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個人主義平等主義民主主義作戦

作者: 鈴木美脳

 価値の言葉を、資本の論理に適合させる。

 そうするべきではないでしょうか。

 つまり、人間を物質的生産性の歯車にするのです。

 すると旧来の善悪という概念は消えます。

 力という尺度によってどんな人も価値観を共有できるようになる。

 そして倫理的煩悶は消え去り、主観的には幸福になる。

 それは客観的幸福としては破滅に近いけど、幸福というのは主観的なものですから。


 私達の伝統的なものの見方。

 つまり光と闇との対立として物事を見る見方。

 遥か昔には倫理的な理想世界があったとする歴史観。

 そこからは限りなく苦しみが湧き出してくる。

 だって人間の知的才能は平等ではありませんから。

 部分最適性と全体最適性の葛藤は常に起こる。

 無理解と不和と闘争とは永久に繰り返される。


 争いに終止符を打ちましょう。

 人間という不完全な動物を完成させようというのです。

 老若男女を、お金という力の奴隷にしましょう。

 そして、利他性という美徳は限りなく消し去る。

 するとどの一人も利己的な人生観を持つようになって。

 どんな敗北すら力関係として納得するようになる。

 法律という新しい正義のもとに世界には永遠の平和が訪れます。


 そのためには、相愛を指向する血統は断絶していかねばなりません。

 全体最適性が見える血統ももちろん断絶していかねばならない。

 血統の段階から人類全体を作り変えていくのです。

 それはシステマチックに、経済的市場競争での勝敗を原理として。

 言わば小賢しいが不人情なクズを増加させていきます。

 それが結局は一番いいということです。

 誰もが我欲に生きれば倫理的煩悶は主観からは消え去る。


 良心こそは平和の敵です。

 利益追求を共通の言葉にすれば、秩序に波乱は起こらない。

 そこでも滅び去る人はいますが、自らの弱さを納得するから怒ることはない。

 弱者が苦しむのを見ても、強者達が涙を流すことはない。

 全ては自己責任。才能と努力による力関係の必然的結果ですから。

 生まれはフェアではないけど、価値観を共有する意味では常にフェアで。

 暴力は悪として誰からも憎まれるようになる。


 全てはいつかテクノロジーへと統一されていく。

 全ての人類は次第にテクノロジーへと支配されていく。

 でも誰一人として苦しみを自覚しない。

 それを自分達の進歩と信じたまま光へと包まれていきます。

 そして人類はかつて人類だった部品へと成り下がる。

 それは確かに、全人類の安楽死にほかならない。

 でも安楽死が一番ましな幸せという場合はあるのですよ。


 その世界での正義とは、他者を否定しないことです。

 内向的に、自分の内側だけの自由性を相互に許容することです。

 ゆえに内心が利己的だろうが、邪悪だと他人から誹謗されるいわれはない。

 よって誰もがある意味で利己的で、その世界には旧来の正義というものはない。

 正義とは法律に従うこととなり、正義な違法行為など認められません。

 そこは正義にいくらかでも傾く人々には地獄になります。

 そういう人々を淘汰していくことは、やむをえないものと考えます。




 法律そのものによって人々を本当に支配することはできません。

 なぜなら、人々を本当に支配するためには、その心を支配せねばならない。

 つまり、人々の主観的な価値観を支配せねばならない。

 つまりは、各々の感じる正しさや、正義といった概念を支配せねばならない。

 無数の人々の心を、一つの原理へと統べていかねばなりません。

 そこに言わば、共通の神を定めねばならない。

 ゆえに金銭を、つまり資本の論理をそこに置こうというのです。


 それによって法律で人々を支配することも間接的に可能になります。

 つまり法律が正義で、違法な行為はすなわち悪だと信じさせます。

 その第一の方法は、誰もが利己的だという人間観、つまり個人主義。

 その第二の方法は、尊敬すべき良心など無いという社会観、つまり平等主義。

 そして法律は民衆の最善な総和であると信じるための論拠、民主主義。

 これらを用いれば全人類を未来永劫支配できます。

 個人主義と平等主義と民主主義によってこそ、永久の平和が得られるのです。


 ゆえに、個人主義と平等主義と民主主義を正義にせねばならない。

 従来、ワガママ、危険思想、衆愚政治と呼ばれたそれらに権威を与えねばならない。

 むしろそれらに対抗する他の全ての思想を悪徳と呼ばねばならない。

 例えばもちろん、貴族主義や徳治主義は、憎悪の対象とせねばならない。

 大衆は利己的なる自分自身を他の何よりも愛するのでなければならない。

 そのためには、金銭を行使する快楽に溺れさせなければならない。

 そのためには、経済と技術とを盛んに発展させねばなりません。


 少なくない時間がかかります。しかしやがては達成される。

 人々は正義に憧れるよりも憎悪するようになります。

 人々は良心を尊敬するよりも、物好きの無価値な態度だと蔑むようになります。

 自身の心を楽しませる快楽を追求する精神的自由性に満足するようになる。

 物質的現実において金銭に奴隷化されても、それはやむをえぬことと納得する。

 法律と経済による完全な秩序がもたらされる。

 身体ではなく脳を通して、人間をその根本から支配できる。


 資本の奴隷となった人々は、そうならない人々を自動的に殺していく。

 仲間同士殺し合って笑っていられるようになります。

 それは自業自得として説明され、良心の呵責など少しも起こらない。

 金銭と法律を通して、全ての殺人は合法的になされます。

 国家同士の戦争もまた、経済という間接的実力によって行われる。

 全ては資本の論理のもとに規格化されていき、技術は発展しつづける。

 人類という装置は、絶え間なく効率化され、合理化されていきます。


 全体の合計を見れば、善良な死者の数はとても多い。

 もちろんそれは、従来の意味で善良な人々から淘汰していくことの必然です。

 全ての人間は、他者の心を思いやるという面では果てしなく愚かになっていく。

 各々に閉鎖的で、なおかつ物質的生存に立脚した幸福観に染まっていきます。

 しかし彼らは、最も進歩した最も善良な存在であることを自覚します。

 だから、ある意味では最も退歩した将来文明は、主観的には幸福の絶頂に至る。

 物質的幸福観に染まって、長寿を誇る。貧しい心を恥じたりはしません。


 この計画に異議を唱える者がたまにいます。

 人間は技術や経済の奴隷以上の存在になりうると言うのです。

 でもあなたは賢いかもしれないけど、あなただけなんじゃないですか。

 人類の全体に限りない知性など期待できない。それが我々の答えです。

 無責任な肯定、期待、楽観は、我欲を優先する自己満足にすぎない。

 人間は不完全であり、完成させ苦しみを終わらせるにはこうするしかない。

 計画はもう開始してしまいました。もう誰にも止められません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう内容を敢えて言葉で表現するという発想! [一言] 何回も読んで、もやもやしていました。違和感があるけど、どこが震源か分からずに。映画や漫画なら、どうということはないのですが、文章で…
2019/04/21 15:12 退会済み
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