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Prologue 真夜中の着信音


――ピリリッ ピリリッ


 深夜に鳴り響く甲高い音。聞きなれたそれは携帯の着信音だ。凝ったメロディ音でなく初期設定の無機質な音が闇夜を切り裂く刃となって眠っていた俺――須藤健すどうたけるの耳を貫いて目覚めを促す。

俺は眠いんだと叫びたい。

 けれど叫ぶよりも眠りたいんだと逆に身体から訴えられ、それに同意した俺は音を無視していた。

 いつか相手も諦めてこの音が途絶えるだろう。もしくは自動的に切れてしまうのが先か。

 どっちにしたって深夜に電話を掛けてきた奴が悪いんだ。俺が心配することでもないしこのまま無視で問題ない。


――ピリリッ ピリリッ ピリリッ ピリリッ ピリ――


 お、ようやく途切れたか。やれやれ、最後まで聞くのは長かったな。うとうとしている意識のままそんな感想を抱いては改めて襲い来る眠気に身を委ねようとした俺だが。


――ピリリッ ピリリッ


 間髪入れずに再スタート。一体誰だ。こんな時間を考えずに電話を掛けてくる傍迷惑な奴は!!

 

――ピリリッ ピリリッ


 一定音のそれがまるで呪いのように俺の耳元で囁き続ける。早く出るんだ。お前はこれから逃れることなど出来ないのだと嘲笑うかのように。

 目覚まし時計の代わりに枕元に置いていた弊害が今ここで現れるとは誰が思うだろう。

 目覚まし音ならまだ分かる。自分で設定したし、鳴ってくれないと学校に遅刻してしまう。それは断固としてお断りだ。

 いや、学校に遅刻だけならまだ百歩譲って許せるんだが、学校に向かう道中で待ち合わせしている友人が一人いる。彼女を待たせた挙句道連れのように遅刻をさせてしまうのは――死亡フラグを自ら立てに行く馬鹿としか言いようがない。

 過去に一度だけ、そう、一度だけそんな馬鹿なことをしでかした俺は目の前で笑顔を浮かべながら重い学生鞄(後々聞いたら中には英和辞典、和英辞典、国語辞典が入っていたそうだ)を振りかぶる友人に遭遇。その後の記憶は語らずとも分かるだろう。俺も語りたくはない。

 そんなこんなで俺は二度と友人を待たせることだけはするまいと決めている。もうあんな目に遭うのだけはお断りだ。

 っと、話がズレた。元に戻そう。

 未だに鳴りやまない携帯の着信音。途切れては掛け直され、途切れては掛け直されの繰り返し。

 流石にこのままはまずいと携帯に手を伸ばす。誰からの着信かと光っている画面に目を向けると――噂をすればなんとやら。さっき話に上がっていた友人からだった。

 画面に堂々と表示される「御柳菫」の文字に俺はゲッと顔を顰めた。彼女からの電話はいつだって面倒な事ばかりなのだ。

 長い事友人をしているが(それこそ幼馴染と言えるくらいには長い年月を、だ)面倒じゃなかったことなんて一度も……いや、一度くらいはあるか? まぁ、一度や二度くらいしかないとしておこう。

 そんな彼女は待たされるのは嫌いだが、自分から声をかける場合はいくらでも粘り強く待てる。寧ろ待たされるなんて微塵にも思っていないし、声を掛けたら反応が返るのが当たり前でしょと言い切る女王様タイプだ。最悪なことに本人無自覚ときているのが俺の運の尽きなのだろう。

「勘弁してくれよ……」

 深々と零れた溜息交じりの言葉は夜闇に溶けていく。着信相手によってはこのまま放置しても、なんて考えは画面を見た瞬間に吹き飛んだ。放置した後の末路が死亡フラグまっしぐら。俺はまだ生きて眠っていたんだ。永眠なんて望んでいない。

 別に彼女の電話が嫌というわけでもないし、面倒には……まぁ、もう慣れたからいいとしても、せめて電話を掛ける時間くらいは余裕をもって掛けてほしいと思うのは俺の我儘だろうか。

 渋々上半身を起こして未だ鳴りやまない携帯の画面をスライドする。通話中と切り替わるのを見届けてから耳にそれを押し当てた。

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