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何かの間違いでしょう?わたくしは、転生男爵未亡人でございます

作者: 伊藤@

「エリザベータ・フォンダルク侯爵令嬢、貴方との婚約を破棄させてもらう!」


 (……は?)


 それは、宣言した本人以外の心の声。

 宣言したのは、この国の第2王子。

 宣言されたのは、この国のフォンダルク侯爵の一人娘。

 

 そして、私は宣言した王子にがっちり腰を掴まれ、逃げ出せず真横に立つことになった異世界転生者のローズ・フェイ男爵未亡人です。


 大事なので、もっかい言います。


 日本から転生しちゃったんだけど、この王子達よりも早く産まれたので、さっさと嫁いだものの結婚1年でラブラブだった旦那様は領地見回りの際に馬車の事故で亡くなってしまった、という薄幸の未亡人です。

 と言ってもあれから9年たちました、月日が過ぎるのは早いものです。


 そんな私は、王子より8つ上の28歳です。


 さて、王子よ!あんた婚約してるのに、なに勝手に真実の愛とか一人で盛り上がってるわけ?

 今日は、お城で大規模な夜会という訳で婚家である男爵家にもお呼びがかかり、一緒に来たお義父様とお義母様の3人でご機嫌でご馳走食べていました。

 あぁ!お義父様もお義母様も、真っ青になってこの騒ぎを見ている。

 旦那様が亡くなっても『ローズちゃんはうちの子!絶対修道院なんか行かせないからー!』と言って修道院へ行くと騒いだ私を抱きしめてくれたお義母様、『ローズが後継者でいんじゃね?』と軽く決めて領地経営を叩き込んでくれたお義父様。

 いきなり心配かけて申し訳ありません!

 でもでも!不可抗力なんです!


 後ろから羽交い締めで、初めて会った人間を最愛だ!とか言って離さないこいつは頭大丈夫なのか?


 なんだろう色々とダメだろう、これ。


 羽交い締めからの横抱きにされて、そのまま引きずられてこの場所にいるんですけど、どう考えても接点ないし……と、王子様の顔を下から覗きこむと、何か違和感を感じる。


 はて……こんな顔だったっけ?

 あらあら、重度の魅了と認識阻害の魔法が掛かっておりますね。


 

 あ、言い忘れてました。


 私、転生特典でチートな賢者なんです、うふふ。


 女神様も、もっと早く教えてくれたら良かったのに、そうしたら大好きだった旦那様を助けられたのに……。

 いつも心を過る事なんです、愚痴っても仕方無いのでとりあえず魔法の解除でもしましょうかね。



※※※※



 おかしい、絶対おかしい……。

 なんでヒロインの私が、このイベントを傍観してる訳?

 子供の頃に熱を出して生死の境から生還したら、前世の記憶を思い出し、この世界がゲームの設定とか、足元から崩れ落ちたよ。

 ま、ベッドの中だったけど。


 タイトルが『ローズガーデンプリンセス』薔薇王国の王子と四人の貴公子達、爆発的人気を誇った乙女ゲームの金字塔、略して『ロープリ』。


 あそこで、逃げ出そうともがいてる美人片手に、婚約破棄かましてるのがこの国の王子レイノルド様。

 レイノルド様の後方に側近の4名が、並んで攻略対象が立ってるんだけど、皆唖然としてるし。

 側近達にすら、根回ししてないとかどゆこと?

 本当なら彼女の立ち位置にいるはずなんだけど?

 というか、誰なのあの年上美人……。


『誰だ?彼女は?』

『記憶にないですわ……』

『フェイ男爵の未亡人ということですけど?』

『フェイ?もしや、9年前の……』

『また、あの災厄が?』

『奇跡の賢者!』


 周りの囁きを耳ダンボで拾い集めてようやくフェイ男爵の未亡人と判明。

 でも……フェイ男爵とかシナリオに出てきてないんですけど?

 奇跡の賢者ってなに?

 そんな事はどうでもいいよ。

 この日の為に、3年だよ、3年……、ポンコツ王子達に愛想振り撒いてさ、あたしの3年返して欲しいよ。

 苦労のかいあって漸く王子攻略したのにさぁ!

 悪役令嬢のエリザベータには悪いけど、幸せになりたいし。


 あ……とうとうスタル陛下の登場じゃん。

 スタル陛下カッコいい……レイノルド王子の兄なのよね、だから若くて素敵。


 ん?エリザベータ侯爵令嬢は、フェイ男爵未亡人を凝視してる?



 スタル陛下が登場したその時、今までもがいていたフェイ男爵未亡人がピタッと動きを止めて詠唱する。


「‘’汝その真実の姿を正せ、阻害解除!‘’」


 キンっと耳障りな音がして会場全ての人が眩暈でふらつく。

 眩暈が収まると……。

 あ、王子がこっち見た……めっちゃびっくりしてるんですけど?片手に抱いてる美人とあたしを二度見する。


「……誰だ?」

「ねえ様!」


 王子の問いかけに、声が重なる。


 え?ねえ様?声の主はと見れば、エリザベータ侯爵令嬢だ。

 

 凛とした声が響く。


「ローズ・フェイと申します」

 

 そう伝えると、王子の拘束が弛んだ腕からするりと抜け出し、ローズはその場で美しいカーテシーを披露した。


「済まない、何故ここに立っているのか理解出来ないのだが」


 混乱している中で、それでも素早く立ち直った王子が周りを見渡す。


「畏れながら」


 後ろに控えていた側近の一人が近寄り、小声で王子に説明してる。王子の顔色がどんどん悪くなる。


 一方で、エリザベータ侯爵令嬢は、フェイ男爵未亡人に抱きつくと泣き出していた。


「ねえ様酷い!どれだけ心配したと思って!」

「ごめんなさいリザ……」


 ローズは、困ったように笑うと妹の背中をポンポンと優しく撫でている。

 その時、壇上から陛下がお声をかけられた。


「久しいなローズ」

「お久し振りでございます陛下」


 皆が、慌てて平伏するのを陛下がとめる。


「皆そのままで良い……ところで、これはなんの茶番なのだ?」

「申し訳ございません、兄上」

「まぁ良い、お陰で奇跡の賢者であるローズが見つかったのだしな」


 弟であるレイノルド王子にニヤリと笑いかけ、次の一瞬で表情が抜け落ち私を見る。

 え?え?なんでこっち見るの?


「そこの娘、3年の長きに渡り『しなりお』とやらは楽しかったか?

 王弟を手玉にとり、その婚約者を虐げ……一体何を望んでおったのだ?」


 9年前の災厄の備えとして、王公貴族には常に暗部が付き動向を把握している、知らなかったのか?と、問いかけられても答えようがない。

 脚が震える……う、動けない……王の視線が、王の覇気が、私の体を圧迫する。

 知らず知らず膝をついて平伏している。


 怖い怖い怖い怖い怖い……。


「声も出ぬか……ふふふ」


 ぶるぶると震えながら王を見上げ……る?

 


 ペシャリ……。



 それが、私の最後の記憶になった。



※※※※



 陛下は、片手をあげ指を鳴らす。

 それだけで、城の美しい床上に広がった、赤黒い血溜まりと肉塊が消え失せ、後に残るのは、この場に相応しくない血の匂い。


「皆、災厄の芽は摘んだ、今宵は好きに過ごすと良い」


 人々はこの惨状に怯えや悲鳴もなく、災厄の芽が無くなったことに安堵の声や陛下を讃える声をあげている。

 転生して思いましたが、結構この世界の人達ってあれなんですよね、残酷な事に馴れているというか、ま、あまり深く考えないように致しましょう。


 あーあ、とうとうスタル陛下に見つかってしまいましたね。

 ざわざわと人の声が重なりあう。


「妹君に手伝ってもらったよ、ローズ」


 そうでしょうね……これが私の妹のエリザベータでなければ、今日の夜会に出る事もありませんでした。

 3年前から、災厄の兆しがあり気になって調べると、妹のエリザベータが巻き込まれているではありませんか。

 10年前、私は侯爵家の長女ローズ・フォンダルクでした。


 全く話は違いますが、実はこの国9年前に1度滅びかけました。理由は、悪政を敷く前王と腐敗した貴族の真っ只中『乙女ゲーム』のヒロインが登場、当時の第1王子(現在の陛下)を誘惑し、あわや隣国と戦争というところまでいきました。

 現在の陛下は、戦争となった時の為にと下見で旦那様の領地を視察、暗殺未遂事件に巻き込まれ、とばっちりで旦那様が亡くなったのです。


 当時の事は、ショックで記憶が途切れ途切れなのです。

 ただまぁ、ぶちギレた私の賢者の力が覚醒しまして。

 その当時の話は、また別の機会にでも致しましょう。


 後は、ヒロインと前王と腐った周りの貴族を物理的に一掃しまして、スタル様にはいっさいがっさいの責任を取って貰うべく、国王に据えて私は主要関係者から姿を隠しました。

 時折ちゃんと監視してますから~と、圧はかけてましたけど。


 因みに、フォンダルク家とは旦那様と結婚する時に、勘当されてますので現在も交流はございません。

 当時は、中立の立ち位置を確保して、黒くもなく、白くもなくとなんとも実の親ながら、狸だなと思った記憶があります。


「場所を変えようか」


 スタル陛下が仰ると、陛下と私だけが別室へ魔法で飛びました。

 飛んだ先に控えているのは、宰相のロベルト様と……あら久しぶりのお父様のフォンダルク侯爵。


「ローズ!」


 ガタガタと椅子から立ち上がる二人。

 美しいカーテシーで御二人に挨拶をする。


「お久し振りでございます」


 陛下ったらまだ諦めてないんですね……。


「ローズもう9年が経った、どうだろう1度帰って……」

「あら、フォンダルク侯爵様お忘れですか?『お前はもう死んだのだ!2度と我が一門に姿を見せるな』と、わたくし亡霊でございますのよね~ふふふ」

「ぐっ……!」


「まあまあ、ローズ様そう頑なにならずとも……」

「あら、ロベルト宰相様お忘れですか?『何もここまでやらずとも、貴女は化け物だ!』と、ええ、ええ、私は化け物ですから?人々の気持ちなんてわかりかねますわ~ふふふ」

「ぐっ……!」


「ローズよ、そこまで苛めなくともよいではないか……」

「陛下」

「な、なんだ?」

「何ですか?あの粗雑な認識阻害の術は?」

「……粗雑」

「そうでしょう?誰とも見分けがつかないとはあんなに使えない術は初めてですよ?私で良かったものの別の人間であったらどうされました?」

「す、すまぬ」


 いい年齢の男共が項垂れる。

 ニコニコしながらローズの機嫌は氷点下となる。


「それに、一番私が嫌いな茶番を用意してただで済むとでも?」


 幽鬼のごとくゆらりと立ち上がり、ローズの周りには濃縮された魔力が渦を巻きながら集まりだす。



※※※※


 スタル陛下の御代は、王国の第一次黄金期として30年間続く、引退してからも賢王と親しまれた。

 しかし若い時分に、奇跡の賢者の怒りをかってしまい、宰相や側近のフォンダルク侯爵共々生涯解けない呪いを受けたと言われている。

 現存する資料には、一切その呪いの言及はないがある時期を境に全くスタル陛下の絵画が残されていないことから、都市伝説として今でも真相は解明されていない。





「宰相にフォンダルク侯爵……お前達その頭!」

「へ、陛下こそ!」

「何!!」

「「「うわあああああああ!!!」」」



 陛下はスキンヘッド、ロベルト宰相はザビエル、お父様は波平さんにしておきました。

 これに懲りて、お義父様、お義母様との平和な生活にちょっかいかけてこなければ良いのですがね。

沢山の方に評価頂き驚きと感謝でいっぱいです、本当にありがとうございました。

誤字報告助かりました、お礼申し上げます。

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