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137 ラスボス・レベリング

 転移カードを用いた俺たちは60階層最奥の部屋へ到着した。


「【回復ヒール】――」


 転移酔いが辛そうなメンバーたちにかけてやる。


「よーし、落ち着いたか?」

「ここは?」

「パレトのダンジョン、最終階層の60階層。その最奥の間だ」


 俺の宣言にみんながハッと息を呑む。

 ニーシャだけが「やっぱりね」と呆れ顔。


「ってことは、あれがダンジョン・コアかニャ?」


 ミリアが部屋の中央に安置されている巨大な魔石を指差す。


「ああ、そうだ」

「ニャ!!!!」

「ということは、あれを壊せばダンジョン踏破者として名を残すことができるですぅ」

「そのつもりはないがな」

「えええぇぇぇ〜」

「なんでですか?」

「なぜニャ?」

「俺もニーシャも冒険者として、名を成そうとは思っていないからだ」

「でもっ」

「もったいないニャ」

「ですぅ」


 納得できないといった学院3人組。


「いいか、俺とニーシャの目的はノヴァエラ商会を大きくすること。俺は職人として、ニーシャは商人として、一流になることだ」

「…………」

「ここに来たのはそのための手段のひとつに過ぎない」

「…………」

「商会を大きくするには、俺とニーシャだけじゃ人手が足りない。強力なメンバーが必要だ。そして、そのメンバーというのがお前たちだ」

「…………」

「今日の目的はお前たちをレベリングすることで、ダンジョン踏破することじゃない。分かったか」


 みな、コクコクと頷く。


「それじゃあ、作戦を伝えよう――」


 ボスが出現するまでの30秒間。

 その間にどこに位置取ればいいのか。

 魔銃を発射するタイミング。

 退治後の速やかな撤退。


 ひとつずつ、詳細に説明していった。

 実際に魔銃を撃たせてみたりもした。

 こうして前準備は完了した。


「じゃあ、早速ボス退治と行こうか」


 俺は5人を引き連れ、ボス部屋への扉に手をかざし、扉を開ける。


「さあ、スタンバイだ。ニーシャの後に続け。30秒しか猶予はないぞ。もたもたするなよ」


 俺は【虚空庫インベントリ】から聖剣ルヴィンを取り出し、【麻痺パラライズ】と【不死ノンキル】を付与する。


 ニーシャには俺の斜め後方、射線が確保しやすい位置につくよう指示してある。


 俺はボスモンスターである阿修羅が出現する位置の手前に陣取り、出現のタイミングに合わせて10の斬撃を置いておく。

 昨日散々練習しておいたので、なんの不安もない。


 俺たちが入室して丁度30秒後。

 所定の位置に阿修羅が現れ――それと同時に10の斬撃が阿修羅に襲いかかる。

 6本の腕が吹き飛び、3つの顔がひしゃげ、心臓を切り裂く。


 明らかにオーバーキルな攻撃なのだが、聖剣に付与している【麻痺パラライズ】と【不死ノンキル】で、阿修羅は死ぬに死ねず、満足に身体も動かせない。


「今だッ!」


 ――ザシュッ。


 俺が命令するや否や、ニーシャの構えている魔銃から魔弾が発射され、阿修羅の胴体に直撃。

 デカい的なので、ニーシャの腕なら外しようがない。


 その一撃がトドメとなり、阿修羅は死に絶えた。


「なっ? 簡単だろ?」


 ドロップ品を拾い上げながら、メンバーに声をかけるが、ニーシャ以外はみなポカンとしている。


「ほら、時間が勿体ない。出口までダッシュだ」


 俺にうながされて、ようやくみんな動き出した。

 ボス部屋から退出すると静かにドアが閉まる。


「これで一周だ。部屋に入って30秒でボスが出現。俺が合図したらボスを魔銃で打つ。そうしたら、出口に向かってダッシュ。これだけだ。後何回か、全員でやって、慣れたら一人ずつだ。いいな?」


 分かったのか、分かっていないのか、みなコクコクと頷いている。


 ――その後、10回ほど全員で周回した。

 ようやく、みんなも何をすればいいか、把握できたようだ。


「じゃあ、最初は誰から行く?」


 魔銃に魔弾をチャージしながら尋ねる。

 及び腰の学院3人組に対し、積極的に手を挙げたのはルーミィだった。


「私、やります」

「そうか、頑張れよ」

「はいっ、ご主人様」

「魔銃の装填数は12発だ。だから、12周交代で行くぞ。それまでに、残りの順番決めておけよ」


 俺はルーミィを伴い、扉を開ける。

 部屋の中央まで移動し、10発の斬撃をセットする。


「俺が合図したら、引き金を引く。いいな?」

「はい、ご主人様」


 ルーミィには恐れも緊張もないようだ。

 良い精神状態だろう。

 これなら、失敗することはないだろう。


 やがて、30秒が経過。

 ボスが現れ、瀕死になる。


「今だっ」


 俺の声よりも早く、ルーミィは攻撃を放っていた。

 ベストタイミングでだ。

 しかも、着弾を確認してすぐに出口にダッシュしている。

 俺はルーミィに追いつき、声をかける。


「やるじゃないか。100点満点だったぞ」

「はい、ご主人様」

「身体に違和感はないか?」

「中からポカポカします。でも、嫌な気持ちじゃないです」

「それがレベルアップだ」

「レベルアップ?」

「ああ、ルーミィが強く丈夫になっている証だよ」

「そうなんですか、じゃあ、頑張ります」

「ああ、無理せずにな」


 ルーミィは淡々と言われたことを言われた以上のレベルでこなした。恐れも力みもせずに。

 ルーミィは大物になるかもしれない。


 ――続いての番はビスケだった。


「頑張るですぅ」


 とやる気だけはあるようだ。

 難しいタスクの場合はこのやる気が空回りすることもあるだろうが、今回のタスクはベリーイージーだ。

 やる気がいい方向に作用するだろう。


 ――ザシュッ。


「オーケー、ナイスタイミング」


 俺の指示の直後、ビスケの放った魔弾が阿修羅を直撃する。


「わーい、やったぁ」

「浮かれてないで、すぐに出口に戻るぞ」

「あれ〜、師匠ぅ〜」

「どうした?」

「身体が変なんですぅ〜。身体の中が熱くって、じんわりとそれが広がっていくんですぅ…………はっ、これってもしかして、恋?」

「アホかっ」


 思わずビスケの頭にツッコミをいれる。


「いてっ」

「レベルアップだ、レベルアップ」

「あ〜、これがレベルアップですかぁ。久しぶりすぎて忘れてたですぅ」


 といらんボケをかましてはいたが、ビスケもしっかりと自分の仕事をこなしていた。


 続くローテーションはミリア、カーサ、そして、ニーシャという順番だったが、皆問題なくこなしていった。


 特に、今回は休み時間もたっぷりあるので、レベルアップに適応する余裕もある。

 こうして、5人ローテーションで一日がかりのレベリングは、日が暮れるまで行われたのだった――。

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