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社長、そして振り返る過去

「報告します、社長!」


元気な声を上げて、僕の前で名前も知らない部下が長文をハキハキと喋り始める。

うん、聞く気ないから喋らなくていいよ。


だが、口に出して部下の報告を止めるような事はしない。

話を聞いてハンコを押す。

それが僕の仕事だ。

僕が内容を理解している必要はない。


あ、言い忘れてたけど、ここは異世界らしい。

らしいというのは、僕も未だにその事を信じきれていないからだ。


何せ、ここは高層ビルの屋上で、周りは全面ガラス張り。

デスクワークに勤しむ社員達はパソコンに向かってカタカタしている。

目の前で今も喋り続ける部下を含めてみんなが着ているのはビジネススーツだ。


会社やん。日本のちょっとオシャレな会社やん。

だが、ここは異世界らしい。

謎だ。

ここに来て暫く経つけど、未だにテレビ番組か何かのドッキリの線を捨てきれない。


「ーーーー以上です。社長、何か分からない点はございましたでしょうか?」


どうやら部下は一通り喋り終えたらしい。

僕は資料にハンコを押してそれを部下に渡しながら答えた。


「全部分からなかったよ」


「え、では何故ハンコを押して下さったのですか?」

「いや、多分何回聞いても分からないし、分かる気もないから」


呆然とする部下。よしよし、そのまま愛想をつかせてくれたまえ。


「・・・なるほど、そういう事ですか」

「え?」

「つまり、私のプレゼン能力はまだ未熟で拙いと。だけど、企画の内容は合格点だったのですね。今回はこれでオーケーを出すけど、次はもっとまともなプレゼンをしろと。く〜〜!分かりました!自分の至らぬ点を指摘下さり、ありがとうございます!」

「・・・はあ」


何だか知らないけど、部下はやる気に満ち溢れた目で去って行った。

それと入れ替わるように、髪を団子にまとめてメガネをかけた銀髪の女性がやって来て、そっとお茶を注いでくれた。


「お疲れ様です。社長」

「あ、ソフィアさん。ありがとう」


この人はソフィアさん。僕の秘書だ。

僕がお礼を言うと、ソフィアさんはニッコリと微笑んだ。


「今日も最低な仕事ぶりですね。何も分かってないのに、分かったような顔して部下をその気にさせる。無能のくせに恥ずかしくないんですか?」


お腹がキュッとなった。喜んでる訳じゃないぞ。ストレスだ。


「・・・何回も言ってるけど僕、Mじゃないからね。マジで傷つくから、やめてくれまない?」

「やめて欲しいなら、まず社長が社長を辞めて頂けませんか?」

「いや、僕も無理やり社長にされてるだけで、辞められるなら辞めたいって何度も言ってるじゃないか」

「そこで諦めるからあなたはダメなんですよ」


ゴミを見る目だった。

辛いので話題をそらす。


「ところで僕の机、どうにかならない?手配したのソフィアさんだよね?」

「何か問題でも?社長にお似合いの机だと思いますけど」

「みかんのダンボール箱が?」


僕の机はひっくり返されたダンボール箱だった。

側面には、採れたてみかんと書かれている。


「この中に入ってたみかんが採れたてだったのって、かなり前だよね。僕がダンボール渡された時、既に埃かぶってたし。まだみかんがあるならそれはとっくに腐ってると思うんだ」

「ええ、ですからやっぱりその机は社長にお似合いですよね」

「可笑しいな。言葉が噛み合わないぞ・・・。いや、異世界だから当然なのか」

「大丈夫ですよ。しっかり言葉は伝わってますから安心して下さい」

「伝わっててその態度を取られてるんだったら、むしろ安心出来ないね!」

「静かにして頂けます?社員はあなたと違ってみんな真面目に働いてるんですから」

「・・・泣いて、いいかな?」


これが僕の現状。

意味も分からず社長にされ、何故か多くの社員に慕わる。でも何故か秘書のソフィアさんにはめっちゃ嫌われている。


「ああ、あとこれ今年の予算の見積もりです。やはり現場にお金を回したいので、事務方は減額せざるを得ません。もうこの際、社長にはみかん箱も勿体無いのでそこらの床を机の代わりにされてはどうですか?」

「ねえ、何で机買って欲しいって言ったら、みかん箱すら取り上げられる流れになってるのさ。他の社員は立派な机で仕事してるじゃん」


というか、僕がみかん箱を手放してどれほどの減額が出来るというのだろうか。ただの嫌がらせだろこれ。


「文句の多い社長ですね。分かりました。みかん箱は特別に残してあげますから、それで満足して下さい」

「・・・なんか、丸め込まれた気がする」

「・・・ふんっ」


ソフィアさんは、つまらなそうに鼻を鳴らして去って行った。

他の人には優しいのに、何故僕にだけああなのか。


「・・・あっ、お腹が」


ソフィアさんのせいでお腹が痛くなった僕はゆっくりと立ち上がってトイレへと向かった。


「・・・机なんて贅沢は言わないから、優しさが欲しい」


何でこんな事になっているのか。

未だに理解出来ない自分の現状を、僕はゆっくりと振り返った。


トイレの中で・・・ね。

主人公が中々社長にならないし、ヒロインも登場が遅いのでプロローグ作ってみました。

その内こうなる予定です。

気長に読んで貰えれば。

本編は次からです。

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