173 二人への告白
「そろそろ閉店の時間ね」
王都から帰って、ニーシャとルーミィと会話していたら、いつのまにかそんな時間になってしまった。
ノヴァエラ商会の営業時間は、午前7時から10時まで、それと午後4時から午後7時までの2部制だ。
いつもは5人で店を回しているのだが、今日は俺たちが王都に行った都合で、3人に任せることになった。
上手く対応できたのだろうか?
現在7時ちょっと過ぎ。
3人娘は店を閉め、片付けをしている最中。
もうすぐ、2階に上がってくるだろう。
「じゃあ、夕食の仕度をしておこう」
「ええ、お願いね」
ニーシャと出会ってからずっと忙しく、ちゃんと料理を作っていない。
そろそろ、店も落ち着いてくる頃だし、そうしたら、時間をかけてちゃんとした料理を作りたいな。
俺は料理作りも大好きなのだ。
そろそろ、禁断症状が出そうだ。
ちなみに、ここのキッチンの料理器具は最高級の遺物で揃えてある。
俺がダンジョンに潜って、自ら集めてきた品々だ。
早くこれらを使って、手の込んだ料理を作りたい。
だが、それはまたの機会だ。
今日は【虚空庫】から取り出して並べるだけの、簡単料理だ。
最近は肉料理が続いたので、今日は魚料理にしよう。
そう思い、6人分の料理をテーブルに並べていく。
ルーミィがそれを手伝ってくれる。
お願いしなくても、自発的に手伝ってくれる良い子だ。
ちなみに、ニーシャはお花摘みだ。
全員分の料理を並べ終わった頃、3人娘が階段を上ってくる。
「いやあ、今日も疲れたですぅ」
「でも、3人でなんとか回せたわね」
「クンクン、この匂いはお魚ニャ!」
3人とも疲れた顔をしているが、並べられた料理を見ると目を輝かせた。
「おう、メシにするぞ。手を洗って席につけ」
「「「はーい」」」
◇◆◇◆◇◆◇
夕食が終わった後、俺はミリアとカーサの二人に「話がある」と残ってもらった。
「あらたまって私たちに話って、なんでしょう?」
「まっ、まさかクビかニャ?」
「いや、そういう話じゃないから、身構えなくていいよ」
そう告げると、ミリアはあからさまにホッとした表情を見せる。
分かりやすい奴だ。
「話というのは、俺に関してだ」
「アルに関して? そう言えば、以前秘密があるって言ってましたね」
「アルの秘密。すごい興味あるニャ」
「二人と出会って、一ヶ月ほどが経った。この間二人を見てきて、二人なら大丈夫だと思ったから、話すことにしたんだ。商会の他のメンバーには既に伝えてあるが、あまりおおっぴらにして欲しくない。くれぐれも外部には漏らさないでくれ」
「ええ、分かったわ」
「分かったニャ」
俺が真剣に伝えると、それを理解してくれたようで、二人とも真面目に話を聴く態度になってくれた。
「リリア・クラウスって知ってるよな?」
「はい、もちろんです。魔王を倒した伝説の勇者ですよね」
「知らない方がおかしいニャ」
「あー、一応言っておくと、『元』勇者な。本人は引退した気でいるから」
「はあ、そうなんですか」
「それがどうかしたニャ?」
「あれ、俺のカーチャン」
「えええっ!?」
「ニャニャ!?」
さすがの二人もビックリしたようだ。
俺は自分の生い立ちと今までの経緯について、二人に語った。
元勇者の一人息子として生まれたこと。
セレスさんと3人で秘境で暮らしてきたこと。
カーチャンのツテで色々な大物と知り合いなこと。
カーチャンの知人たちに修行をつけてもらったこと。
そして――家を出て、名前を捨てたこと。
「それであんなに強くて、なんでも作れて、あんなに非常識なんですね」
「まあな。カーチャンや師匠たちのおかげで、大抵のことは自分一人で出来るようになった。その点では感謝してるんだがな……」
「そんなに修行が大変だったんですか?」
「大変なんてもんじゃないぞ。あれは修行というより、拷問って言った方が適切なくらいだぞ。実際、何度も死にかけたし。いや、セレスさんの回復魔法がなきゃ死んでたな」
「神様の回復魔法がなきゃ死んじゃう修行って……」
「まあ、今となっては笑い話だけどな」
「笑えませんよ……」
「それにしても、なんでアルは名前を捨てたニャ? 『勇者の息子』っていう肩書とリリア殿のツテがあれば、大抵のことは出来ちゃうと思うニャ」
「それが嫌だったんだよ」
俺は大きく息を吐く。
「カーチャンは俺を勇者にしようと思って育ててたんだ。だから、毎日毎日戦闘訓練の日々。格上のモンスター相手にソロで挑まされることも日常茶飯事。俺はそんな日々が嫌だった。なにより、俺は勇者になんかなりたくなかった。そもそも、戦い自体は好きじゃないし」
「その割には、喜んでダンジョンに潜ってましたよね?」
「アイテム収集自体は好きなんだよ。戦いはそのために必要な作業。もし、モンスターがドロップしないんだったら、俺は絶対にダンジョンに潜ったりしない」
「なるほどニャ」
「そういえば、レベリングの最中も表情も変えずに淡々とこなしてましたね。まさに作業って感じで」
「そうニャ。頬が緩んだのはレアドロップしたときだけだったニャ」
「そうそう」
ニヤけてたのか、俺?
「まあ、そういうわけで、俺は戦いは好きじゃないから、勇者になる気はなかったんだ。俺が好きなのは物づくりだ。静かに物を作っている時が一番幸せなんだ」
「確かに物づくりに打ち込んでいる時のアルは格好いいわね」
「惚れ惚れするニャ」
二人は顔を寄せあい、聞き取れないほどの小声でなにか話す。
「俺は良い物を作りたい。俺が作った物で認められたい。もし、俺が『勇者の息子』だとすると、俺がなにを作ろうと、『勇者の息子』が作ったってだけで、なんでも売れてしまう。それが嫌だったんだ。だから、俺は名前を捨てたんだ」
「確かにそうね。貴族でもある話ですね。貴族の息子が作ったガラクタをその貴族のゴキゲンを取るために高値で買い取る。よくある話です」
「だろ?」
「アルの気持ちは分かりました。これからも以前と変わらず、ただのアルとして接するようにします」
「私もそうするニャ」
「ああ、よろしく頼むよ」
まさキチです。
お読み頂きありがとうございました。
今回で第10章は終わりです。
次章では王様との会談で名前が出たあの人が登場。
お楽しみに!
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