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130 3つ目のお楽しみ

 本日の3つのお楽しみのひとつ――竜の泪。

 初挑戦の二人の感想はどうだったろうか?


「美味しいけど、もう飲めないニャ。舌がヒリヒリするニャ」


 自分から積極的にトライしたミリアであったが、一口でギブアップだった。


「だから、言ったろ? 相性が有るからな。代わりはどうする? 大抵の飲み物は揃っているぞ」

「お肉に合うヤツがいいニャ」

「じゃあ、定番だけど、エールにするか?」


 俺も竜の泪がなければ、エールを選ぶ。

 それくらい、串焼きとエールの相性はバツグンだ。


「ほれ」

「うわー、キンキンに冷えてるニャ」

「ははっ、だろ? 【虚空庫インベントリ】があるから、ウチの職場はいつでもキンキンに冷えたエール飲み放題だぞ」

「うぅぅ〜、ここに就職して良かったニャ〜〜〜」


 興奮するミリア。

 一方のカーサはというと――。


「これは美味い」


 1センチほど注いだ竜の泪を一息で飲み干していた。

 無言でグラスを差し出してくるので、なみなみと注いでやる。

 カーサはグラスを受け取ると、大きく傾け、半分ほどを飲み干した。


「うむ。美味い。こんなに美味しい酒は初めて飲んだ」

「強い酒だからな。無理するなよ」


 ムダかも知れないが、一応忠告しておく。


 ――そろそろ肉が焼ける頃合いだ。


「おーい、肉が焼けるぞ。一列に並べ〜。ルーミィは座ってていいからな」


 最初に焼いたのは、ファング・ウルフとシルバー・ウルフの肉だ。

 お楽しみがあるのだが、最初にそれを出すとそればっかになってしまうので、後回しだ。


 列に並んだみんなに順番にファング・ウルフとシルバー・ウルフ2本づつの串焼きを渡していく。

 最後に座っているルーミィにも手渡す。


 ルーミィには奴隷であることは気にしないように最初に言ってある。

 この集まりも「自分は奴隷だから」と辞退しようとしていたが、「みんな同じ仲間だ」と言い聞かせたのだ。

 ウチの商会は貴族も奴隷も差別しない。

 みんな対等な仲間で、同じ釜のメシを喰う。

 これがウチの基本方針だ。


「さて、串も渡ったな。だが、まだ食べるなよ」

「えっ?」

「ニャ?」


 早くもかぶりつきそうになっていたビスケとミリアが「待った」をかけられ、驚きの声を上がる。

 俺は全員を見回してから、ゆっくりと告げる。


「なにか、忘れていないかい?」

「えっ?」

「はっ!?」

「ニャ!?!?」


 今日の昼食会に参加していた面々の目が輝く。

 彼女たちは気がついたようだ。

 よだれを垂らしそうになっている。

 一方、なにも知らないビスケとルーミィは状況が把握できず、ボカンとしている。

 俺は自信満々にソレを高く掲げる――。


「そうっ! ハチミパウダーだああああ!!!!!」


 テンション高く叫ぶと、「おおおおおお」と歓声が返ってくる。

 俺はハチミパウダーの詰まった小瓶を自分の串に振りかけ、ニーシャに渡す。


 実は、今日ジェボンさんの店でシドーさんから一瓶譲ってもらっていたのだ。

 昼の味を覚えている面々は嬉々として、残りの二人も不思議そうながらもみんなの真似をして、ハチミパウダーを串に振りかける。


「いっただきまーす」


 誰の声が最初だったか、すぐにみんなの声が唱和し、そろったかのように串焼きをパクつき始める。


「……………………」


 無言で美味を噛みしめる者。


「うっまああああ〜〜〜〜〜〜〜」


 その感動を叫びにする者。


「美味しい」


 静かに美味の余韻にひたる者。


 みんなが思い思いの方法で堪能していた。


「なんすか、師匠、コレ! この美味さは反則ですぅ」

「こんなに美味しい物、初めて食べました、ご主人様」


 未体験だった二人もすっかりハチミパウダーの虜になっているようだ。


「まだまだ串はガンガン焼いてるから、遠慮せずにどんどん食えよ〜」


 大型の炭焼き台で大量の串焼きを次々と焼いていく。

 焼きあがる端から、誰かの手が伸び、串をかっさらっていく。

 コミュニケーションを深めるのが目的の歓迎会だが、しばらくは皆、自分の食欲と格闘するだけで精一杯だろう。

 まあ、みんなの笑顔も素敵だし、それでもいいかな、と思う。


 ある程度ウルフ肉の串焼きが捌けたところで、俺は今日最後の3つ目のお楽しみを披露する。


「おーい、みんな、注目っ!」


 みんなの視線が集まる。


「今日はサプライズを3つ用意した。ひとつ目は竜の泪。ふたつ目はハチミパウダー。そしてみっつ目は――」


 俺は【虚空庫インベントリ】からその巨大な塊を取り出す。


「ミノタウロスの肉、通称、ミノ肉だああああああ」


 ニーシャと二人、大量にステーキを食べまくったど、まだ10キログラムくらいはある。


「ミノ肉って、あの高級肉で有名ニャ?」

「たしか、1キロ何千ゴルとか」

「綺麗なお肉……」

「ええ、あのミノ肉よ。味は保証するわ」


 そこで俺は続ける。


「そうだ。あのミノ肉だ。そのままで食っても十分に美味いミノ肉。そこに、このハチミパウダーをかけたら、どうなることか」


 皆がハッと息を呑む。

 まだ見ぬ美味を想像しているのだろう。


「おい、ビスケ、ヨダレ垂れてるぞ」

「へっ!?」


 慌てて確認するビスケ。


「もう師匠。垂れてないじゃないですかぁ」

「すまんすまん。でも、垂れそうな勢いだったぞ」


 ドッと笑いが起こる。


「でも、みんなビスケのこと笑えるのか? みんな同じような表情してるぞ」

「師匠のいじわるぅ」

「ヨダレ垂れてないかニャ?」

「危うく垂れそうだったわ」

「わたしもです」

「……わたしも」


 みんな他人事じゃあないようだ。

 そりゃあ、しょうがないか、ミノ肉とハチミパウダーのコラボ。俺だって、気になってしょうがない。

 コレ以上焦らすのは可哀想だ。


「よしっ、今から俺が肉を捌いて、ちょうどいいサイズに切って、串に刺していく。だから、後は自分たちで焼いて好きに食べてくれ」


「「「「「はーーーーーい」」」」」」


 元気な声が重なった。


 俺は【空斬エアカッター】で、ミノ肉塊を細切れにしていく。

 下手な刃物より切れ味鋭く出来る【空斬エアカッター】はこういう場面でも重宝する。

 あっという間に、大きな塊だったミノ肉が細切れの山になった。

 後は串に刺していくだけだ。

 肉汁がこぼれないようにキツ目に詰めていく。

 その点だけ注意して、串をどんどんと量産していく。


 炭焼き台は細長い形状をしており、みんなが横に並べるだけのスペースがある。若い女の子たちが一斉に横並びになり黙々と串焼きを焼いている光景はある意味威容であった――。

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