23 神々の遺産で、ピンチに立ち向かいます
『神々の遺産』というのは、かつてこの世界を治めていた神様が使っていた、すごい能力を秘めたアイテムのこと。
手に入れることにより、神様としてさらなる力が得られるらしい。
そして今回手に入れた『スマート天空石』の効果については、デフォルメ調のサンタさんが教えてくれた。
「この『スマート天空石』は、簡単にいうと持ち運べる天空石じゃな。これを使えば離れた場所からでも天空城を操作したり、奇跡を使ったりできるぞ」
例えるなら、天空城のホコラにある大きな天空石はデスクトップパソコン。
画面は大きいけど、持ち運ぶことができない。
この『スマート天空石』はスマートフォン。
画面は小さいけれど、ポケットに入れて持ち運ぶことができる。
そして、まさにこれこそ……今のボクにとって、何よりも待ち望んでいたプレゼントだったんだ……!
「じゃあ、これを使えば……天空城を降ろすこともできるんだよね!?」
ボクは震える手で『スマート天空石』を操作する。
サイズこそだいぶ小さいけど……画面上のメニューは、天空城のホコラにあるやつとほとんど一緒だった……!
ちゃんと、地図画面で天空城の操作もできる……!
「や……やった! これで戻れるぞ!」
ボクの喜びに水を差すように、またオジサンが口を挟んでくる。
「ところで、だいぶあっさり『神々の遺産』を手に入れたようじゃな。もちろんそういうのもあるんじゃが、大体は罠やモンスターに守られた場所にあるから、これからは用心するんじゃぞ」
ボクはそれどころじゃなくて、「うん」と生返事しようとした。
でもそれより早く、足元がビスケットみたいに……あっさりと崩れ落ちたんだ。
「え……!?」「もしかして……!?」「これが……!?」「罠ですね」
宙に浮いたまま、顔を見合わせるボク、アンジュさん、ラヴィさん、そしてフルール。
ボクたちは本日二度目となる、自由落下に突入した……!
「うわあああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーっ!?!?!?」
石造りの部屋に残響を残し、ボクたちは暗い闇の中に引きずり込まれる。
せ……せっかく天空城に戻るためのアイテムを手に入れたのに、罠にかかっちゃうなんて……!
こうなったら何としても、生きて戻らなきゃ……! もちろん、みんなで……!!
二度目ということもあって、落下の感覚にも慣れつつあったのか……ボクはほとんど心を乱すことなく対応を開始できた。
「アンジュさん! 羽根は!? 背中にある羽根で空を飛べない!?」
アンジュさんは歯を食いしばって泣くのを堪えているようだった。
でも瞳は決壊寸前で、水を張ったみたいに潤んでいる。
「うぅ~っ……アタシの羽根じゃ、飛ぶのは無理……! いくらバサバサやっても、1ミリも浮かないの……!」
情けない声とともに、ふるふると首を左右に振るアンジュさん。
なぜか隣にいるラヴィさんも、泣きべそをかきながらイヤイヤをしている。
ボクを抱きしめたくてしょうがないみたいだが、必死にガマンしているようだ。
ふたりの対面側には、ボクを挟むようにしてフルールとポポがいる。
例によってムササビみたいに身体を広げているポポと、夜に咲く花みたいに優雅に浮いているフルール。
「マスターの命令どおり、全員が助かる方法を思考しています。自分の体内にいる蜂を使って浮力を得る方法を考えましたが、計算したところ、猫の形態のポポを浮かせる力しかありませんでした。思考を継続します」「ニャーン!」
みんなは一回目の落下とはうって変わって、あきらめない気持ちをしっかりと持ってくれているようだ。
ボクは嬉しくなって、なおさらみんなで助かりたいと強く思う。
そうだ、助かりたいんだったらボクも考えなきゃ……!
手に入れたばかりの『スマート天空石』で、なにかできることはないかな……!?
ボクはどんな時でもスマホを離さない人みたいに、落下中だというのに小さな板に集中する。
天空城をここまで呼び寄せられればいいんだけど、こんな狭いところまでは入れないだろうし、到着までにみんなペチャンコになってるだろう。
あと考えられるのは『奇跡』だ。
この場をなんとかできる『奇跡』がないか、探してみよう。
ボクはもう何度も見返してきた、『奇跡ツリー』の画面を開く。
今まではずっと『???』だったレベル3の奇跡、『マジック』と『天啓』が新たに解放されていた。
これも含めて、なんとかする方法はないか……!?
ああっ、なんだかまわりが暑くなってきた……もうじき底に着くんじゃないか……!?
早く……早くなんとかしないと……!!
ボクは知恵を絞り出すみたいに、ウンウン唸って考えていたんだけど……ボク以上に悩んでいる子がいた。アンジュさんだ。
「うううっ……!! あきらめないっ! あきらめないっ!! 思い出せ……思い出せっ……!! 神様学校で勉強したことを……!! うううぅぅぅ~んっ!!」
涙を脂汗をボロボロとこぼしながら、脳が溶けて耳から垂れてるみたいな鬼気迫る形相を浮かべている。
がんばって考えてくれるのは嬉しいけど、あれじゃ底に着く前に死んじゃうんじゃ……。
と心配していたら、それまで近くで漂っていたフルールが、アンジュさんの元へと向かった。
「落ち着いてください」
フルールは平らな声で言いながら寄り添い、アンジュさんの顔を胸に抱く。
まるでラヴィさんみたいな行動だったけど……包み込む両腕の動きは、機械のアームみたいに正確だ。
それでも効果はあったようで、花に包まれたアンジュさんは素直に深呼吸していた。
「はあっ………なんでだろ、ドキドキしてたのが、ウソみたい……」
「自分の胸部の花は、ジャスミンでできています。ジャスミンの香りには気持ちを落ち着かせる効果がある……自分の身体に花をあつらえながら、アンジュが教えてくれたことです」
「あ……そういえば、そうだっけ……」
「アンジュの知識はソラと比較して一割以下だと報告しましたが、知識というのは分量が優位性ではありません。すべては使い方次第……得た知識を、いかに役に立てるかのほうが大事です。アンジュをこうして落ち着かせることができたなら……この知識は、自分にとっては何よりも大切なものとなりました」
フルールの言葉を子守唄のように聞きながら、アンジュさんは夢の中にいるように、ぼんやりと唇を動かしていた。
「……すべては、使い方次第……得た知識を、いかに役に立てるか……」
言葉はうわごとのようだったけど……瞳は真逆に、何かに気づいたような力を取り戻していく。
そしてついに、弾かれたように顔をあげ、ボクのほうを見た。
「そ……ソラっ! 『ゴーレム』に2ポイント振って! そうすれば、助かるかもしれない……!」
「わかった!」
ボクはすぐさまスマート天空石を操作し、『ゴーレム』に2ポイントを割り振る。
なぜいま『ゴーレム』なのか……でもボクは理由は聞かなかった。
だって……アンジュさんが考えて出した結論を、信じていたから……!
『ゴーレム』が合計4ポイントになった瞬間、フラワーゴーレムであるフルールの身体が光に満ちた。
「力の増強を感じます」
何の感動もないフルールの報告。間髪入れずアンジュさんの指示が飛ぶ。
「……フルール! アイヴィーウイップよ! アイヴィーウイップを壁の出っ張りに引っ掛けて!」
フルールは許可を求めるようにボクを見た。
ボクの答えはもちろん、
「やって! フルール!!」
「承諾しました」
……バシュッ!!
射出されるような音とともに、フルールの右手首あたりからツタのようなものが飛び出す。
バラのムチみたいにトゲトゲをまとったそれは、壁の突起に巻き付いた。
ぐんっ……! と硬いゴムような伸縮とともに、落下が止まる。
ボクたちは懸命に、フルールの身体にしがみついた。
大勢でぶら下がっているというのに、アイヴィーウィップはびくともしない。
「か……かっこいい……! かっこいいよ、フルール! まるでアメコミのヒーローみたいだ……!」
新たに繰り出された技に、ボクは大興奮。
まるでヒーローに助けられた子供みたいな気分になっていたけど、
「形而上的な概念は理解できません」
当人は相変わらずだった。
「あ、それとアンジュさん! すごいよ! 2ポイントでこんなすごい技が出せるって、知ってたんだ!?」
感動のまなざしをアンジュさんに移すと、当人は震えながら下を覗き込んでいた。
「ご……『ゴーレム』は……ぐ……偶数ポイントで新しい技が使えることがあるって、神様学校で習ったのよ……! ふっ、フルールの身体には、バラもあるから……もしかしてと思って……! そっ……そんなことよりも、早くあがってぇ!!」
助かったというのに、なぜかパニック気味になっているアンジュさん。
さっきからしきりに下のほうを気にしている。
そんなに慌てて、何があるんだろう……とボクも下のほうを見て、ギョッとなった。
眼下には一面、海みたいな溶岩が広がっていたんだ……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
フルールは右手と左手、それぞれから出したアイヴィーウィップを駆使して、落とし穴を登っていった。
なんかそういうアトラクションみたいで、ボクは楽しくてしょうがなかったんだけど……アンジュさんとラヴィさんは生きた心地がしなかったようだ。
ふたりともボクにしがみついたまま、ずっと震えていた。
ボクたちはそうやって、なんとか無事に落とし穴から脱出する。
罠の仕掛けられた洞窟で、お宝を手に入れただなんて……まるで冒険映画みたいだ……! とボクは高まる気持ちを抑えられなかった。
墳墓の外に出るなり「やったー!」と大空に向かって叫んでしまう。
みんなで生きて帰った喜びを分かち合った後、ボクはスマート天空石を操作して、天空城を近くに呼び寄せた。
しばらく待っていると……大空から、空飛ぶ帆船のような天空城が降りてくる。
取り残されていたみんなは無事だったけど、まるでお葬式みたいに暗いムードだった。
着陸してしばらくの間も、キツネにつままれたみたいにポカンとしている。
でも、ボクたちが生きているとわかると……みんなはボクらの身体を抱えあげて、大歓声とともに空に放り投げてきた。
いわゆる『胴上げ』というやつだ。
教えてもないのに、そんなことをしてくれるなんて……みんなよっぽど嬉しかったんだなぁ……とボクは宙を舞いながら思った。
■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:15)
今回は『ゴーレム』に2ポイントを割り振りました。未使用ポイントが2あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●創造の奇跡
魔法生物
(4) LV1 ゴーレム … ゴーレムを創る
(1) LV2 小人成長 … 小人を人間にする
(0) LV3 ??? … ???
有機生物
(1) LV1 絶滅 … 生命を絶滅させる
(1) LV2 成長促進 … 生命の成長を早める
(0) LV3 ??? … ???
回復
(1) LV1 治癒 … 病気や怪我を治す
(0) LV2 死者蘇生 … 死んだものを蘇らせる
(0) LV3 ??? … ???
●神通の奇跡
神の手
(1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る
(0) LV2 ウェポン … 武器を出す
(0) LV3 マジック … 天空城の奇跡を手から出せる
神の叡智
(0) LV1 現界の声 … この世界の声を聞く
(0) LV2 異界の声 … 異界からの声を聞く
(0) LV3 天啓 … 人間に知恵を授ける
●天候の奇跡
雲
(1) LV1 雲 … 家の煙突から雲を出せる
(0) LV2 虹 … 虹を出せる
(0) LV3 ??? … ???
風
(0) LV1 風 … 風を起こせる
(0) LV2 竜巻 … 竜巻を起こせる
(0) LV3 ??? … ???
雨
(1) LV1 雨 … 雨を降らせる
(0) LV2 洪水 … 洪水を起こす
(0) LV3 ??? … ???
雪
(0) LV1 雪 … 雪を降らせる
(0) LV2 大雹 … 大きな雹を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
雷
(1) LV1 雷 … 雷を落とす
(0) LV2 導雷 … 目標に誘導する雷を落とす
(0) LV3 ??? … ???
火
(0) LV1 火の粉 … 火の粉を降らせる
(0) LV2 火の玉 … 火の玉を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
●天空城の奇跡
高度
(0) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる
(0) LV2 天空界 … 「天空界」まで飛ばせるようになる
(0) LV3 ??? … ???
速度
(0) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる
(0) LV2 高速移動 … 高速移動ができる
(0) LV3 ??? … ???
流脈
(0) LV1 消費減少 … 奇跡力の消費を抑える
(0) LV2 放出 … 天空城から物体を放出できる
(0) LV3 ??? … ???
障壁
(0) LV1 防御障壁 … 天空城を守るバリアを張る
(0) LV2 水中潜行 … 水中に潜れるようになる
(0) LV3 ??? … ???
●太陽の奇跡
気温上昇
(0) LV1 気温上昇 … 気温を上げる
(0) LV2 猛暑 … 猛暑にする
(0) LV3 ??? … ???
気温下降
(0) LV1 気温下降 … 気温を下げる
(0) LV2 寒波 … 寒波を起こす
(0) LV3 ??? … ???




