47 暴れウマと、仲良くなります
ボクは一時期、西部劇に夢中になっていた。
日がな一日中、タブレットで西部劇の映画を観まくっていたんだ。
その中でも一番好きだったのは、とある西部劇の冒頭部分。
ふらりと街にやってきた流れ者の主人公が、街の人たちも手を焼いていた暴れウマを乗りこなすというシーン。
大暴れする馬の背中で、主人公は手綱もなしにバランスをとって、ひたすらウマに話しかけて説得し……そしてとうとう大人しくさせちゃうんだ……!
力ずくではなくて、心を通わせてウマと仲良くなるんて、なんてカッコイイんだ……!
とボクは薄暗い病室のなかでひとり感動し、自分も主人公になったつもりで暴れウマを乗りこなす空想をよくやった。
そしていまボクは、夢にまで見たそれを現実でやろうとしている……!
なんとかこのウマと仲良しになって、いっしょに天空城に帰るんだ……!
ボクは、仕方なしといった様子でボクとフルールを乗せている、鼻息荒いリーダー馬に向かって話しかける。
「ねぇ、ちょっと話をしようよ。……ボクと一緒に来ない? 天空城の牧場にはおいしい草がいっぱいあるよ」
しかしリーダーは、ブヒヒン! といなないて首を激しく振り回した。
「まぁまぁ、そう言わずに……牧場には外敵もぜんぜんいないから、脚をたたんで眠れるよ」
ボクはめげずに、首筋を撫でながら話しかけ続ける。
「……えーっと、それにやさしい人たちもいっぱいいるよ。アンジュさんに、ラヴィさん、それにポポやフルールも……」
すると、背後から冷たい声がした。
「自分には『やさしさ』という概念が理解できませんが、自分もその概念を持ち合わせているのですか?」
「うん、だってボクを助けてくれるじゃない。おいしいハチミツもくれるし……」
そこでボクはあることを思いついた。
「マスターの守護と命令に従うのは、ゴーレムの本分だからです」というフルールに向かって、ボクはお願いする。
「ねぇフルール、足元に落ちてる木の枝を拾って。そして先にハチミツをつけてほしいんだ」
「承諾しました。片手はアイヴィーウイップでウマを拘束していますので、マスターの腰にまわした手を、五秒間離します」
ボクが「わかった」と答えるなり、ボクの腰にあったフルールの手が地面にかざされる。
シュバッ! と飛び出したツルが、ウマの足元にあった木の枝を絡め取った。
まるでカメレオンの舌みたいだ……! とボクが驚いている間に、
「どうぞ、先にハチミツをつけた木の枝です」
と背後から枝をそっと差し出してくれるフルール。
まるで、お祭りで買ったワタアメを渡してくれるお姉さんみたいだ……と思いながら受け取る。
「……やっぱり、フルールはやさしいね」
「不承諾しました。やはり概念として理解できません」
「まあまあ、すぐに理解できなくても、いずれわかるようになるよ。ありがとう、フルール」
「どういたしまして」
ボクは受け取った木の枝の先を、なるべく驚かせないようにリーダーの馬面の横に持っていく。
「ほら、ハチミツだよ。甘くておいしいから、舐めてみて」
……ブヒン! と鼻を鳴らしながら、枝の先についたハチミツを嗅ぐリーダー。
笑ってるみたいな表情になっているのは、ハチミツのニオイに反応している証拠だ。
リーダーは長い舌を伸ばして、ハチミツを舐めとる。
最初はおそるおそるだったんだけど、気に入ったのか枝についたハチミツをベロベロしだした。
近くにいた牝馬たちも集まってきて、どれどれと味見をはじめる。
ウマはリンゴが好物なように、甘いものが好きなんだ。
このハチミツをうまく使えば、仲良くなれるかも……!
「ねぇ、フルール、どんどんおかわりちょうだい!」
「承諾しました」
ウマの唾液でベタベタになった枝をフルールに向けると、花束みたいな手の先からトローリと黄金色の液体を落としてくれた。
待ちきれない様子の牝馬たちは我先にと舐めようとしてくるんだけど、ボクはなるべくリーダーにあげるようにする。
「……どう? おいしいでしょ? ボクといっしょに牧場まで来れば、このおいしいハチミツも食べ放題だよ?」
「自分のハチミツは無限ではありませんので、食べ放題という行為は成立しません。いま自分の身体の中に残っているハチミツは、452グラムです」
「でも、いくらでも作れるんだよね? なら食べ放題みたいなもんだよ! おかわり!」
「再生成には、時間が必要ですが……おかわり、承諾しました」
それからボクらは、ひたすらハチミツを振る舞ったんだけど……結局食べつくされるまで、ウマたちはそこを動かなかった。
満足そうに口のまわりをペロペロしているリーダーに向かって、ボクは説得を続ける。
「おいしかった? このハチミツが食べられるんだよ? もちろんリンゴもいっぱい用意してあるから、食べ物には不自由しなくなるよ?」
しかし、もうハチミツが出てこないとわかると……リーダーは天空城とは真逆の方角に向かってパカパカと歩きだした。
「あっ!? そっちじゃないよ! 逆、逆! 逆に行こうよ! きっと楽しいよ!」
ボクは言葉だけじゃなく、リーダーの首に巻き付いているツタを引っ張って誘導しようとしたんだけど、全然言うことを聞いてくれない。
「あぁん、もう! そっちじゃないってばぁ!」
移動中、ボクは駄々っ子みたいに身体を揺さぶっていたんだけど、歯医者に連れて行かれる子供みたいに無力だった。
途中、「蜂で誘導するのはどうですか?」とフルールは言ってくれたんだけど、手荒なことはしたくなかったので、ボクは断った。
しばらくして、木がポツンと立っている池が現れる。
それでボクは理解した。ウマたちは喉がかわていたんだと。
しかし……リーダーは池の手前でピタリと止まった。
どうやら、他のウマの群れがいるから、池に近寄れないようだ。
ウマにも、水場争いがあるのか……とボクは思った。
リーダーは先にいるウマの群れがいなくなるのを待っているようだったけど、先客たちは水を飲み終わってるっていうのに、全然どこうとしない。
もしかして……意地悪してるのかな?
リーダーは辛抱強く待ってたんだけど、いつまで経ってもいなくならないので、苛立っているようだった。
ボクが背中に乗って暴れていたときのように、耳と皮膚を震わせている。
これは、ウマが激しいストレスを感じているときの反応だ。
ボクが背中に乗っているのはもう慣れたようだから、水が飲めないのが不満なんだろう。
先にいるウマたちには悪いけど……ボクはちょっと手助けしてあげることにした。
「よし、フルール、蜂を出して! 蜂で水場のウマたちを追い払うんだ! あ、でも、刺しちゃダメだよ? まとわりつくだけにしてね!」
「承諾しました」
ブォォォォンと扇風機のような音と風が、ボクの背後から生まれる。
首をひねって後ろを見ると、黒い煙のような蜂の群れが、フルールの身体からたちのぼっていた。
蜂軍団はリモコンで操縦されているかのように、脇目もふらずに水場に向かうと、ウマたちの顔にたかりだす。
それがよほど嫌だったのか、ウマたちはパニックになったみたいにいななき、暴れだす。
こりゃたまらんといった様子で四散し、バラバラになって水場から離れていった。
「ごめんねぇーっ! ……これでよし、水が飲めるようになったよ!」
リーダーはウマたちの背中を見送ってたんだけど、ボクの言葉にハッと我に返る。
気を取り直した様子でパカパカと蹄を鳴らし、水場へと近づいていく。
群れのウマたちは池のまわりで輪になって、水面に顔を垂らしはじめた。
ゴクゴクと音が聴こえてくるほどに、水をガブ飲みしている。
よっぽど喉が乾いてたんだなぁ……もしかしたらボクが追いかける前から、この水場に向かおうとしていたのかもしれない。
ふと、池の対面に白くてモコモコしたものがあった。
一瞬なにかと思ったんだけど、犬のポポだった。
そういえば、ウマの背中に乗り移ったあとはなるべく距離をとってついてくるように言ってあったんだ。
犬のポポが近づきすぎると、ウマが怖がっちゃうと思ったから。
きっとポポもたくさん走って、喉が乾いていたんだろう。
最初は遠くで見てたんだろうけど、途中で我慢できなくなって……池の水を飲みにきたに違いない。
「……ポポ! 猫になって! 犬だとウマが怖がっちゃうから!」
ボクは池の向こうにいるポポに声をかける。
声に反応して耳をピンと立てたポポは、しゅるしゅると縮んで白猫になってくれた。
すると……急にウマたちが動き出す。
池のまわりをぐるっと回って、ポポの元に近づいていく。
どうしちゃったんだろう? と思っていると……。
リーダーはポポの身体に、まるで池の水を飲んでいたときみたいに口を近づけ、長い舌でベロンとひと舐めした。
リーダーだけじゃない、牝馬たちもポポを取り囲み、舌で撫でるように舐めまわしはじめたんだ。
ウマは草食だから、ポポを食べようとしているわけじゃないよね……?
そしてボクは、はたと思い出す。
ウマは、猫やウサギが大好きだということを……!
ある牧場ではウマのストレスをなくすために、猫とウサギをいっしょに飼っているというのをインターネットで見たことがある。
外で雨が降ると、自らの身体を屋根にして……足元で猫やウサギたちに雨宿りさせてあげるんだって。
しかし多くのウマたちから、よってたかって舐められまくったポポは嫌だったようで、
ウミャアアアアアン!
とケバ立った身体で悲鳴をあげながら、ウマたちから距離をとっていた。
しかしウマたちは、群れに子供ができたようなやさしい顔でポポに再び近づいていく。
ボクはとっさに叫んだ。
「……ポポ! 天空城に向かって! ウマたちを誘導するんだ!」
ミャッ、と短く鳴いて、ウサギのようにピョンピョン跳ねて池から離れるポポ。
「お待ちなさい、おチビちゃん」とばかりに後に続くウマたち。
愛情あふれる表情でポポを追いかけ回すその姿を見ていると、なんだかラヴィさんのように思えてきた。
ラヴィさんがこれだけいたら、きっと素敵だろうなぁ……とボクは思ったんだけど、ポポは「冗談じゃない!」という感じだった。
ラヴィさんはポポを抱っこするのが好きなんだけど、たまに嫌がられてしょんぼりしているところを見かける。
そんなポポにとって、ラヴィさんはひとりでじゅうぶんなんだろう。
追いかけられるポポは、ちょっとかわいそうだったけど……でもそのおかげで、ボクらはあっさりウマたちを天空城の牧場に連れて帰ることができたんだ。
■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:26)
今回は割り振ったポイントはありません。未使用ポイントが3あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●大地の奇跡
操地
(0) LV1 隆起 … 地面を隆起させる
(0) LV2 陥没 … 地面を陥没させる
(0) LV3 ??? … ???
噴出
(0) LV1 噴水 … 水を噴出させる
(0) LV2 噴火 … 火を噴出させる
(0) LV3 ??? … ???
地動
(0) LV1 地震 … 地震を起こす
(0) LV2 地割れ … 地割れを起こす
(0) LV3 ??? … ???
●神通の奇跡
神の手
(1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る
(1) LV2 ウェポン … 武器を出す
(0) LV3 マジック … 天空城の奇跡を手から出せる
神の叡智
(2) LV1 現界の声 … この世界の声を聞く
(1) LV2 異界の声 … 異界からの声を聞く
(1) LV3 天啓 … 人間に知恵を授ける
●天空城の奇跡
高度
(1) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる
(0) LV2 天空界 … 「天空界」まで飛ばせるようになる
(0) LV3 ??? … ???
速度
(3) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる
(1) LV2 高速移動 … 高速移動ができる
(0) LV3 ??? … ???
流脈
(0) LV1 消費減少 … 奇跡力の消費を抑える
(0) LV2 放出 … 天空城から物体を放出できる
(0) LV3 ??? … ???
障壁
(0) LV1 防御障壁 … 天空城を守るバリアを張る
(0) LV2 水中潜行 … 水中に潜れるようになる
(0) LV3 ??? … ???
●創造の奇跡
魔法生物
(4) LV1 ゴーレム … ゴーレムを創る
(1) LV2 小人成長 … 小人を人間にする
(1) LV3 使徒成長 … 人間を使徒にする
有機生物
(1) LV1 絶滅 … 生命を絶滅させる
(1) LV2 成長促進 … 生命の成長を早める
(0) LV3 生殖 … 生命を親にする
回復
(1) LV1 治癒 … 病気や怪我を治す
(0) LV2 死者蘇生 … 死んだものを蘇らせる
(0) LV3 死者転生 … 異界から死者を蘇らせる
●水勢の奇跡
波浪
(0) LV1 小波 … 小さな波を起こす
(0) LV2 大波 … 大きな波を起こす
(0) LV3 津波 … 津波を起こす
水かさ
(1) LV1 減水 … 水を減らす
(1) LV2 増水 … 水を増やす
(1) LV3 海割り … 水を一時的に割る
操水
(0) LV1 霧散 … 霧を作り出す
(0) LV2 噴水 … 水を噴出させる
(0) LV3 渦 … 渦を作り出す
水中
(0) LV1 呼吸 … 水中で呼吸できるようになる
(0) LV2 浮力増 … 水中の浮力を増やす
(0) LV3 浮力減 … 水中の浮力を減らす
●天候の奇跡
雲
(1) LV1 雲 … 家の煙突から雲を出せる
(0) LV2 虹 … 虹を出せる
(0) LV3 ??? … ???
風
(0) LV1 風 … 風を起こせる
(0) LV2 竜巻 … 竜巻を起こせる
(0) LV3 ??? … ???
雨
(1) LV1 雨 … 雨を降らせる
(0) LV2 洪水 … 洪水を起こす
(0) LV3 ??? … ???
雪
(0) LV1 雪 … 雪を降らせる
(0) LV2 大雹 … 大きな雹を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
雷
(1) LV1 雷 … 雷を落とす
(0) LV2 導雷 … 目標に誘導する雷を落とす
(0) LV3 ??? … ???
火
(0) LV1 火の粉 … 火の粉を降らせる
(0) LV2 火の玉 … 火の玉を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
●太陽の奇跡
気温上昇
(0) LV1 気温上昇 … 気温を上げる
(0) LV2 猛暑 … 猛暑にする
(0) LV3 ??? … ???
気温下降
(0) LV1 気温下降 … 気温を下げる
(0) LV2 寒波 … 寒波を起こす
(0) LV3 ??? … ???




