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105/268

105 3人での朝食

 ビスケが仲間に加わった翌日。

 今は3人で朝食を取っている。

 昨晩は竜の泪をひと樽開けたけど、ビスケは二日酔いもなく、朝から元気そうだ。

 俺もいつも通り4時に起きて、ダンジョン周回を3周してきたところだ。ちょうどお腹も減っている。


「そういえば、昨日鑑定した時にビスケの魔力がそこそこ高かったけど、どこかで修行してたのか?」

「それは…………」

「言いづらいんなら、無理にとは言わないから」

「いえ、言います。12歳の時から3年間、魔術学院に通っていたんです。魔力量や魔力操作は良かったのですが、魔出力が低すぎて、魔法関係の職場にはどこも就けなかったんです」

「なるほど…………」

「それで、どうせだったらと、興味のあったガラス工に就職したのですが……」


 スティラさんの言っていたとおりだ。

 現在の魔法使いは魔出力重視。

 精密な操作より、圧倒的な力でドカンとモンスターを倒す殲滅力が要求される。

 「ある程度以上になれば、出力よりも操作姓」とは俺の魔法の師匠の言葉だが、現実では、そのレベルの前に足切りされてしまうのだ。


 でも、これからは変わっていく。

 いや、スティラさんや俺たちで変えていくんだ。

 たしかに、戦闘に必要なのは魔出力だ。

 だけど、生産に必要なのは魔力操作なのだ。


「ビスケは風魔法はどれくらいは使える?」

「はい、風魔法はレベル2までマスターしてます」

「じゃあ、大丈夫か。それを使ってガラス加工したことある?」

「えっ!? ありませんよ」

「じゃあ、後で俺が見本見せるから、真似してみて」

「本当に風魔法で彫像ができるんですか?」

「ああ、実際、ビスケが見た神像はどっちも風魔法で作ったヤツだぞ」

「え〜、そうなんですか?」


 ビスケは半信半疑といった体だが、後で実演してやれば信じるだろう。


「あっ、そうだ、ニーシャ。昨日言い忘れてたけど、店の前に置く神像ができたぞ。ただ、加護を付与してる最中に倒れちゃったから、加護が付与されているか鑑定して欲しんだけど」

「昨日のうちに鑑定しておいたわ。バッチリ付与で来てるわよ。『セレスの加護(強)』がね」

「おお、遂に強まで付与できるようになったのか」

「アルの魔力が枯渇するほどだから、他の人じゃよっぽどの長期間をかけなきゃ無理ね」

「そうか、加護付与は別に一回でやらなきゃいけないわけじゃないのか」

「てゆうか、そっちが普通の作り方よ。一発でできちゃうアルが異常なの」

「そっか、スマン…………」

「ビスケちゃんも気をつけといてね、アルは色々非常識だから」

「はっ、はい」

「まあ、アルが実際に神像作る姿を見れば分かるわよ」


 そんな感じで食事が進んで行き、三人ともが食べ終わった。


「それじゃあ、運んじゃいましょう」


 昨日完成した神像を店先まで運ぶ作業だ。

 といっても【身体強化エンハンス・ボディ】した俺が、担いで運ぶだけだが。

 素材がガラスという壊れ物なので【硬質化ハーデニング】を念入りにかけてある。


「ここら辺でいいかな?」

「ええ、良いんじゃない」

「じゃあ、下ろすぞ」


 置き場所は入り口扉の横。

 扉の開閉の邪魔にならないところに設置した。

 三人で祈りを捧げる。

 『セレスの加護(強)』の効果なのか、祈りを捧げるだけで心が洗われたような清涼感を感じる。

 俺だけでなく、二人も同じように感じるようだ。


「スゴい効果ね」

「ですぅ」

「確かにな」


 我ながら、凄いものを作ってしまった気がする。

 盗難対策のため、悪意を持って像に触れると捕縛され、警報がなる仕組みになっている。

 その上で、「像には触れないで下さい」と張り紙しておく。

 これで大丈夫だろう。

 店の敷地全体に結界も張ってあるから、そもそも悪人は店の敷地内に入れないし。


 像の設置が一段落し、再度リビングで話し合いだ。


「よし、ビスケの入会祝いにプレゼントだ」

「へっ!?」

「どうした、そんな顔して」


 ビックリして固まった表情だ。


「新入りの見習いに歓迎会を開いていただいただけでなく、プレゼントまで頂けるなんて……」


 感極まったのかウルウルしている。

 女の子が泣いてるのは苦手なので、さっさと渡しちゃおう。


「ほら、ペンダントと指輪だ」


 ニーシャにあげたのと同じものだ。

 俺は最初迷った。

 ニーシャは俺にとって掛け替えのないパートナーだ。

 だから、ニーシャにあげたペンダントと指輪には、俺が考えつく限り最高の効果を付与した。

 しかし、ビスケは違う。言い方は悪いが、ビスケは代わりのきく存在だ。

 だから、ランクを落としたものに、とニーシャに相談したら、一蹴された。


『そんなこと悩んでる暇があったら、ビスケちゃんが掛け替えのない存在になるように、あなたが育て上げればいいだけじゃない』


 俺はニーシャの言葉にハッとした。

 ニーシャの器の大きさを感じた。

 こりゃ、冗談じゃなく、大陸に名を成す商会の長になっちゃうかもな。

 俺も微力ながら、力にならせてもらおう。


 ともあれ、そういう経緯でビスケにはニーシャと同じベンダントと指輪をプレゼントすることになった。

 ペンダントは『護身のアミュレット』。

 指輪には【位置捕捉ジーピーエス】、【通話テル】、【共有虚空庫シェアド・インベントリ】の3つの機能を付与してある。

 【共有虚空庫シェアド・インベントリ】の利用可能者は俺とビスケ専用にしてある。

 ニーシャとの【共有虚空庫シェアド・インベントリ】とは別のものだ。

 ここにガラス素材やら、関係品を大量にぶち込んでおいた。


 ペンダントと指輪の効果をひとつずつ説明していく。

 そのたびに、ビスケは信じられないっていう顔をする。

 そして、説明が終わると出し抜けに尋ねてきた。


「こんな高価なもの頂いて、いいんですか?」

「ああ。昨晩ニーシャと話して決めたことだ」

「もし、私がこれを持って逃げたらどうするつもりなんですか?」

「どうする? うーん、どうもしないかな?」

「へっ!?」

「強いて言えば、人を見る目がなかったな、って反省するくらいかな」

「そんな……」

「まあ、逃げ出したくならないような待遇にするつもりだけどね」

「待遇ですか……」


 昨晩は楽しくお酒を飲んだだけで、雇用条件の詳しい話はしなかった。

 待遇と聞いて、ビスケの顔に不安が浮かぶ。

 きっと今までロクな待遇じゃなかったんだろう。


「まずは、部屋だけど、昨日寝た部屋でいいかな?」

「はいっ?」

「あの部屋に住みこみでいいかな?」

「えっ、はい。でも、あんな良い部屋でいいんですか? 他のもっと狭い部屋でも……」

「部屋が余っているのに、わざわざ他に借りることないでしょ」

「それはそうですが…………」

「次は勤務時間と休暇だけど、好きな時に好きなだけやっていい。ただし、やり過ぎて体調を崩したりしないように注意すること」

「えっ、それじゃあ、まったく働かなくてもいいってことじゃないですか」

「ああ、そうだよ。でも、ビスケはガラス作りがやりたくてしょうがないんだろ?」

「それはそうですが…………」

「だったら問題なしだ。よし次。業務内容だけど、基本的にビスケが作りたいようにやっていいよ。こっちからお願いすることもあるけど、それ以外は自由にやっていい」

「…………はい」

「それで、給与だけど、最初は月に10万ゴル。後は結果次第で昇給することにしよう」

「10万ゴルって親方並みの給与じゃないですか!」

「ああ、そうだな」

「ビスケちゃん、驚いたらダメよ。良い言葉教えてあげる『よそはよそ、ウチはウチ』。だから、今までの常識に縛られなくていいのよ」

「よそはよそ、ウチはウチですか?」

「ええ、そうよ。それにビスケちゃんならすぐに月10万ゴル以上の利益を生み出してくれるから」

「そうなんですか!?」

「ええ、アルがそれだけ鍛えてくれるから安心なさい」

「はいっ」


 ビスケが俺の方を向いて頭を下げる。


「よろしくお願いします。師匠」

「ああ、ビスケの面倒は俺が見る。早く一人前に成れるように頑張ろうな」


 こうして、俺は弟子を持つことになったが、切っ掛けを与えてくれたのはセレスさんだ。

 セレスさんの期待を裏切らないように、俺も師匠として頑張っていこう。

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