二年生の回
あれから結構時間が過ぎていた。俺とアランは一年生ながらサッカー部の主要メンバーとなり戦った。そして一年の中で仲のいい奴らもできた。中でも川原という女子とは特に仲が良くなった。まあ、アランと幼馴染ということでこういうことになったわけだが、こいつもまた勉強ができた。俺はそれに刺激されるように勉強にも専念し、俺たち3人は期末では学年上位に食い込んだ。そんなこんなで気づけば俺たちは二年生になっていた。更に言えば、俺はあの日以来林くんに会っていない。会おうと思っても会える人物ではないようだ。授業もサボることもあればそもそも取っている科目が違う。結局会えずに二年生になってしまった。
二年生としての初めての昼飯を食べていた。その時に俺は林くんを見つけた。人混みの中、彼はコーラ片手にスマホを難しい顔をして見つめていた。アランに少し離れると言い、俺は彼の元に向かった。
「林くん、久しぶりだな。あの時以来じゃない?」
彼はその声を聞くと、素早くスマホを隠し、こちらを睨みつけた。
「なんだよ、お前かよ。チッ、あっち行けよ。」
いかにも不機嫌そうな口調でそう言われても、俺はどうしても会話を続けたくなってしまった。
「林くんっていつも一人で食ってるの?何なら俺らと食べる?どうせ俺とアランと川原だけだし。」
我ながらかなり魅力的な提案であった。林くんと話すという意味で俺は得をするし、彼は彼で話し相手ができる。まあ、本人がどう思おうと俺は強引にでも友達にしたかった。すると、彼はハァ?と言いながらこう答えた。
「俺ら友達でもねーのに何言ってんだお前。早く失せろよ。殺すぞテメー。」
俺は正直ギョッとした。もともと俺は怖いものとか争いとかは好まない主義であり、なおかつ林くんとは仲良くなりたい。だからこそ驚いた。本当に拒絶されているのだと。しかし、面白いことに、彼は俺にそう言いつつも、具体的に何かをしようとしているわけではない。これならば勝手に座れば自然と会話になるのではないか。そう思い、俺は座ることにした。
「チッ、まだいたのかよ。早くあっち行けよ。」
続けてそういう林くんではあったが、すぐにスマホに目を向けて、俺を追い出そうとしない。だから、数分経ってから、質問をいくつかぶつけてみた。ゲームに集中している今がチャンスだと思った。
「林くんはさ、ゲーム好きなの?」
「…まあな。一応ガンダムのプレー時間東京三位だから。舐めんな。」
びっくりした。答えてくれた以前に、一体ガンダムのゲームとはどれのことを言っているのだろうか。それに東京三位という数字は、どこで入手したのか。
「楽しいの、それ?てかまさか林くんって課金するタイプの人?」
「ハッ、そんな姑息なマネすっか。俺は課金せずに堂々と戦うんだよ。」
「変なところでこだわりがあるんだね。え、週末とかもいっつもゲームしてんの?」
「…まあ、そんな感じじゃね。てかお前なんでそんなこと聞くんだよ。」
「いや、単純に興味があっただけ。うーん、それじゃあ好きな飲み物と食べ物は?」
俺はあまりゲームに詳しくないため、新たな話題を提示してみた。
「そうだな、いちごオレとコーラ。食べ物はポテチ。」
「え、ポテチって何味?俺コンソメめっちゃ好きなんだけど。ていうか、いちごオレってなんだかイメージに合わない気が…林くんって威圧感半端ないから、てっきりコーラがぶ飲みとかコーヒーとかかと思ってた。」
「ア?俺の勝手だろそんなの。いちごオレうめーんだよ。コンソメはない。俺は幸せバターがいい。」
なんともくだらないことで意見交換をしているわけだが、なんだか林くんと初めてまともな話をした気がした。意外と素直に答えてくれる上に、思った以上にいいやつっぽいチョイス。むしろ、可愛いチョイスをする。俺はその感想を心の中にしまい、最後にこう告げた。
「あ、そろそろ飯食わなきゃ。じゃあ、また昼飯の時くるから。授業でも合ったら声かけるな。林くん面白いし、なんだかギャップすごいから。それじゃあ。」
そう言い残し、俺は去っていった。林くんがどう思っていたかは知らないが、この地道な話しかける作戦が実り、林くんは徐々に俺と打ち解け、その後アランと川原とも親しくなった。2年の間、俺たちはサッカーと授業、そして昼食を通して徐々に親しくなっていた。そして言うまでもなく、俺と林くんは3年になる直前には、すでに親友と言えるほどの仲の良さだった。林くん曰く、俺がしつこく話しかけることで、拒むのが面倒になり、友達になることにしたそうだ。プロセスがどうであれ、結果的に俺は面白いやつと友達になり、そいつと色々な話で盛り上がった。
そして月日が流れ、いよいよ俺たちの年がやってきた。三年生として、俺は林くんをスーパーフォワードにする決意を改めて固める上で、素晴らしく楽しい一年にしようと誓った。