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175 フィオーナとの再会

「どうしたの、アル?」

「なんのことだ?」

「ん? だって、アルでしょ? 変な格好してるけど」

「…………なんのことだ」


 俺はあくまですっとぼける。

 自分では自信のあった変装を「変な格好」呼ばわりされて、ちょっとショックだった。


「あー、それ、変装のつもり?」

「……………………」

「そんなんじゃ、誤魔化せないよ〜」

「……………………」


 フィオーナの態度は俺を疑っているというレベルではなく、俺だと確信しているレベルだ。

 この調子だと、しらを切り通すのは不可能だろう。

 俺は諦めた。

 つーか、どうしてバレてんだ?


「ああ、そうだよ。久しぶり、フィオ」

「おひさ〜、てゆうか、なんで誤魔化そうとしてたの?」

「つーか、なんで俺だってバレてんの?」

「匂いだよ、アルの匂いがするもん」

「匂い…………」


 そういえばコイツ、【嗅覚】スキルが凄い高いんだった。

 バレちゃったんならしょうがない。

 いつまでも顔を隠してるのもアレだな。

 俺は兜を脱ぎ、素顔を晒した。


「おー、一年ぶりのアルはまた凛々しくなってる」

「フィオも大人びて美人さんになったな」

「えへへ、でしょでしょ」


 褒めたら、フィオーナは嬉しそうな笑顔を向けてくる。変わってないな…………。


「てゆうか、なんでこんなトコにいるんだ? 昨日王都を出たはずだろ?」

「あれ、なんで知ってんの?」

「昨日の午後に王都に行って来たんだよ。陛下たちにもあって来た」

「がーん、じゃあ、私がこっちに来なかったら、そのまま会えたんじゃん!」

「ああ、そうだな」

「無駄足だったかー。でも、こうやってアルに会えたから結果オーライだ!」

「全然オーライじゃねえよ。死にかけてんじゃんかよ」

「てへへへ」

「笑い事じゃないだろ。『護身の宝珠ロザリオ』も全壊してるじゃないか」


 王家の者が護身用に装備する『護身の宝珠ロザリオ』。俺が仲間に配ったアミュレット同様、ダメージを肩代わりしてくれる遺物アーティファクトだ。

 王家の人間が持つだけあって、性能は中々に高い。

 それが全壊するほどのダメージということは、フィオーナの死を何回も肩代わりしてくれたということだ。

 『護身の宝珠ロザリオ』がなければ、フィオーナはとっくに死んでいた。

 いくら『護身の宝珠ロザリオ』があるからといって、ダンジョンを舐めすぎだ。


「俺がいなかったら、死んでたんだぞ」

「うん…………ゴメン」

「反省は帰ってからちゃんとするとして、ほら、『護身の宝珠ロザリオ』を貸してみろ」

「えっ?」

「いいから。それ壊れてるだろ」

「うん」


 フィオーナが俺に『護身の宝珠ロザリオ』を手渡す。

 俺はそれを【魔力解析アナライズ・マナ】を用いて、故障箇所を調査する。

 ああ、これなら、大丈夫だな。

 俺は『護身の宝珠ロザリオ』に魔力を流し込む。

 特有の魔力光に包まれた『護身の宝珠ロザリオ』は、傷が修復され、元の輝きを取り戻す。

 【遺物アーティファクト修理】のスキルを持ってて良かった。


「ほら、直ったぞ。ちゃんと装備しておけ」

「えっ? 直ったの?」

「ああ、直した」

「アルってそんなことも出来るんだ〜」

「まあ、覚えたのは最近だけどな」

「なんてスキル?」

「【遺物アーティファクト修理】だ」

遺物アーティファクトを直せちゃうんだ?」

「ああ、まだ全部は無理だけどな」

「そういえば『護身の宝珠ロザリオ』も遺物アーティファクトだったっけ」

「忘れてんじゃねえよ。それ、とんでもない貴重品だぞ。それのおかげで助かったんだから、ちゃんと感謝しておけ」

「うん…………」

「どんな思いで両陛下がそれをお前に持たせたのか、ちゃんと理解しておけよ」

「うん。ごめん。『護身の宝珠ロザリオ』があるから、ちょっとくらいの危険は大丈夫かなって油断してた」


 安全のために持たせたそれが、油断を産み、危険な領域に足を突っ込むことになった。

 それじゃあ、逆効果だ。


 外に出たら、ダンジョンの危険性を厳しく分からせないとな。

 今回はたまたま運が良かっただけ。

 普通なら死んでいる。

 そこを理解しないと、早々にフィオーナは死ぬことになる。

 甘やかすわけにはいかない。


「それで? なんでこんなトコいるんだ?」

「アルに早く会いたくて、走ってきた」


 そういえば、フィオーナは【韋駄天】スキル持ちだから、走るのは速かったんだな。

 しかも、昔、俺が「強くなるにはなによりも持久力だ」って言ってから、毎日城内の庭を長時間走り続けるようになったんだったな。


 おかげで馬よりも早く走れるし、一日くらいならぶっ続けで走れるようになってしまった。

 走ることに関してだけはトップクラスだ。


 だけど、戦闘能力はそれに追いついていない。

 ここまではその走力でモンスターを引き離し、各個撃破しながら来られたのだろう。

 しかし、モンスター召喚の罠を踏んでしまい、取り囲まれた上に出口も塞がれ、窮地に陥った。

 そんなところだろう。


 相変わらずの考えなしというか、猪突猛進というか。

 確かに、俺も走ったら、王都からパレトまで数時間で着くけど…………。

 王女がこれでいいんだろうか?


「夜中だから、門が閉まっていたろ?」

「うん、だから、塀をよじ登って入った」

「馬車はどうしたの?」

「置いてきた!」


 お付きの人たちに同情したくなる。


「置いてきちゃマズいだろ。自分の立場分かってる?」

「えー、アルだって、自分の立場捨てたじゃん」

「うっ…………」


 そう言われると返す言葉がない。


「でも、大丈夫だよ」

「なにが?」

「アルがどんな立場になっても、私は変わらないからね」


 俺の知っているフィオーナの笑顔だ。

 フィオーナは俺のことを『勇者の息子』扱いしない。

 自分も『第三王女』という肩書きがあるからだろう。

 フィオーナは俺のことをただのアルとして見てくれる数少ない一人だ。

 だから、俺にとってフィオーナは大切な友人なのだ。

 こんなところで無駄に命を散らせるわけにはいかない。

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