52 みんなで戦い、はじめます…!
「コップ? お水でも飲むの?」
「ううん、もっといいものを飲むんだ! ラヴィさんも来て来て!」
ボクは片手に木のコップ、片手にラヴィさんの手を引いて家を飛び出す。
牧場に戻ると、ウシたちのまわりにはすでにみんなが集まっていた。
「わぁ、これがウシさんなのね! 大きくて立派ねぇ! えらいえらい!」
合流したラヴィさんも、さっそくお父さんウシを撫ではじめる。
ボクはお母さんウシの前にしゃがみこんで、おっぱいに手を伸ばした。
「なにをしてるんですか? ソラ様?」
興味津々といった様子で、お母さんウシのおっぱい越しに覗き込んでくる、ノボルさんとクルミさん。
「へへへ……見てて!」
ボクはいくつもあるお母さんウシのおっぱいの先をつまんで、乳搾り動画のマネをして引っ張ってみた。
……ピューッ!
勢いよく飛び出す白い液体が、木のコップに溜まっていく。
「なっ……なんですか、それっ!?」
「牛乳だよ!」
「「ぎゅうにゅう?」」
不思議そうにハモる、ノボルさんとクルミさん。
なみなみとたまった牛乳を、ボクはひと口飲んでみた。
「おっ……おいしいいいいいいっ!?!?」
生まれて初めての牛乳……そのあまりの美味しさに、ボクはひっくり返りそうになる。
水やお茶と違って、まったりとしたコクがあって、ほんのりと甘くて……それなのにスッキリした感じもあって、ゴクゴクいけちゃいそうだ……!
ボクはひと口だけ飲んだあと、みんなにも飲ませてあげようとしたんだけど……気がついたら飲み干していた。
気がつくと、みんなが羨むように「ごくりっ」と喉を鳴らして注目していたので、ボクは乳搾り屋さんになる。
「ああっ……おいしい~! アタシって牛乳ニガテなんだけど、しぼりたてってこんなに美味しいのね!」
「んまぁ……! これがウシさんのお乳なの? こんなに美味しいものを出せるなんて……! えらい、えらいわぁ……!」
「うわぁ……! すごいです……! これが、ぎゅうにゅうなんですね……!」
「うまっ!? うまあっ! 水よりずっとイケる!」
「うみゃむにゃむみゃむ」
アンジュさん以外は初めての牛乳。ちょっとクセのある飲み物ではあるけど大好評。
猫のポポにいたってはお母さんウシの下に潜り込んで、直接おっぱいに吸い付いている。
口のまわりを牛乳で白くして、笑いあっているみんな。
ボクはしみじみと幸せを実感していた。
ああ……やっぱりウシを捕まえてよかった……!
牛乳には栄養もたっぷりだから、集落のみんなも喜んでくれるに違いない……!
ボクは牛乳をたっぷり飲んだあと、大満足で牧場から離れる。
牛乳を飲んだあとは、なんだかモリモリとやる気が湧いてくるような気がして……いてもたってもいられなくなった。
よぉし……この勢いがあるうちに、残りの家畜も捕まえに行っちゃおう!
牧場を作るための、最後の動物……それはブタだ。
でも、ウシが簡単に捕まえられた『吸収』の奇跡があるので、それを使えばブタも簡単に捕まえられるだろう。
さっそくブタを探そうと、スマート天空石を操作してたんだけど……ノボルさんとクルミさんがやってきて、真剣な顔をしてボクに言ったんだ。
「ソラ様! ブタは俺たちの手で捕まえます!」「捕まえさせてください!」
ふたり揃って懇願してきたので、ボクはどうしたのかと思って話を聞いてみた。
すると……今までの動物はぜんぶボクの知恵で捕まえてきたので、最後のブタだけは自分たちの力で捕まえたいらしい。
「俺たち人間はずっと、ソラ様のお知恵に助けられてきたから……今度は俺たちが、ソラ様のお役に立ちたいんです!」「立ちたいんです!」
一生懸命なふたりに、ボクはちょっと驚いたんだけど……それ以上に嬉しくなった。
それに、ふたりがしたいと思っていることを、ボクは止めるつもりはない。
「うん、わかった! じゃあ、ブタは草原の集落のみんなに任せるよ!」
ボクが大きく頷くと、花が咲いたみたいにパアッと顔を明るくするふたり。
「でも、これだけは覚えておいてね。今までの動物も、ボクひとりの力で捕まえたわけじゃないんだ。ボクが神様だったから、できたわけじゃない……みんながいてくれたから、何度失敗してもチャレンジできて、なんとか捕まえられたんだ。だから、あきらめないこと! どんなに失敗しても、みんなで協力すれば……きっと捕まえられるから!」
「「はいっ!!」」
ノボルさんとクルミさんは、希望に満ちた表情で頷き返してくれた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ノボルさんとクルミさんが草原の集落に戻って何日かしてから、ついに牧場が完成した。
集落のみんなは協力して、見事ブタを捕まえたんだけど……ボクらは天空石ごしにその様子を見ながら応援してたんだ。
ケガをしながらも何人もの男の子で押さえつけ、最初のブタを捕まえたときには、天空城のみんなで「キャーッ!」と抱き合って大喜びした。
最後のブタが揃ったところで、草原の集落では本格的な畜産がはじまった。
ヒツジから採れる繊維や、ウシの牛乳、ニワトリの卵、ブタの肉……。
栄養たっぷりのものが、安定して供給できるようになったんだ。
しかもウマを使えば、大量の荷物を速く運べるようになったので、他の集落との交易も盛んになる。
森の集落は農業、海の集落の漁業……新鮮な野菜や魚が、みんなで分け合えるようになったんだ……!
人間の数も増えていくようになって、集落も競い合うように大きくなっていく。
ボクも見守ることが多くなって、主に『天啓』を使って人間に知恵を授けることが多くなった。
より多くの荷物を運ぶために『馬車』の作り方を教えてあげたり、より沖に出て漁ができるように『船』の作り方を教えてあげた。
穀物を荒らす害獣のやっつけ方や、病気に効く薬草の種類、高床式の家の作り方を教えてあげた。
新しい物が作り出され、人間たちの生活が豊かになっていくたびに……ボクのレベルもどんどんあがっていって、気がついたらレベル40になっていた。
人口もだいぶ増えてしまって、もう顔も名前もわからない人間たちが多くなった頃……ついに人間たちが決起したんだ。
「ソラ様の名の元に! 我らの自由を勝ちとろうっ!」
「ソラ様の名の元に! 我らの生活を脅かす、モンスターを一掃しよう!」
「ソラ様の名の元に! 我らのさらなる領土拡大を!」
三つの集落にはどれも、ボクの大きな像を祀ってある広場があるんだけど、ある日勢揃いした人間たちが、武器を手に手に叫んでいた。
人間たちの数が多くなり、集落も大きくなっていくにつれ……近隣を支配するモンスターとの小競り合いも多くなっていた。
いままでは我慢していたようなんだけど……ついに人間たちの怒りが爆発しちゃったらしい。
鬨の声をあげる人間たちを天空石から眺めていると、背後から声がした。
「ソラ、どうするつもりなの? このままじゃ人間たち、勝手にモンスターの領土に攻め込んじゃうよ?」
ちょっと人間たちに呆れている様子のアンジュさん。
「ソラちゃん……みんながケガしないように、助けてあげて!」
お母さんみたいに人間たちを心配しているラヴィさん。
「マスター、ご決断を」
参謀のように語りかけてくるフルール。
「ブヒヒヒンッ!」「ニャーン!」
「やりましょう!」とばかりに鳴くユニコと、その背中に「ブレーメンの音楽隊」みたいに乗っているポポ。
……ボクは思い返していた。
最後に戦った、海のボスである『マーマンママ』……あのモンスターとの激闘を終えてからというもの、なるべくモンスターとは戦いたくないと思うようになったことを。
あの時は、なんとか勝ったから良かったものの……みんなは深く傷つき、絶望していた。
ボクはその時思ったんだ……みんなのあんな姿は……もう見たくないと……!
だから、集落の発展のほうに力を注ぐようになったんだ。
そのほうが、戦いよりもみんなを笑顔にできると思ったから。
でも……それももう、限界のようだ。
もしかしたら『マーマンママ』以上の強敵が待ち構えているかもしれない。
しかし……あの時とは状況が大きく違っている。
仲間は大勢いるし、武器だってずっとパワーアップしているんだ。
それに、なによりも……ボクだってもう、小さな子供じゃないんだ……!
ボクは知らず知らずのうちに高くなっていた目線で、みんなを見回したあと……力強く頷いた。
「よし……やろう! この世界をモンスターから取り戻すための戦いを……再び始めようっ!!」
ソラはこれから領土拡大の戦いをはじめますが、ここでひとまず完結とさせていただきます。
拙い文章に最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:40)
今回は割り振ったポイントはありません。未使用ポイントが15あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●天空城の奇跡
高度
(1) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる
(0) LV2 天空界 … 「天空界」まで飛ばせるようになる
(0) LV3 神聖界 … 「神聖界」まで飛ばせるようになる
速度
(3) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる
(1) LV2 高速移動 … 高速移動ができる
(0) LV3 瞬間移動 … 瞬間移動ができる
流脈
(1) LV1 消費減少 … 奇跡力の消費を抑える
(1) LV2 放出 … 天空城から物体を放出できる
(3) LV3 吸収 … 天空城から物体を吸収できる
障壁
(0) LV1 防御障壁 … 天空城を守るバリアを張る
(0) LV2 水中潜行 … 水中に潜れるようになる
(0) LV3 地中潜行 … 地中に潜れるようになる
●大地の奇跡
操地
(0) LV1 隆起 … 地面を隆起させる
(0) LV2 陥没 … 地面を陥没させる
(0) LV3 ??? … ???
噴出
(0) LV1 噴水 … 水を噴出させる
(0) LV2 噴火 … 火を噴出させる
(0) LV3 ??? … ???
地動
(0) LV1 地震 … 地震を起こす
(0) LV2 地割れ … 地割れを起こす
(0) LV3 ??? … ???
●神通の奇跡
神の手
(1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る
(1) LV2 ウェポン … 武器を出す
(0) LV3 マジック … 天空城の奇跡を手から出せる
神の叡智
(2) LV1 現界の声 … この世界の声を聞く
(1) LV2 異界の声 … 異界からの声を聞く
(1) LV3 天啓 … 人間に知恵を授ける
●創造の奇跡
魔法生物
(4) LV1 ゴーレム … ゴーレムを創る
(1) LV2 小人成長 … 小人を人間にする
(1) LV3 使徒成長 … 人間を使徒にする
有機生物
(1) LV1 絶滅 … 生命を絶滅させる
(1) LV2 成長促進 … 生命の成長を早める
(0) LV3 生殖 … 生命を親にする
回復
(1) LV1 治癒 … 病気や怪我を治す
(0) LV2 死者蘇生 … 死んだものを蘇らせる
(0) LV3 死者転生 … 異界から死者を蘇らせる
●水勢の奇跡
波浪
(0) LV1 小波 … 小さな波を起こす
(0) LV2 大波 … 大きな波を起こす
(0) LV3 津波 … 津波を起こす
水かさ
(1) LV1 減水 … 水を減らす
(1) LV2 増水 … 水を増やす
(1) LV3 海割り … 水を一時的に割る
操水
(0) LV1 霧散 … 霧を作り出す
(0) LV2 噴水 … 水を噴出させる
(0) LV3 渦 … 渦を作り出す
水中
(0) LV1 呼吸 … 水中で呼吸できるようになる
(0) LV2 浮力増 … 水中の浮力を増やす
(0) LV3 浮力減 … 水中の浮力を減らす
●天候の奇跡
雲
(1) LV1 雲 … 家の煙突から雲を出せる
(0) LV2 虹 … 虹を出せる
(0) LV3 ??? … ???
風
(0) LV1 風 … 風を起こせる
(0) LV2 竜巻 … 竜巻を起こせる
(0) LV3 ??? … ???
雨
(1) LV1 雨 … 雨を降らせる
(0) LV2 洪水 … 洪水を起こす
(0) LV3 ??? … ???
雪
(0) LV1 雪 … 雪を降らせる
(0) LV2 大雹 … 大きな雹を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
雷
(1) LV1 雷 … 雷を落とす
(0) LV2 導雷 … 目標に誘導する雷を落とす
(0) LV3 ??? … ???
火
(0) LV1 火の粉 … 火の粉を降らせる
(0) LV2 火の玉 … 火の玉を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
●太陽の奇跡
気温上昇
(0) LV1 気温上昇 … 気温を上げる
(0) LV2 猛暑 … 猛暑にする
(0) LV3 ??? … ???
気温下降
(0) LV1 気温下降 … 気温を下げる
(0) LV2 寒波 … 寒波を起こす
(0) LV3 ??? … ???




