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115 採用面接:カーサ

「この後もう一人面接するんだけど、ミリアはどうする? 黙っているんなら、ここにいてもいいんだぞ?」

「本当かニャ? じゃあ、いさせてもらいますニャ」


 採用が決まり、緊張が解けたようで、素の口調が出てるミリアだった。

 嬉しそうに猫耳はピコピコと揺れ、しっぽもグルングルンと揺れている。上機嫌なようだ。

 ミリアの感情は分かりやすくていいな。


「発言したくなったら、手を挙げろよ。それ以外は口を挟まないこと。いいな?」

「はいニャ」


 そんなやり取りをしているとドアがノックされた。


「はい、どうぞ〜」

「失礼します。46番のカーサです」


 入ってきたのは普人種の女性。年齢はミリアと同じくらいだろうか?

 そう思ってると――。


「カーサちゃん!」

「ミリアちゃん?」


 隣の猫耳娘が思わず声を上げる。

 つられてカーサも声を出す。

 俺はジッとミリアを睨みつける。


「あっ」


 と慌てて、口元を抑える。

 ついでに猫耳もペタンとなる。

 勝手にしゃべるなという俺の注意を思い出したのだろう。


「次から気をつけろよ」

「はいニャ」


 ミリアに注意してから、まあ、仕方ないかとカーサに尋ねる。


「二人は知り合い?」

「はい。魔術学院の同期です」

「仲良かったの?」

「はい、同じ落ちこぼれ組だったので、それなりには」

「へー、奇遇だな」


 そう思って、横を見るとミリアがピシッと手を高く挙げている。

 生真面目に俺の言いつけを守っているんだろう。

 真剣な表情でとても可愛らしい。


「どうぞ、ミリア」

「はいニャ――」


 俺が振ったのを確認してから、口を開くミリア。


「――今回募集の対象となったのは在学中か、卒業して3年以内の落ちこぼれ組ニャ。だから、知り合いが多いのは必然ニャ。実際、今回集められたうちの3分の1くらいは知り合いニャ」

「そうなのか?」

「ええ、そうですね。私の場合も同じ感じです」

「なるほどね」


 たしかに、同じ落ちこぼれ同士、仲良くなるのは必然か。

 ただ、魔出力が低いだけで、落ちこぼれと決めつける学院の方針には、異議を唱えたい。

 魔法というのは、出力が全てではなく、操作も重要である。

 それをこれから、俺達やファンドーラ商会で示していくんだ。


「今まではどんな仕事を?」

「…………皿洗いを」

「ほう」


 ためらいがちに告げるカーサであったけど、それより、俺はひとつ気になったことがあった。


「どうやって洗ってたの?」

「…………えっ。…………それは」

「別に正直に答えていいんだよ。手で洗ったの? 魔法を使ったの?」

「できるだけ魔法を使ってました。でも、MPが少ないので、足りないところは手で洗っていました」

「魔法を使って洗うことは雇い主に言われたの?」

「いえ、自分で考えてやってました」

「そう、魔法が好きなんだね」

「はいっ。能力はあんまりですが、魔法を使うのは大好きですっ」


 整った顔立ちからクールな印象を受けがちだけど、魔法に対する情熱はかなりのようだ。


「だったら、ウチの職場は適していると思うよ。マナポーション飲み放題で好きなだけ魔法が使える」

「本当ですかっ!?」

「まあ、ポーション中毒にならない程度でね」

「はいっ」

「魔操作がAと高いみたいだけど?」

「強い魔法が撃てないので、弱い魔法ばかり練習してたんです」


 落ち込んでいる。

 高出力魔法を使えない自分を恥じているようだ。


「気にすることはないよ。ウチは高出力魔法は必要ないから。それよりも低出力魔法の精密操作が出来る人間を求めているんだ」

「それでしたら」


 ぱっと喜色を浮かべるカーサ。


「ちょうどいいから、試してみようか」

「はいっ!」

「マナウォーターを出して、ボール状にして、それを指示通り動かしてもらう。いいかな?」

「はいっ!」

「では、どうぞ」


「【創造魔法水クリエイト・マナ・ウォーター】――」


 カーサがマナウォーターを創造する。

 そのままでは流れ落ちてしまうので――。


「【飛翔フライ】――」


 マナウォーターを浮かし、ついでに球状に整える。

 中々精密な操作なのだが、彼女は難なくこなす。

 ここまでは文句無しだ。

 さて、この次は――。


「そのボールをテーブルの上ギリギリ、触れるか触れないかというところを滑らせてもらえるかな?テーブルに近ければ近いほどいい」

「はいっ!」


 彼女が右腕を前に出す。

 つられたようにボールが動き出し――テーブルの上を舐めるように滑っていく。

 その隙間は1ミリ程度。

 俺の期待以上の能力だった。


「ありがとう。疲れたでしょう」


 涼しい顔をしているが、肩で息をしている状態。

 顔色も優れない。

 彼女にとっては激しい運動をしたのと変わらないんだろう。

 少ないMPの彼女にとっては、これだけでもハードだったろう。


「まあ、これ飲んで落ち着こう」


 カーサに初級マナポーションを1本手渡す。


「いいんですか?」

「ああ、気にせず飲んじゃって。どうせ仕事始まったら、がぶ飲み生活だから」


 初級マナポーションは1本千ゴル。

 皿洗いの彼女からしたら、おいそれと飲める代物じゃあない。

 だけど、ウチは別だ。

 ノヴァエラ商会は話が別だ。

 ウチは「がぶ飲み魔法使いまくりで急成長」が方針だ。


「ふう。スッキリしました」


 顔色も良くなった。


「それで、どうでしたか?」

「うん、文句なしの合格だ。ウチで即戦力になるよ」

「そうですか!?」

「ああ、本当だ」

「嬉しいです」

「良かったニャ、カーサちゃん」

「ミリアちゃんも、ヨロシクね」


 勝手に発言するなというルールを破ったミリアだけど、もう、面接は終わったようなものだから、構わないか。


「そうだ。カーサ、君の能力を確認しておくといい」


――――――――――――――――――


 名前:カーサ

 種族:普人種


 レベル:7

 MP :35


 魔力:E(B)

  魔回復:D(C)

  魔出力:E(E)

  魔操作:A(S)


――――――――――――――――――


「やはり、MPが少ないですね」

「ああ、それはレベルが低いせいもあるな」

「この括弧内の値はなんなのですか?」

「それは適性だ。今後の成長率を表している。出力は望めないが、魔操作であれば、Sやそれ以上も狙えるな」

「それ以上ですか?」

「ああ、SSやSSS。一芸に秀でた人にはあり得る値だ。カーサも魔操作を極めれば、いつか辿り着けるだろう」

「はい」


 カーサは神妙な顔つきだ。


「大丈夫。ウチでやっていれば、ちゃんと上達できるから」

「はい。その言葉を信じて、頑張らせていただきます」

「ああ、よろしく頼むよ」


 新入り二人を雇ったわけだが、俺としては彼女たちの育成も考えなければならない。

 ビスケといい、ちょっとした道場みたいな雰囲気だな。責任重大だ。


 その後、ミリアと同じ待遇で契約を交わし、カーサも正式にノヴァエラ商会の雇われとなった。

 良すぎる待遇に、カーサは「信じられない」を連呼していた。

 「よそはよそ、ウチはウチ」のノヴァエラ商会だ。慣れてもらうしかない。


 結局、今回はこの2人を採用することになった。

 スティラさんに面談が終了したことを伝える――。

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