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144 穴ぐら亭からの帰り

「やっぱり、師匠のご飯の方が美味しいです」

「まあ、今回はハズレだったな」


 ドワーフ酒場の『穴ぐら亭』を後にした俺たちは、ちょうど昼飯時だったので、とびこみで近くの食堂で昼食をとったのだが、結果はこの通りだった。

 まあ、良い店を見つけるには挑戦が必要だから、失敗はしょうがない。


「それにしても竜の泪がこんなに高価なお酒だとは思いませんでしたぁ」


 竜の泪はひと樽で100万ゴル。白金貨一枚だ。

 リンドワースさんや俺たちみたいに稼いでいないと、そう簡単に手が出せない価格だ。


「だったら、ガンガン稼いで、余裕で買えるようにならないとな」

「はいっ、頑張るですぅ」


 そうこうして、家に帰り着いた。


「あら、お帰りなさい」

「お帰りなさいませ、ご主人様」


 店舗部ではカウンターに並び、ニーシャとルーミィが座っていた。


「ただいま」

「ただいまですぅ」


 俺たちも挨拶を返す。


「どう、ルーミィの調子は?」

「この子スゴいわよ。一回教えたら、全部覚えちゃうんだもの」

「そうなのか?」

「ウチに来た時は字も読めなかったのに、もう読めるようになっちゃったわよ」


 ルーミィの知性関連のステータスは並外れていたからな。


「すごいな。それだったら、開店に間に合いそうだな」

「ええ、そうね。もう即戦力よ」

「それだったら、教え甲斐があるな」

「そうね。うかうかしてたら追い抜かれちゃいそうよ」

「ちなみに、俺の弟子も中々だぞ」

「えへへ」


 褒められても表情ひとつ変えないルーミィとは対照的に、ビスケは褒めるとすぐに照れる。


「あら、そうなの。頼もしいわね。ビスケも貴重な戦力として期待しているから、頑張ってね」

「はいですぅ!」


 それからビスケと二人、工房へ向かう。

 工房では、ミリアとカーサがポーション作りに励んでいた。


 俺たちに気づいた二人が顔をあげる。


「おかえりなさい」

「おかえりニャ」

「ただいま」

「ただいまですぅ」


 作業が一段落した二人が手を止めて、こちらにやってくる。


「アルさん、やったニャ。ポーションいっぱい作ったニャ」

「ええ、頑張って二人で500本以上作りました」

「おお、それは頑張ったな」


 500本か。

 想定以上だ。

 今日初めてやったというのに、もうそこまで上達してるのか。

 ステータスの高さは伊達じゃないな。


「いくら魔法を使っても、全然魔力が減らないニャ。おかげで、ほとんどマナポーション飲んでないニャ」


 魔力を用いたポーション作り。

 複数の魔法を多用する作業だが、使用する魔法はどれも小出力なものばかり。

 先日のレベリングで膨大な魔力量を保有するに至った二人にとっては、大した魔力消費ではない。


「これ、本当に楽しいです。お皿洗いも楽しかったですけど、こっちはもっと楽しいです」


 生き生きとした顔のカーサだ。

 本当に魔法を使うのが楽しいのだろう。

 以前の皿洗いバイトでも魔法を駆使していたほど、魔法行使が大好きなカーサだ。

 この仕事は楽しくてしょうがないんだろう。


「そうか、二人とも、これからも頑張ってくれよ」

「はいっ!」

「ニャ!」


 二人が作業場へ戻り、俺とビスケは炉が並ぶ区画へ向かった。


「調子はどうだ?」

「はい。もう魔力もすっかり戻りました」

「そうか。じゃあ、午後の修行を頑張っていこう」

「はいですぅ!」


 元気いっぱいな様子のビスケだ。


「とりあえず今日作ったような大きな神像作りは開店騒ぎが落ち着くまでオアズケだ」

「はいですぅ」


 この件は教会のアンナさんにも伝えて、了承を取ってある。

 落ち着いたら、俺とビスケが作った神像を納める約束だ。


「ビスケに頼みたいのは、店売りできる商品だ」

「どんなのですかぁ?」

「もっと小さい5センチくらいの神像でペンダント型のやつだ。冒険者がお守りとして装備できるタイプの」

「分かったですぅ」

「ちなみに加護は今日ほど気合いを入れなくていいから、効果は(微弱)で丁度いい。練習すれば、加護の強度も調整できるようになるから、後は回数をこなせばいいだけだ」

「了解ですぅ」

「開店までのノルマは1000個。厳しいかも知れないけど、頑張ってくれ」

「頑張るですぅ!」


 具体的な目標を与えられて、ビスケも気合いが入ったようだ。

 開店までもう2週間を切っている。

 ちょっと厳し目のノルマだけど、ビスケならなんとか乗り越えてくれそうだという期待がある。


「こうなったら、うかうかしてられないですぅ。早速作業に取りかかるですぅ」


 ビスケは炉に向かい、作業に取りかかった。

 俺も炉に向かい、鍛冶作業を開始することにした。


 ダンジョン産遺物アーティファクトである3種のオイルを用いた武具作りだ。

 鋭さを増す『シャープネス・オイル』。

 破壊力を増す『デストロイ・オイル』。

 そして、強度を増す『ハーデニング・オイル』の3種類だ。


 当初俺は総ミスリル製の武具を作ろうと思っていたし、実際総ミスリル製のナイフを1本作り上げた。

 しかし、俺はそれが間違いだと気づいたのだ。


 それは需要だ。


 『シャープネス・オイル』を塗布し【切味上昇キーン・エッジ】を付与したミスリルナイフは確かに非常に強力な武器だ。

 しかし、これを買える人はとても限られてしまう。


 40層以降でも十分に通用するミスリルナイフ。

 これを購入しようとするのは、本当のトップクラス、それこそ、『紅の暁』のトップメンバーくらいだ。


 そんなものを何十本も作っても、売れるわけがない。

 価格を下げれば売れるだろうが、そのようなことをすれば市場に混乱をもたらすだけだとニーシャに教わった。


 俺は需要というものをちゃんと理解していなかったのだ。

 このことをニーシャに指摘され、俺は考えを改めた。

 結局、総ミスリルではなく、ミスリルと鋼鉄の合金の武器をメインに作ることにしたのだ。

 ターゲットは10階層から30階層で活躍する冒険者たち。

 具体的に言うと、リンドワースさんの武器を卒業する冒険者たちが次に持つ武器だ。


 合金の比率を変えて、4種類の武器を作り、10階層から30階層まで幅広く対応できるようにするつもりだ。

 一応、総ミスリル製も作るが、量産するのは合金製の武具だ。


 『シャープネス・オイル』を用いて、切れ味を増したナイフ、刀剣、槍類。

 『デストロイ・オイル』を用いて、破壊力を増した棍棒やメイス、杖類。

 『ハーデニング・オイル』を用いて、防御力を上げた盾。


 これらを作っていこうと思う。

 開店まで時間も限られている上、他にもダンジョンに潜って遺物アーティファクト集めもしなきゃならないし、その合間に弟子たちの指導もある。

 俺ものんびりしてられないな。

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