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114/268

114 採用面接:ミリア

 面接をするため26番のミリアを呼び戻してもらう。

 彼女はおずおずと自信なさげに部屋に入ってきた。


「失礼します。ミリアと申します」

「手間を取らせて悪いね」

「まあ、座って」

「はい、失礼します」


 うながされて、ミリアも席につく。


「いえ」

「俺はノヴァエラ商会のアルだ、よろしく。そして――」

「会頭のニーシャよ、よろしくね」

「よろしくお願いします」


 自信がないのか、緊張しているのか。

 ミリアはうつむきがちだった。

 猫耳もしゅんとうなだれている。


「先程検分させてもらった結果、君にはウチの商会にふさわしい能力を持ってると判断した。後は君の人柄と意志を確認したいと思う。構わないかな?」


「あのぅ……」

「なんだい? 何でも気軽に尋ねていいよ」

「私はファンドーラ商会には相応しくなかったってことですか?」

「ウチをファンドーラ商会より、格下だと思っているなら、考えを改めてもらいたい」

「…………」

「ウチはファンドーラ商会と対等な関係を結んでいるし、これからはファンドーラ商会を超える商会を目指している」

「そうですか……」


 今いち信じていない調子だ。


「君の待遇もファンドーラ商会以上を保証する。だから、そんなに心配することないし、自分を卑下する必要もない。君にはそれだけの価値があるのだから」

「……わかりました」


 納得しきれてはいないが、とりあえずは、ってとこか。猫耳がひくひくと動いている。


「君は今までどんな職に就いていたんだい?」

「司書です。魔術学院の附属図書館で司書をしていました」

「ほう」

「ミソッカスだと分かってていても、どうしても魔法に関わる仕事に就いていたかったんです」

「なるほど。それほど魔法を愛する君が今回の募集に応えたわけだ」

「最初は疑いました。でも、『魔法職求む! 今まで評価されなかった君も再び輝くことが出来る』、チラシに書かれていた言葉がどうしても頭から離れなくって。それに募集元がファンドーラ商会だったので、信用できるかなって」

「よく頑張って、一歩を踏み出したな。その勇気は評価されるべきだ」


 褒めるとしっぽが揺れる。


「仕事内容は理解しているかい?」

「いえ、なんでも画期的な新事業を行うとか」

「ああ、そうだ。そして、その事業の基礎を開発したのは俺だ」

「本当ですか」


 ミリアは信じられないという表情を浮かべる。

 しっぽがくるくると動きまわっている。


「だから、今回募集した面々の中から、優先的に人材を引き抜かせてもらえてるんだ」

「そうなんですか」

「ああ、信じてもらえるかな?」

「いきなり言われても……。今は理解が追いついていない状況です」


 自分より年下の子どもが、天下の大商会であるファンドーラ商会と対等な関係で事業を行い、しかも、それを開発した。

 そんなこと到底信じられないだろう。


「正直で結構だ。まあ、それはおいおい信じてもらえば良いとして……そろそろ、本題に入ろうか?」

「本題……ですか?」

「ああ、君の意志と能力について確認したい」

「はい、分かりました」


 コクリと頷いた。


「君には秘められた魔法の才能があると言ったら、信じるかい?」

「へっ!?」

「どうだい?」

「いえ、信じられません」

「どうしてだい?」

「鑑定書をご覧になったと思います。魔法に関するどの項目もEランクで、学院でも、ずっとミソッカスだったんです」

「ひとつ聞いていいかい?」

「はい、もちろんです」

「医者に見てもらったことは?」

「ないですけど、どうしてですか?」


 その質問には答えず、俺は問い続ける。


「魔力を集めようとしても、全身に散らばっていく感じがして、上手く集められない?」

「どうしてそれを……」

「これは機密事項だよ。外に漏らさないと約束出来るかい?」

「はい、約束します」

「ニーシャの鑑定は優れていてね。他の鑑定者では分からないことが分かるんだ」

「…………はい」

「君は【魔素障害】だよ。だから、上手く魔力を扱えないんだ。それさえ治せば一流の魔法使いだ」

「…………そんな」


 自分は才能がないのではなくて、病気だった。

 才能に苦しんでいた彼女は今どういう思いだろうか?


「ウチに所属してくれるなら、それを治すことが出来る。もちろん、断って自分で治してもらっても構わない」

「……………………」

「ただ【魔素障害】を治すには『エリクサー』が必要だ。そして、『エリクサー』はとても高価だ」

「……………………」

「ウチに務めた場合の待遇について話をしよう。住み込みの三食付きだ。部屋は10畳の一人部屋。食事も王都の一流店クラスは保証しよう。そして、給与なんだけど、最初の3ヶ月は見習い扱いで月10万ゴル。その後はミリア次第だけど、ミリアならばすぐに昇給するだろう。ミリアには調合をお願いするんだけど、もちろん、材料費などはこちらが持つから心配しなくていい」

「破格の待遇じゃないですか」

「ああ、ファンドーラ商会もここまではしてくれないと思う」

「いつまで勤めればいいんですか?」

「最低三年間。それだけはウチで尽力してほしい。その後は、ミリアの自由だ。病気が治ったミリアなら、宮廷魔術師で筆頭を目指すことも、軍で元帥を目指すことも可能だろう」

「そんなに高く評価してくださっているんですか?」

「ああ、ニーシャの鑑定がそう告げている」

「分かりました。いつまでお役に立てるか分かりませんが、最低三年間はノヴァエラ商会のために役立たせていただきます」

「それじゃ、さっそく契約しようか」

「はい、お願いします」


 ニーシャの指導のもと、ミリアが必要書類に書き込みしていく。

 最後にいくつかの書類にサインをし、雇用契約は無事締結された。


「これで、ミリアも我がノヴァエラ商会の一員だ」

「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

「いや、ミリアは期待のエースだよ」

「そんな…………」

「信じてもらうためにも、最初の仕事だ。これを飲んで」


 【虚空庫インベントリ】から『エリクサー』を取り出す。


「これは?」

「『エリクサー』だよ。さあ、飲んで」

「『エリクサー』!? そんな高価なものを」

「さっき言ったはずだ。ミリアの【魔素障害】を治すには『エリクサー』を飲むしかないんだ」

「分かりました」


 覚悟を決めたミリアは俺から『エリクサー』を受け取り、口をつける。

 そして、一気に流し込み――。


「おいしい〜〜〜」


 第一声がそれとは…………。

 意外と大物なのかも知れない。

 猫耳はピンと立ち、しっぽもグルグルと大回転。


「それより魔力の循環はどうだ?」

「はいっ、やってみます!」


 立ち上がり、リラックスした姿勢で、目を閉じる。

 魔法の基礎、魔力循環だ。

 基本中の基本だ。

 しかし、今まで【魔素障害】だったミリアには、これすら困難だっただろう。

 それが、今では――。


「すごいです〜。信じられないくらい、魔力の循環を感じられます」

「ためしに、【微風ブリーズ】を唱えてみて。ただし、威力は極限まで抑えて」

「はいっ。やってみます」


 目を開けたミリアは右手を前に突き出し――。


「【微風ブリーズ】――」


 彼女の手の先から一陣の風が舞う。


「すごいですっ! 魔力を最小限に絞ってもきちんと発動しました」

「だから、言ったろう。ミリアは【魔素障害】という病気だっただけで、才能は抜群なんだ」

「嬉しいですっ!」

「そうだ、ニーシャ、今のミリアを鑑定してあげよう」

「ええ」


 治療前と治療後のステータスを比べてみる。


――――――――――――――――――

(治療前)


 名前:ミリア

 種族:猫人族


 レベル:12

 MP :35(105)


 魔力:E(S)

  魔回復:E(A)

  魔出力:E(A)

  魔操作:E(S)


 状態異常:【魔素障害】


――――――――――――――――――


――――――――――――――――――

(治療後)


 名前:ミリア

 種族:猫人族


 レベル:12

 MP :105


 魔力:E(S)

  魔回復:E(A)

  魔出力:E(A)

  魔操作:E(S)


――――――――――――――――――


 状態異常の【魔素障害】がなくなり、MPも本来の値に戻っている。


「なあ、ミリア、各値の後ろに括弧付きの値があるだろう?」

「はい、あります。これは一体?」

「これはその項目の適性。すなわち、成長率を表したものだ。どれも凄い値だろ」

「ええ、自分でも信じられません」

「だから、【魔素障害】が治った今のミリアだったら、魔法関係の能力は修行すればどんどん伸びていくぞ」

「はいっ!」

「ウチでの仕事は魔法を使いまくることだから、嫌でも成長できるぞ」

「はいっ! 頑張ります」

「ということで、あらためて採用おめでとう」

「おめでとう」


 ニーシャも祝いの言葉をかける。


「ありがごうございます〜!!!」


 嬉しさのあまりか、ミリアは泣き出してしまった――。

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