33 みんなとともに、戦います
「う……」
天空城の庭に、うつ伏せに倒れていたボクは……呻きながら顔をあげる。
いつもは賑やかな集落は、誰もいないかのように静かだ。
あたりを抜けていくのは、波と、潮風が寄せる音のみ。
目の前にある砂浜には、みんなが倒れている。
石ヤリを突き立てたまま、力尽きたように動かない男の子。
投石器を握りしめたまま、ピクリとも動かない女の子……砂浜に伏した彼女らの髪が、海に漂うワカメのように広がっていた。
その誰もがみんな、血にまみれている。
ふとボクの額から、たらりと何かが垂れてきた。
見えなかったけど、正体はすぐにわかる。
これは、血だ……!
「う……ううっ……!」
ふと、隣でうめき声がする。
見やるとそこには、ラヴィさんがいた。
ボクと同じように、草むらに伏している。
彼女は蘇ったゾンビのように、ゆっくりと頭をあげた。
キレイな顔は見る影もないほどに、赤く染まっている。
「そ……ソラちゃんっ……! ひ……ひどいケガ……! す、すぐに治してあげるからねっ……!」
自分のケガもいとわず、震える手をさしのべてくるラヴィさん。
きっとボクも、彼女と同じようなひどい顔になってるんだろう。
「ら……ラヴィさん……こ……このままボクたち……死んじゃうのかな……?」
ボクは、息も絶え絶えに言う。
するとラヴィさんは、放流されたダムみたいにドバッと涙を溢れさせ、
「そっ……ソラちゃあんっ!? し、死なせない……! ソラちゃんだけは、何があっても……! 絶対に、守ってあげるからね……!」
ボクを力いっぱい抱擁してきた。
あ……しまった……ちょっとやりすぎちゃったかな、と思っていたら、
「……ソラ、ラヴィ……ふたとも何やってんの」
呆れたような声が割り込んでくる。
アンジュさんだ。彼女もボクらと一緒に庭に倒れているんだ。
彼女は部屋でくつろいでいるように寝そべり、頬杖をついている。
その顔はボクらと同じように、赤く染まっていた。
「ねぇソラ、ホントにこんなので、マーマンが来るの?」
退屈そうに足をパタパタさせながら尋ねてくるアンジュさん。
ボクは目を細め、水平線のほうを見つめながら答える。
「うん、多分……血の匂いでマーマンが来るのは間違いないはずだから、浅瀬くらいまでは来てくれると思う。でもそこから陸にあがってきてくれるかどうかまでは、わからないんだよね……」
ボクが考えた、マーマンおびき寄せ作戦。
まず、土器に集めたみんなの血を、コキールに頼んで沖のほうまで持っていってもらって……血を撒きながら戻ってきてもらった。
そのあいだ陸にいるボクらは、アンジュさんとフルールが集めてきてくれたニワトコの実をすり潰して、赤い汁を作り……身体に塗りまくったんだ。
そしてさも争った後のように見せかけ、砂浜や庭で寝転がった。
海に広がった血の匂いにつられて、やってきたマーマンたちは、きっと浅瀬から集落の様子を伺うだろう。
血まみれになって、まともに動けなさそうなボクらを見たら……きっとあがってきてくれるに違いない。
陸上では不利だとわかっていても、簡単にトドメを刺せるだろうと思って、あがってくるはずなんだ……!
みんなには死にかけのフリをするように、ちゃんと演技指導をしておいた。
もちろんポポにも。庭で腹ばいになって座っている犬のポポは、集落の惨状に前足で両目を覆っている。
これならきっと、マーマンでも騙されてくれるに違いない。
というか、ラヴィさんはさっきからおいおいと泣いていて、ボクを離してくれない。
なんか彼女だけ、お芝居の域を通り越してるような気もするけど……。
でも、その迫真の演技が効いたのか……浅瀬のところにニョッキリと顔が出てきた。
半魚人みたいな顔……間違いない、マーマンだ……!
マーマンたちは畑のモグラのように次々と、水面から顔を出す。
集落の様子を、魚みたいなギョロ目でじっと捉えていた。
「う……ううっ! ラヴィさん……! いままでありがとう……! ボクはこれまでみたいだ……!」
「い、いやっ!? ソラちゃん! 死んじゃいやっ!? いやあぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
ボクの身体に顔を埋め、ついに号泣しだすラヴィさん。
……ざばあっ!
その悲鳴に誘われるように、一匹のマーマンが立ち上がった。
大人と同じくらいの背丈があるマーマン。
全身のウロコが海面からの光を受けて、ぬらぬらと光沢を放っている。
「ギギッ! ギィ!」
立ち上がったマーマンは、軋んだ木の床みたいな鳴き声をあげる。
すると、他のマーマンたちも次々と立ち上がった。
もしかして、アイツがボスなのかな?
マーマン軍団の先陣は、ざっと数えて二十匹くらいだった。
思ったより大勢だ。でも浅瀬のほうにまだモヒカンみたいな頭のヒレが出ているから、後続はまだまだいそうだ。
ざばっ、ざばっ、とヒレのついた足で波を散らし、砂浜に上陸する。
よし……いいぞ……! もっとだ、もっと近くに来て……!
ボクは息をひそめたまま祈る。いわばこれは、マーマンたちを陥れるための罠だ。
罠を仕掛けるのは賽の河原以来のこと。何回やってもドキドキする。
ヤツらのフィールドである、海から離れたマーマンたち。
ギュッギュと砂浜を踏み鳴らし、集落へと向かってくる。
そしてついに……倒れている男の子の、すぐ側までやって来た。
「ギイィ……!」
鯉のぼりみたいに、丸く口を開けるマーマン。
その中にはノコギリみたいな刃がびっしりと覗いている。
ボクはラヴィさんにしがみつかれたまま、大声で叫んだ。
「い……いまだっ!! みんなっ、作戦開始ぃぃぃぃっ!!」
ボクの号令に最初に反応したのは、サンドゴーレムのサーブルだ。
波打ち際の砂に紛れさせていたサーブルが、その姿を現す。
浜辺の砂がゾゾゾゾと盛り上がり、巨人の形をなした。
ハッ!? と海の方を向くマーマンたち。
しかしもう遅い。
サーブルは鉄壁のキーパーのように構えをとって、海への逃げ道を塞いでいた。
マーマンたちが気を取られているスキに……死んだフリをしていた男の子たちが、一斉に仰向けに転がる。
「……くらえっ!」
寝たまま石ヤリを突き立て、よそ見していたマーマンたちのどてっ腹を貫いた。
「ギイイイーーーッ!?」
身体のくの字に曲げ、後ずさるマーマンたち。
すでに後衛の女の子たちは起き上がっていて、投石器でビュンビュン石を飛ばしていた。
頭に石を受け、たまらずよろめき、倒れるマーマンたち。
起き上がった男の子たちの石ヤリが、さらに突き立てられる。
先制攻撃は大成功。
あっという間に8匹ものマーマンが黒い霧となって消えた。
それでボクは思い出す。悪しき心でできているモンスターは、死ぬと瘴気になって消えることを。
奇襲迎撃を受けたマーマンたちは大混乱、それは浅瀬のほうにいた仲間たちも同じだったようで、助けようと次々と上陸してくる。
しめた……! 見捨てて逃げられることを心配したんだけど、むしろ向こうから飛び込んできてくれるようになった……!
ゴブリンたちの時と同じだ……次々と増援がやって来るパターンだ……!
よぉし、このままみんなで一気に全滅させるんだ……!
こっちもとっておきの仲間を呼ぼうっ……!
「来てっ! ピエール、フルール、コキールっ!!」
ボクは山びこするみたいに、両手を口元に当てて叫んだ。
すると、丘の向こうから三体のゴーレムが姿を現す。
ゴーレムたちがいると警戒されるかなと思い、隠れてもらってたんだ。
丘の頂上で太陽の光を受け、逆光のシルエットになっているゴーレムトリオ……まるでピンチに現れたヒーローみたいにカッコイイ。
草スキーのように、颯爽と斜面を滑り降りるヒーローたち。
花びらをまき散らしながら、華麗に走るフルールを先頭として、盾を構えながら走るコキールが続く。
最後尾にはピエール。地を揺らしながら、ゆっくりと歩いてきている。
フルールは乱戦のなかに躍り込むと、身体の中から誘導ミサイルのような蜂たちを発射。
さらにアイヴィーウイップを放ち、マーマンたちをムチのように叩いたり、身体に巻きつけて動けなくしていた。
続いたコキールは、身体の貝殻を円盤のように投げる。
回転しながら飛ぶ貝殻は、軌跡上にいるマーマンたちの身体を切り裂き、ブーメランのように戻りつつ複数の敵にダメージを与えていた。
さ、さすが……! 一気に戦力アップだ……!
これはボクらも負けてられない……!
ふと、雨の矢が降っているのに気づいた。
アンジュさんだ。アンジュさんがハシゴで家の上にあがって、矢を射ってるんだ。
投石が打撃のダメージなら、彼女の矢は石ヤリと同じ刺突のダメージを与える。
マーマンにはどうやら刺突のほうが効くようで、頭を射ち抜かれたマーマンは即座に霧と化していた。
ちなみにボクの頭上を通り過ぎていくのは、矢だけじゃない。
まだ泣いているラヴィさんが、ボクを後ろから抱きしめるように寄り添っているんだ。
だからボクの頭上では、ずっと彼女のクスンクスンという、すすりあげる声がしてたんだけど……それがいきなり、息を呑む声に変わった。
「……はっ!? ソラちゃん! ウオンちゃんがケガしてる!」
ラヴィさんが指さす方角には、肩から血を流しているウオンさんがいる。
「よし、行こうラヴィさん!」
ボクは石剣を抜いて、ラヴィさんの手を引いて走り出した。
ボクは指揮官もしてるんだけど、衛生班であるラヴィさんの護衛もしている。
ケガをした子が出たら、その場まで行って治してあげるんだ。
その間、ケガした子とラヴィさんは無防備になるので、ボクが戦って守る。
ボクも剣術は練習したんだ。力はないけど、みんなを守るくらいは、できるんだ……!
「……ええいっ!」
ボクは突っ込んできたマーマンの力を利用して、腹に思いっきり剣を突き立てる。
当たり負けしてボクは吹っ飛んだんだけど、マーマンを倒すことができた。
素早く立ち上がって、剣を構え直す。
「ソラちゃん、次はあっち! タチギちゃんが噛みつかれてる!」
「よぉし、行こう!」
ボクは戦場のなかを、ラヴィさんとともに駆け巡る。
そうしているうちに、ついにピエールがたどり着き、戦況は決定的なものとなった。
壁のようなピエールとサーブルで挟み撃ち。
パンチ一発で、モグラ叩きのように地面の中に埋没していくマーマンたち。
「きっとあと少し……勝利まであと少しだっ! みんな……がんばって!!」
「……オオーッ!!」
ボクのかけ声に、みんなは威勢よく答えてくれる。
みんなのやる気も最高潮……このまま一気に全滅させるぞっ……! と息巻いていたら、
……ドッ……オオンッ……!!
突如、サーブルの身体が爆散した。
壁のようだったサーブルがいなくなったことで、海への視界が一気に広がる。
そこには……恐るべき新手が、立っていたんだ……!
■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:19)
今回は割り振ったポイントはありません。未使用ポイントが1あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●創造の奇跡
魔法生物
(4) LV1 ゴーレム … ゴーレムを創る
(1) LV2 小人成長 … 小人を人間にする
(1) LV3 使徒成長 … 人間を使徒にする
有機生物
(1) LV1 絶滅 … 生命を絶滅させる
(1) LV2 成長促進 … 生命の成長を早める
(0) LV3 生殖 … 生命を親にする
回復
(1) LV1 治癒 … 病気や怪我を治す
(0) LV2 死者蘇生 … 死んだものを蘇らせる
(0) LV3 死者転生 … 異界から死者を蘇らせる
●神通の奇跡
神の手
(1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る
(1) LV2 ウェポン … 武器を出す
(0) LV3 マジック … 天空城の奇跡を手から出せる
神の叡智
(0) LV1 現界の声 … この世界の声を聞く
(0) LV2 異界の声 … 異界からの声を聞く
(0) LV3 天啓 … 人間に知恵を授ける
●水勢の奇跡
波浪
(0) LV1 小波 … 小さな波を起こす
(0) LV2 大波 … 大きな波を起こす
(0) LV3 津波 … 津波を起こす
水かさ
(1) LV1 減水 … 水を減らす
(1) LV2 増水 … 水を増やす
(1) LV3 海割り … 水を一時的に割る
操水
(0) LV1 霧散 … 霧を作り出す
(0) LV2 噴水 … 水を噴出させる
(0) LV3 渦 … 渦を作り出す
水中
(0) LV1 呼吸 … 水中で呼吸できるようになる
(0) LV2 浮力増 … 水中の浮力を増やす
(0) LV3 浮力減 … 水中の浮力を減らす
●天候の奇跡
雲
(1) LV1 雲 … 家の煙突から雲を出せる
(0) LV2 虹 … 虹を出せる
(0) LV3 ??? … ???
風
(0) LV1 風 … 風を起こせる
(0) LV2 竜巻 … 竜巻を起こせる
(0) LV3 ??? … ???
雨
(1) LV1 雨 … 雨を降らせる
(0) LV2 洪水 … 洪水を起こす
(0) LV3 ??? … ???
雪
(0) LV1 雪 … 雪を降らせる
(0) LV2 大雹 … 大きな雹を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
雷
(1) LV1 雷 … 雷を落とす
(0) LV2 導雷 … 目標に誘導する雷を落とす
(0) LV3 ??? … ???
火
(0) LV1 火の粉 … 火の粉を降らせる
(0) LV2 火の玉 … 火の玉を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
●天空城の奇跡
高度
(0) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる
(0) LV2 天空界 … 「天空界」まで飛ばせるようになる
(0) LV3 ??? … ???
速度
(0) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる
(0) LV2 高速移動 … 高速移動ができる
(0) LV3 ??? … ???
流脈
(0) LV1 消費減少 … 奇跡力の消費を抑える
(0) LV2 放出 … 天空城から物体を放出できる
(0) LV3 ??? … ???
障壁
(0) LV1 防御障壁 … 天空城を守るバリアを張る
(0) LV2 水中潜行 … 水中に潜れるようになる
(0) LV3 ??? … ???
●太陽の奇跡
気温上昇
(0) LV1 気温上昇 … 気温を上げる
(0) LV2 猛暑 … 猛暑にする
(0) LV3 ??? … ???
気温下降
(0) LV1 気温下降 … 気温を下げる
(0) LV2 寒波 … 寒波を起こす
(0) LV3 ??? … ???




