163 閉店
ニーシャの音頭で、俺たちは2階に上がりリビングへ。各自が席に付いたところでニーシャが立ち上がり挨拶をする。
「みなさん、今日は朝早くから一日お疲れ様でした」
ニーシャの挨拶に拍手が起こる。
「それでは今日一日の売上を発表したいと思います」
より一層大きな拍手が起こり、歓声も上がる。
「今日の売上総額は……………………」
ニーシャは俺たちを焦らすように、たっぷりと間をとる。
誰のかは分からないが、ゴクリと生つばを飲み込む音が聞こえる。
そして、ニーシャが口を開いた。
「なんと3億2875万4600ゴルです〜」
これまで以上の大きな拍手と歓声が巻き起こる。
「3億ゴルって……」
「額が大きすぎて実感がわかないですぅ」
「分かりやすく言うとこの家6個分だ」
「ほへ〜、ちょっと凄すぎて頭がついていかないニャ」
「王都の大商会でも、一日でこの額を記録したことはないでしょうね」
「ええ、そうよ。大記録だわ。でも、これは最初の一歩よ。これからも私たちの快進撃は続いていくのよ」
「快進撃か。いい言葉ニャ」
「カッコいいですぅ」
「私もそれに参加していると思うと、胸が熱くなりますね」
ざわつくみんなに、ニーシャがパンパンと手を叩く。
「とりあえず、ご飯にしましょ」
俺はみんなの食器に今日の晩ご飯を盛りつけていく。
ちなみに、今日のメニューはサラダとカリィライスだ。
香辛料がたっぷりと利いたカリィは疲れた身体に相性抜群だ。
きっとみんな何度もお代わりをせがむことだろう。
「飲み物はなにが良い? リクエスト受け付けるぞ」
俺はみんなのグラスに【虚空庫】から取り出した飲み物を注いでいく。
ミリアはキンキンに冷えたエール。
ニーシャとカーサはワイン。
ビスケと俺は安定の竜の泪。
そして、ルーミィは栄養価の高い果実ジュース。
出会ってから2週間。
最初はガリガリだったルーミィも、今は肉付きが良い健康体に戻った。
健康になったルーミィはまさに絵から抜け出したような美少女だ。
抱き心地も最高で、俺は毎晩ぐっすりと眠ることができる。
「それじゃ、始めましょう。開店の大成功を祝して――乾杯!」
「「「「「かんぱーい」」」」」
グラスを傾け、カリィライスを頬張る。「美味い美味い」と連呼する声が聞こえてくる。
みんな何杯もお代わりし、笑顔とともに食事は終わった。
「明日も早いから、よろしくお願いね」
ニーシャの言葉でお開きとなった。
食事の最中、ニーシャが売上の詳細について教えてくれた。
なんと、売上の半分近くが『紅の暁』によるものだった。
様々な商品を購入上限まで買い込んでくれたし、高額な【切味上昇】付与のミスリル武具を10個も購入してくれた。
さすがはトップクランの本気買いだ。
売上の内訳について説明しよう。
売上の中核を為すのは、俺が作った武具だ。
なんと総額2億ゴル。
今回俺は、『シャープネス・オイル』、『デストロイ・オイル』、『ハーデニング・オイル』を用いて、効果付与した武器や盾を各種用意した。
総ミスリル製だけでなく、性能は劣るが価格を抑えたミスリルと鋼鉄の合金製も作ったのだ。
これによって、中級冒険者でも買える武器を並べることが出来た。
俺が作る武器のことは冒険者たちの一部で話題になっていたらしい。
『紅の暁』のライラとレインに売ったミスリルナイフと『鋼の盾』のミラに売った魔法の杖は本人たちもいたく気に入ったらしくて、周りにその良さを吹聴しららしい。
どうやら、その噂が広がったようだ。
ともあれ、俺の武具がそれだけ売れたことで、一応の面目躍如を果たしたわけだ。
次に売上が多かったのは中級回復ポーションだ。
ほとんどのお客さんが、購入上限の10本を買っていった。
そのおかげで、1本5000ゴルと単価は高くないのだが、総額7千万ゴルを売り上げた。
これまで品薄だった中級回復ポーション。
今は作れば作るだけ売れるだろう。
開店数日前に俺もちょっと本気を出して作りまくったから、一週間分くらいは余裕で在庫がある。
だが、その後は、ミリアとカーサに任せてある。
二人には頑張ってもらいたい。
その次が遺物で、売上2千万ゴル。
もう少し売れるかと思っていたのだが、きっと今回はみんな他の物を優先した結果なのだと思う。
ウチの商品は安くない。遺物まで予算が回らなかったのだろう。
武具などの耐久性の遺物はバカ高い値段なのでおいそれと手が出せない。
一方、魔法球などの消耗性の遺物はある程度強いモンスター相手に使用しないと元が取れない。
どちらも中位以上の冒険者じゃないと買えない品だ。
これからウチの武具や中級回復ポーションで冒険者が育ってくれれば、売上は伸びていくだろう。
次いで売上が高かったのがセレス神・バッカス神のペンダントだ。売上金額は1千万ゴル。
過半数の人が買って行った。中には、両方買う人もいたくらいだ。
ビスケは自分の作ったもので1千万ゴルを売り上げたことに驚き、喜んでいた。
単価は1万ゴルとちょっと高めのアクセサリーといった値段だ。
今後、評判を呼んで人気が出てくれば、冒険者以外の町民も買い求めに来るかもしれない。
これからの売上に期待が出来る。
残りはその他の商品の売上だ。
特製干し肉もここに含まれる。
特製干し肉は1枚100ゴルと通常の干し肉に比べれば2倍の単価だが、ウチで取り扱う他の商品と比べれば、単価はとても低い。
しかし、お客さんには大好評、下手したら一番人気だったかもしれない。
おかげで、ほぼ全員が購入上限の10枚をお買い上げだった。
それでも単価が安いせいで、売上は140万ゴル。
干し肉の売上としては破格の金額だが、他の主力製品に比べたら桁一つ少ない。
だが、それはそれで構わないのだ。
最初から、特製干し肉は売上が主目的ではない。
特製干し肉はお客さんを取り込むための商品だ。
比較的安価な消耗品。
その味は絶品で一度食べたら、もう普通の干し肉は食べられなくなるほど。
しかも、それはウチでしか販売していない。
特製干し肉の虜となったお客さんたちは定期的にウチの店を訪れるリピーターとなってくれるのだ。
ある意味、一番手放したくない商品であるとも言える。
そんなこんなで幸先の良いスタートを切れたわけだが、まだまだ俺たちは始めたばかり。
これから、ノヴァエラ商会がどうなっていくのか、それは今後の俺たちにかかっている。
このまま順調に発展していくのを願うばかりだ。




