46 走っているウマ、つかまえます
海沿いの大草原は、まるで海の色が途中で変わっているみたいにだだっ広い。
緑色の草が潮風を受けて揺れ、波のようにざわざわと内陸に向かって流れている。
どこまでも続く緑の大海原には、孤島のようにぽつぽつと森があった。
空から眺めていると、すでにウマの姿もぽつぽつと確認できる。
初めて見るウマは、図鑑で見たのと同じでやっぱりカワイイ。
ボクははやる気持ちをおさえ、森のそばに天空城を着地させた。
着地の衝撃に、遠巻きにいたウマたちがボクらのほうを見る。
降りたあと、作戦会議どおりに三班に分かれて行動開始。
アンジュさんとラヴィさん、ノボルさんとクルミさんは森の中へと入っていく。
ラヴィさんはボクのことが気になるらしく、途中で何度も振り返っていたけど、アンジュさんからひっぱられて森の奥へと消えていった。
みんなを見送ったあと、ボクは今回のパートナーであるフルールに向かって言う。
「……よし、じゃあボクらは草原のウマのほうを捕まえよう」
「承諾しました。自分がすべきことを命令ください」
フルールの身体じゅうの花が、草原のそよ風に揺れるたび、いい香りが漂ってくる。
そんな花の精みたいな見た目の彼女だけど、返事は機械みたいにそっけない。
「まず、ボクとフルールで犬のポポに乗って、ウマを追いかけるんだ。ウマに近づいたら、フルールのアイヴィーウイップを投げ縄みたいに投げて捕まえる」
「自分は走っているウマを制動するだけの力を持っておりませんので、そのまま引きずられることになりますが構いませんか?」
「うん。フルールは軽いから、凧みたいに引っ張られると思うんだ。そのときにボクを抱きかかえてほしい。ボクが加わっても引っ張られることには変わりないけど……そこでアイヴィーウイップを引き寄せて、ふたりしてウマに乗り移るんだ」
「乗り移っても、捕獲したことにはなりませんが」
「うん。そこからはボクに考えがあるから、任せて!」
反らした胸をドンと叩くと、フルールはそれ以上は尋ねてこず「承諾しました」と納得してくれた。
というわけで、ボクらは犬のポポに跨って天空城を出発する。
フルールはボクよりも体重が軽いので、ふたり乗ってもポポはなんともなかった。
力強い足取りで、すぐにスピードに乗る。
ボクは振り落とされないように姿勢を低くして、ポポの毛を掴んだ。
「……フルールも、しっかりつかまって!」
「承諾しました」
フルールはそう答えながら、ボクの腰に手を回してくる。
かなりのスピードにも、怖がる様子は全くない。
地平線が見えるほどの大草原を、風がびゅうびゅうと鳴るほどに突っ切っていると……ボクはなんだか鳥にでもなったような気がしてきた。
「……わああああーーーっ! 気持ちいーーーっ! 空を飛んでるみたーーーいっ!」
「それは錯覚です」
背後からの声にちょっと水を差されちゃったけど、とにかく気分爽快だったんだ。
「あっ! ウマだ! ウマウマ! おおーい、ヤッホー!」
少しは離れているところで、並走するウマたちを見つけ、ボクは嬉しくなってブンブンと手を振る。
「捕獲しないのですか?」
と言われ、ボクは我に返る。
……あ、そっか、あまりの気持ち良さにすっかり忘れちゃってた。
「ポポ! 左を走ってるウマの群れに近づいて!」
「……ワンッ!」
ポポは白い軌跡を残しつつ、誘導ミサイルようにウマたちに寄っていく。
ウマとの距離が詰まっていくのにあわせて、彼らのたてる蹄の音も大きくなっていく。
まるでドコドコと太鼓を打ち鳴らしているような、勇壮な姿……!
「かっ……! かっこいい……!」
間近で見るウマたちは迫力満点で、ボクはつい見とれそうになっちゃったけど、
「捕獲しないのですか?」
また淡々とした声で、現実に引き戻される。
「よ……よしっ、フルール! 先頭を走ってるウマを狙うんだ!」
「承諾しました」
先頭を走っているウマを狙うように指示したのは、ちゃんとした理由があった。
『ターパン』は一匹の雄をリーダーとして、複数の雌を連れた群れを作る。
だから群れの先頭を走っているのは、リーダーである雄のはずなんだ。
そしてその雄を狙えば、残りの雌もついてきてくれるんじゃないか、って考えたんだ……!
ボクの肩越しに、花びら散る手が伸びてくる。
……シュバッ!
放たれたツタは緑のレーザーのようにまっすぐ進み、先頭のリーダー馬の首に巻き付いた。
「すごいすごいフルール! まるでベテランのカウボーイみたいだ!」
「自分はフラワーゴーレムです」
「よぉし……飛んでっ!!」
「承諾しました」
フルールはボクの腰に手を回したまま、何のためらいもなくポポの背中から飛び降りる。
勢いよく吹きつけてくる風にそのまま乗り、ボクらはまさに凧のように宙を舞った。
「う……うわああーーーっ!! すごいすごいすごいっ!! 本当に……本当に空を飛んでるみたいだっ……!!」
ポポに乗っているときもそう感じたけど、浮遊感が加わるとこんなにも違うなんて……!
不安定さから来るスリルも加わって、ボクは大はしゃぎしてしまう。
それにフルールがすごくカッコイイんだ。
アイヴィーウイップを出しているほうの拳を、まっすぐ前に突き出し、残った片手でボクの腰を抱くその姿……まるでスーパーマンみたい。
やたらと冷静なのも、なんだかスーパーマンっぽかった。
「では、引き寄せます」
掃除機のコードを巻き取るみたいに、シュルシュルとアイヴィーウイップを縮めはじめるフルール。
ボクはもうちょっと空を飛んでいたかったんだけど、もしウマが疲れて速度を落としちゃったら地面に叩きつけられちゃうので我慢する。
ターパンの群れのリーダーは野生のウマらしく、黒いたてがみに、くすんだ灰色をしていた。
図鑑で見るウマより首まわりが太くて、がっしりしている。
その頼もしそうな背中に、ボクらはお邪魔する。
ふたりで跨っても、ポポ以上にびくともしない……なんて思っていたら、
……ヒヒヒヒヒーーーンッ!!
ボクらが乗ってビックリしたのか、いきなり前足を高くあげていななくリーダー。
「うわあっ!?」
一瞬、振り落とされるのを覚悟する。
でも背後に乗っていたフルールが、リーダーの首に巻き付けているアイヴィーウイップを手綱のように操り……見事にバランスをとりながら、ボクを抱きとめてくれたんだ。
さらに後ろにつづく牝馬たちも、慌てて急停止する。
ブヒヒッ! ヒヒンッ! ヒヒヒヒーーーンッ!!
まさしく暴れウマのように、激しく身体をゆすってボクらを振り落とそうとするリーダー。
ボクらの身体はロデオのようにガクンガクンと揺れる。
ボクひとりだったら、あっという間に背中から落ちちゃってただろう。
でもボクの前にはリーダーの首があるし、後ろには背もたれみたいにフルールの身体があるので、なんとか持ちこたえることができた。
荒波にもまれるボートのような不安定な中で、ボクは本で読んだ乗馬テクニックを思い出し、さっそくやってみることにする。
ふとももでリーダーの身体を挟みこみようにふんばって、落ち着かせるように首筋を撫でた。
「……どうどう! 落ち着いて! どうどう! ボクと一緒に来てほしいんだ!」
「ウマに我々の言葉が通じるとは思えませんが」
「うん、でも話しかけてあげることが大事なんだって、本に書いてあったんだ!」
ウマは乗り手の緊張を感じとる、とも本には書いてあった。
だから、こっちもリラックスしないと……!
フルールはこれ以上ないくらい落ち着いているので、問題はボクだ。
いまはロデオですごくドキドキしてるけど、早く落ち着かなきゃ……!
といってもそう簡単にできるものではないので、考え方を変えることにする。
リーダーが暴れることに対してドキドキするんじゃなくて、ワクワクすればいいんだ……!
「アハハッ! ボクはそう簡単には落ちないよ! もっともっと! おおうっ!?」
「どういう心境の変化ですか?」
「いや、せっかくだからカウボーイになったつもりで楽しもうと思って! ひゃっほー!」
ボクはフルールに抱きしめてもらってることをいいことに、バンザイして叫ぶ。
こうしてると、歳上のお姉さんといっしょに遊園地の乗り物に乗ってるみたいだ。
お姉さんのほうはあんまり楽しそうじゃないけど……まぁいいよね。
ボクがひとりで大はしゃぎしていると、だんだんリーダーの動きが鈍くなってきた。
どうやら疲れたらしい。ぷしゅーぷしゅーと鼻息を荒くし、ひと休みしている。
よし……いまならボクの話も聞いてくれそうだ。
力ずくで引っ張っていくことはできないので、なんとかリーダーを説得して、天空城まで連れていく必要がある。
そしてそれこそが、ボクがやってみたかったことだったんだ……!
■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:26)
今回は割り振ったポイントはありません。未使用ポイントが3あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●大地の奇跡
操地
(0) LV1 隆起 … 地面を隆起させる
(0) LV2 陥没 … 地面を陥没させる
(0) LV3 ??? … ???
噴出
(0) LV1 噴水 … 水を噴出させる
(0) LV2 噴火 … 火を噴出させる
(0) LV3 ??? … ???
地動
(0) LV1 地震 … 地震を起こす
(0) LV2 地割れ … 地割れを起こす
(0) LV3 ??? … ???
●神通の奇跡
神の手
(1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る
(1) LV2 ウェポン … 武器を出す
(0) LV3 マジック … 天空城の奇跡を手から出せる
神の叡智
(2) LV1 現界の声 … この世界の声を聞く
(1) LV2 異界の声 … 異界からの声を聞く
(1) LV3 天啓 … 人間に知恵を授ける
●天空城の奇跡
高度
(1) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる
(0) LV2 天空界 … 「天空界」まで飛ばせるようになる
(0) LV3 ??? … ???
速度
(3) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる
(1) LV2 高速移動 … 高速移動ができる
(0) LV3 ??? … ???
流脈
(0) LV1 消費減少 … 奇跡力の消費を抑える
(0) LV2 放出 … 天空城から物体を放出できる
(0) LV3 ??? … ???
障壁
(0) LV1 防御障壁 … 天空城を守るバリアを張る
(0) LV2 水中潜行 … 水中に潜れるようになる
(0) LV3 ??? … ???
●創造の奇跡
魔法生物
(4) LV1 ゴーレム … ゴーレムを創る
(1) LV2 小人成長 … 小人を人間にする
(1) LV3 使徒成長 … 人間を使徒にする
有機生物
(1) LV1 絶滅 … 生命を絶滅させる
(1) LV2 成長促進 … 生命の成長を早める
(0) LV3 生殖 … 生命を親にする
回復
(1) LV1 治癒 … 病気や怪我を治す
(0) LV2 死者蘇生 … 死んだものを蘇らせる
(0) LV3 死者転生 … 異界から死者を蘇らせる
●水勢の奇跡
波浪
(0) LV1 小波 … 小さな波を起こす
(0) LV2 大波 … 大きな波を起こす
(0) LV3 津波 … 津波を起こす
水かさ
(1) LV1 減水 … 水を減らす
(1) LV2 増水 … 水を増やす
(1) LV3 海割り … 水を一時的に割る
操水
(0) LV1 霧散 … 霧を作り出す
(0) LV2 噴水 … 水を噴出させる
(0) LV3 渦 … 渦を作り出す
水中
(0) LV1 呼吸 … 水中で呼吸できるようになる
(0) LV2 浮力増 … 水中の浮力を増やす
(0) LV3 浮力減 … 水中の浮力を減らす
●天候の奇跡
雲
(1) LV1 雲 … 家の煙突から雲を出せる
(0) LV2 虹 … 虹を出せる
(0) LV3 ??? … ???
風
(0) LV1 風 … 風を起こせる
(0) LV2 竜巻 … 竜巻を起こせる
(0) LV3 ??? … ???
雨
(1) LV1 雨 … 雨を降らせる
(0) LV2 洪水 … 洪水を起こす
(0) LV3 ??? … ???
雪
(0) LV1 雪 … 雪を降らせる
(0) LV2 大雹 … 大きな雹を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
雷
(1) LV1 雷 … 雷を落とす
(0) LV2 導雷 … 目標に誘導する雷を落とす
(0) LV3 ??? … ???
火
(0) LV1 火の粉 … 火の粉を降らせる
(0) LV2 火の玉 … 火の玉を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
●太陽の奇跡
気温上昇
(0) LV1 気温上昇 … 気温を上げる
(0) LV2 猛暑 … 猛暑にする
(0) LV3 ??? … ???
気温下降
(0) LV1 気温下降 … 気温を下げる
(0) LV2 寒波 … 寒波を起こす
(0) LV3 ??? … ???




