35 海のボスの弱点、狙います
「……サーブルっ! マーマンママの尻尾を押さえるんだっ!!」
ボクが声を振り絞ると、マーマンママの背後の砂を押し上げながら、サーブルが現れる。
そうだ……! サーブルは砂でできてるから、何度やられても復活できる……!
こんなに砂だらけの場所では、不死身なんだ……!
砂の巨人が、巨大な海老の尻尾を抱え込む。
マーマンママは完全に不意を突かれたようで、動きを止められていた。
半魚人の上半身をブンブンと動かし、駄々っ子みたいに激しく暴れている。
どうやら振りほどこうとしているみたいだが、サーブルは根を張ったように動かない。
サーブルは打たれ弱いけど、力はあるんだ……!
いいぞ……! そのまま持ちこたえて……!
サーブルとマーマンママの力比べは、怪獣どうしが争ってるみたいだった。
マーマンママのハサミ攻撃は、背後には届かないようだ。なら、いまこそチャンスだ……!
「ピエール! 正面からマーマンママを押さえてっ! コキール! ピエールを守ってあげて!」
ボクのさらなる指令に、先に反応したのはコキールだった。
潮風に乗るような軽やかなジャンプで、ピエールの身体にクモのようにしがみつく。
ピエールは気にする様子もなく、ズン、ズンと砂浜に大きな足跡を残し、マーマンママに迫っていく。
マーマンママは血のしたたるハサミをふりかざした。家ですらひと突きで壊せそうな重い一撃を浴びせかける。
……ガキンッ!!
しかし、ピンポイントで先回りしていたコキールの、硬い背中で阻まれていた。
これぞ、ピエールとコキールのコンビネーション、動く貝殻バリア……!
ピエールの身体に張り付いたコキールが、敵の攻撃を予想して先回りし、ピエールの身体を守るんだ……!
ガキン! ガキン! ガキィンッ!!
金属どうしがぶつかりあうような、鋭い音が鳴り止まない。
ボクはこんな時だというのに、見とれてしまった。
かっ……カッコイイ……!
怪獣どうしの戦いと、ロボット同士の戦いを同時に見てるみたいだ……!
ピエールは無傷のままマーマンママに接近すると、お相撲さんみたいにがっぷりとザリガニの下半身を抑え込む。
懐に潜り込んだので、ハサミ攻撃はもうできない。
半魚人の上半身は、狂ったように手の爪でピエールをガリガリと引っ掻いている。
だけどハサミほどの威力はないようで、ピエールの身体はびくともしない……!
「……ポポっ!」
ボクはポポを呼んだ。
まだ身体は痛いけど、少し休んだら、なんとか動くようになった。
砂を蹴散らして駆けてくる犬のポポ。ボクはその背中に飛び乗る。
「ポポ! マーマンママの背中にボクを運んで!」「……ワンッ!」
ボクを乗せたまま、風のように走り出すポポ。
「あっ!? ソラちゃんっ!?」
「ラヴィさんは、ウオンさんとエイヤさんを治してあげて!」
ボクはラヴィさんの隣を、すり抜けながら叫ぶ。
そのわずかな間に、もうポポは飛んでいた。
天馬のように空を駆け、マーマンママを飛び越えるポポ。
ボクはタイミングを見計らって、ザリガニの背中に飛び移った。
赤黒い背中にどすんと着地。
滑り落ちそうになったけど、なんとか爪立てて踏みとどまる。
「……ギイイイッ!!」
マーマンママの上半身は180度回転していて、ボクのほうを睨んでいた。
ミニナイフが生えてるみたいな爪で掴みかかられ、ボクは慌てて後ずさる。
マーマンママは、人間を奈落に引きずり込もうとする亡者のように、身体を許すかぎり前に倒していた。
手もめいっぱい伸ばしてきて、ボクを捕まえようとしてくる。
「ふ、フルールっ! マーマンママの身体を縛り上げてっ!」
「承諾しました」
……スパァーンッ!
ボクの命令を予想していたかのように、マーマンママの側面下から植物のツタが飛んでくる。
狙いすましたように半魚人の身体を絡め取り、縛り上げていた。
……投げ縄で悪人を捕まえる、西部劇の保安官みたいだ……!
また見とれそうになっちゃったけど、ボクは誘惑をなんとか振り払う。
四人がかりのゴーレムから、身体の自由を奪われたマーマンママ。
それでもなんとかボクを振り落とそうと、身体をくねらせ暴れている。
ボクはロデオのように乗りこなしながら、マーマンママの上半身に近づく。
すると……上半身のすぐ近くに、探していたものがあったんだ……!
赤い背中に、白く透けて見える『胃石』……!
胃石はザリガニの目の上あたりに埋まっている石で、カルシウムでできている。
ザリガニは脱皮をしたあとに、このカルシウムを使って新たな外殻を作るんだ。
普通のザリガニは脱皮のために胃石を使うんだけど……マーマンママの回復能力は、この石の力によるものなんじゃないかと、ボクは睨んだんだ……!
「……ええいっ!」
ボクは腰の剣を抜き、胃石を守っている外皮を柄頭で叩く。
「ギイッ! ギイイイッ!!」
マーマンママは「やめろ!」と言わんばかりに、縛られた身体をよじらせている。
この取り乱しよう……やっぱりここが弱点なんだ……!
牙を剥いて威嚇してくるマーマンママは、ボクのすぐ目の前にいる。
もしアイヴィーウイップが解けたら、ボクはあっという間に彼女の牙や爪の餌食になるだろう。
そう考えると、正直怖い……! でも、やるしかないんだっ……!
「このっ! このっ! こんのぉーっ!!」
ボクは剣の柄を両手で握りしめ、頭の上まで振りかぶって、スレッジハンマーのように打撃を加える。
でも……ダメだっ……! ボクの力じゃ、傷ひとつつかない……!
しかし……あきらめないぞっ……! あきらめてたまるかっ……!
ボクはわあわあ叫びながら、何度も何度も叩きまくる。
まずい……! 背中の揺れが、だんだん大きくなってる……!
このままじゃ、振りほどかれちゃう……! そうなったら、もう勝ち目はないっ……!
ボクはありったけの気合を込めて、全身全霊を一撃を放つ。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーーーーっ!!」
……ガアンッ!
ううっ……! こ、これでもダメかっ……!
もっと、もっと強い力じゃなきゃダメなのかっ……!
みんなが助かるんだったら……ボクの腕なんて、折れてもかまわないっ!!
かまわないから、もっと力をっ……! もっともっと、力をっ……!!
ボクは天を仰ぎ、祈るように剣を振りかざす。
掲げられた剣は太陽の光を受け、キラリと輝いた。
そうやって、力を溜めていたんだけど……しかし途中で強い力を受け、押しのけられてしまう。
「……ドイテクレ ソラッ!」
いつの間にか、男の子たちがよじ登ってきていたんだ。
「み……みんな……!?」
「ソラガ ガンバッテルンダ! オレタチ ダケ ニゲルワケニハ イカナイ!」
「ココダナ!? ココヲ タタケバイインダナッ!?」
男の子たちはさっきまで逃げ惑っていたとは思えないほど、勇ましい顔をしていた。
その精悍な表情に、枯れかけていたボクの勇気も、ぐんぐん湧いてくるのを感じる。
「あ……ありがとう、みんな! ……うんっ! この白いところを叩いて!」
「ヨォシ マカセロッ!」
男の子たちは、ボクの身体くらいある石のハンマーを担ぎ出し、胃石めがけて振り下ろした。
……ドガアンッ!!
ボクがやるのとは大違いの一撃。ザリガニの身体がゆらぐ。
胃石の埋まっているところが、ガラスが割れたみたいにヒビが入る……!
「よ……よしっ! そのまま打ち続けて! すぐ治っちゃうから、連続で!」
「ヨォシッ!!」
男の子たちは、こねる人まで杵を持ち出した餅つきみたいに、交互にハンマーを振り下ろす。
……ガン! ガン! ガン! ガンッ!!
ヒビは塞がろうとしていたけど、それよりも早く打撃が襲い、傷口はどんどん広がっていく。
「ギイッ!! ギイイイイイイイイーーーーーーーーッ!!」
縄を引かれた暴れ馬みたいに、力のかぎり暴れるマーマンママ。
男の子たちは波乗りのようにバランスをとり、振り落とされないようにしている。
そしてついに、
……ビシイィィィィッ!!
破片をあたりに撒き散らし、外殻がついに砕けたんだ……!
■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:19)
今回は割り振ったポイントはありません。未使用ポイントが1あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●創造の奇跡
魔法生物
(4) LV1 ゴーレム … ゴーレムを創る
(1) LV2 小人成長 … 小人を人間にする
(1) LV3 使徒成長 … 人間を使徒にする
有機生物
(1) LV1 絶滅 … 生命を絶滅させる
(1) LV2 成長促進 … 生命の成長を早める
(0) LV3 生殖 … 生命を親にする
回復
(1) LV1 治癒 … 病気や怪我を治す
(0) LV2 死者蘇生 … 死んだものを蘇らせる
(0) LV3 死者転生 … 異界から死者を蘇らせる
●神通の奇跡
神の手
(1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る
(1) LV2 ウェポン … 武器を出す
(0) LV3 マジック … 天空城の奇跡を手から出せる
神の叡智
(0) LV1 現界の声 … この世界の声を聞く
(0) LV2 異界の声 … 異界からの声を聞く
(0) LV3 天啓 … 人間に知恵を授ける
●水勢の奇跡
波浪
(0) LV1 小波 … 小さな波を起こす
(0) LV2 大波 … 大きな波を起こす
(0) LV3 津波 … 津波を起こす
水かさ
(1) LV1 減水 … 水を減らす
(1) LV2 増水 … 水を増やす
(1) LV3 海割り … 水を一時的に割る
操水
(0) LV1 霧散 … 霧を作り出す
(0) LV2 噴水 … 水を噴出させる
(0) LV3 渦 … 渦を作り出す
水中
(0) LV1 呼吸 … 水中で呼吸できるようになる
(0) LV2 浮力増 … 水中の浮力を増やす
(0) LV3 浮力減 … 水中の浮力を減らす
●天候の奇跡
雲
(1) LV1 雲 … 家の煙突から雲を出せる
(0) LV2 虹 … 虹を出せる
(0) LV3 ??? … ???
風
(0) LV1 風 … 風を起こせる
(0) LV2 竜巻 … 竜巻を起こせる
(0) LV3 ??? … ???
雨
(1) LV1 雨 … 雨を降らせる
(0) LV2 洪水 … 洪水を起こす
(0) LV3 ??? … ???
雪
(0) LV1 雪 … 雪を降らせる
(0) LV2 大雹 … 大きな雹を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
雷
(1) LV1 雷 … 雷を落とす
(0) LV2 導雷 … 目標に誘導する雷を落とす
(0) LV3 ??? … ???
火
(0) LV1 火の粉 … 火の粉を降らせる
(0) LV2 火の玉 … 火の玉を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
●天空城の奇跡
高度
(0) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる
(0) LV2 天空界 … 「天空界」まで飛ばせるようになる
(0) LV3 ??? … ???
速度
(0) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる
(0) LV2 高速移動 … 高速移動ができる
(0) LV3 ??? … ???
流脈
(0) LV1 消費減少 … 奇跡力の消費を抑える
(0) LV2 放出 … 天空城から物体を放出できる
(0) LV3 ??? … ???
障壁
(0) LV1 防御障壁 … 天空城を守るバリアを張る
(0) LV2 水中潜行 … 水中に潜れるようになる
(0) LV3 ??? … ???
●太陽の奇跡
気温上昇
(0) LV1 気温上昇 … 気温を上げる
(0) LV2 猛暑 … 猛暑にする
(0) LV3 ??? … ???
気温下降
(0) LV1 気温下降 … 気温を下げる
(0) LV2 寒波 … 寒波を起こす
(0) LV3 ??? … ???




