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101 やりすぎた

「どうしてこうなった…………」


 俺はセットしていた【警報アラーム】の音に、ふと我に返った。

 現在午前4時。起床用にセットしていたアラームで自分がなにをしていたか、ようやく悟ることが出来たのだ。


 現在俺は、工房にいる。自室のベッドで寝ているはずの時間なのに、工房にいる。

 工房で寝ていたわけじゃない。ずっと起きていた。

 ずっと置きて、杖作りに没頭していたんだ。


 昨晩工房に戻ってきたのが午後9時過ぎ。

 そっから、30分ほどかけてミラの依頼品を作った。

 それで、杖作りに火が着いちゃったのだ。


 以前より、魔力操作が上達したおかげで、杖作りが楽しくて楽しくてしょうがなかったんだ。

 周回のおかげでトレントやエルダー・トレントの枝など、杖の元になる植物系素材も大量にあるし、ミスリル・インゴットもブラッディ・ナイトのドロップ品で沢山ある。


 魔石は使用者の好みがあるので、まだ装着しなかったが、その直前まで完成している杖を作りまくってしまったのだ。

 長さや素材など、様々な種類の杖を作っちゃった。


 それで浮かれて、この時間っていうわけだ…………。

 これで杖に関しては、どんな依頼が来てもすぐに対応できるようになった。やったね!


 ……って浮かれている場合じゃない。

 この前、薬草取りに熱中して徹夜しちゃった時に、もうこんなことはしないって誓ったばかりじゃないか。


 はあ。ちょっと反省。

 確かに、体力的には2、3日徹夜しても問題はない。

 だけど、基準を設けないといつまでも熱中しちゃう。

 今度こそ、きちんと決めよう。

 日をまたいで物づくりはしない。絶対だ!


 よし、これで大丈夫だ…………多分。


 ともあれ、これからどうしよう?

 ミラとの約束は7時以降。


 いつも通り、周回にいくか。

 3周すればちょうどいいだろ。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 ということでダンジョンを3周し、オイルを6本ゲットしてきた。

 現在、午前7時ちょっと前。

 約束の時間に間に合うように帰って来れた。


「おはよう〜」

「おはよう」


 既に着替えていたニーシャが出迎えてくれる。


「昨日は遅くまでやってたみたいだけど、何時までやってたの?」

「…………寝てません」

「はあ!? 朝まで杖作ってて、それでダンジョン行って来たの?」

「……はい」

「もう、無理しないでよね」

「……はい」


 自分ではそれほど無理をしたつもりはないのだが、反省している俺は素直に頷いておいた。


「まあ、アルのことだから、なにか起こるとは思えないけどね」

「……はい」

「開店まで時間がないからって焦る必要ないからね」

「……はい」

「まあ、いいわ。次からは気をつけてね」

「……はい」

「とりあえず、ここで朝食にする?」


 1階の店舗スペースには商談用のテーブルと椅子のセットがある。

 【虚空庫インベントリ】から取り出す食事なら、ここで十分だ。


「ああ、そうしようか」


 俺が【虚空庫インベントリ】から朝食を出そうとした、そのタイミングで


 ――ピンポーン。


 とチャイムがなった。

 ミラだろう。

 きっと待ちきれずに早く来ちゃったんだろう。

 そう思うと、早く実物を見せてビックリさせてやりたい気が強くなる。


「おはようございます」


 ドアを開けると、そこにはミラがいた。

 昨日と同じローブ姿だ。

 今日はフードをかぶっていない。

 綺麗な顔立ちの美少女だが、表情は乏しくお人形のような印象を受ける。

 年齢はニーシャと同じくらいだろうか。


「おはよう。さあ、入って」

「…………(コクリ)」


 どことなく緊張した様子のミラ。

 きっと杖の仕上がりが気になって仕方がないんだろう。


「ちょっと待っててね、今、取ってくるから」

「…………(コクリ)」

「アルが来るまで、お茶でもどうぞ」

「…………(コクリ)」


 俺は工房へ向かい、注文の品を取ってくる。


「ほら、ミラ、これが完成品だ」

「カッコいい…………」


 ミラは真剣に杖に見入っている。


「つよそう…………」

「気に入ってもらえたかな?」

「…………(コクリ)」

「なら、良かった」

「…………(コクリ)」

「先端と頭部にミスリルの保護材を付けておいた」

「…………(コクリ)」

「だから、棍術スキルだけでなく、杖術、槍術スキルも使えるようになる」

「すごい…………」

「魔力の通りも3倍くらいになってる」

「…………ほんと?」

「ああ、本当だ」

「ありえない…………」

「後で試してくれ。もし、それだけの性能がなかった返金するから」

「…………(コクリ)」


 ミラは表情がほとんど変わらず、口数も少ないからなにを考えているのか、分かりづらい。

 気に入っていくれたのか、非常に気になる。


「どうだい? 満足?」

「大満足…………こんなに良い武器になるとは思っていなかった」

「そうか、そりゃ良かった」

「アルに頼んで良かった。ありがとう」

「三十階層代半ばまではそれで大丈夫だと思う」

「…………(コクリ)」

「それ以降に挑むようだったら、より強い武器にした方がいいから、また注文してくれ」

「…………なんでそんなこと分かるの?」

「知ってるからだよ。なあ、ニーシャ」

「ええ、私たちはギルドで買えるダンジョン情報は全て買い取ったから」

「だから、どの階層にどんな敵が出るか知っているんだ」

「すごい…………」

「俺たちは冒険者じゃなくて、職人と商人だ。情報が命なんだよ」

「アルも言うようになったわね。ともかく、ダンジョンに関してはアルに聞いておけば間違いないわ」

「そう…………」

「良かったら、周りにウチの店の宣伝してもらえるかな?」

「うん、わかった。でも、ムダかも…………」

「ムダ?」

「昨日の時点で、もう噂になってたほど」

「そうなのか?」

「…………(コクリ)」

「早速チラシ効果があったようだな」

「チラシ加護はアルがやったの?」

「ああ」

「スゴい…………。杖づくりだけじゃなくて、加護付与も出来るなんて…………」


 ミラが感心した様子で俺を見つめる。

 彼女のような美少女に見つめられると照れてしまう。


「納得して頂けたようなので、お代を頂けますか?」


 ニーシャがミラに告げる。


「ええ、コレ。なんとかかき集めてきた」


 ミラがテーブルの上に小袋を乗せる。

 チャリンという硬貨のぶつかり合う音がする。

 ニーシャが確認し、間違いなく30万ゴルあることを確認する。


「ええ、確かに」

「ねえ、アル」

「なに?」

「また来てもいい?」

「店がオープンするまでは、店にいないことの方が多いからなあ」

「じゃあ、店がオープンしたら来る」

「ああ、それなら大歓迎だ」

「嬉しい…………」

「いっぱい来て、いっぱい買っていってくれよ」

「…………うん」


 ミラの表情が陰った気がした。

 なにかマズいことでも言ったのだろうか?


「じゃあ、また来る…………」

「ああ、気をつけてな」

「またのご来店をお待ちしてます」


 ミラが帰った後、俺はニーシャに呼び止められた。


「ちょっと、アル」

「ん? なに?」

「なんなのよっ、あの杖っ!」

「と申しますと?」

「あんなに強化してるとは思わなかったわよ」

「マズかった?」

「マズいわよ。あれだったら、50万ゴルはする代物よ」

「えっ!?」

「強化し過ぎなのよっ!」

「なんかすみません」

「前も言ったけど、市場には相場ってものがあるのよ。それを乱すような商売はロクな事にならないわ」

「ああ」

「確かに、今回はちゃんと確認しなかった私が悪いわ。お互い今度からは気をつけましょうね」

「ああ、分かった。俺も気をつけるよ」

「じゃあ、早速だけど、昨晩作った杖を出して見せて」

「全部?」

「ええ」

「かなりの量になるけど?」

「…………ええ、構わないわ」


 俺はテーブルの上に50本ほどの杖を並べる。

 後は魔石をはめ込み、ミスリル・パーツを組み込めば完成な状態のものばかりだ。

 木製の杖が6割ほど。残りの4割はミスリル製の杖だ。

 ちなみに、ミスリル製の杖の一部には『デストロイ・オイル』を使用した。【破壊力増大デストロイ・アタック】の魔法付与済みだ。


「……………………」

「どうしたの?」

「頭痛くなった」

「【回復ヒール】かけようか?」

「そういう意味じゃないわよっ!」

「ごめん」

「まあ、しょうがないわね。アルだもんね。一本ずつ鑑定していくから、ちゃんと値段を頭に叩き込むのよ」

「はいっ」


 こうして、ニーシャによる鑑定講座が始まった。

 朝食は大分先になりそうだ。

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