もう一つの世界
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むらさき毒きのこさん原作より、世界及び登場人物お借り致しております。
少年は、うなされていた。それは、それは恐ろしい……悪夢、過去の記憶だろうか、それとも誰かの思念を受け取ってしまったのか、恐ろしい世界が、眠りの世界を覆っている……
―――「ウフフ、可愛い、可愛いー!」
少年は、抱き締められていた。魔女だろうか、摩訶不思議な人格を持っているおばちゃんに、力の限り抱き締められている。
しかもこの魔女 少年が自室でそろそろ寝ようか、と服を脱ぎ上半身裸になった時に、背後から抱きつかれ、そのまま側の天蓋付きベッドに勢い余って、押し倒してきたのだ。
「うお!な、何?はぁー?なに?何?お前かぁ!」
んー、可愛い、いいじゃない、減るものじゃないし、と訳のわからぬ事を言ってくるおばちゃん
いや!減る!確実に『若さ』を吸いとっているだろう!少年は、あれやこれや嫌な予感の世界が脳内に繰り広げられ、自分に強く言い聞かせる。
『起きろ、起きろ、目を覚ませ!ぼくー!』
――はっ!と目を覚ました彼。分厚いカーテンを引かれた部屋は薄暗く、その中で、淡くパープルに光る夜光時計を見ると、まだ早朝とも呼べる時間帯。
お、起きよう。続きを見ればたとえ夢でも何かを無くしそうな予感がする……
少年は、ぶると寝具の中で、身震いをすると、ふあな掛け布団を、勢いよくはねのける、
そして、シルクのパジャマの上を脱ぎ、服を着替えようとしたが、何時もならきちんと用意されている、衣装がない。
「え?今日、なんかあったっけ?」
少年が、まだ寝ぼけているのか、ぼんやりとした頭の中で今日の予定を考えていたとき、
美しい彫刻を施された観音開きの室内の扉が、バーンと左右に、勢いよく開かれた。
「おはようー!可愛い、可愛い!ぼくー!」
訳のわからんハイテンションで、彼が今日まとう、豪華な衣装を手にした、夢に出てきたおばちゃんが、乱入して来る。
「うぉい!まてぇい!夢の続きかぁー!」
慌ててベッドから離れる彼。あらあー!良いタイミングねぇ、お着替えお手伝いしましょうか、うふうふうふふ、と不気味な笑みと共に近づいてくる。
「はぁー?バカ言ってるんじゃねーよ!この年になって『母親』に、手伝ってもらうガキいるのかよ!」
完全に覚醒した彼。先程『夢出てきた怪しい魔女のおばちゃん』そして目の前のその本人は、あろうことか、彼の母親だった。
「あら、数年前迄は手取り足取り、全裸からお着替えさせてくれたじゃない、ケチ」
シルクサテンの生地の、シャツを手渡しながら、不服を言ってくる母親、彼は差し出されたそれを引ったくるように奪い取ると、袖を通す。
何か期待満々で、嬉々として、ハイ下、とボトムを渡してくる母親にその辺に置いとけ!エロババァと、罵る息子。
「で、ちょっと聞きたい、何で『秋の桜子』が僕の母親になっている?『エロ職員』じゃねーのかよ」
「それはオリジナル世界の設定、ここは貴方はそのまま『14才のきのこ君』なのだけど、その他の設定は、私の妄想から成り立つ『パラレルワールド』」
ハイ?何でそうなる、きのこ少年はさらっと飛んでも発言を述べる、この世界においての母に、怪訝な目を向けながら、親子である証拠は?と問いかける。
それに対して、話を執筆するため、ぶつぶつと呪文を唱えながら、構築した世界の文章を起こす魔女『いい加減な妄想ホラ作文執筆者、秋の桜子』は、笑顔で答える。
「まぁまぁ、詳しい事は後で……でも『それなりに子供の頃の親子の記憶』てのはあるでしょう?」
ハイ?子供の頃の記憶?記憶……記憶……少年はしかめっ面で思い出す。そういえば、よく手をつないで歩いた。夜な夜なぶっ飛んだセッティングのおとぎ話を聞かされたし……
「くっ!どうやらそうらしい、そして思いだしたぞ。僕が小さいとき、転んでとんでもない事言ったよな」
え?なんか変なこと言ったかな?と真顔で話す、母親に対して、まともな思考回路に育った息子は、白い目を送りながら言う。
「転んでケガした時『あらぁ、紫色の血が出てないからよかったわね』とか何とか……僕の血液は赤だし、人間だし」
その時ビックリして、泣き止んだんだよ、そして他に血の色有るのかと聞いたら、母は『私は緑』とほざいたよなぁ、と懐かしい思い出話をする、きのこ少年。
まぁまぁ、よく覚えてくれているわね!そこはパパの遺伝子だわ、と彼女はやたら豪華な調度品があつらえてある、彼の室内にセッティングされている応接セット、その柔らかなソファーに腰を下ろす。
「で!着替えないの?親子なんだから、遠慮なしなし!」
母親の言葉に、するわ!といきり立つ哀れな青少年。そしてこの世界はどうなっている?僕の立場は?それに他のみんなも……と問いただす。
「では!お答えしましょうか、先ずは貴方、貴方はこの『なろう国の次期国王』」
ハイ?何ですと?どうしてそうなる?
まぁまぁ、私が構築したからそうなる。唖然とする息子に母は説明を続ける。
「かの御方が、反乱を起こされた時に存在が『粒子』と化した。そして私達もそれに付随した」
「そうだ、年齢も記憶も、性別も人格も、変わったり、消えたりした」
きのこ少年は、少しばかり遠い目をして思い出す。彼と彼のこの世界の両親のみ、その記憶を持っている。
「でも一生命体が『粒子』になるの、果てしないエネルギーが動く。それによって、私達がそうなったのだけど、あの『渦』に捲き込まれた時、私はどうせなら面白い事になれ!と強く願ったのよ」
ハイ?願った?何を、何を願ったー!と詰め寄るきのこ少年
「『きのこちゃん』が可愛かったから、子供にしたいなぁって、その『妄想力』と『粒子化』された時の、激しいエネルギー同士のぶつかり合いの波動で、何だか気がついたら、この世界が構築されたのよ!」
さすがは、貴方のパパよねー!拾えた『粒子の貴方のパパ』素晴らしい構築能力!そして私の素晴らしい妄想力!が、合体したこの世界。そして貴方は、
二人のあんなことや、こんなことで生まれた皇太子きのこ、そして『小説家が、小説家で過ごせるための国』を統べる者、なろう国の次期国王となる存在の立ち位置。
「ハイ?何だかご都合主義な、ツッコミ処満載の、わからん話なのだが、つまり僕は『秋の桜子』と、誰かの息子となるのだな」
そうそう、そうなのよーと嬉しそうな妄想作家
「それに、他の出演者の皆様も、大丈夫、皆様も、も……想像力に長けてる御方達ばかりだから、きっとあの『渦』の後も素晴らしい世界を繰り広げられてるから!」
等と賑やかに、親子の会話が盛り上がる最中に、部屋の扉がノックされ配下の者達が、そろそろ陛下が来られるお時間ですが、とかしこまって入室してきた。
そこで、彼は気が付いた。母親が手にする衣装がやたら、キンキラキンな輝きを放っている代物ということに……
「おい、その意味ありげな、キンキラキンは何だ?」
「あら、これしから?これは貴方の『即位式』の衣装、パパも私も執筆三昧したいから、面倒な国務は、貴方に譲ろうと……」
おい……まてぇい!そのいい加減な理由、それよりも前に何かいってたな?言ってたなぁ!言ったよな!
と、今迄の『多重人格妄想適当作文執筆者 魔女 秋の桜子』との会話を思い出していた、皇太子きのこ少年は、この世界の父親の存在に気が付いた。
ま、まさか、まさか、まさかぁー!
きのこ少年が自身が気が付いた『ある事実』に、顔色を変えたとき
「きのこちゃん、パパがいらしゃいましたよ、早く着替えないと」
母親『秋の桜子』の声に、恐る恐る入り口に目を向ける。そこに、にこやかに可愛い愛息子に目をみやりながら、部屋に足を踏み入れる父親の姿。
高貴なオーラをまといし、現国王陛下が配下を従え、彼に近づく。それに対して、きのこ少年は、指差し震えながら、叫んだ。
「ち、父親、パパ!お、お前は!記憶者…………」
「終わり」
記憶者様、どうしても人物足りなくて、許可なく出演させてしまいましたこと、お詫びいたします。許してね