25 海での生活、はじめます
昼寝から目覚めると、太陽がいちばん高い位置に来ていた。
眠ったおかげでスッキリして、なんだかやる気が湧いてくる。
また泳ごうかと思ったんだけど……その誘惑を断ち切って、ボクは作業をすることにした。
いっしょに起き出したみんなもやる気満々だったので、手伝ってもらうことにする。
まず、海へ来たいちばんの目的だった「塩作り」。
これはラヴィさんを筆頭とした、料理好きのメンバーにお願いした。
土器の鍋に海水を入れて火にかけ、木の棒でかきまぜながら沸騰させる。
煮詰まってきたら濁ってくるので、ここで浄水器を使う。
前の集落にいるときに、海に来る前の準備として作っておいたやつだ。
底のないビンみたいな浄水器を、狭い口のほうを下にして、砂や石を詰める。
この中に煮込んだ海水を通すと、不純物が取り除かれるんだ。
濁った海水をろ過してキレイにしたあと、また土器の鍋に戻し、さらに火にかけて煮詰める。
すると塩水が凝縮されて、白いシャーベットみたいな見た目になるんだ。
あとはこれを乾かせば……初めての調味料である、塩のできあがり!
1リットルの海水から、25グラムくらいの塩が採れるらしい。
ひとりの人間が生きていくために必要な塩は、たしか1日5グラムもあればいいはずだから……60グラムあれば、集落のみんなの1日分になる。
えーっと、土器の鍋だと何リットルの海水が沸かせるんだろう。
入る量を調べたいんだけど、計る道具なんてないし……。
あ、そうだ、ボクの身長って何センチだったっけな。
それがわかれば、長さが測れるんだけど……。
うーん……たしか、どこかで見たような気がするんだよな……。
……あっ……そうだ!
はたと思い出したボクは、オーバーオールのポケットからスマート天空石を取り出して操作する。
トップメニューに並んでいるアイコンから、『情報』をタッチした。
この世界に来て間もないころ、初めてこの画面を見たときは……ボクとポポの名前があるだけだった。
でも今はアンジュさんやラヴィさん、ピエールやフルール、そして集落のみんなの名前がずらずらっと並んでいる。
他の人の『情報』も気になったけど、それは後回しにしてボクの名前を選ぶ。
するとボクの全身像の絵と、ボクの身体に関する文字情報が現れた。
えっと、身長は……100センチメートルか。
ってことはボクが両手をめいっぱい広げても、それくらいあるということだ。
両手を横に広げたのと、身長はだいたい同じ長さっていうよね。
ボクは自分の腕をものさしにして、鍋の大きさを測ってみる。
すると……縦と横がだいたい20センチ、深さがだいたい5センチだった。
ということは、2000立方センチメートルになるから……入る海水の量は2リットル。
煮詰めれば50グラムの塩が採れるということになる。
ボクはラヴィさんたちに、複数の鍋を使っての塩作りを指示した。
そしてできあがった塩は混ぜないで、カラの貝殻に分けて入れるようお願いする。
貝殻ひとつに50グラムの塩が入っているというのがわかれば、一日に取るべき塩の量と、残っている塩が何日分あるかがわかりやすいからだ。
ボクの説明を、真剣な顔をして聞いていたラヴィさんは、
「うん、わかった、ソラちゃん。よぉーし、みんな、お塩を作りましょ~」
はりきって鍋を胸に抱き、他のメンバーとともに波打ち際へと向かっていった。
鍋のひとつは猫のポポが寝てたんだけど、鍋ごと一緒に連れて行ったようだ。
ボクはその背中を見送ってたんだけど、急にあることを思い出す。
「……あ! そうだ、忘れてた! ちょっと待って、ラヴィさん!」
ラヴィさんを呼び止めると、立ち止まって振り向いてくれた。
「なぁに? ソラちゃん?」
「煮詰めて最後のほうに出る水は捨てないで、別の土器に貯めておいてほしいんだ」
「うん、わかった。でも、どうして?」
「その水は『にがり』っていって、使い道があるんだよ。大豆で豆腐を作ったり……あとは肉に加えて柔らかくするのにも使えるんだ」
「まぁ……! 本当にソラちゃんは、何でも知ってるのねぇ……えらいえらい!」
感心したラヴィさんはわざわざボクの所まで戻ってきて、頭をナデナデしてくれた。
気持ちよくて、自然と顔がほころんでしまう。
「えへへ……! じゃあよろしくね!」
ボクは改めて、ラヴィさんたちを見送る。
すると海のほうからアンジュさんがやって来て、入れ違うようにして通り過ぎていった。
いつも畑の水やりに使っている土器を、えっちらおっちらと抱えながら。
もしや……と思っていると、アンジュさんは天空城の隅にある畑まで行って、水やりを始めた。
「うわあああっ!? だ、ダメだよアンジュさんっ!!」
「え? なにが?」
ボクは慌てて止めたけど、アンジュさんは気づかずに水を撒いている。
「それって海の水だよね!? 塩が入ってるから枯れちゃうよ!?」
「あっ!? そっか! しまった! み……みんな、ゴメンね!? ゴメンねっ!?」
顔を青くしたアンジュさんは、ツインテールを振り乱す勢いで地面に座り込み、芽に向かって謝りはじめる。
しばらくフンフンと頷いていたかと思うと、とつぜん身体を翻し、がばっとボクの腰にすがりついてきた。
「ソラぁ! 雨! 雨降らせて! 今すぐに!」
「そ……それは別にいいけど……池の水じゃダメなの?」
後ずさりしそうになったボクを、つかまえて離さないアンジュさん。
「この子たち、雨のほうがいいんだって! 普段は池の水でもいいんだけど、アタシが塩水をかけちゃったから怒ってるみたい!」
ボクは呆気に取られた。
まるでアンジュさんが、芽と話をしたかのようだったからだ。
「えっ……アンジュさん、植物の言ってることがわかるの?」
「別に言葉がわかるわけじゃないよ! ソラだってポポとは話できないけど、なに考えてるかくらいはわかるでしょ!? ……ってそんなことはいいから! 雨ちょうだい! 雨!」
ボクはもっとアンジュさんの話が聞きたかったんだけど、鬼気迫る彼女に押し切られてしまう。
スマート天空石を操作して、畑の真上にある小さな雲を雨雲に変えた。
ちょうど畑の部分にだけ、しとしとと雨が降りだす。
アンジュさんはすぐさま立ち直り、「さあさあ、いっぱい飲んでねぇ~!」と不思議な踊りをおどりだした。
どうやったら植物の感情がわかるのか教えてほしくて、ボクは踊り終えるのを待ってたんだけど、
「オオイ、ソラ! チョットキテクレ!」
海のほうから男の子たちに手招きされたので、先にそちらに向かうことにした。
「どうしたの、みんな?」
ウオンさんを筆頭とする男の子たちは、なんだか困っているようだった。
話を聞いてみると……海の魚を捕ろうとしたんだけど、いくら海の岩を投げ込んでも魚が浮いてこないので困っていたらしい。
このあたりの海には岩がないから、『石打漁法』はできないことを教えてあげたんだけど、
「オレタチ サカナ ホシイ!」
「カイ ハ アンナニ ウマカッタ!」
「ダカラ サカナ ハ モット ウマイ ハズ!」
みんなはさっき食べた貝がおいしかったから、海の魚もおいしいに違いないと、かなりの興味を見せていた。
力が弱いので、普段は『石打漁法』をやりたがらないタチギさんまでもが声をあげている。
さらにウオンさんは、
「ウマイ サカナ スミレ ニ クワセタイ!」
と息巻いていた。
どうやら女の子たちに、魚をプレゼントしたい気持ちもあるようだ。
理由はなんであれ、やる気があるならボクは協力を惜しまない。
それに……海で魚を捕る準備は、もう途中までしてあるんだよね。
「うんっ、わかった! じゃあ、海で魚捕りをしよう!」
ボクが手を上げると、男の子たちは後に続いて「オオーッ!」と拳を突き上げる。
その勢いを利用して、ボクは最初の指示を出す。
「よしっ、まずは釣り糸を作るんだ! 誰かラヴィさんの所に行って、髪の毛を何十本かもらってきて! なるべく長いやつね!」
するとなぜか、みんなは尻込みしだした。
「ソ……ソレハ ムリ……」
「えっ、どうして?」
「アンナ キレイナ ヒトニ カミノケ モラウナンテ デキナイ……」
さっきまでの威勢がウソみたいに、急に弱気になる男の子たち。
それはまるで、生きてる熊の毛をむしってくるほうが簡単、みたいな反応だった。
ボクはその気持ちがわからなくて、首を傾げるばかり。
髪の毛をもらうだけなのに、いったいなにをためらうことがあるんだろう……?
みんなモジモジしたまま動かなかったので、結局ボクがラヴィさんと話をした。
火焚き場にいたラヴィさんは、海水をかき混ぜる手を休めて、快くハサミで髪の毛を切り分けてくれる。
ラヴィさんの髪の毛は、ひざ裏くらいまで長く伸びていて……光をまとってるみたいにツヤあるんだ。
触り心地がいいのでよく触らせてもらうんだけど、ハリとコシもあって……まるで竹みたいにしなやかな強さも感じさせる。
だから、釣り糸になるんじゃないかと思ったんだ。
もらってきた髪の毛を、タチギさんに手渡そうとしたんだけど……他の男の子たちが手を伸ばしてきて、奪い合うようにして匂いを嗅ぎはじめた。
たしかにラヴィさんの髪の毛はイイ匂いがするけど……なんでいま嗅ぐ必要があるんだろう。
そんなに嗅ぎたければ、ラヴィさんに頼めば好きなだけ嗅がせてくれるハズなのに……。
頼んだことないけど、やさしいラヴィさんなら断らないハズなのに……。
もしかして、それも「デキナイ」ことなんだろうか……。
ボクはまたしても、首をかしげてしまった。
■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:16)
今回は割り振ったポイントはありません。未使用ポイントが3あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●水勢の奇跡
波浪
(0) LV1 小波 … 小さな波を起こす
(0) LV2 大波 … 大きな波を起こす
(0) LV3 津波 … 津波を起こす
水かさ
(0) LV1 減水 … 水を減らす
(0) LV2 増水 … 水を増やす
(0) LV3 海割り … 水を一時的に割る
操水
(0) LV1 霧散 … 霧を作り出す
(0) LV2 噴水 … 水を噴出させる
(0) LV3 渦 … 渦を作り出す
水中
(0) LV1 呼吸 … 水中で呼吸できるようになる
(0) LV2 浮力増 … 水中の浮力を増やす
(0) LV3 浮力減 … 水中の浮力を減らす
●創造の奇跡
魔法生物
(4) LV1 ゴーレム … ゴーレムを創る
(1) LV2 小人成長 … 小人を人間にする
(0) LV3 ??? … ???
有機生物
(1) LV1 絶滅 … 生命を絶滅させる
(1) LV2 成長促進 … 生命の成長を早める
(0) LV3 ??? … ???
回復
(1) LV1 治癒 … 病気や怪我を治す
(0) LV2 死者蘇生 … 死んだものを蘇らせる
(0) LV3 ??? … ???
●神通の奇跡
神の手
(1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る
(0) LV2 ウェポン … 武器を出す
(0) LV3 マジック … 天空城の奇跡を手から出せる
神の叡智
(0) LV1 現界の声 … この世界の声を聞く
(0) LV2 異界の声 … 異界からの声を聞く
(0) LV3 天啓 … 人間に知恵を授ける
●天候の奇跡
雲
(1) LV1 雲 … 家の煙突から雲を出せる
(0) LV2 虹 … 虹を出せる
(0) LV3 ??? … ???
風
(0) LV1 風 … 風を起こせる
(0) LV2 竜巻 … 竜巻を起こせる
(0) LV3 ??? … ???
雨
(1) LV1 雨 … 雨を降らせる
(0) LV2 洪水 … 洪水を起こす
(0) LV3 ??? … ???
雪
(0) LV1 雪 … 雪を降らせる
(0) LV2 大雹 … 大きな雹を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
雷
(1) LV1 雷 … 雷を落とす
(0) LV2 導雷 … 目標に誘導する雷を落とす
(0) LV3 ??? … ???
火
(0) LV1 火の粉 … 火の粉を降らせる
(0) LV2 火の玉 … 火の玉を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
●天空城の奇跡
高度
(0) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる
(0) LV2 天空界 … 「天空界」まで飛ばせるようになる
(0) LV3 ??? … ???
速度
(0) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる
(0) LV2 高速移動 … 高速移動ができる
(0) LV3 ??? … ???
流脈
(0) LV1 消費減少 … 奇跡力の消費を抑える
(0) LV2 放出 … 天空城から物体を放出できる
(0) LV3 ??? … ???
障壁
(0) LV1 防御障壁 … 天空城を守るバリアを張る
(0) LV2 水中潜行 … 水中に潜れるようになる
(0) LV3 ??? … ???
●太陽の奇跡
気温上昇
(0) LV1 気温上昇 … 気温を上げる
(0) LV2 猛暑 … 猛暑にする
(0) LV3 ??? … ???
気温下降
(0) LV1 気温下降 … 気温を下げる
(0) LV2 寒波 … 寒波を起こす
(0) LV3 ??? … ???




