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100 初依頼2

 家に帰った後。二人別々の作業になる。

 ニーシャは仕入れてきた遺物アーティファクトに関する本を読み込むそうだ。

 遺物アーティファクトに関する知識はニーシャ頼みになってしまうが、ニーシャならきっとやってくれるだろう。そう俺は信じている。


 俺の方は早速、杖づくりだ。

 作業場に向かい、【虚空庫インベントリ】からエルダー・トレントの枝を取り出す。

 これは27階層の隠し部屋手前のモンスターハウスでゲットしたものだ。

 何十周も周回したので、百本以上の『エルダートレントの枝』を入手してある。


 一本の『エルダー・トレントの枝』を手に持ち、邪魔な小枝を切り落としていく。

 続いて、表面の凸凹をヤスリで均していく。

 先端の片方は尖らせ、ミスリルのパーツをはめ込めるようにしていく。

 もう片方の端は後に頭部となるため、形を整えておく。


 次は魔ならしだ。

 金属にする場合と同様に、杖の場合も素材を魔力にならす必要がある。

 先端を片手で持ち、反対の手で魔力を流し込んでいく。

 エルダー・トレントの枝やクレシェの木など、杖に適した素材には、先端から反対側まで魔力の通り道が幾筋もある。

 この筋に強めの魔力を通すことで、魔力の通りを良くするのだ。


 例えば、元々の太さが5の魔力量の通り道の場合、7の魔力を流して通路を広げてやる。

 そうすると、次からはスムースに7の魔力量が通るようになるのだ。

 問題は、拡張する為に流す魔力量だ。少な過ぎたら、たいして拡張できないし、多過ぎたらその通り道を壊してしまう。

 この見極めが難しい。

 特に細い通り道ほど難しく、熟練の魔力操作が必要だと言われている。


 普通の製作者は長年の経験から、それぞれの通路の魔力量を見定める。

 しかし、俺には【魔力解析アナライズ・マナ】がある。

 【魔力解析アナライズ・マナ】を使いこなせている俺は、精密な魔力分析ができるので、それによって通り道の太さを正確に把握できるのだ。


 通り道の1.25倍。

 これが最適な魔力量だ。


 今回も【魔力解析アナライズ・マナ】でじっくりと見定めてから、杖の先端から適切な量の魔力を送り込んでいく。

 普通ならやらないような細い通路でも、微細な魔力コントロールで魔力を流していく。


 素材の違いもあり、俺が丁寧に魔ならしを行ったおかげで、元々ミラが使っていた杖の3倍くらいの魔力量を流せるようになった。


 自分で言うのもなんだが、中々の出来栄えだ。

 十分拡張出来たし、これ以上魔力の通り道を拡張すると耐久性に難が出てくる。絶妙な仕上げだと思う。


 木材への魔ならしは久々にやったのだが、大量のポーション作りで魔力操作が上達したのと、ボス狩りでレベルアップしたことのおかげか、以前より簡単に感じられた。

 俺もちゃんと成長している証だ。

 それが実感できて嬉しかった。


 さて残るは2工程。

 まずは頭部の作成だ。

 魔ならしと同じくらい重要なのが頭部作りの工程だ。


 頭部作りには2つの方法がある。

 冠式と嵌め込み式の2つだ。


 冠式は魔石をそのまま頭部に乗せる形式だ。

 制作が楽になるというメリットがあるので、規格品ではよく用いられる。

 ファンドーラ武具店でも、魔法使い向けの杖は全て冠式だった。


 冠式の欠点は耐久性だ。

 といっても、杖を打撃武器に使う場合は壊れやすいという意味だ。

 普通の後衛魔法使いには関係のない話だ。

 多くの魔法使いは物理攻撃をしないので、この冠式の杖を用いている。


 しかし、ミラのような殴りマジは、嵌め込み式の杖が必要となる。

 冠式のような衝撃に弱い物は使えないからだ。

 嵌め込み式は手間がかかる分、割高になるが、それでも殴りマジには嵌め込み式の一択だ。

 それに魔力効率も僅かではあるが嵌め込み式の方が優れている。


 ということで、俺は嵌め込み式で作っていく。

 金属製の杖の場合は、頭部を熱して、叩いて、形を整えていく。

 しかし、今回のように木製の杖の場合、この方法は使えない。


 その代わりに、魔力操作によって杖の形を曲げていくのだ。

 杖の先端から魔力を流していく。

 しかし、魔ならしの時とは違い、わざと不均一に流していくのだ。

 内側は弱めに、そして、外側は多めに。

 そうすることで、頭部が内側に向けてゆっくりと曲がっていくのだ。


 この時、ムラが出ないように魔力を流すことが重要だ。

 ムラがあると頭部はゴツゴツとしたカーブを描くことになる。

 ミラが今までに使っていたクレシェの杖も多少ゴツゴツとして出っ張りがある。


 しかし、俺は完璧を目指す。

 ゆっくりと慎重に完璧な円状を目指す。

 エルダー・トレントの枝は比較的取り扱いやすい素材だ。

 ほぼ完璧な円形の頭部を作り出すことが出来た。


 続いて魔石を杖に接着させる過程だ。

 魔石を頭部のくぼみにセットする。

 魔石と杖の両方に同じくらいの出力で魔力を流していく。

 そして、少しずつ出力を高めていく。

 臨界値を超えたところで、魔石が杖と一体化し、ピタッとはまったようにくっつく。これで簡単には外れない。

 以上で頭部作りは完成だ。


 魔法の杖としてはこれで完成なのだが、物理攻撃用の杖とするためには最後のプロセスが残っている。

 それは、ミスリルパーツの組み込みだ。

 今回組み込むのは頭部の保護カバーと先端の尖部だ。


 俺は炉を温め、ミスリル・インゴットを投入。

 念入りに魔ならしを5回ほど繰り返し、魔力をミスリルに馴染ませる。


 まずは簡単な尖部から。

 熱せられた魔ならし済みのインゴットから、少量を切り分け、やじりのような先端が尖った形に打ち出していく。

 形が整ったら、杖の先端を鏃型のおしりの部分に差し込み、そのまま水槽へ差し込み焼入れをする。


 ヤスリがけと砥ぎは後回しだ。

 先にもうひとつのパーツ、頭部の保護カバーを作っちゃおう。


 残りのミスリル・インゴットを用い、熱せられたそれを四角い網目状に打ち出していく。

 難しい工程だけど、以前似たようなものを作ったことがあるので、その時の記憶を頼りに、慎重に打ち出していく――。


 ――なんとか無事に出来た。

 完成されたそれを杖の頭部に巻きつけていく。

 まだミスリルは熱を持っているので、つえの形状に沿って、緩やかなカーブで覆っていくことが出来る。

 最後、両端のミスリルをくっつけ、頭部カバーの完成だ。


 これで、打撃によって杖へのダメージが減少するとともに、攻撃力がアップする効果も付いていて、二度美味しい。

 さらにいえば、魔法を打つ際に、ミスリル・カバーまで魔力を通せば、魔法の威力が増すという、三度美味しい。


 俺としては、この頭部ミスリル・カバーは絶対にオススメで、すべての杖に付いててもいいくらいだと思うのだが、意外とそうしてる杖は少ないようだ。

 やっぱり、加工に手間がかかるからだろうか?


 そして、最後に残った尖部の加工だ。

 杖の先端に付けられたミスリルの尖部を研ぎ澄ませていく。

 シャーシャーという砥石の音とともに尖部はどんどんと研ぎ澄まされていき――完成だ!


 ようやく、注文の一品が完成だ。

 思ったより時間がかかったけど、どうにか仕上げることが出来た。


 完成した杖を手に持ち、魔力を流してみる。


「おお、いい流れだ」


 試しに殴ったり、刺したりしたいんだけど、手頃な実験台がない。

 ファンドーラ武具店の工房にあった『試金塊』が欲しいなあ…………。

 実家にないかな? 今度帰省した時に確認してみよう。


 今回、先端部にミスリル尖部を装着することによって、打撃武器だけでなく刺突武器としての性能を保たせることが出来た。これで棍術スキルだけでなく、杖術、槍術スキルも使えるようになる。

 殴りマジとしては選択肢が増え、より強化されたことになる。

 それに魔術自体も2〜3倍くらいに増幅されるよう、その面での強化もバッチシだ、

 ミラもきっと喜んでくれるだろう――。

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― 新着の感想 ―
[一言] 祝!100部!!。おめでとうございます。 作者様、此れからもアル達の物語を綴って下さいね。
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