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134 添い寝

 ルーミィと抱き合ったまま、眠りにつこうと努力して数十分。

 俺の努力は一向に報われなかった。


 俺の首に両腕をからませたまま、ルーミィが時折身をよじる。

 その度に刺激され、俺は寝付けずにいた。


「ご主人様、まだ起きてますか?」

「ああ」

「少し話ししてもいいですか」

「ああ、もちろん」

「私、本当に嬉しかったんです」

「……………………」


 自分の話を聞いてもらいたそうだったので、俺は黙ってルーミィの話に耳を傾ける。


「あの場所から連れ出してくれただけで嬉しかった」

「……………………」

「なのに、それだけでなく、私の火傷も治してくれて、奴隷とは思えない扱いをしてくれました」

「……………………」

「今でも奇跡だったと思ってます」

「……………………」

「どうして、ご主人様は私を助けてくれたんですか?」


 購入した奴隷にこう尋ねられた時どう答えるか。

 それはニーシャと相談済みだった。

 その結論は、「正直に答えること」に落ち着いた。


 この答えが奴隷にどういう影響を及ぼすか分からない。

 だけど、俺たちに出来るのは、相手に誠意を持って対することだけだと、そう結論づけたのだ。


 俺もニーシャも理由は異なるが、奴隷を奴隷扱いしないことに決めた。

 俺は単に奴隷制度に慣れておらず、どうしたらいいか分からないという単純な理由から。

 ニーシャは奴隷でも対等に扱った方が生産性が高いからという利己的な理由から。


 いずれにしろ、奴隷だからといって蔑んだりせず、同じ人間として対等に接すべきだという結論に達した。


 だから、俺はルーミィの質問に正直に答える。


「俺たちは商会の役に立つ奴隷を探していた。より正確に言えば、ニーシャの右腕としてこの商会を支えていける能力のある人間だ。賢く機転が利き、商才に明るい。そんな人材を探していたんだ」

「……………………」


 黙って、聞き入っているルーミィ。

 こうやって、自分が話すべきかどうかも、きちんと弁えている。ルーミィの賢さの証拠のひとつだ。


「ニーシャは他人の能力と適性を調べる能力がある。その能力であそこの商会の人間を調べたんだ」

「……………………」

「その結果、一番適性があり、しかも、ズバ抜けていたのがルーミィだったんだ」

「だから、私を選んだんですか?」

「能力がある。それはひとつ目の基準だ。それだけでは採用しない」

「じゃあ?」

「ふたつ目はやる気だよ。生きる気力っていってもいい。あの屋敷で多くの奴隷を見た。みんな目が死んでたよ。彼らを雇えば、言われたことは十分にこなすだろう。でも、それだけだ。自分から進んでより良くしようという気力があるようには感じられなかった」

「……………………」

「結局、ハズレかな。そう思って諦めかけていたところで、ルーミィに出会ったんだ」

「わたしに……」

「頭から布をかぶり、顔はほとんど隠れていた。だけど、その合間から覗く2つの目はギラギラと輝いていた。あの館にいた奴隷の中で、一番不遇ともいえる立場のルーミィが、一番輝いた瞳をしていたんだ。生きたい。見返してやりたい。そういう強い思いが溢れんばかりに感じられた」

「……………………」

「だから、俺はルーミィに決めたんだよ」

「生きる力……ですか」

「ああ、そうだ。ルーミィは生命力に満ちあふれていた。死にかけた身体なのに、心は誰よりも強く輝いていた。この光はきっと俺たちの商会に良いものをもたらす。そう確信したんだよ」

「そうだったんですか……」

「ああ」


 納得した様子のルーミィだが、ひとつの疑問を投げかけてきた。


「私だけ幸せになっていいのかな? って罪悪感があるんです」


 このことは奴隷購入を決めた時点で、ニーシャと散々話し合ったことだ。

 誰かを雇うにしろ、奴隷を購入するにしろ、俺たちは一度仲間に引き入れたら、その人物を幸せにすると固く誓った。

 俺たちが仲間を選ぶということは幸せにする相手を選ぶということだ。

 逆に言えば、その他の人間を幸せにすることを諦めることだ。


「俺たちは全能の神様でもないし、他者の救済を目指す宗教家でもない。俺たちが目指すのはあくまでも、俺たちの商会を大きくすることだ」

「はい、わかります」

「だから、全員を救うことはできない。仲間に出来るのは能力があり、やる気があるヤツだけだ」

「はい」

「そのかわり、仲間にしたからには全力を尽くす。俺もニーシャも仲間には幸せになって欲しいからな」


 俺とニーシャが仲間選びの際に、定めた一番のこと。

 それは、仲間にした人間を俺たちが幸せに出来るかどうか。

 だから、仲間になった4人には幸せになってもらうし、そのために俺もニーシャも全力を尽くす。

 たとえ、どんなに商会が大きくなっても、不幸な従業員がいるようでは俺たちの敗北だ。

 商会を大きくしながらも、そこで働く俺たち全員が幸せになること――それが俺とニーシャの目標なんだ。


 優秀でふさわしい人材は、他から引き抜いたり、奴隷商から買い取ったりする。

 そのかわり、一度仲間に引き入れたら、全力で幸せになってもらうんだ。


「分かりました。幸せになるように努力します」

「そうか、分かってくれたか」

「はい。でも、ひとつ問題があります」

「なんだ?」

「私はこうやってご主人様の腕の中で眠れるだけで、もう十分に幸せです。これ以上どうしたらいいのでしょうか?」

「…………」


 思わず絶句する。

 いや、彼女の境遇を考えると、それも納得できる。

 こうやって誰かの側で落ち着いて眠りにつける。

 それすら、昨日までの彼女には手に入らなかったものだ。

 孤独に苛まれ、火傷の痛みに苦しめられ。

 そうやって、終わりのない夜を過ごしてきたのだろう。

 俺はそう思うと、いても立ってもいられず、彼女の身体をぎゅっと抱きしめる。



「人間ってのは欲深くてな」

「はい」

「ひとつのものが手に入ると、今度は他のものが欲しくなるんだよ」

「そうですか?」

「ああ、だが、俺はそれは悪いことだと思わない」

「??」

「そうやって、人はより良い人生を手に入れていくんだと、俺はそう思う」

「じゃあ、ご主人様、いっぱいください」

「ああ、もちろん。俺があげれるものならいくらでもあげよう。でも、ルーミィも自分で欲しいものを探していいんだよ?」

「欲しいもの?」

「ああ、今は分からなくても良い。でも、きっとなにか欲しいものに出会える日があると思うんだ。そのときに手に入るように全力を出せばいいんだよ。もちろん、その時は俺も協力するからな」

「はいっ、わかりました」

「どうかな、ルーミィの疑問に答えられたかな?」

「ええ、ルーミィは幸せ者です」

「そうか、良かったな」


 月明かりでルーミィがニコニコと笑っている姿が見える。

 俺はルーミィの頭を優しく撫でる。


「どうだ? 眠れそうか?」

「はいっ。ご主人様が頭を撫でてくれてると、ぐっすりと眠れそうです」

「そうか、わかったよ」


 そうして、俺はルーミィが寝付くまで、彼女の頭を撫で続けた――。

 まさキチです。


 お読み頂きありがとうございました。

 今回で第8章は終わりです。

 

 ブクマ・評価いただきありがとうございました。

 誤字報告もありがとうございました。

 非常に励みにさせていただいております。

 まだでしたら、画面下部よりブクマ・評価して頂けますと、まさキチのやる気がブーストされますので、お手数とは思いますが、是非ともブクマ・評価よろしくお願いいたします。


 それでは、今後ともお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

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