169 謁見後2
「ほら、アルベルトもお嬢さん方も座った座った」
国王陛下にそう言われ、俺たちはソファに腰を下した。
やはり、ニーシャは緊張している。
まあ、それが普通の反応だろう。
ルーミィは無表情で、大人しくしている。
「アルベルト、そちらの素敵なお嬢さん方を紹介してくれんか?」
「こっちがニーシャ。ウチの商会の会頭で、俺の頼りになる相棒だよ。彼女と出会わなければ、俺が商会を立ち上げることもなかった。今日の俺があるのは、ニーシャのおかげだよ」
「ニーシャと申します」
「ほう。アルベルトがそこまで褒めるとはのう」
「素敵なお嬢さんね」
続いてルーミィだ。
「それでこの子がルーミィ。立場は俺の奴隷だけど、俺は大切な仲間の一人だと思っている。将来的には、ニーシャの右腕になってくれるだろう貴重な人材だよ」
「ルーミィと申します」
「まだ、こんなに小さいのに頑張っておるのか」
「聡明そうなお嬢さんね」
「素晴らしい仲間に出会えて良かったのう」
「ああ、その通りだよ。他にも3人の仲間がいるんだけど、ドブルーおじさんたちに紹介したいくらい、みんな良い仲間なんだよ」
「ほう。じゃあ、今度みんな連れておいで」
「ああ」
そして、国王陛下がニーシャとルーミィに向かって言う。
「アルベルトの身内なら、儂らの身内も同然じゃ。肩肘張らんと、気軽に接してくれて構わんぞ」
「ええ、私からもお願いよ」
「ドブルーおじさんは元冒険者なんだ。だから、公式の場はともかく、プライベートではとてもフランクなんだ」
「ああ、そうだ」
国王陛下が鷹揚に頷くが、そう言われてすぐに対応できないだろう。
皇后陛下からも助け舟が出る。
「お茶でも飲んで、リラックスしてちょうだい」
「ええ、そうさせていただきます」
ニーシャとルーミィはお茶に手を伸ばす。
お茶を飲み、少しニーシャの固さが取れただろうか。
会話は俺と両陛下を中心に進んで行った。
たまに、シュルツさんとニーシャが口を挟む。
ルーミィは黙って会話を聞いているだけだった。
「まずはお三方、商会立ち上げおめでとう」
「ありがとう。ドブルーおじさん、メイサさん」
「オークションのことも、パレトでの開店のこともシュルツから聞いとるよ。考えられないほどの盛況ぶりらしいじゃないか」
「ああ、俺の想像以上だったよ」
「一体どこからあれだけの遺物を手に入れたのだろうなあ?」
ニヤニヤと笑う国王陛下。
あっ、これバレてる顔だ。
子どもの頃の俺がイタズラしたのを、見透かしてた時と同じ顔だ。
どうやら、陛下は俺がダンジョンに潜って乱獲したことをすっかり見破っているようだ。
「いや、別に責めるつもりじゃあないぞ。アルベルトの考えは、シュルツから聞いた。儂も冒険者時代は名を隠して、いろいろとやったもんだ。人のこと言えた立場じゃあない」
冒険者時代の陛下も今の俺と同様に、名前を隠して活動していた。
同じ肩書に縛られる身として、親近感を覚え、事情を斟酌してくれているのだろう。
ありがたいことだ。
国王という立場からしたら、俺がカーチャンの息子であると大々的に喧伝して、王家で取り込みたいところだろう。
しかし、そうしないでくれたのは、私人として俺を大切にしてくれているからだ。
まるで自分の子どもか孫のように大切にしてくれる陛下には感謝するばかりだ。
「『自動昇降機』については、メイサの夫としても、お礼を言いたい。ありがとうな、アルベルト」
「いえ、俺の方こそ、返しきれないほどの恩を貰ってるから」
「相変わらず謙虚だのう。いきなり大金を稼げるようになって偉くなったと調子に乗っているようだったら、お灸を据えないといかんと思っていたのじゃが、どうやら杞憂だったようじゃの」
「はは。まさか、調子に乗るなんて。俺がここまで来れたのはニーシャたちのおかげだし。調子に乗るなんてとてもじゃないけど出来ないよ」
「それが分かっていれば立派じゃ。だが、往々にしてそれをわきまえない輩が多くてのう」
「それに、『勇者リリア・クラウスの息子』って肩書ほど偉いものはないからね」
「そうじゃのう。アルベルトはその肩書を嫌っておったくらいじゃったな。よく思い切って肩書を捨てたもんじゃ」
俺が肩書を捨て、ただのアルになったことに対して、国王陛下は肯定的にとらえてくれたようだ。
「それで、アルベルトはどうしてリリア殿の下を飛び出したのじゃ?」
俺は国王陛下に家を出てからこれまでの経緯をかいつまんで話した。
物作りをして生計を立てれるようになりたいと思ったこと。
ニーシャとの出会い。
中級回復ポーションの新製法を発見したこと。
パレトに店を構えたこと。
セレス教会に神像を奉納したこと。
弟子を取り、仲間ができたこと。
パレトでのオークションのこと。
開店が大成功を納めたこと。
貴族の顧客も付き、生活用の遺物を販売していること。
とりとめもなく、色んなことを話したが、両陛下ともに興味深く耳を傾けてくれた。
中でも国王陛下が一番反応したのは、中級回復ポーションの話だった。




