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107 深層攻略

 ビスケと別れた俺はダンジョンへ潜っていた。

 いよいよ、ダンジョン攻略2つ目の目標であるレアな遺物アーティファクト探しに専念だ。


 レアな遺物アーティファクトを探す理由は、それをオークションに出して、ウチの商会の宣伝にすることだ。

 そのオークションの実施日は我が商会が開店する3日前。

 しかし、出品はその1週間前までなので、実質残された期日は10日間だ。


 今のところ、出品候補は「オイル・セット」だ。

 『シャープネス・オイル』はファンドーラ武具店に1本下ろしただけだし、残りの2種、『デストロイ・オイル』と『ハーデニング・オイル』に至っては、俺たちが独占している状態、存在すら知られていない。

 この3本セットだけでも、十分に目玉商品となり、宣伝の役割は果たすだろう。

 しかし、どうせなら、やれるだけやって、もっと良い品を出してやりたい――世間に見せつけてやりたいってところだ。


 そういうわけで俺は41階層へ降り立った。

 ここからは今までの疾走型探索ではなく、丁寧にマップを埋めるようにフロアの隅々まで探索していく。

 モンスターハウスがあれば積極的に突入し、怪しげな場所では念入りの【魔力探知マナ・サーチ】で隠し部屋を探していく。

 とりあえずは1日5階層のペースで軽く残り全体を周り、残り時間で効率よく稼ぐつもりだ。


「まともなダンジョン攻略なんて、ずいぶんと久しぶりだな……」


 俺はひとり呟く。

 マップもなければ、出現モンスターも知らない、危険箇所や難所の情報もない。

 すべて手探りでやらなきゃならない。

 でも、俺は臆していなかった。


 なぜなら、隠密修行の師匠フェイダさんにもっと苛酷な条件を突きつけられたことがあるからだ。

 無音殺戮機械サイレント・キリング・マシーンフェイダ。

 その名の通り、敵に気づかれずに忍び寄り、音もなく命を刈り取る。


 フェイダさんの修行ほど苛酷で、死線の上でダンスを踊るような修行はなかったし、俺は実際に何度も死を覚悟した。俺が生きながらえたのはギリギリの綱渡りを運良く超えられたからにすぎない。

 もう1回やったら、多分死んでるだろう。

 そんくらい無茶で無謀な修行だった。


 彼女の修行の最中。ダンジョンに連れてこられた。

 当時の俺一人じゃ一対一でも勝てないモンスターがうろついているフロアだった。

 そのフロアに降り立つと、フェイダさんは「それじゃ、階段で待ってる」と気配を消してしまった。


 危険地帯に一人残された俺。

 課された苛酷な課題。

 一度でもモンスターに察知されたら、間違いなく死ぬ。

 逃げ出すわけにはいかない。

 俺は必死の思いで勇気を振り絞り、前へと踏み出した。

 途中何度もヒヤリとする場面があった。

 しかし、修行中に身につけた隠密スキルを駆使し、疲労困憊ながらも、なんとかゴールに辿りつけた。


 倒れ込むように階段前のセーフティー・エリアに入る。

 しかし、見回しても肝心のフェイダさんがいない。

 「あれ?」と思った瞬間、後ろから声が聞こえた。


「思ってたより早い時間だったね。何度か未熟な何所はあったけど、まあ、合格ね」

「えっ?」


 背後にはピタリとくっつくようにフェイダさんが立っていた。


「もしかして、ずっと見てたんですか?」

「そだよ」


 俺が死ぬ思いで、周囲の気配を察知し続けていたというのに、全然気づかなかった。

 俺の背中を冷たい汗が流れる。

 この人絶対にバケモノだよ。


 気が抜けたせいか、一気に疲労が全身を襲う。

 そんな俺に対して、かけられた言葉が「じゃあ、この調子でもうワンフロア行こっか」だった。

 俺はこの時、本気で死を覚悟した――。


 という感じの思い出しただけで、動機が激しくなり、冷や汗が止まらなくなる修行をこなしてきたわけで、ただの未踏破フロアくらいじゃ、ちっともビビらない俺だ。

 どうせ、敵も格下だしね。


 41階層は洞窟タイプのフロアだった。

 見たところ前階層みたいに罠まみれじゃない感じだ。

 【魔力探知マナ・サーチ】で周囲を警戒しながら、【隠密ハイド】、【高速移動ファスト・ムーブ】、【身体強化エンハンス・ボディ】などひと通りのエンチャントをかけ、走り出す――。


 41階層から43階層までは、取り立てて言うほどの発見はなかった。

 もちろん、いくつかの宝箱を開けたし、モンスターハウスも何箇所か潰した。

 遺物アーティファクトもいくつかゲットしたけど、あまり大したものじゃあなさそうだ。まあ、これはニーシャの鑑定待ちなのだが、目玉にはならなそうだと俺は直感していた。


 問題は44階層だ。

 この階層で面白いモンスターハウスを見つけた。

 出現するのは殺戮機械キリングマシーンという人型機械で、4本の手に持った刀で4刀流の攻撃をしてくるモンスターだった。

 キリングマシーン自体は大したモンスターではなかった、聖剣ルヴィンであれば相手の刀ごと一刀両断できるレベルだ。

 特筆すべきは、そのドロップ品だった。

 『カートリッジ』という平べったい直方体の遺物アーティファクトで、様々な遺物アーティファクトの動力源となるものだ。

 希少性は低い。冒険者の入手する遺物アーティファクトのうち半分が『カートリッジ』と言われるくらいだ。

 ただし、汎用性が高いので、遺物アーティファクト屋をやる身としては、多めに確保しておきたい一品だ。

 このモンスターハウスを発見した時点で午後4時。

 俺はニーシャに【通話テル】した。


『どうしたのアル?』

『美味しいモンスターハウスを見つけた。ちょっと帰りが遅くなる』

『わかったわ』

『7時頃までには帰るから』

『気をつけてね』


 俺はここでちょっと粘って稼ぐことにした。

 となればまずは――。


「【高速移動ファスト・ムーブ】――」


 魔法をかけた相手はモンスタースポナーだ。

 これで敵の湧きが速くなる。

 しかも――。


「【高速移動ファスト・ムーブ】――」

「【高速移動ファスト・ムーブ】――」

「【高速移動ファスト・ムーブ】――」


 普通、同じ魔法を重ねが消しても、効果は変わらない。

 しかし、モンスターの中にはそうでもないヤツもいて、モンスタースポナーもそうだ。

 【高速移動ファスト・ムーブ】を4回重ねがけできるのだ。

 これで、モンスタースポナーは次から次へと生み出してくれる。

 モンスタースポナー稼ぎの裏ワザのひとつだ。


 俺は次々と湧き出るキリングマシーンを斬って斬って斬りまくる。

 その合間にドロップ品の『カートリッジ』を拾う。たまにレア・ドロップ品の『ハイカートリッジ』も拾う。


 そんな作業を二時間ほど続け、『ハイカートリッジ」を107本、『カートリッジ』を2,033本入手した。


 それから1時間ほどかけて45階層の転移ゲートから帰還を果たした――。

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