154 開店準備
シュルツさんは爆弾を落とすだけ落として、さっさと帰って行った。
「しかし、エラいことになったわね」
「ああ……」
「まさか、陛下に謁見することになるとはね…………」
「ああ、俺もこんなに大事になるとは思ってなかった」
「それにしても、アルの人脈はホント凄いわね。剣聖に財務大臣、そして、国王陛下まで」
「ああ……」
「私が思っていた以上に、アルも大物なのね」
「全部カーチャンのコネだけどな」
確かに俺は国内外問わず、多くの大物と知り合いだ。
だけど、それは全て俺がカーチャンの息子だからだ。
俺をカーチャンの息子ではなく、ただのアルとして初めて見てくれたのはニーシャだ。
「ニーシャ、ありがとな」
「なによ?」
「シュルツさんにキッパリと言ってくれただろ」
――リリアさんの息子だから凄いんじゃなくて、アルが今まで努力してきたから凄いんです。
俺の代わりに財務大臣相手に言い放ってくれた。
それが、俺にはとても嬉しかった。
「ありがとな。あれ、嬉しかったよ」
「ええ、当然よ」
俺がお礼を述べると、恥ずかしいのか、ニーシャは顔を赤くして、そっぽを向いてしまった。
◇◆◇◆◇◆◇
「10億ゴルですか……」
「それに王様と謁見ニャ……」
「剣聖や財務大臣と知り合いとか、ちょっと意味が分からないですぅ」
帰って今日のことを留守番組の3人娘に話したら、驚かれ、呆れられ、絶句された。
ようやくウチの商会に慣れ、ウチが普通の商会とは違うことを理解し始めた3人だったが、それでもインパクトが大きすぎたようだ。
3人が現状を受け入れるのにはしばらく時間がかかった。
オークションの翌日と翌々日。
俺たちは開店に向けて、最後の仕上げに入っていた。
今までに作り上げた商品の数を数え、リストアップし、商品棚に陳列する。
足りなそうな品は急ピッチで作り上げる。
全てはニーシャの指揮の下、準備が行われていった。
今までに十分に備えをしてきたので、今さら慌てることもないのだが、店内には浮足立ったような空気が流れていた。
なにせ、店を立ち上げる経験をしたことがある者など誰もいないのだ。
全てが手探りで、なかなか上手くいかず、焦る気持ちが生まれてしまう。
そそっかしいビスケなんかは無駄にワタワタと慌てていた。
そんな中、以外に頼りになったのがカーサだった。
そういえば、カーサの実家も商会を営んでいたんだった。
だから、慣れているのか、ニーシャのサポートをし、混乱している現場を上手にまとめ上げていった。
そんなこんなで、苦労はしたものの、なんとか前日の夕方には開店準備を終わらせることが出来た。
「みんな、お疲れ様。みんなのおかげで、準備も間に合ったわ。明日もまた朝早くから大変だから、今日は早めに休んで、明日に備えてちょうだい」
みんなの顔が笑顔になる。
ひと仕事やり終えた充実感。
明日からへの期待。
みんな、良い顔をしている。
今日はごちそうで労ってやるとするか。
◇◆◇◆◇◆◇
開店を翌日に控えたその晩。
明日は早朝から忙しいので、みんな早目に部屋に引き込んだ。
そんな中、ニーシャに呼び止められ、俺は彼女とリビングで酒を交わしていた。
その最中、ニーシャがふとこぼした。
「ごめんなさいね、アル」
「どうした、いきなり」
「ホントはもっと物づくりしたかったでしょ。それなのにダンジョン探索ばかりやらせちゃって」
「ああ、そのことか」
「ええ、本当はもっとアルに物づくりに専念させてあげたかったんだけど……」
「いや、気にすることないよ。俺も楽しかった」
俺はこの一月を振り返ってみる。
決して物づくりに没頭できたわけではないが、ダンジョンに潜ったり、弟子や仲間が出来たり、それはそれでどれも楽しい経験だった。
「そう?」
「ああ。俺はこう考えたんだって。『ノヴァエラ商会』ってのもひとつの作品なんだって」
「……………………」
「それを作り上げていくのは楽しかった。ひとつずつピースを埋めるようにしていくのが心地よかった。そして、俺も満足している。『ノヴァエラ商会』がこうやって仕上がったのがとても嬉しいんだ」
「そうね。私も同じ気持ちよ。みんなで作り上げたこの商会が愛おしいの。まるで自分の子どもみたいに」
「ああ、そうだな。俺たちの子どもだな」
「ええ、明日は胸を張ってみんなに見せつけてあげるわ。これが私たちの商会だって」
「ああ、そうだな。見せつけてやろう」
「アル、ありがとうね」
ニーシャは急に真剣な顔で告げる。
「アルがいなかったら、とてもこんなに上手くは行かなかったわ。アルと出会っていなかったら、私は今も王都の裏路地でチンケなセドリをして、小銭を貯める日々を送っていたわ。こんなに早く自分の店が持てるなんて思ってもいなかったわよ。本当にありがとう」
ニーシャが深々と頭を下げる。
「いや、お礼を言うのはこっちの方だよ。ニーシャと出会っていなかったら、今頃俺はどうなっていたことか。俺がいかに世間知らずで非常識かニーシャ教えてくれた。そして、俺に色んな事を教えてくれた。それだけじゃない。大切な仲間たちとも引きあわせてくれたし、なにより、俺が作った物で誰かが幸せになるってことを教えてくれた。そして、こんな立派な店を構えることも出来た。ありがとう、ニーシャ」
「アル……」
二人見つめ合う。
俺はニーシャとの間に繋がりを感じた。
友情なのか。
仲間意識なのか。
共通の目的に向かう連帯感なのか。
言葉でなんて表したらいいのか分からない。
ただ、確固とした深い繋がりを感じることが出来た。
それは非常に心地良いものだった。
「これからもよろしく頼むよ」
「ええ、こちらこそよろしくね」
コツンと拳を合わせる。
「さてと、明日も早いことだし、そろそろ寝ましょうか」
「そうだな」
「じゃあ、お休みなさい」
「ああ、お休み」
俺はニーシャと別れ、部屋に戻る。
いつものようにベッドにはルーミィが潜り込んでいる。
ルーミィは既にすやすやと眠りについている。
俺はルーミィを起こさないように、静かにベッドに入り、目を閉じる。
よし、明日はいよいよ開店だ!
まさキチです。
お読み頂きありがとうございました。
今回で第9章は終わりです。
次章、いよいよ開店致します。
お楽しみに。
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