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129 乾杯

「ただいま〜」


 俺は夕方6時前に自宅へ帰り着いた。

 予定通りの時間だ。


「おかえり〜」

「おかえりなさい、ご主人様」


 リビングで出迎えてくれたのはニーシャとルーミィだった。

 なにか栄養を取ったのか、ルーミィは先ほどとは見違えるほどの血色の良さだった。


 二人並んで、本を読んでいるところだった。

 きっと、ニーシャがルーミィに字を教えているのだろう。


「ねえ、アル、やっぱりこの子凄いわよ」

「どうした?」

「字を教えたら、すぐに覚えちゃうのよ」

「そうなのかい?」


 ルーミィに視線を向ける。


「はいっ、ご主人様。ニーシャおねえちゃんに字をおそわってました」


 しゃべり方もはきはきと自信に溢れたものに変わっている。

 それより、俺はひとつ気になったことがある。


「なあ、ルーミィ」

「はい、ご主人様」

「なんで、ニーシャはおねえちゃんで、俺はご主人様なんだ? おれももっと気安く、お兄ちゃんでいいんだぞ?」


 しかし、ルーミィはふるふると首を横に振る。


「ご主人様はご主人様、なのです」


 あくまでも自分の意見を曲げようとしない。

 案外と頑固なところがあるのかもしれない。


「まあ、いい。好きに呼んでくれ」

「はい、ご主人様」


 ルーミィの頭をなでてやると、喜んで身体を寄せてきた。


「それより、歓迎会をやろう。ニーシャ、ルーミィ、みんなに声をかけておいてくれ、俺は軽く風呂に入ってくる」

「ええ、あんまり長湯しないでね」


 歓迎会が待ちきれないという表情のニーシャ。

 その気持ちは分かる。

 今日の歓迎会はバーベキューだ。

 新居祝いでニーシャと2人でやったけど、今日は人数も増えたし、2つほどとっておきがある。

 いや、アレも入れたら3つか。


 いずれにしろ、みんなを待たせるのもアレだ。

 俺は簡単に汗を流す程度にしておいて、屋上へと向かった――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 俺が風呂から上がり、屋上に顔を出すと既に全員が揃っていた。


「じゃあ、まず、セッティングしちゃうな」


 俺は炭焼き台を【虚空庫インベントリ】から取り出し、その上に串を並べていく。

 前回はファング・ウルフとシルバー・ウルフの2種類だけど、今日はさらにとっておきがある。

 それはミノ肉だ。

 ステーキにしてさんざん食い尽くした残りを全て串焼きにするのだ。

 肉の焼ける香ばしい匂いが漂う中、俺は口を開く。


「さあ、肉が焼けるまで少し時間がある。あらためて、簡単に自己紹介と行こうか。では、ニーシャから」


 ここは会頭であるニーシャの顔を立てて彼女から。


「ノヴァエラ商会会頭のニーシャよ。皆のようになにかを作ったりは出来ないけど、売ったり買ったりは誰にも負けないわ。みんなの作ったものをどんどん売り捌いてみせるわ。みんなよろしくね」

「続いて、俺はニーシャの相棒で、商会立ち上げのもう片輪のアルだ。物作り全般を専門としている。ちょっと生い立ちに事情があって、今は話せないことも多いけど、信頼できると判断したら打ち明ける予定だ。だから、明日から励んで、信頼を勝ち取ってくれ」


 俺はビスケを促す。


「みんなより数日早く仲間になったビスケですぅ。この商会へはアル師匠への弟子入りという形で入ったですぅ。ガラス聖像づくりの修行中ですぅ。ミリアちゃんとカーサちゃんとは魔術学院時代の同級生ですぅ。ルーミィちゃんもお姉ちゃんと思って頼っていいですぅ」


 次いで、ミリア。


「ミリアニャ。猫人族ニャ。ビスケたんとカーサちゃんとは友達ニャ。魔術学院を卒業してから魔術学院の附属図書館で司書をしていたニャ。趣味は読書ニャ。明日からポーション作るってことらしいので、頑張るニャ」


 そして、カーサ。


「カーサです。ビスケたんとミリアとは同級生でした。魔術学院卒業後は皿洗いのバイトをしてました。趣味は低出力の魔法で遊ぶことです。魔力量と魔出力には自信ないですが、この度拾っていただいたからには、出来るだけ期待に応えて、ポーション作りに励みたいです」


 最後はルーミィだ。


「ルーミィです。ご主人様の奴隷です。友達はいません。ニーシャおねえちゃんに字を教わりました。これからもいっぱい勉強して、ご主人様の役に立てる奴隷になりたいです」


 挨拶が一巡した。


「肉が焼けるまでもう少しだ。先に乾杯しちゃおう」

「おっ、師匠。それはもしかしてぇ」

「ああ、竜の泪だ。ルーミィは別として、ほかのみんなもこれでいいか?」


 ビスケが気に入ってたので、俺も好きなこともあり、竜の泪は10樽ほど買い占めておいた。


「竜の泪ってあの幻のお酒かニャ?」

「幻かどうかは知らないが、高級品で手に入りにくいのは事実だな」

「じゃあ、試してみるニャ」

「物凄い強いから、気をつけて飲むんだぞ」

「わかってるニャ」


 ミリアのグラスにほんの1センチほど注いでやる。


「え〜、少ないんニャ」

「これ飲んで大丈夫だったら、好きなだけお代わりしていいぞ」


 竜の泪はほとんどアルコールそのものだ。

 いくら好きでも、合う合わないの体質の問題がある。

 だから、最初はお試しの少量なのだ。


「カーサはどうする?」

「私はそんなにお酒に強くないのだが…………。せっかくの機会だから、試させてもらおうかな」

「じゃあ、はい、これ」


 同じく1センチほど入ったグラスをカーサに手渡す。


「ニーシャも乾杯はこれでいいよな?」

「ええ、お願い」


 あまり強くないニーシャだが、竜の泪の味自体は好んでいる。

 あまり酔いが回らないうちは竜の泪を飲みたいのだろう。


 自分のグラスにも、竜の泪を注ぎ、もちろん、ビスケにもなみなみと注がれたグラスを渡してやる。


「わ〜い、竜の泪ぁ。こんなに頻繁に飲めて幸せですぅ」


 ルーミィには消化を助ける果実水が入ったグラスを渡す。


「まだ本調子じゃないんだから、無理するなよ」

「はい、ご主人様」


 ニーシャの話では、さっきミソスープとオカュを食べさせたそうだが、きちんと完食したそうだ。

 胃の調子が問題ないようなら、しっかりと肉を食べて滋養をつけてもらいたい。

 火傷の傷痕自体はなくなったけど、栄養不良で痩せぎすの身体はそのままだ。

 ルーミィにはふっくら健康体になってもらわないと困るからな。


「じゃあ、ニーシャ、乾杯の音頭を」


 グラスも全員に行き渡り、みんながそれを高く掲げる。

 肉の焼ける匂いがみんなの食欲を刺激し、「早くしてくれ〜」という魂の叫びが聞こえてくる。


「みんな聞いて。この商会は大陸を制覇し、歴史に残ることになるわ。これからどんどん人員は増えてくでしょう。でも、最初の礎となるのは、この6人よ。歴史に名を残せるように頑張っていきましょう」


 みんなの視線がニーシャに集まる。

 それぞれ、頷いたり、心に刻んだり。


「――と、堅い話はここまで。後は、楽しく食べて飲んで語らってちょうだい。それじゃあ、カンパーイ!」

「「「「「かんぱーーーーーい!」」」」」」

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