36 海のボス、大暴れ…！
「ギイイイイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ！？！？」
耳をつんざく悲鳴とともに、マーマンママの身体が大きく跳ねた。
かつてないビックウェーブが起こる。
「……ワアッ！？」
男の子たちは転げ落ち、サーブルはついに尻尾を離してしまった。
危ういバランスで成り立っていた隊列は、それだけで一気に総崩れになってしまう。
ピエールの拘束すらも振りほどかれ、砂浜じゅうを暴走しはじめるマーマンママ。
アイヴィーウイップはまだ巻き付いていたけど、軽いフルールは宙に投げ出され、きりもみしながら引っ張りまわされている。
ボクはなんとか背中にしがみつき、振り落とされないように踏ん張っていた。
砕けた外皮はシュウシュウと音をたて、少しずつ元に戻ろうとしている。
このままじゃ、せっかく開けた傷口が塞がっちゃう……！
その前に、なんとかしなきゃ……！
暴れ象のようなマーマンママは、みんなを轢き飛ばそうと、砂浜を縦横無尽に駆け回っていた。
ボクは一瞬のタイミングを待つ。
「……そ、ソラちゃん！ ソラちゃあああああんっ！？」
誘拐犯の車を見つけた親みたいに、必死になって追いすがるラヴィさん。
全然追いつけてないけど、その声にマーマンママは反応した。
……ズザザザザザザザーーーーーーッ！！
砂浜を蹴散らし、ドリフトして方向転換する巨大ザリガニ。
サンドスプラッシュとなった砂が、高波のように舞い上がる。
ま……まずいっ……！
ラヴィさんを狙うつもりだ……！
マーマンママは闘牛のように、ラヴィさんめがけて砂を蹴った。
ラヴィさんは純白の服なんだけど、それがまるで赤い布に見えているかのような、猛然とした突進……！！
ラヴィさんは、身体がすくんで動けずにいる……！！
もう待ってる場合じゃないと、ボクはありったけの力を振り絞った。
「さ……させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ！！！」
逆手に持ち替えた石剣を、めいっぱい傷口に突き立てる。
ドスッ！ と刀身が肉に埋まったところで、全身を傾けて抉った。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ！！！」
……ズバアッ……！！
人間の頭蓋骨のような物体が、傷口から飛び出す。
マーマンママの上半身が、これでもかとのけぞった。
「ギイィイィイィイィイィイィイィイィイィイィイィイィイィイィイィイィイィイィ
――――――――――――ッ！？！？！？」
胃石を失ったザリガニの身体が、バランスを崩して横転する。
ダンプトラックが倒れたみたいな振動と衝撃。
脱輪したようにコースを外れ、砂浜を滑っていく。
「わあああああーーーっ！？」
とうとう投げされてしまったボクは、宙を泳いだあと……砂浜にモフッと着地する。
砂って柔らかいけど、ここまでフワフワだったっけ？ まるで羽毛みたい……。
と思って頭をあげたら、どアップでポポの顔があった。
ポポが……落下地点に先回りして、ボクを受け止めてくれたんだ……！
ボクは、丸まって横たわるポポのお腹に包み込まれていた。
なんだかポポの子犬になったような気分だ。
「あ……ありがとう、ポポ！」
とりあえずお礼を言うと、ボクの鼻をペロリと舐めてくれるポポ。
なんだかホンワカしてしまって、このままお昼寝しちゃいたい気分……。
「そ……ソラっ！ 逃げてる！ ナントカカントカが逃げてるよっ！！」
アンジュさんからの声で、ハッと現実に引き戻された。
ま……まだ……マーマンママは生きてるのか……！
海のほうを見ると、すでにマーマンママは浅瀬に身体を浸していた。
胃石がなくなった以上、勝ち目はないと思って逃げ出したんだ。
身体を引きずるその様は、死に場所を求める老犬みたいだった。
アンジュさんが矢で、コキールが貝殻フリスビーで追撃してるんだけど、致命傷には至っていない。
せ……せっかくここまで追い詰めたのに、逃げられたら……すべてが水の泡だっ！
なんとかして、トドメを刺さないと……！
でも、水の中では思うように戦えない……！
沖まで行かれる前に、強烈な一撃を……！
いちばん攻撃力があるのは……ピエールだ。
でも、ダメだ……！ ピエールじゃ追いつけない……！
サーブルとフルールは……海のなかじゃダメか……！
コキールは海でも平気だけど、決定力がない……！
ど……どうしよう！？ どうしようっ！？
あああああっ！？ こうしてる間にも、どんどん逃げていっちゃうよぉ……！！
みんなはもう、追撃の手をゆるめていた。
あきらめきったように呆然と立ち尽くし、マーマンママの背中を見送っている。
ボクはあきらめてたまるかと、頭を掻きむしってたんだけど……ふと、砂浜に埋まったスマート天空石が目に入った。
飛ばされたはずみで、オーバーオールのポケットからこぼれ落ちたんだ。
……スマート天空石……？
そ……そうだっ！！
新たなるひらめきを得たボクは、スマート天空石を拾い上げる。
砂浜に埋まっていたせいか、だいぶ熱くなっていた。
でもそんなことは気にしてられない。
ボクは素早く画面を操作して、『奇跡』の画面を呼び出した。
続けて『海割り』をタッチしようとしたんだけど……はたと考え直す。
ボクは『海割り』でマーマンママまでの陸を作って、追いかけることを考えた。
でも……いまのボクの海割りじゃ、範囲が狭すぎて……みんなが追いつく前に逃げられちゃうかもしれない。
だったら……これしかないっ……！
ボクは意を決して、『雷』にタッチした。
地図画面で、海の上空にある雲を押し込んで、雷雲に変える。
そして……ボクは沖に出ようとしているマーマンママを睨みつけながら……密やかに、奇跡を起こした……！
「……これで……終わりだっ……！」
……ドッ……ガァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ！！！！！
爆音が、鼓膜を貫く。
辺り一面が、真っ白になる。
海が割れ、激しく逆立つ。
立ち並ぶ氷山のように突き出た波から、しぶきが飛んでくる。
まるで夕立のようになって、集落じゅうに降り注いだ。
浜辺にいたみんなはビックリして、バナナの皮で滑って転んだみたいに倒れている。
アンジュさんに至っては、屋根から転げ落ちていた。
高波はおさまったけど、海はまだ荒れている。
空高くあがったしぶきのせいで、海は霧に覆われたように白く染まっていた。
その濃霧の中でもハッキリとわかるほど、もうもうと立ち上る黒煙。
あれは……マーマンママの、瘴気……！？
果たして、やっつけられたんだろうか……！？
ふと、手元に視線を落とし、ボクは確信する。
ボスを倒した証として、手の甲が虹色に輝いていたんだ……！
■■■奇跡ツリー■■■（現在の神様レベル：２１）
今回は割り振ったポイントはありません。未使用ポイントが７あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●創造の奇跡
魔法生物
(4) LV1 ゴーレム … ゴーレムを創る
(1) LV2 小人成長 … 小人を人間にする
(1) LV3 使徒成長 … 人間を使徒にする
有機生物
(1) LV1 絶滅 … 生命を絶滅させる
(1) LV2 成長促進 … 生命の成長を早める
(0) LV3 生殖 … 生命を親にする
回復
(1) LV1 治癒 … 病気や怪我を治す
(0) LV2 死者蘇生 … 死んだものを蘇らせる
(0) LV3 死者転生 … 異界から死者を蘇らせる
●神通の奇跡
神の手
(1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る
(1) LV2 ウェポン … 武器を出す
(0) LV3 マジック … 天空城の奇跡を手から出せる
神の叡智
(0) LV1 現界の声 … この世界の声を聞く
(0) LV2 異界の声 … 異界からの声を聞く
(0) LV3 天啓 … 人間に知恵を授ける
●水勢の奇跡
波浪
(0) LV1 小波 … 小さな波を起こす
(0) LV2 大波 … 大きな波を起こす
(0) LV3 津波 … 津波を起こす
水かさ
(1) LV1 減水 … 水を減らす
(1) LV2 増水 … 水を増やす
(1) LV3 海割り … 水を一時的に割る
操水
(0) LV1 霧散 … 霧を作り出す
(0) LV2 噴水 … 水を噴出させる
(0) LV3 渦 … 渦を作り出す
水中
(0) LV1 呼吸 … 水中で呼吸できるようになる
(0) LV2 浮力増 … 水中の浮力を増やす
(0) LV3 浮力減 … 水中の浮力を減らす
●天候の奇跡
雲
(1) LV1 雲 … 家の煙突から雲を出せる
(0) LV2 虹 … 虹を出せる
(0) LV3 ？？？ … ？？？
風
(0) LV1 風 … 風を起こせる
(0) LV2 竜巻 … 竜巻を起こせる
(0) LV3 ？？？ … ？？？
雨
(1) LV1 雨 … 雨を降らせる
(0) LV2 洪水 … 洪水を起こす
(0) LV3 ？？？ … ？？？
雪
(0) LV1 雪 … 雪を降らせる
(0) LV2 大雹 … 大きな雹を降らせる
(0) LV3 ？？？ … ？？？
雷
(1) LV1 雷 … 雷を落とす
(0) LV2 導雷 … 目標に誘導する雷を落とす
(0) LV3 ？？？ … ？？？
火
(0) LV1 火の粉 … 火の粉を降らせる
(0) LV2 火の玉 … 火の玉を降らせる
(0) LV3 ？？？ … ？？？
●天空城の奇跡
高度
(0) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる
(0) LV2 天空界 … 「天空界」まで飛ばせるようになる
(0) LV3 ？？？ … ？？？
速度
(0) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる
(0) LV2 高速移動 … 高速移動ができる
(0) LV3 ？？？ … ？？？
流脈
(0) LV1 消費減少 … 奇跡力の消費を抑える
(0) LV2 放出 … 天空城から物体を放出できる
(0) LV3 ？？？ … ？？？
障壁
(0) LV1 防御障壁 … 天空城を守るバリアを張る
(0) LV2 水中潜行 … 水中に潜れるようになる
(0) LV3 ？？？ … ？？？
●太陽の奇跡
気温上昇
(0) LV1 気温上昇 … 気温を上げる
(0) LV2 猛暑 … 猛暑にする
(0) LV3 ？？？ … ？？？
気温下降
(0) LV1 気温下降 … 気温を下げる
(0) LV2 寒波 … 寒波を起こす
(0) LV3 ？？？ … ？？？
