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166 貴族巡り2

 ――某侯爵との面会。


「実は今度領地の屋敷を新築することになってな」

「新築ですか」

「ああ。それに伴って、屋敷の遺物アーティファクトも一新しようかと考えたのだが……」

「ご予算の関係ですか?」

「ああ、かなり老朽化している遺物アーティファクトもあってな。少し不便を感じておるのだよ。ただ、さすがに全部取り替えるとなるとな。出入り商人に試算させたのだが、少し厳しいのだよ」


 侯爵が書類をニーシャに渡す。

 横から俺も覗いてみたが、屋敷に必要な遺物アーティファクトの一覧と予想価格が書かれていた。

 ちなみに、総額は8千万ゴルほどだった。


 ニーシャが目配せしてくる。

 「どう、直せそう?」といったところだ。

 だから、俺も「大丈夫」と目で返す。


「侯爵様、ご予算はいかほどですか?」

「なんとか、5千万に抑えたいところだ」

「それでしたら、部品の交換や修理というかたちでご対応できます。それなら、予算も抑えられるかと」

「本当か? それはありがたい」

「侯爵様の領都までは馬車で1日ほどの距離ですよね」


 今回取引することになった貴族全員の名前や力関係、それにこういう知識を全て頭に叩き込んでいるニーシャは凄い。

 俺の記憶力じゃ、到底無理だ。


「ああ、そうだ」

「でしたら、出張手当は頂きますが、現地で修理・交換も含め、対応させていただきます。総額で5千万ゴルを超えないことは約束しましょう」

「非常に助かるよ」


 今まで悩みを抱えていた侯爵の顔に安堵の色が浮かぶ。


「でも、良いのかね?」

「なにがでしょうか?」

「そちらとしては新品を売りつけた方が儲けが大きいのではないかね?」

「お客様に喜んでいただくこと。それこそが、次の商いへと続く道。我々はそう信じておりますゆえ。我々は様々な商品を商っておりますが、なによりの売り物は誠実さであるべきと考えております」


 ニーシャがそう告げると、侯爵は大笑いを始めた。


「ガハハハハ。気に入ったぞ。これからも贔屓にするからよろしく頼む」


 ――某伯爵との面会。


「ところで話は変わるのだが――」


 伯爵との商談が終わり、さて帰るぞと思ったら、伯爵が出し抜けに切り出してきた。


「――アル殿は来年成人すると聞いたのだが、そろそろ身を固めても良い頃だな」

「……………………」

「うちの娘もちょうど来年で成人でな。どうだ、一度会ってみないかね?」


 なにかと思ったら、縁談を薦められてきた。


「私が言うのもなんだが、器量の良い出来た娘でな。行儀作法も学ばせているし、アル殿にピッタリだと思うのだがな」


 丁重に断らせて頂いた。



 ――某子爵との面会。


「なにっ? アル殿は遺物アーティファクトの修理も出来るのか」

「ええ、まだ修理スキルを覚えたてなので、高位のものは出来ませんが」


 念のために、過小に申告しているが、俺の修理スキルは熟練度が溜まって、そこそこレベルが上がっている。

 俺がスキルを覚えてから、ニーシャが市場でガラクタ――壊れた遺物アーティファクトを捨て値で大量に仕入れてきたからだ。

 開店準備の期間に、俺は鍛冶の合間を縫って、ひたすら遺物アーティファクト修理に勤しんできた。

 そのうちの一部は実際に店頭に並んでいる。

 だから、『自動昇降機』ほどの大物ならともかく、大抵のものなら修理可能だろう。


「ちなみに、どんな遺物アーティファクトなんでしょう?」

「ウチの空調の調子が悪くてな。ちょっと見てもらいたい」

「ええ、それだったら修理できると思います」


 空調ならスキルレベルが足りている。


「本当か?」

「はい」

「いやあ、助かったよ。これから暑くなるから、その前になんとかしなきゃと思っておったのだよ」

「ちなみに場所はどちらでしょうか? ご領地ですか?」


 ニーシャが尋ねる。


「いや、王都の屋敷だ」

「それでしたら、うちは定期的に王都に行ってますので、その際にご修理ということでよろしいでしょうか? お急ぎでしたら、別途料金を頂きますけど、優先的に対処いたしますが?」

「いやいや、急ぐほどのことじゃない。手が空いてる時で構わないよ」

「それでしたら、日程を調整致しましょう」


 ファンドーラ商会とジェボンさんの店への納品があるから、どのみち王都へは週一回行かねばならない。

 その時に修理も行えば良い話だ。

 ニーシャは子爵と予定をすり合わせ、修理の日時を決定する。


「じゃあ、よろしく頼んだよ」

「ええ、お任せ下さい」


 ――某男爵との面会。


「いよいよ、次で最後だな」

「ええ、そうね」


 長かった貴族巡りの一週間も次の男爵で最後だ。

 後に残っているのは、領主様、それに、国王陛下との謁見だけだ。


「ニーシャは平気そうだけど、俺は疲れたよ。やっぱり、こういうのは俺には向いていない。工房に篭って物作りに専念したいよ」

「そうね。私はむしろ楽しんでるわ。やっぱり根っからの商人なんだなって実感するわ」


「じゃあ、行こうか」


 俺たちは男爵の部屋の扉をノックした――。


「うーん」


 商品一覧が書かれた紙を見つめ、男爵が唸る。

 この商品一覧は魔法のインクで書かれており、魔力を込めることによって、消したり、書き直したりすることが出来る。

 売れた商品は一覧から姿を消すわけで、一番最後のこの男爵の頃には、記載されている商品数は最初に比べて、大分少なくなっていた。

 それだけ、この一週間で俺たちが儲けた証である。


「いかがなされましたか?」

「リストには載っていないが、やはり『扇風機』はないのかね?」

「生憎と品切れでございまして」


 『扇風機』の値段は50万ゴル。

 生活用の遺物アーティファクトとしては安い方だ。

 暑さ対策の遺物アーティファクトとして『空調』を買うほどの資金的余裕がない場合の代替品として用いられるし、貴族の広い邸宅全体に『空調』を行き渡らせると、とてつもない金額になるので、いずれにしろ『扇風機』は必要になる。

 そういうわけで、これから暑くなるこの時期には大人気の商品なのだ。


 それなりの数量は用意していたのだが、入手がモンスターのドロップ任せなので、需要を満たすほどは確保できず、早々と売り切れてしまったのだ。


「う〜む、そうか……。なんとかならんかね?」

「入荷次第ご連絡させていただくというかたちでいかがでしょうか?」

「そうだな。そうしてもらおうか。夏までになんとか間に合うかね?」

「ええ、絶対に用意してみせます」


 ドロップするモンスターは把握している。ドロップ率は高くないが、1時間も狩れば10個くらいはに手に入るだろう。


 ニーシャの確信を持った言葉に、男爵はホッとした表情を見せる。


「いやあ、それは助かるよ。他の商人はどれも『入荷したらお譲りいたしますが、入荷できるかは確約できません』の一点張りでなあ」


 普通の商人にとって遺物アーティファクトの入手先は冒険者の持ち込みか、中古の品を仕入れるしかない。

 だから、「この遺物アーティファクトを必ず入手する」と確約するのは難しい。


 それを可能とするには、ウチの商会みたいに自分たちで遺物アーティファクトを取りに行くしかないが、そんなことをしてる商会はウチくらいだ。


 この「顧客が望む遺物アーティファクトを確実に入手できる」という点は、ウチの大きな強みだろう。

 「ノヴァエラ商会なら確実に手に入る」という評判が広がれば、ウチはさらに大きく飛躍できるだろう。


「今後も困ったことがあったら、君たちを頼りにさせてもらうよ」

「ウチは遺物アーティファクト以外も幅広い商品を取り扱っています。必ずや男爵様のご希望を満たしてみせましょう」


 ニーシャが他の商品もアピールする。


「そうだな、期待しているよ」


 ニコニコ顔の男爵に見送られながら、俺たちは男爵の部屋を辞した。

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