション・プールがあと4つ入っている。。

 ニーシャは、言葉を失くしたように、ボカンとしている。

 だが、大きなため息を出してから、口を開いた。


「それだけ作ったら満足した?」

「ああ、だいぶスッキリしたな。丁度一万本でキリもいいし。ちょっと仕舞っちゃうな」


 俺はポーション・プールを【虚空庫インベントリ】に収納する。

 ついでにミスリル大鍋やら散らかっているダイコーン草のカスやらもまとめて仕舞いこむ。


「どうぞ、お茶でも」


 綺麗に片付いたテーブルの上に、【虚空庫インベントリ】からお茶セットを取り出す。

 昼食前なので、甘味はナシだ。

 お茶を並べ、ニーシャに席を促し、自分も腰掛ける。


「えっ!?!?!?」

「どした?」

「なによ今の?」

「ただの【虚空庫インベントリ】だけど」

「……………………」

「大丈夫か?」

「…………あんまり大丈夫じゃないわ。それがあなたの【虚空庫インベントリ】なのね」

「ああ」

「そこに今と同じのが4つも入ってるのね?」

「ああ」

「まだ手つかずのダイコーン草も山盛り入ってるのね?」

「ああ」

「クリヨーカンやら、茶葉やら、食料品もいっぱい入ってるのね?」

「ああ、遭難しても1、2年は困らないくらいはある」

「他にも、素材やら何やらいっぱい入ってるんでしょ?」

「ああ、必要そうなものは片っ端から入れてきたからなあ」

「ねえ、いいこと教えてあげましょうか?」

「なになに?」

「あんた、その【虚空庫インベントリ】の中のモノを売るだけで、一生遊びつくしても使い切れないだけのお金になるわよ」

「…………」


 ニーシャがお茶に口を付ける。

 ふんわりと笑顔がこぼれた。

 どうやら、お気に召したようだ。

 俺も一口ばかり口に含む。

 豊かな香りが鼻を通り抜ける。


 ニーシャの言葉に、俺は深く考えさせられる。

 たしかにニーシャの言っていることは正しい。

 昨晩ニーシャに指摘されたセレスさん作のポーション容器のように、実家から持ってきたものはとんでもない価格のものばかりなんだろう。


 そうだ。俺が独り立ちしたばかりなのに、余裕があるのは【虚空庫インベントリ】のせいだ。

 食事にも困らないし、野宿だって安全に過ごせる魔道具がある。

 俺一人が生きてくのに、なにも困らないんだ。

 ニーシャが言うように、貴重品を売り払えば好きなように遊んで暮らせるだろう。


 じゃあ、俺はどうしたいのか?

 遊んで暮らしてそれでいいのか?


 いいや、違う。

 俺は遊ぶよりも、なによりも、物づくりがしたいんだ。


「いや、俺が物づくりをしたいのはお金のためじゃないんだ。俺が作りたいから作る。それだけなんだ」

「……………………わかったわよ。アルがそうしたいなら、そうすればいいと思うわ」

「理解してくれて助かるよ。俺もニーシャの夢にはできる限り協力したい」

「ありがと。そう言ってくれると嬉しいわ」

「ああ、だから、ガンガンと儲けていこう」

「ええ、そうね。まあ、アルが作りたいものを作れば、それだけで上手く行きそうな気もするわ」

「だと良いんだけど」


 二人そろって笑い合う。

 仲間って感じだ。

 俺もニーシャも合わせたかのように、同タイミングでお茶を飲む。

 いいな、こういう関係。

 今まで友だちらしい友だちがいなかったから新鮮だ。

 ニーシャとはこのまま上手くやっていきたいな。


「それで、どこ行ってきたんだ?」

「アルが作ったポーションの売り先を探してたのよ。少量ならともかく、アンタのことだから大量に作ると思ってね。まあ、さすがに1万本ってのは想定外だったけどね」

「なんか、すまん」

「いや、いいのよ。アルは悪くないわ。気に病むことないのよ、アルはアルのやりたいように作ればいいのよ。

私がアルに合わせて、捌き方を考えるから。それでいいのよ。良い役割分担でしょ?」

「ああ、そうだな。ありがとう。こっちはまともに買い物もしたことないくらいだからな。そっち方面は完全にニーシャに任せっきりだよ」

「そう言ってもらえるとありがたいわ」


 ニコリと微笑むニーシャ。


「それでポーションの売却だけど、月に千本。それを2年間で取り付けてきたわ」

「おお、すごいな。早速か。でもなんで2年間なんだ? 2万本くらいすぐ作れるから、今すぐまとめて売っちゃった方がいいんじゃないか?」

「そんなことしたら市場が混乱しちゃうでしょ?」

「混乱?」

「現在王都での初級回復ポーションの消費量は月に5万本前後なの。それで安定しているの」

「ふむ」

「そこにアルが2万本も供給したらどうなる?」

「2万本売れ残りが出るな」

「そうでしょ。そうすると売れ残った人はどうする?」

「うーん。あっ、分かった。売値を安くする」

「そう、価格を下げるのよ」

「なるほど」

「そうやって、ポーションの取引価格はドンドン下がっていくの」

「ふむ」

「もし、アルが毎月2万本も供給したら、初級回復ポーションで生計を立てている調合師はみんな破産よ。初級回復ポーション作りは新人調合士の生命線。彼らが皆食いっぱぐれることになっちゃうのよ」

「…………(ゴクリ)」

「そんな混乱を引き起こさないギリギリの供給量が月千本ってところなの。分かった?」

「…………ああ、分かったよ」

「アル、あなたはいろいろと並外れている。言い換えれば、人並み外れた力を持っているのよ。あなたが軽い気持ちでやったことでも、それが社会に大きな影響を与えるの。それだけは注意しておいてね」

「…………うん」


 浮かれていた俺は少し凹んだ。

 いかに自分が世間知らずなのか、思い知らされた気分だ。

 「物を作りたい」だけじゃダメなのか。

 自分が作ったものが社会にどういった影響を与えるのか、そこまで考えなければならないのか。

 ニーシャの教えは本当に為になる。

 本当に、ニーシャと出会えてよかった。


「まあ、お説教はそれくらいにして、ご飯にしましょうよ」

「ああ、そうだな」


 俺とニーシャは揃って、一階の食堂へ向かうことにした。

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