50 新たなる奇跡で、吸い込みます
目がくらむほどの光が射し込む窓の向こうには、いくつものシルエットが蠢いている。
頭のてっぺんにある、ちょろんとした毛にピンと立った耳。
逆光になっているので顔がわからず、最初はモンスターか何かだと思ってビックリしてしまった。
やがて、目が慣れてきて……その正体が窓に殺到しているターパンたちだとわかる。
ああ、ビックリした……牧場にいたウマたちが、夜のうちに逃げ出しちゃったんだろう。
そう思って、別の窓から牧場のほうを見てみたんだけど……ウマの群れは特に変わりなさそうに、朝ごはんの草をムシャムシャと食べていた。
不思議に思って窓ごしに数を数えてみたんだけど……減ってもいなかったし、増えてもいなかった。
あれ? ということは……窓の外にいるウマたちは、新たに集まってきたウマなんだろうか?
でも、なんでだろう……? この天空城の家に、なにかウマたちを引き寄せるようなものがあるのかな?
そう思ってハッとなる。窓ごしのウマたちの視線が、ベッドの片隅に熱く注がれていることに。
そこには、白くて丸い毛玉があったんだ……!
安らかな呼吸にあわせて、表面がクークーと上下しているその姿。
まさかウマたちは、家の中まで嗅ぎつけてくるほどに猫が好きだったなんて……!
外にいるウマたちは、猫のポポを舐めたくてたまらない様子で、窓をベロベロ舐めている。
その光景はなんだか異様で、ラヴィさんは「このおウマさんたち、どうしちゃったのかしら?」と戸惑っている。
アンジュさんは、「んあ~? なんかあったのぉ~?」と寝ぼけていた。
ボクはベッドの隅にいるポポを、起こさないようにそーっと抱き上げる。
寝ているポポは、いつも以上にあたたかかった。
胸にぬくもりを感じながら寝室を出て、そのまま外に出る。
窓のそばから移動したウマたちがゾロゾロとついてきたので、ボクは牧場へと走った。
牧場の出入り口の柵を開けて中に飛び込むと、今度は牧場の中にいたウマたちが「大・大・大好きな猫が来た!」とばかりにまっしぐらに向かってきた。
ボクはラグビーボールのようにポポを抱えたまま、迫りくるウマたちをかわして逃げ回る。
新入りのウマたちをみんな柵の中に誘導したところで、ボクは柵の外に向かって走った。
柵の出入り口のほうに向かわなかったのは、柵を閉めるのが間に合わなくて、ウマが牧場の外に出ちゃうと思ったからだ。
「そ……ソラちゃんっ!」
柵の外ではハラハラした様子で手を伸ばすラヴィさんがいる。
これは、ちょうどいいかもしれない……!
「ラヴィさん……! パスっ! 逃げて!」
ボクはラヴィさんの胸めがけてポポを押し付けた。
大きな胸をポヨンとは弾ませながら、ラヴィさんはポポを抱きとめてくれる。
このままラヴィさんが逃げてくれれば、作戦成功だったんだけど……彼女は逃げようとせず、柵ごしにボクを抱え上げようとしてきた。
「ソラちゃんも早く、こっちへ!」
「ラヴィさん、ウマたちの狙いはポポなんだ! ボクは大丈夫だから、ポポだけ連れて逃げて!」
背後から迫ってくる蹄の音に、ボクは必死になって叫ぶ。
しかしラヴィさんは、泣きそうな顔でイヤイヤと首を振った。
「ソラちゃんだけ置いて逃げるなんて、できないわっ!」
「い、いや、違うって! このままじゃ三人とも……わあああっ!?」
……ドドドドドドッ!
押し寄せる茶色い波に飲み込まれるボク、ラヴィさん、そしてポポ。
「きゃああああっ!?」
「ミャアアアアアアンッ!?」
……結局、ポポだけじゃなくて……ボク、ラヴィさんまでもが巻き込まれ、ウマたちの舌で舐められまくってしまった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
朝からウマの唾液まみれになって、大変だったけど……おかげで新たなウマの群れを手に入れることができた。
数えてみると、50匹を超えるほどの数にまで増えていた。
そのおかげで、ボクは1レベルアップする。
あ……そうだ!
それよりも『スカイシード』……! 昨日埋めた種はどうなったんだろう!?
肝心なことを思い出したボクは、ホコラのすぐ外に埋めた種を確認してみた。
しかし……何ともなってない。
埋めた場所が悪かったのかな? と思って掘り返してみたんだけど……そこにはもう種はなかった。
キツネにつままれたようになっているボクに、すぐ目の前にある天空石のオジサンが声をかけてきた。
「ソラよ、『スカイシード』ならもう天空石に吸収済じゃ。新しい機能が追加されておるぞい」
その言葉に、ボクはとっさに天空石に飛びつく。
「ど……どんな機能!? どんな機能!?」
「それはな……『放出吸収補助』じゃ……!」
『吸収放出補助』……それは、『天空城の奇跡』にある『放出』と『吸収』をパワーアップさせるものらしい。
『放出』は天空城の真下から放出エネルギーを放つ。
『吸収』はその逆で、天空城の真下から吸収エネルギーを放てる奇跡だそうだ。
使い方としては、天空城が空に浮いていても、『吸収』があれば地上のものを吸い寄せることができるらしい。
でも、『吸収』を使っても吸い寄せるだけなので、浮いている天空城の真下でくっついたままになるそうだ。
しかし……『吸収放出補助』があれば、吸い寄せたものを天空城の庭に転送できるようになるらしい。
『放出』についても、天空城の庭にあるものを選べるようになり、地上に向かって放出できるそうだ。
オジサンからの説明を聞いたボクは、なんとなくUFOを想像していた。
夜空にフワフワ浮いているUFO。
その底面がパカッと開いて、黄色い放射状の光が地上に降り注ぎ……牧場のウシとかを吸い上げていくんだ。
いわゆる、『キャトルミューティレーション』というやつ。
それがこの、天空城でもできるようになったのか……! とボクの心は弾んだ。
スカイシードが天空城に吸収され『吸収放出補助』を得た時点で、ボクはさらにレベルアップしていた。
レベルが29になり、奇跡ポイントも6ポイントほどたまっている。
これだけあるなら、少しくらいなら使っても大丈夫だろう……と『消費減少』と『放出』と『吸収』にポイントを振り、取得してみた。
待ちきれないボクは、さっそく宇宙人体験をするべく……天空城を空へと飛ばす。
空から地上を見下ろしながら、スマート天空石を操作する。
『奇跡』アイコンをタッチし、奇跡一覧の中からまず『吸収』を選んでみた。
すると画面が切り替わり、天空城の真下が映し出される。
どうやらこの画面で、吸収するものを選ぶようだ。
地上には、ボクの膝下くらいある手頃な大きさの岩があったので、試しに触れてみた。
ふと、地上のほうから強い光があふれてくるのを感じる。
天空城の外にある柵から身を乗り出し、下のほうを覗き込んでみると……まさにボクが想像していたような光景が繰り広げられていたんだ。
スポットライトのようになった光の中を、空に舞いあがるタンポポの綿毛みたいにフワフワと浮かびあがってくる岩。
天空城の底についた時点で、フッと消える。
次の瞬間には、消えたはずの岩が……天空城の庭の芝生から、ピョコンと飛び出してきたんだ……!
「すっ……すごいっ! 本当に、吸い寄せちゃったんだ……! まるで手品みたい……!」
何の変哲もない岩に向かって、ボクがひとりで感激していたので、まわりのみんなはなんだか不思議そうだった。
ボクはみんなにも見せてあげたくなって、地上の岩を次々と吸い上げてみる。
庭からポップコーンのようにポンポンと飛び出してくる岩に、みんなは腰を抜かしてびっくりしていた。
ようし、今度は『放出』を試してみよう。
ボクは続けて、『放出』の奇跡を使ってみる。
『放出』は天空城を真上から見た画面になって、そこからなにを放出するのか選ぶようだ。
さっそくさっき吸い上げた岩たちを、まとめてタッチしてみる。
すると……岩たちは音もたてず、何の抵抗もなさそうにシュルンと芝生に吸い込まれて消えた。
そしてまた、地上に光があふれる。
再び乗り出して、覗き込んでみると……いくつもの岩が、まるで水のなかに沈むようにゆっくりと地上に降りていくのが見えた。
何事のなかったかのように、元の位置に戻る岩たち。
それは、それだけ見ると何気ない光景だったんだけど……ボクはなんだか自分がすごい力を手に入れたみたいな、なんともいえない興奮が沸き起こるのを感じていた。
誰も知らないうちにそっと吸い上げて、誰も知らないうちにまたそっと元に戻せるなんて……!
すごい……! 面白い……! まるで本当に宇宙人になったみたいだ……!
いままでの奇跡はファンタジーっぽかったけど、この奇跡はSFっぽくてカッコイイ……!
これなら『キャトルミューティレーション』もできそうだ……!
そしてふと、ボクは思い立つ。
これで牧場の動物が、捕まえられるじゃ……!? と。
■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:29)
スカイシードが天空石に吸収されたので、『天空城の奇跡』LV3が解放されました。
今回は『消費減少』と『放出』と『吸収』に1ポイントずつ割り振りました。未使用ポイントが3あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●天空城の奇跡
高度
(1) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる
(0) LV2 天空界 … 「天空界」まで飛ばせるようになる
(0) LV3 神聖界 … 「神聖界」まで飛ばせるようになる
速度
(3) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる
(1) LV2 高速移動 … 高速移動ができる
(0) LV3 瞬間移動 … 瞬間移動ができる
流脈
(1) LV1 消費減少 … 奇跡力の消費を抑える
(1) LV2 放出 … 天空城から物体を放出できる
(1) LV3 吸収 … 天空城から物体を吸収できる
障壁
(0) LV1 防御障壁 … 天空城を守るバリアを張る
(0) LV2 水中潜行 … 水中に潜れるようになる
(0) LV3 地中潜行 … 地中に潜れるようになる
●大地の奇跡
操地
(0) LV1 隆起 … 地面を隆起させる
(0) LV2 陥没 … 地面を陥没させる
(0) LV3 ??? … ???
噴出
(0) LV1 噴水 … 水を噴出させる
(0) LV2 噴火 … 火を噴出させる
(0) LV3 ??? … ???
地動
(0) LV1 地震 … 地震を起こす
(0) LV2 地割れ … 地割れを起こす
(0) LV3 ??? … ???
●神通の奇跡
神の手
(1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る
(1) LV2 ウェポン … 武器を出す
(0) LV3 マジック … 天空城の奇跡を手から出せる
神の叡智
(2) LV1 現界の声 … この世界の声を聞く
(1) LV2 異界の声 … 異界からの声を聞く
(1) LV3 天啓 … 人間に知恵を授ける
●創造の奇跡
魔法生物
(4) LV1 ゴーレム … ゴーレムを創る
(1) LV2 小人成長 … 小人を人間にする
(1) LV3 使徒成長 … 人間を使徒にする
有機生物
(1) LV1 絶滅 … 生命を絶滅させる
(1) LV2 成長促進 … 生命の成長を早める
(0) LV3 生殖 … 生命を親にする
回復
(1) LV1 治癒 … 病気や怪我を治す
(0) LV2 死者蘇生 … 死んだものを蘇らせる
(0) LV3 死者転生 … 異界から死者を蘇らせる
●水勢の奇跡
波浪
(0) LV1 小波 … 小さな波を起こす
(0) LV2 大波 … 大きな波を起こす
(0) LV3 津波 … 津波を起こす
水かさ
(1) LV1 減水 … 水を減らす
(1) LV2 増水 … 水を増やす
(1) LV3 海割り … 水を一時的に割る
操水
(0) LV1 霧散 … 霧を作り出す
(0) LV2 噴水 … 水を噴出させる
(0) LV3 渦 … 渦を作り出す
水中
(0) LV1 呼吸 … 水中で呼吸できるようになる
(0) LV2 浮力増 … 水中の浮力を増やす
(0) LV3 浮力減 … 水中の浮力を減らす
●天候の奇跡
雲
(1) LV1 雲 … 家の煙突から雲を出せる
(0) LV2 虹 … 虹を出せる
(0) LV3 ??? … ???
風
(0) LV1 風 … 風を起こせる
(0) LV2 竜巻 … 竜巻を起こせる
(0) LV3 ??? … ???
雨
(1) LV1 雨 … 雨を降らせる
(0) LV2 洪水 … 洪水を起こす
(0) LV3 ??? … ???
雪
(0) LV1 雪 … 雪を降らせる
(0) LV2 大雹 … 大きな雹を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
雷
(1) LV1 雷 … 雷を落とす
(0) LV2 導雷 … 目標に誘導する雷を落とす
(0) LV3 ??? … ???
火
(0) LV1 火の粉 … 火の粉を降らせる
(0) LV2 火の玉 … 火の玉を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
●太陽の奇跡
気温上昇
(0) LV1 気温上昇 … 気温を上げる
(0) LV2 猛暑 … 猛暑にする
(0) LV3 ??? … ???
気温下降
(0) LV1 気温下降 … 気温を下げる
(0) LV2 寒波 … 寒波を起こす
(0) LV3 ??? … ???




