09 できたてホヤホヤのゴーレムと、ともに戦います
「そ、そんな!? モンスターが来てるんだよっ!? それもあんなにいっぱい!! いったいどうすればいいのっ!?」
ボクは、なけなしのお金を自販機に飲まれてしまった人みたいに、天空石を揺さぶる。
でも、画面の中のオジサンは、
「まあ、ひと休みするがよい……zzz……」
と寝入ってしまった。
だ……ダメだ……!
どうやらオジサンは、ボクのした事はわかるようだけど、モンスターが来ているのはわからないみたいだ……!
オジサンの助けが得られないとなると、自分でなんとかするしかない……!
ゴブリンたちはボクだけじゃなく、ポポやピエールをひどい目にあわせるだろう。
それどころか家や、オジサンのいる飛行石をも壊して、すべてをメチャクチャにするかもしれない……!
そんなのは嫌だ……絶対に嫌だ……!
だからボクが……ボクがなんとかしなきゃ……!
ボクは熱くなっていたオデコを、天空石にくっつけて冷やしながら考える。
奇跡力がないから、飛んで逃げることはできない……!
そうだ、また雷雲を作って……! って、ダメだ、奇跡力がないんだった!
いまボクにあるのは、ポポと、ピエールだけ……!
あっ、ピエールだ! ピエールがいたんだ……!
こ……こうなったら……!
ぶっつけ本番だけど、やるしかないっ……!
決意したボクは、ホコラから飛び出しながら叫ぶ。
「戦って、ピエール! 攻めてくるゴブリンたちを、残らずやっつけるんだ!!」
するとピエールは、またガッツポーズをとる。
どうやらこれが、新生ピエールの返事のようだ。
目があるのかはわからないけど、敵のいる方角はわかるようで、巨大な石臼が動くような音とともにゴブリンたちの方を向いた。
そして力強い足取りで踏み出し、立ち向かっていく。
一歩ごとにドシン、ドシンと重低音が突き上げてきて、ボクの心臓の高鳴りも増す。
まるで、壁が歩いてるみたいだった。
石オノを手に、突っ込んでくる緑の肌の小鬼たち。
迎え撃つピエールは、スレッジハンマーみたいに両手を高く振り上げた。
全体的に動きがゆっくりだったので、ボクは少し不安になったけど、
……ドゴォォォンッ!!
次の瞬間、それは振り下ろされていた。
目にも留まらぬ速さで振り下ろされた石の拳は、ゴブリンの群れのど真ん中に叩き込まれる。
真下にいたゴブリンはペチャンコになり、直撃を逃れたゴブリンはきりもみしながら吹っ飛ばされていた。
ピエールの足元から……土煙と瘴気が混ざった黒い煙のようなものが、もうもうと立ち上る。
夕焼けを受け、強い陰影を浮かび上がらせるその姿は……火の海となった街で、大暴れする怪獣みたいだった。
でも、ゴブリンたちは怯まない。
「ギャーァーァーッ!!」
大怪獣ピエールの足元に、波のように押し寄せる後続たち。
小人たちがしていたように石の身体をよじ登り、石オノをガンガンと打ち付けだした。
やばい、助けなきゃ……! と思っていたら、白い影が踊った。
屋根から飛びかかった猫のポポが、ピエールの身体に取り付くゴブリンの首筋に、ガブリと喰らいついていたんだ。
「ギャーッ!?」
たまらず悲鳴をあげて、ピエールの身体から落下するゴブリン。
ポポは空中で回転して受け身を取ると、再び跳躍する。
全身がバネになったみたいな、ものすごいジャンプ力だった。
ピエールに張り付いているゴブリンに噛みつき、次々に引き剥がしていくポポ。
叩き落とされたゴブリンを踏みつけ、蹴飛ばし、瘴気に変えていくピエール。
仲間たちのコンビネーションがあまりに見事だったので、ボクはつい見とれてしまい、
「す、すごい……! いいぞ! ピエール! ポポ! がんばれーっ!」
拳を振りかざしながら声援を送っていたんだけど、途中で観客になっちゃってることに気づいた。
そ、そうだ……見てないで、ボクも戦わなきゃ……!
なにか、武器になりそうなものは……!?
見回すと、集めておいた河原の石山が目に入った。
石……! 世界最古の飛び道具だって、本で読んだことがある……!
賽の河原の大鬼には効かなかったけど、小鬼と呼ばれるゴブリンになら……!
ボクは石山のてっぺんから、石をひとつ手に取る。
思いっきり振りかぶって、ゴブリンの群れめがけて石を投げつけてみたんだけど……全然届かなくて、群れの足元にコツンと当たっただけで終わってしまう。
ダメだ……! 当たらないどころか、ロクに届きもしないなんて……!
石を武器にするには、力が足りないんだ……!
ボクはあきらめそうになったけど、はたと思い直した。
……いや、待てよ……!?
ボールを投げるときのコツは、腕の力じゃなくて、体重移動だって本で読んだことがある……!
軸脚でしっかり立ったあと、あげたほうの脚に全体重を乗せるつもりで投げるんだ、って……!
ちゃんと投げることができれば、いけるかもしれない……!
ボクはもう一度、と石を拾い上げる。
そして頭の中で、何度も見返したメジャーリーグの試合動画を思い描く。
170キロの豪速球で、バッターに手も足も出させない、エースピッチャーの投球を……!
ボクは右足にぐっと力を入れて立ち、ぶらさないようにしながらゆっくりと左足を上げた。
そして振りかぶった手とともに、前に出した左足で、大地を踏みしめる……!
ボクは、世界最古の飛び道具を……世界最新の投球フォームで……投げ放つ……!!
「あったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
ボクの手から放たれた石は、先ほどのヘロヘロの軌跡ではなく、レーザーのようにまっすぐ進む。
風切音をたてる勢いのまま、ゴブリンの頭に命中した。
「ギャアッ!?」
もんどりうって倒れるゴブリン。
続けざまにピエールのストンピングが決まる。
「や……やった……!」
ボクは、生まれて初めて三振を奪ったような気分になった。
嬉しさのあまりガッツポーズしそうになっちゃったけど、すぐに水を差される。
乱戦から飛び出したゴブリンが、ボクのほうに向かってきたんだ。
「ギャアアーーッ! ……ギャアンッ!?」
血走った眼で襲いかかってくるゴブリンの眉間に、ボクの二投目がヒットする。
ゴブリンは尻尾を踏んづけられた犬みたいな悲鳴とともに前のめりに倒れ、勢いあまってボクの足元に滑り込んできた。
よし……! この調子でどんどんいくぞ……!
ボクはピエールとポポに当てないように注意しながら、石を投げまくった。
途中でターゲットを切り替え、川を横断して加勢にやって来る新手に向かって、石を投げ続ける。
ボクの投げる石は面白いほど命中し、倒れたゴブリンたちは水死体のように川に流されていく。
援軍を減らしたことで、天空城での戦いは圧倒的に有利になった。
ゴブリンたちは力をあわせてピエールの脚にしがみつき、倒そうとしていたんだけど、殲滅速度のほうが上回り、それもできなくなる。
よし、このまま押し切れる……! と思ってたんだけど、そうはうまくいかなかった。
川の向こうから、ゴブリンたちよりずっと大きい、ボスが現れたんだ……!
「……お……オーク!?」
二足歩行する凶悪な豚みたいな顔と、お相撲さんみたいに大きな身体……!
ゴブリンたちと同じく腰巻き一枚なんだけど、武器は石オノじゃない。
鬼の金棒みたいにでっかくて、黒光りする石柱……!
あんなのを振り回されたんじゃ、さすがのピエールもヤバいかもしれない……!
ボクは狙いをオークだけに絞り、石を投げまくる。
豚の頭に命中して、ガン! ゴン! と痛そうな音をたてるんだけど、全然ひるまない。
不機嫌そうな顔になるだけだった。
オークは天空城に上陸すると、ボクには目もくれずにピエールに挑みかかっていく。
迎え撃つピエールは、ゴブリンにしがみつかれていて動きにくそうにしている。
もたつく姿を見たオークは好機とばかりに、石柱を小脇に抱なおしていた。
重そうな身体をぶよぶよと揺さぶって、相撲の立合いのように、勢いよく突っ込んでいく……!
破城槌のような一撃が、ピエールの身体を捉えた瞬間……!
……ドッ……シャァァァァァーーーンッ!!!
あっという間に、ピエールの上半身がバラバラになる。
まるで散弾のように、あたりかまわず飛び散る石。
もはやピエールは下半身だけになっていたが、オークはトドメとばかりに石柱を薙いで、しがみついているゴブリンたちごとブッ飛ばす……!
……ガッ……シャァァァァァーーーンッ!!!
オークの続けざまの二撃によって、ピエールの身体は完全に砕け散ってしまう。
あたり一面では……巻き込まれた大量のゴブリンが瘴気と化し、黒煙のようにモクモクと立ち上っていた。
ポポの姿を探すと、うまいこと屋根の上に避難していた。どこもケガはしてないようだ。
ボクは叫び出したかったのを、ぐっとこらえる。
最強だと思っていたストーンゴーレムが、あっさりと壊されてしまった……。
けどボクは、自分でも信じられないほど落ち着いていた。
そして……怒っていた……!
このオークは、ゴブリンたちのボスなのに……!
平気な顔して、味方も巻き込む攻撃をした……!
そのうえ、「派手に散ったな」みたいな嬉しそうな顔をしてる……!!
許せない……許せないっ!!
こんなヤツに……ボクは負けるわけにはいかないっ……!!
絶対に……やっつけてやるっ!!!
…………。
……でも、投石が効かないのはわかっている。
ボクはひどく澄んだ頭で、あたりを見回す。
すると、足元で倒れているゴブリンが視界に入った。
ボクはしゃがみこんで、ゴブリンが腰に巻いていた紐を取る。
そしてありったけの石を、オーバーオールのポケットに詰め込んだ。
石を拾っている最中、手の甲が光っていることに気づいた。
どうやらゴブリンたちを倒したことで、レベルアップしたようだ。
でも……今はそれどころじゃない。
ボクは準備を終えて立ち上がると、オークがゆっくりとこちらに向かってくるのが見えた。
まるでアリを前にしているかのような、余裕しゃくしゃくのヤツに向かって……ボクは叫ぶ。
「さあっ、こいっ……!! ボクは……負けないぞぉぉぉぉっ!!!」
腹の底からの声は、獣の咆哮のようにあたりに響きわたった。
■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:7)
今回は割り振ったポイントはありません。未使用ポイントが2あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●創造の奇跡
魔法生物
(1) LV1 ゴーレム … ゴーレムを創る
(0) LV2 小人成長 … 小人を人間にする
(0) LV3 ??? … ???
有機生物
(0) LV1 絶滅 … 生命を絶滅させる
(0) LV2 成長促進 … 生命の成長を早める
(0) LV3 ??? … ???
回復
(0) LV1 治癒 … 病気や怪我を治す
(0) LV2 死者蘇生 … 死んだものを蘇らせる
(0) LV3 ??? … ???
●天候の奇跡
雲
(0) LV1 雲 … 家の煙突から雲を出せる
(0) LV2 虹 … 虹を出せる
(0) LV3 ??? … ???
風
(0) LV1 風 … 風を起こせる
(0) LV2 竜巻 … 竜巻を起こせる
(0) LV3 ??? … ???
雨
(1) LV1 雨 … 雨を降らせる
(0) LV2 洪水 … 洪水を起こす
(0) LV3 ??? … ???
雪
(0) LV1 雪 … 雪を降らせる
(0) LV2 大雹 … 大きな雹を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
雷
(1) LV1 雷 … 雷を落とす
(0) LV2 導雷 … 目標に誘導する雷を落とす
(0) LV3 ??? … ???
火
(0) LV1 火の粉 … 火の粉を降らせる
(0) LV2 火の玉 … 火の玉を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
●神通の奇跡
神の手
(1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る
(0) LV2 ウェポン … 武器を出す
(0) LV3 ??? … ???
神の叡智
(0) LV1 現界の声 … この世界の声を聞く
(0) LV2 異界の声 … 異界からの声を聞く
(0) LV3 ??? … ???
●天空城の奇跡
高度
(0) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる
(0) LV2 天空界 … 「天空界」まで飛ばせるようになる
(0) LV3 ??? … ???
速度
(0) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる
(0) LV2 高速移動 … 高速移動ができる
(0) LV3 ??? … ???
流脈
(0) LV1 消費減少 … 奇跡力の消費を抑える
(0) LV2 放出 … 天空城から物体を放出できる
(0) LV3 ??? … ???
障壁
(0) LV1 防御障壁 … 天空城を守るバリアを張る
(0) LV2 水中潜行 … 水中に潜れるようになる
(0) LV3 ??? … ???
●太陽の奇跡
気温上昇
(0) LV1 気温上昇 … 気温を上げる
(0) LV2 猛暑 … 猛暑にする
(0) LV3 ??? … ???
気温下降
(0) LV1 気温下降 … 気温を下げる
(0) LV2 寒波 … 寒波を起こす
(0) LV3 ??? … ???




