27 海のモンスターたちに、立ち向かいます
沖で男の子たちを襲ったのは、人間と魚のハーフみたいな化け物だった。
デメキンみたいなギョロ目で、サメみたいなノコギリのような歯が並んだ大口。
ウロコに覆われた皮膚に、水かきのついた手足。
一言で表すなら、『半魚人』というのがしっくりくる。
ボクは驚きのあまり、ヤツらのギョロ目に負けないくらい目をむき出しにしていた。
「あ……あれは、半魚人!?」
「それは通称ですね。正式には『マーマン』と呼ばれるモンスターです」
ボクは最初に感じた印象をそのまま口にしたんだけど、隣のフルールから即訂正される。
ビックリしているのはボクだけじゃなかった。
釣りをしていた男の子たち、騒ぎを聞きつけてやってきたラヴィさん、そして女の子までも、マーマンのおぞましい見た目に固まっている。
アンジュさんだけはこの騒ぎが耳に入っていないのか、畑の方でまだ踊っていた。
「マスター、陸続きになりましたので、リスクなくマーマンたちにアプローチ可能です。撃退しますか? ……マスター?」
フルールに呼びかけられて、ボクはハッと我に返る。
「う……うんっ! やっつけよう! マーマンにやられたみんなを助けなきゃ!」
「承諾しました」
風のように飛び出していくフルール。
ボクも後に続こうとしたんだけど、背後から抱きすくめられてしまった。
「……ソラちゃんやめて! 危ないことはしないで!」
鈴の鳴るような声と、クッションみたいにやわらかい感触で、すぐにラヴィさんだとわかる。
「ちょ、離してラヴィさん! マーマンをやっつけるんだ!」
「だめっ! そんな危ないこと! ケガしちゃったらどうするの!?」
「危ないかもしれないけど、ボクはみんなを助けなきゃいけないんだ! だから離してよぉ!」
「だめったらだめっ! お願いだから、おとなしくしてて!」
いくら言っても、ラヴィさんはボクの身体を抱きしめて離してくれない。
まだ子供のボクは、こうされると動けなくなっちゃうんだ。
その間にポポとフルールが、マーマンのほうに襲いかかっていた。
マーマンは陸地だと不利だと思ったのか、壁状の海の中にとびこんで逃げてしまう。
逃げられてしまったけど、ひとまずの危機は去った……!
でもラヴィさんは離してくれなかったので、ボクはひっつかれたまま指示を飛ばす。
釣りをしていた男の子たちと、力もちのエイヤさんに呼びかけて、海の底に倒れている男の子たちを連れてきてもらった。
マーマンに襲われた男の子たちは、身体中が噛み傷だらけで痛々しく……また溺れてしまったのが白目を剥いている。
急いで治癒効果のある天空城の庭に寝かせると、傷は塞がった。
さらに人工呼吸をしてあげると、意識を取り戻す。
よかった……! みんなの協力のおかげで、被害は最小限ですんだ……!
ボクはほっと息をなでおろしたけど、すぐに落ち込んでしまう。
だって……ここがモンスターの支配地域だって、今になって思い出したから……!
海での出来事が楽しすぎて、いつの間にか忘れちゃってた……!
それに……判断も間違えてしまった……!
モンスターっていうのは、陸にいるものだと思ってた……!
だから丘のほうをゴーレムに見張ってもらえば、襲撃については万全だと思い込んでしまった……!
油断した……! 油断してたっ……!
塩を作れて、魚もいっぱい採れて順調だったから、無防備にも昼寝なんかしちゃってた……!
こんなんじゃ、ダメだ……! 気を引き締めなきゃ……!
「アイツハ ナンダ ソラ!?」
「アンナ コワイ イキモノガ イルナンテ……!」
「コレジャ ウミニ ハイレナイ……!」
「コレカラ ドウスレバ イインダッ!」
「ハヤク ココカラ ニゲヨウ!」
マーマンがよほど怖かったのか、みんなはパニックになっていた。
よく考えたら、みんなモンスターを見るのも初めてだったんだ。
熊に襲われた時は「獰猛な動物」と理解していたようなんだけど、今回遭遇したのは理解の及ばない「異形の怪物」だと思っているようだ……!
ボクは前世の知識があったから、すぐに半魚人と判別できた。
それでもまだドキドキしてる。
他のみんなはそうじゃない。あんな魚の化け物を見るのは、空想の世界でもなかったんだ。
取り乱してしまうのも無理はない。
ボクはみんなを落ち着かせるために、天空城の庭に集まってもらった。
アンジュさんは飽きもせず踊っているようだったので、そのままにしておく。
ラヴィさんはまだ離してくれなかったので、ボクはしがみつかれた状態でみんなに話をした。
まず、モンスターについて説明する。
この世界には、モンスターという人間を襲う存在がいることを。
以前いた集落が安全だったのは、ボクとポポとピエールが力とあわせて、一帯を支配するボスモンスターをやっつけていたから、ということも説明した。
そしてボクは……みんなに話しながら、心の中で決意したことを宣言する。
「ボクは……これからマーマンたちのボスと戦う……! ボスをやっつけて、このあたりの海をみんなのために取り戻す……!」
ボクは気づいたんだ。
ここで元の集落に逃げ帰っても、意味がないことを。
いつかはまたモンスターがやって来るから、けっきょく怯える生活に逆戻りだ。
だから決めたんだ。
だったら……この食べ物が豊富な海を、戦って取り戻すべきだと……!
ボクの宣言に、みんなは不安そうな顔をしていたけど……心配無用とばかりに首を振る。
「大丈夫! みんなは戦わなくていいよ! またボクとポポ、そしてピエールとフルールでやっつけちゃうから……!」
すると、上からポツン、と雫が降ってきて……ボクの鼻先を濡らした。
雨かな? と思ったけど、雨にしてはなんだかあたたかい……。
不思議に思って上を向くと、続けてポタポタと顔に降りかかってくる。
それが真珠のように美しい粒だったので、雨じゃないってすぐにわかった。
ラヴィさんが、泣いていたんだ。
「……なんで泣いてるの? ラヴィさん?」
尋ねると、ボクを見下ろしているラヴィさんの瞳が、海の中で漂っているみたいにゆらいだ。
瞬きをひとつすると、あふれだした涙が頬を伝い、アゴから垂れ落ちる。
またボクの顔に、朝露のような雫が当たった。
「ぐすっ……ソラちゃんが、心配でたまらないの……! ケガしたことを考えるだけで、悲しくなっちゃう……! だから……お願いだから……危ないことはやめて……!」
嗚咽とともに涙声を絞り出す、ラヴィさん。
「……どうしてそこまでボクのことを、心配してくれるの?」
ボクは見上げたまま、かねてからの疑問を口にする。
ラヴィさんは事あるごとに、みんなの身体を気づかってくれる。
特にボクに対しては、過保護といえるくらいに。
それはもちろん嬉しいことだったんだけど……同時に不思議でもあったんだ。
彼女は時に自分を犠牲にしてまで、ボクたちを助けようとしたことがある。
その気持ちがボクには、理解できなかったんだ。
「心配するのは、当たり前のことよ……! だってソラちゃんのことが、好きだから……!」
ラヴィさんは、震る声で続ける。
「……いつも元気で、一生懸命で……! なんでも知ってて、それをわかりやすく教えてくれて……! うまくできたら、すごいすごいって、いっしょになって喜んでくれて……! でも、あきらめると叱ってくれて……! 他の女の子に比べて、うまくできないわたしにも、できるまでつきあってくれて……! そんなやさしいソラちゃんが、大好きだから……!」
思えばラヴィさんは、毎晩ベッドのなかでボクを抱きしめて「好き」って言ってくれた。
こうして改めて言われると、ラヴィさんの想いがひしひしと伝わってくる。
「わたし、もうソラちゃんがいない世界なんて、考えられないの……! 考えたくないのっ……! ううっ……! ソラちゃん……! ソラちゃんっ……! わたしはソラちゃんと離れたくない……! ずっと一緒にいて、守ってあげたいのっ……!」
「ラヴィさん……」
ボクの身体に回されている、四点式シートベルトみたいなラヴィさんの腕に、手を置く。
いつもボクを守ってくれる、抱きしめてくれる、お母さんみたいにやさしくて、あったかい腕……!
「……好きだから、か……! そっか、そうだよね……! ボクもラヴィさんのこと、大好きだよ! だからこそ、ボクは戦うんだ! ここにいるみんなを、守るために……! だから、わかってほしいんだ……! 大丈夫、ボクは負けないから……あれっ?」
話の途中で、ボクは浮いていることに気づく。
気がつくと、子猫みたいに脇を抱え上げられていた。
そのままガシッと、ラヴィさんの胸に抱きしめられる。
ボクの肩に、ラヴィさんの顔が乗る形になった。
「わ……わかったわ! ソラちゃんが、みんなを守るために戦うんだったら……わたしも、ソラちゃんを守るために戦うっ!」
ボクからはラヴィさんの表情が見えなかったけど、泣いていたのがウソみたいにしっかりした声だった。
「え……ええっ!?」
突然のラヴィさんの変わりようと、いきなりの決意表明に、ボクは呆気にとられる。
そして、ボクの手が輝きだした。
この状況でなぜか、レベルアップしたようだ。
■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:17)
人間が真の愛に目覚めたので、『創造の奇跡』LV3が解放されました。
今回は割り振ったポイントはありません。未使用ポイントが1あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●創造の奇跡
魔法生物
(4) LV1 ゴーレム … ゴーレムを創る
(1) LV2 小人成長 … 小人を人間にする
(0) LV3 使徒成長 … 人間を使徒にする
有機生物
(1) LV1 絶滅 … 生命を絶滅させる
(1) LV2 成長促進 … 生命の成長を早める
(0) LV3 生殖 … 生命を親にする
回復
(1) LV1 治癒 … 病気や怪我を治す
(0) LV2 死者蘇生 … 死んだものを蘇らせる
(0) LV3 死者転生 … 異界から死者を蘇らせる
●水勢の奇跡
波浪
(0) LV1 小波 … 小さな波を起こす
(0) LV2 大波 … 大きな波を起こす
(0) LV3 津波 … 津波を起こす
水かさ
(1) LV1 減水 … 水を減らす
(1) LV2 増水 … 水を増やす
(1) LV3 海割り … 水を一時的に割る
操水
(0) LV1 霧散 … 霧を作り出す
(0) LV2 噴水 … 水を噴出させる
(0) LV3 渦 … 渦を作り出す
水中
(0) LV1 呼吸 … 水中で呼吸できるようになる
(0) LV2 浮力増 … 水中の浮力を増やす
(0) LV3 浮力減 … 水中の浮力を減らす
●神通の奇跡
神の手
(1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る
(0) LV2 ウェポン … 武器を出す
(0) LV3 マジック … 天空城の奇跡を手から出せる
神の叡智
(0) LV1 現界の声 … この世界の声を聞く
(0) LV2 異界の声 … 異界からの声を聞く
(0) LV3 天啓 … 人間に知恵を授ける
●天候の奇跡
雲
(1) LV1 雲 … 家の煙突から雲を出せる
(0) LV2 虹 … 虹を出せる
(0) LV3 ??? … ???
風
(0) LV1 風 … 風を起こせる
(0) LV2 竜巻 … 竜巻を起こせる
(0) LV3 ??? … ???
雨
(1) LV1 雨 … 雨を降らせる
(0) LV2 洪水 … 洪水を起こす
(0) LV3 ??? … ???
雪
(0) LV1 雪 … 雪を降らせる
(0) LV2 大雹 … 大きな雹を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
雷
(1) LV1 雷 … 雷を落とす
(0) LV2 導雷 … 目標に誘導する雷を落とす
(0) LV3 ??? … ???
火
(0) LV1 火の粉 … 火の粉を降らせる
(0) LV2 火の玉 … 火の玉を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
●天空城の奇跡
高度
(0) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる
(0) LV2 天空界 … 「天空界」まで飛ばせるようになる
(0) LV3 ??? … ???
速度
(0) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる
(0) LV2 高速移動 … 高速移動ができる
(0) LV3 ??? … ???
流脈
(0) LV1 消費減少 … 奇跡力の消費を抑える
(0) LV2 放出 … 天空城から物体を放出できる
(0) LV3 ??? … ???
障壁
(0) LV1 防御障壁 … 天空城を守るバリアを張る
(0) LV2 水中潜行 … 水中に潜れるようになる
(0) LV3 ??? … ???
●太陽の奇跡
気温上昇
(0) LV1 気温上昇 … 気温を上げる
(0) LV2 猛暑 … 猛暑にする
(0) LV3 ??? … ???
気温下降
(0) LV1 気温下降 … 気温を下げる
(0) LV2 寒波 … 寒波を起こす
(0) LV3 ??? … ???




