170 謁見後3
「なんと、中級回復ポーションにもアルベルトが絡んでいたのか。しかも、中心人物じゃないか」
いたく驚かれた。
中級回復ポーションの話は国王陛下の耳にも入っていたらしい。
新製法が確立され、今月の商業ギルドの品評会でファンドーラ商会からそれが発表されると。
そこまでは陛下も知っていたのだが、その発見者が俺だとまでは知らなかったのだ。
「いや、驚いたわ。すまんが、アルベルトよ、この件でもう一度足を運んでもらいたい」
品評会の後、ファンドーラ商会には褒章を授ける予定だったらしい、となると発見者の俺も当然呼ばれるわけだ。
まあ、これもお勤めの一環だ。
謹んで拝領させていただこう。
「中級回復ポーションの不足には数年来頭を痛ませておってなあ。冒険者は危険を犯せんし、軍も苛烈な訓練を行えず、兵が育たない。本当に悩みの種だったのじゃよ」
まさか、国家レベルで問題になっているほどだとは思ってもいなかった。
軽い気持ちで依頼に応えただけだったのに、こんなに反響があるとは……。
「しかし、アルベルトのところで作れるのだったら丁度いい、軍への納入をアルベルトの商会に任せられるか?」
「どう、ニーシャ?」
軍への納入。
取引相手としてこれほど信頼できる相手はいないし、大量納入が見込める。
俺だったらすぐに飛びつきたくなる話だけど、ここはニーシャの意見も聞いてみたい。
「せっかくのお話ありがたいのすが、この件はお断りさせていただきます」
「ほう、なぜじゃね?」
せっかく儲け話を振ってやったのに、それを断られる。
普通の人間だったら、それだけで腹を立ててもおかしくはない。
しかし、陛下は怒るどころか、むしろ、興味深そうな表情でニーシャに聞き返した。
「我がノヴァエラ商会は急成長を遂げているとはいえ、まだまだ新興の木っ端商会に過ぎません。本来ならば、この話は本来、ファンドーラ商会が受けるはずだったのでは?」
「ああ、そうだ」
「ここで我々が横からかっさらってしまえば、ファンドーラ商会としては堪ったものではないでしょう。今後に遺恨を残すことになります。そのうち対決することは避けられないでしょうが、現時点でファンドーラ商会と対立することは、ウチの商会として望んでおりません」
「なるほど……」
国王陛下はそれっきり黙る。
なにか考え込んでいるようだ。
「分かった。お嬢さんの言う通りにしよう。いや、大したお嬢さんだ。ものの道筋がよく見えておる。それに将来的には、ファンドーラ商会と対決するビジョンまで描いておるのか。その若さでそれだけの智謀と度胸。これだけの商会を作り上げるわけだ。ウチの官僚に引き抜きたいくらいだよ」
「身に余るお褒めの言葉、光栄でございます」
「ニーシャさんと言ったかね?」
「はい」
「そなたに任せておけば、アルベルトも大丈夫であろう。これからもアルベルトをよろしく頼むよ」
「いえ……」
国王陛下に頭を下げられ、ニーシャは狼狽している。
陛下が臣民に頭を下げることはない。
ここは私人のドブルーとして頭を下げているのだ。
とはいえ、慣れていないニーシャにとっては、国王が自分に頭を下げているのも同じこと。
狼狽するなというのが無理だろう。
「素敵なお嬢さんと出会えて良かったな、アルベルト」
「ああ、ホント、俺もそう思っているよ」
国王陛下はニーシャのことを気に入ってくれたようだ。
俺もニーシャが受け入れられて嬉しく思う。
そうだ、せっかく中級回復ポーションの話題になったから、この話題を切りだそう。
「ねえ、ドブルーおじさん」
「なんだい、アルベルト」
「おじさんに国王陛下として聞いてもらいたい話があるんだ」
俺がそう言うと、陛下は国王の顔になった。
「話してみなさい」
「今回の中級回復ポーションの新製法は今までの製法とは画期的に違うんだ」
「ほう、説明してみなさい」
「今までポーションと言えば、調合で作られていた。ポーションを作るためには、調合に関する多くの経験と知識が必要とされていた。つまり、ポーション作りというのは、ひとつの技術だったんだ。熟練調合士にしか出来ない技術だったんだ」
「ほう、それで」
国王陛下は関心を持って俺の話に耳を傾けてくれる。
「それに対して、俺が確立した新製法は、適性さえあれば、誰でもその日から作れる方法なんだ」
「ほう。適性とは?」
「魔力操作だよ。魔力操作に長けていれば、誰でもポーションが作れるんだ」
「なんと!」
陛下がポンと膝を打つ。
俺が伝えた内容は陛下にも衝撃的だったようだ。
「本当だよ。だから、ファンドーラ商会は魔力操作に長けた魔術師を大量に集めている」
「たしかに、その話は聞いておったが、ポーション作りのためだとは思わんかったな」
「実際、ウチも2人雇ったよ。その二人が半月で1万本以上の中級回復ポーションを作ってくれた」
「二人で! 本当か?」
「ああ、事実だよ。この事実を踏まえたうえで、国王陛下には2つお願いがあるんだ」
「なんじゃ、言ってみよ」
俺からのお願いということで、取り敢えず話だけは聞いてもらえるようだ。
「1つ目は調合士の扱いについて」
「ほう」
「これからポーション作りは調合士ではなく、魔術師の仕事になる。調合でダイコーン草から中級回復ポーションを作れるようになるには、俺が発見した以上の画期的な発見が必要だ。俺はそれは不可能だと思う。少なくとも短期間では」
「なるほど」
「そうなると、多くの調合士たちが職を失い、露頭に迷うこともある。そして、調合師の成り手はどんどん減少し、今まで蓄積された貴重な調合知識が散逸してしまうことになる」
「たしかにな」
「だから、陛下には調合士たちを国で保護してもらいたいんだ」
「なるほど、分かった。シュルツどうだ?」
国王陛下がシュルツさんに話を振る。
具体的な実務に関してはシュルツさんの守備範囲なのだろう。
「うーん、難しい話ですね。ですが、アルベルトの話通りであれば、確かに多くの調合師が失職するでしょう。国としては、なんとしても救済策を考えねばならんでしょう」
「そうか。分かった。何らかの手を打つことを約束しよう」
「ありがとうございます、陛下」
俺の1つ目のお願いは叶えられることになった。
次はもっと重要なお願いだ。
こちらも受け入れられると良いのだが――。
まさキチです。
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