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22 神々の遺産、見つけました

 まるで海をひっくり返したみたいな澄み切った青空が、どこまでも広がっている。


 ボクはひと足早く海に着いたような、爽やかな気分になっていたけど……あんまり浸ってもいられなかった。


 漂流するボートみたいに、ポツンと浮かぶ天空城。

 あそこに戻らなきゃ、本物の海にはいつまでたっても着けないからだ。


 集落のみんなはボクらが落ちたのを知ってるから、いまごろ大騒ぎだろう。

 天空城から落ちたボクらのほうが大変そうに見えるけど、本当に大変なのは彼らのほうなんだ。


 だって、天空石はボクしか操作できない。

 ボクがいなければ、空の上に取り残されたのと同じなんだ。


 空では食べ物も取れないから、燻製にした熊肉がなくなったら飢え死にしちゃう。

 だから……ボクはなんとしても天空城に戻らなきゃいけない。


 でも、どうすればいいんだろう。

 ……ひとりで考えても思いつきそうにないから、一緒に落ちてきたみんなに相談してみようかな。


 ボクは川べりの岩から飛び降りて、みんなを探す。しかし近くにはいなかった。

 どこに行ったのかな……? と探すと、みんなはなぜか、川沿いから少し離れた所にある、大きな木の前にいた。


 木の根っこのところにある穴にアンジュさんが挟まっていて、背中だけが見えている。

 まわりにラヴィさん、フルール、ポポがいて何やら話しかけていた。


 ボクもその輪に入るべく、尋ねてみる。


「……みんな、なにかあったの?」


「アンジュちゃんが、木にあいた穴に入ったまま、出てこなくなっちゃって……」


「キューン」


 困ったようなラヴィさんと、心配そうなポポ。


「これはニレ科ケヤキ属の木、ケヤキです。根本に大きなウロがあるので、内部も損傷しているものと推測されます」


 聞きたかったこととは、だいぶ違う答えを返してくるフルール。


 肝心のアンジュさんは、洞窟みたいなウロの中にこもったまま無言で背を向けている。

 ……いったい、どうしちゃったんだろう。


 ボクは木をぐるっと回って、反対側に回り込んでみる。

 すると、小窓みたいなウロが開いていて……その中には、両膝を抱えてうつむいているアンジュさんがいた。


「どしたのアンジュさん? どこか具合でも悪いの?」


 すると、アンジュさんは顔を伏せたまま、かすれ声でつぶやいた。


「……アタシ、いらない子なのかなぁ……」


「え? どうしてそんなこと言うのさ?」


「アタシは天使として、ここにやって来たのに……神様であるソラをサポートして、助けてあげなきゃいけない役割なのに……ずっと失敗ばかりで、ソラに助けられてばっかりで……」


「もしかして、失敗したことで落ち込んでるの? そんなことで落ち込まなくても……」


 すると、アンジュさんはパッと顔をあげた。

 泣いていたようで、涙と鼻水でグチャグチャになっている。


「そ……そんなことって……! もう少しで死んじゃうところだったんだよ!? 熊のときもそう! 落ちたときもそう! 溺れたときもそう……! アタシがもっとしっかりしてれば……失敗しなければ、防げたことなのに! やっぱりアタシは、前世でママに言われたみたいに、いらない子だったんだ!!」


 アンジュさんは、溜め込んでいたものを涙とともに吐き出す。

 なぜそんなことを気にしてるんだろう、とボクは不思議でしょうがなかった。


「ボクはアンジュさんのことを、いらない子だなんて一度も思ったことないよ? むしろ、いてくれてありがとう、っていつも思ってる」


「う……ウソ……! アタシなんか、ワガママで、オッチョコチョイで……知識もソラの一割に満たないバカなのに……!」


 自分のことを大声で罵倒するアンジュさん。


 なぜそんな風に、自分のことをダメなヤツみたいに言うのか……ボクは全く理解できずにいた。

 もう信じられなくて、つい大きな声をあげてしまう。


「なんでそんなこと言うのさ!? アンジュさんにはいい所がいっぱいあるのに、なんでそんなどうでもいい、悪いところばかり気にしてるの!?」


「ど……どうでもよくなんか、ないっ……!」


「ううん、どうでもいい! だってアンジュさんが言った悪いところって、たったの三つじゃないか! ボクはアンジュさんの良いところ、三百個は言えるよ!」


 ボクの心からの叫びに、アンジュさんは雷に打たれたみたいに硬直する。

 濡れた瞳を、これでもかと見開いていた。


 どうやら、ビックリさせちゃったようだ。

 でもボクはもう自分を止められなくて、さらにまくしたてる。


「それにさっきから失敗を気にしてるけど、それだってどうでもいいよ!! だって失敗しても、やり直せばいいだけじゃないか!! ボクはアンジュさんが、何度熊に襲われても助けにいくし、何度高いところから落ちても助けにいくし、何度溺れてたって助けにいくよ!!」


「な、なんでそんなに、アタシのこと……!」


 叱られた子供みたいに、アンジュさんは戸惑っている。


「当たり前だろ!! だって家族じゃないかっ!!!」


 なにを戸惑うことがあるのかと、ボクはつい、怒鳴りつけてしまった。

 「……家族……!」と噛みしめるようなアンジュさん。


 言いたいことを言えて、ボクはなんとか落ち着きを取り戻した。

 それでようやく、隣にラヴィさんとフルールがいるのに気づく。


 ボクは息を整えながら、ラヴィさんのほうを見た。


「そう思ってるのは、ボクだけじゃなくて……ラヴィさんもそうでしょ? だって落ちたときに、真っ先に助けに来てくれたもん」


 するとラヴィさんはにっこり微笑んで、頷き返してくれる。


「うん。だってソラちゃんもアンジュちゃんも、私の大切な家族だもん。みんな無事でよかったわ」


 その言葉に、ボクはあることを思い出した。

 落ちつきはじめた心が、またしても騒ぎ出す。


「……あ! そうだ、思い出した! これだけは、お姉ちゃんたちに言っておきたかったんだ! フルールもこっちに来て! 落ちてる途中なのに、なんで三人とも途中であきらめちゃったの!? 偶然助かったからよかったものの、あきらめたりしちゃダメだよ!」


 ボクはラヴィさん、アンジュさん、フルールに向かってお説教をした。

 背はボクがいちばん低いけど、言いたいことはちゃんと言っておかなきゃ。


「だって……私が犠牲になれば、みんなは助かるかなぁって思って……」


「マスターを守るのは、ゴーレムである自分の大原則です」


 申し訳なさそうなラヴィさんと、申し訳なくなさそうなフルール。

 ラヴィさんはまだ悩んでいるかのような様子で、黙ったままうつむいている。


 ボクは三人に向かって、音がするくらいに大きく、首を左右に振り回した。


「ダメダメそんなの! みんなで助かる方法を、最後の最後まで考えようよ! ボクはひとりだって失いたくない……! みんなと一緒に助かりたいんだ! ポポもそう思うよね!? ……あれっ、ポポは?」


「……ウミャアアアアン!」


 するとアンジュさんがいるウロの小窓から、「ここにいるぞ!」とばかりに鳴き声が響きわたる。

 見るとアンジュさんの肩越しから、身体をよじるようにして無理矢理入り込んでくる猫のポポの姿があった。


「……ちょ! く、くすぐったいって! やめてポポ!」


「ウニャアアアアアアン!」


 アンジュさんはくすぐったそうに肩をすくめているが、ポポはどんどん入りこんでくる。

 狭いウロのなかでウナギのようにうねって、とうとうマフラーみたいにアンジュさんの首に巻きついた。


「もう、くすぐったい! くすぐたいってば! ハッ……! ハフッ……! ハハッ……! ……アハハハハハハハ!!」


 ポポから額をグリグリと押しつけられて、アンジュさんはとうとう破顔する。

 その様子があまりにもほのぼのとしていたので、ボクらもつられて笑ってしまった。


  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 ウロから出てきたポポの毛は、涙と鼻水でベトベトになっている。

 続いて這い出てきたアンジュさんの顔は、憑き物をキレイに拭き取ったみたいにスッキリしていた。


「ポポ、帰ったらちゃんと洗ってあげるからね! ……よぉし、ソラ、行こっ! 早くみんなの所に戻らないと! お姉ちゃんについてきて!」


 そう言いながら、ポポを抱き上げるアンジュさん。

 いつもの調子よりも、さらに元気になったみたいだ。


 でも、よかった……!

 落ち込んでるよりも、イキイキしてるほうがアンジュさんらしいもんね!


 ボクも元気をもらった気分になって、大きな声で返事をする。


「うんっ! お姉ちゃんについていく! なにか戻るための手があるんだね!?」


「ううん、なにもないよ!」


 キッパリと言い切られてしまった。


「そうなんだ……」


 じゃあ、どうしようかな……と思っていると、


「マスター、自分が木に懸崖した際、付近に墳墓のようなものを発見いたしましたので報告いたします」


 藪から棒に、フルールから言われた。


 墳墓……かつてこの世界で暮らしていた、偉い人のお墓が残ってるのかな?

 天空城に戻る事とは関係ないと思うけど……すごく見てみたい気がする。


 ボクはフルールに頼んで、その墳墓に案内してもらった。

 後からアンジュさんとラヴィさん、そしてポポがついてくる。


 川沿いから離れ、少し歩いた原っぱの中に……草に覆われた丘みたいなのがあった。

 手入れがされていないから、まわりは草ボーボーだったけど……たしかに石造りの入口みたいなのがある。


「なにこの洞窟!? すごい宝物とかありそう!」


 真っ先に中に入ろうとするアンジュさん。ボクは慌てて止めた。


「ちょっと待ってアンジュさん! もしかしたら罠とかあるかもしれないから、慎重に入らないと!」


「わ……罠っ!? あの落とし穴とかのほうの罠!?」


「そう、その罠!」


 罠と聞いて、ピタリと足を止めるアンジュさん。

 「あぶなくない?」とさっそく心配してくれるラヴィさん。


「うん、危ないかもしれないから、まずボクが様子を見てくるよ」


 しかしお姉ちゃん三人組から、「それはダメ!」と揃って却下されてしまった。

 しょうがないので、みんなで手を繋いで入ることにする。


 草をかきわけ、石で組まれた入口の中を覗き込む。


 中は天然の洞窟とかじゃなくて、床も壁も天井も、ぜんぶ切り出した石で組み上げられていた。

 天井にはところどころ穴が開いていて、おかげで光が差し込んでくるので視界は悪くない。


 ボクは入口付近の壁と、床を注意深く観察する。

 こういう人工的な建物の場合、入口に重点的に罠を仕掛けるんだ。


 入口でいっぱい罠を見せておけば、奥にはもっとあるんじゃないかと思わせられ、追い返すことができる。

 それに入口には大事なものが置かれていないから、いっぱい罠を作動させても被害は少ないんだ。


 これは本で読んだ知識だけど、実に理にかなっている。

 ボクはそれにならって調べてみたんだけど……床や壁には引っかき傷ひとつなかった。


 罠が作動していたら、何らかの跡が残ると思うんだけど……それらしきものはない。

 それでも念には念を入れ、ボクは拾った木の棒で、床と壁をコンコンと叩きながら慎重に進んでいく。


「なんだか地味~! つまんなーい!」


 アンジュさんが言うように、確かに地味だったけど……ボクはドキドキしていた。

 まるで探検家のような気分になっていたからだ。


「あっ! あそこなんかあるよ!? お宝だよ、きっと!」


 アンジュさんはジャラシを振られた猫みたいに、突如走り出す。


「あっ!? あぶないよ、アンジュさん!」


 制止するボクと、「まあっ!?」と息を飲むラヴィさん。


 しかし彼女は何の恐れもないようで、奥にある小部屋に颯爽と躍り込んでいた。

 室内にある、天井の明かりに照らされた台座に近づいていく。


 台座には、板チョコくらいの大きさの石版があって……それを何の警戒もなくひょいと持ち上げる。


「ねえねえ、見て見てソラ! お宝ゲーット! この石、どこかで見たことない!?」


 石版を頭上で掲げ、ぶんぶんと振り回すアンジュさん。

 ボクらは彼女を追いかけるようにして、小部屋になだれ込む。


「無計画な行動は勧められません。自分のシミュレーションでは、四回死亡しています」


 アンジュさんに冷たく言ってのけるフルール。


「よ……四回も!? 大丈夫? なんともない? アンジュちゃん」


 四回死んだと聞いて、悲鳴をあげるラヴィさん。

 どこかケガしてないかと、アンジュさんの身体を触りまくっている。


 ボクはというと、ため息混じりにアンジュさんから石版を受け取っていた。


 石版を手にした瞬間……まるで電源が入ったみたいに、ボンヤリとした青い光が放たれる。

 そして……どこかで見たことのあるサンタクロース姿のオジサンが、表面に浮かび上がってきた。


「おお、ソラ、ついに最初の神々の遺産を手に入れたようじゃな! これは『スマート天空石』じゃ! 貴重な品じゃから、一気に2レベルアップじゃぞ! ほっほっほっほっ!」


 ホコラにある大きな天空石とは違い、デフォルメの姿になったオジサンが……嬉しそうに笑っていた。

■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:15)


 『スマート天空石』を手に入れたので、『神通の奇跡』LV3が解放されました。


 今回は割り振ったポイントはありません。未使用ポイントが4あります。

 括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。


 ●神通の奇跡

  神の手

   (1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る

   (0) LV2 ウェポン  … 武器を出す

   (0) LV3 マジック  … 天空城の奇跡を手から出せる

  神の叡智

   (0) LV1 現界の声  … この世界の声を聞く

   (0) LV2 異界の声  … 異界からの声を聞く

   (0) LV3 天啓    … 人間に知恵を授ける


 ●天候の奇跡

  雲

   (1) LV1 雲     … 家の煙突から雲を出せる

   (0) LV2 虹     … 虹を出せる

   (0) LV3 ???   … ???

  風

   (0) LV1 風     … 風を起こせる

   (0) LV2 竜巻    … 竜巻を起こせる

   (0) LV3 ???   … ???

  雨

   (1) LV1 雨     … 雨を降らせる

   (0) LV2 洪水    … 洪水を起こす

   (0) LV3 ???   … ???

  雪

   (0) LV1 雪     … 雪を降らせる

   (0) LV2 大雹    … 大きな雹を降らせる

   (0) LV3 ???   … ???

  雷

   (1) LV1 雷     … 雷を落とす

   (0) LV2 導雷    … 目標に誘導する雷を落とす

   (0) LV3 ???   … ???

  火

   (0) LV1 火の粉   … 火の粉を降らせる

   (0) LV2 火の玉   … 火の玉を降らせる

   (0) LV3 ???   … ???


 ●創造の奇跡

  魔法生物

   (2) LV1 ゴーレム  … ゴーレムを創る

   (1) LV2 小人成長  … 小人を人間にする

   (0) LV3 ???   … ???

  有機生物

   (1) LV1 絶滅    … 生命を絶滅させる

   (1) LV2 成長促進  … 生命の成長を早める

   (0) LV3 ???   … ???

  回復

   (1) LV1 治癒    … 病気や怪我を治す

   (0) LV2 死者蘇生  … 死んだものを蘇らせる

   (0) LV3 ???   … ???


 ●天空城の奇跡

  高度

   (0) LV1 高度アップ  … 天空城をさらに高く飛ばせる

   (0) LV2 天空界    … 「天空界」まで飛ばせるようになる

   (0) LV3 ???    … ???

  速度

   (0) LV1 速度アップ  … 天空城の移動速度があがる

   (0) LV2 高速移動   … 高速移動ができる

   (0) LV3 ???    … ???

  流脈

   (0) LV1 消費減少   … 奇跡力の消費を抑える

   (0) LV2 放出     … 天空城から物体を放出できる

   (0) LV3 ???    … ???

  障壁

   (0) LV1 防御障壁  … 天空城を守るバリアを張る

   (0) LV2 水中潜行  … 水中に潜れるようになる

   (0) LV3 ???   … ???


 ●太陽の奇跡

  気温上昇

   (0) LV1 気温上昇  … 気温を上げる

   (0) LV2 猛暑    … 猛暑にする

   (0) LV3 ???   … ???

  気温下降

   (0) LV1 気温下降  … 気温を下げる

   (0) LV2 寒波    … 寒波を起こす

   (0) LV3 ???   … ???

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