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林くんの観察日記  作者: 丘夏生
学園編
4/5

初授業の回

ついに学園編に突入です。長らくお待たせして申し訳ございません。

続けて読んでいただければいいなと思っています。


〜丘〜

俺たちは今、現代文の先生を待っている。三年に入って初めて担任となる先生だ。噂ではかなりの教え上手で、いい先生らしい。運良く、俺はアラン、川原、そして林くんと同じクラスに入ることができた。もともと国語系が強い俺にしてみれば、現代文は俺の得意分野だ。そろそろ大学のことも考え始めている俺にとっては、一つ一つの授業が大事であり、なおかつ、友達たちと交流する場なのだ。1分たりとも無駄にしたくない。そう一人で考えていると、先生らしき人物が入ってきた。


「皆さん、申しわけありませんでした。色々資料を準備していたら、授業時間になっていました。」


そう告げると、先生は黒板に向かい、名前を書き出した。吉本先生というらしい。先生は小柄な人で、どこか年寄りの風貌を持ちつつも若さを保っているというか、なんとも言えない感じの人だった。そして何よりも俺の印象に残ったのは、そのオーラだ。なんというか、経験豊富な先生っぽい感じがした。落ち着いた様子で出席者を確認し、突然こう言った。


「それでは、私がいつも担任を受け持つことになったクラスでやることをします。皆さん、一人ずつ立って、自己紹介をしてください。そうですね、名前、出身地、それとこの授業への意気込みを言ってください。それではどうぞ。」


なんとも言えない緊張感が教室を走った。今までの先生たちは、気軽で楽しくやっていきましょうという風だったのに、この先生はどこかふざけられない何かがある。そう悟ったのか、生徒たちは次々と単調な自己紹介を続けていた。席順を考えると、次の順番川原、林くん、俺、そしてアランだった。アランと川原はともかく、俺は林くんがどうするのか非常に気になった。2年で仲良くなって以来分かったことだったのだが、林くんは授業での態度は百八十度変わる。普段はキレ気味で声がでかいのに対して、授業では極小の声で話すのだ。あの先生がそれを許すのだろうか、非常に興味があった。


「川原一恵です。えーと、出身は東京の目黒区で、このクラスで一番の成績を得たいです。」


おーという歓声が初めて上がった。川原のやつ、やるな。緊張を何ともせず、堂々と一番になると言いやがった。そこで初めて緊張感が若干溶けた。というよりかは、先生が初めて反応を示したのだ。頷きながら、先生は「では次」と林くんを指差した。まあ、川原は優等生だし、どの先生も好きだからな。さて、林くんはどうだろうか。


「林です。出身は東京。とにかく落ちないように頑張ります。」


最後の一言は、誰も聞き取れなかったと思う。すぐ後ろに座っていた俺がギリギリ聞き取れるレベルだった。いつもの貫禄はなく、林くんは本当に声が出ない青年のように見えた。というか、後ろでアランが笑いをこらえている。確かに、普段の林くんを知っている人間からしてみれば、これは面白い。すると、先生が出席表から顔をあげ、林くんを見た。


「林治くんですね。もう少し声を大きくしてください。これはスピーチの練習と思ってください。あなたたちの成績の3割を締めるのが最終試験のスピーチです。さあ、はっきりと喋ってください。」


先生のその言葉で、何人かの生徒たちは小さく笑い始めた。ただの自己紹介で、ここまで苦労する生徒は未だかつていただろうかと言うかのように。結局、林くんは少しだけ声を大きくし、同じ内容を繰り返した。その時の彼の表情は、恥ずかしさというよりも、屈辱を表していたかもしれない。この最初の授業は、結局自己紹介と簡単な授業方針の説明で終わった。礼をして教室を出ると、林くんと合流した。


「林くん、大丈夫?あんま授業で喋るの好きじゃないんだよね。」

「いや、別にそういうわけじゃねー。ただああいうの、マジで嫌いなんだよな。ほんとあの先生いらねーことするよな。」


やはり予想通り、教室を出た途端、林くんの声は大きくなった。それを見てか、アランは再び笑い始めた。


「おいアラン、テメー何笑ってんだよ、殺すぞ。」

「いやいやこれ笑わずにはいられないでしょ!だって、だって、治やばくね?めっちゃキョドッてたじゃん!!」

「ハッ?テメー喧嘩売ってんのかコラァー!」


そうぎゃあぎゃあ騒いでいると、教室から先生が出てきた。すると、軽く笑いながら、

「あら林くん、あなたきちんと声を張れるじゃないの。それを授業でやってください。」

と言った。

その瞬間、俺たちはみんな爆笑した。林くんはまるで勝負に負けた子供のように、小さな声で「覚えてろよオメーら」と呟きながら走っていった。


それからか、林くんは吉本先生を敵視し始め、授業中は居眠りするわ、宿題やエッセイも時たま遅れて出すようになった。そのささやかな反抗を見て、俺は密かにこう思った。


「幼稚すぎる、この人」と。

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