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20 ついに、海に向かいます

 熊との戦いというアクシデントはあったものの、ボクたちは次の日も、海に行くための準備をした。


 まずラヴィさんに燻製の作り方を教えて、熊肉をぜんぶ燻してもらう。

 燻製にしてしまえば水分がなくなり、日持ちもするから海に持っていくのにピッタリなんだ。


 そして熊の毛皮のほうも有効活用するべく、切り分け用のハサミをタチギさんに作ってもらった。

 といっても金属はないので、木を削って作ったハサミの型に、鋭くした平らな石をくっつけてみたんだ。


 金属のハサミに比べて不格好だし、切れ味もあまり良くないんだけど……でも、切る道具としてはなんとか使えた。

 ハサミの登場に、いちばん喜んだのはアンジュさんだった。

 「これでみんなの髪の毛が切れるー!」って。


 そして熊がいるということがわかったので、石ヤリでの特訓に加えて、みんなに投石器の使い方も教えるようにした。

 あのおっきな獣に近づいて戦うのは、かなり大変だと思ったからだ。


 ただ投石器は石ヤリと違って使うのが難しいようで、みんなは大きな的に当てるのも苦労していた。

 まぁ、これは気長に練習してもらうことにする。


 みんなへの指示が終わったところで、ボクは最後の仕上げとして、『ジオグラフ』を使った。


 集落のまわりをぐるっと囲むように切り取り、アンジュさんのサツマイモ畑を切り取り、河原の火焚き場まで切り取ってみる。

 川を切り取ったらどうなるのかな、と思い、試しに川の一部を切り取ってみたんだけど、そこは池に変わった。


 ……そんな感じで、ここ数日は海に行くための準備ばかりしてたんだけど……本当にあっという間に過ぎていったんだ。


 アンジュさんのサツマイモ畑の芽が出て、ラヴィさんの言葉もだいぶうまくなってきたある日のこと。

 雲ひとつない晴天の朝、ボクはついに天空城を空に飛ばすことにしたんだ。


 ……ズズズ……ッ!


 大地を根っこごと引っこ抜くように、力強く上昇する天空城。

 地震と勘違いしたのか、池の魚がピョンと跳ねた。


 地面の束縛から離れると、まるで風に吹かれたタンポポの綿毛みたいにフワフワと浮きあがる。

 集落のみんなは、天空城の端でしゃがみこんで、おそるおそる下を覗き込んでいた。


「なんだか、変な感じね……」


 見慣れた風景が離れていくのに違和感を感じているのか、ドキドキを抑えるように胸に手を当てているラヴィさん。言葉にはもう淀みが全くない。


「うーん、なんだかエレベーターに乗ってるみたいだよね」


「アンジュちゃん、エレベーターってなあに?」


「あ、ラヴィは知らないんだ。えーっとね、なんか上にいったり下にいったりするやつ」


「垂直の移動を補助する装置のことです。ロープなどで吊るした足場などで運用されます」


「そう、フルール! よくわかんないけどそれそれ!」


「アンジュちゃんも、フルールちゃんも、本当になんでも良く知ってるのねぇ。まるでソラちゃんみたい」


「自分の知識は、身体の製作者であるアンジュと、マスターであるソラのものがベースとなっています」


「えっ、そうなの!? じゃあアタシとソラの知識で半分ずつになってるんだ!?」


「いいえ。知識の内訳としては大半がソラのものです。アンジュの知識は1割もありません」


「ええーっ、そんなぁーっ!?」


 おっとりしたラヴィさんと、元気なアンジュさん、冷静なフルール。

 三人で話している姿は、傍目にも仲のいい姉妹みたいだ。


 末っ子のボクはほっこりした気持ちを感じつつ、ホコラへと移動する。

 天空石に表示されている高度を確認すると、もうじき100メートルになるところだった。


 画面上の地図にある天空城。ボクはそれを指でドラッグして、南のほうに矢印を伸ばし……川沿いで海に向かう進路を設定する。

 すぐさま画面にオジサンが割り込んできた。


「海のほうに行くんじゃな? でも集落を丸ごと移動しとるから、元いた場所は中立地帯になってしまうぞ」


「ちょっと留守にするだけだよ。海で塩を採ったら戻るつもり」


「あんまり長く留守にすると、モンスターに支配されてしまうから注意するんじゃぞ」


「うん、わかった」


 ボクは落ち着いて返事をしたんだけど、心の中はソワソワしていた。


 だって、海を見るのが楽しみでしょうがなくて……実をいうと昨日の夜もあんまり眠れなかったんだ。

 写真とかでは何度も見たことがあるんだけど、本物は初めてだからしょうがないよね。


 海っていうのは、あたりがぜんぶ水で……しかもしょっぱいらしい。

 そんなのが空にくっつくくらいまで、一面に広がってるんだ……!


 もう想像するだけで、スペクタクル……!

 絶対この目で見ておかないとダメだよね……!


 もちろん主目的は塩を採ることなんだけど、他にもやりたいことや、見たいものがいっぱいあるんだ。

 まずは何からやろうかな……と少し気が早いけど、いろいろ考えていたら、


「ねえソラー? 海に着くまであとどれくらい? 五分? 十分?」


 ボク以上に気の早い、アンジュさんがホコラに入ってくる。


「そんなにすぐには着かないよ。ボクの見立てによると、三日くらいかなぁ」


 するとアンジュさんは、ツインテールが逆立つくらいビックリしていた。


「ええーっ!? そんなにかかるの!?」


「うん。天空城の速度って、歩くより遅いから」


 最初は歩いていくことも考えたんだけど、モンスターの支配する地域を歩いて横断するのは危険だと思ってやめたんだ。


「そうなんだ……あっ!? 水浴びはどうすればいいの!?」


 そう聞かれて、ボクは言葉に詰まる。

 そういえば、アンジュさんが来てからというもの毎日水浴びをしてたんだ。


 おかげでみんな清潔になれてよかったんだけど……移動時の水浴びのことを、ボクはすっかり忘れてた。


「み……水浴びね……。え……えーっと……それは……庭にある池じゃダメ?」


「三日も同じ水の中に入るなんて、イヤだよっ!」


 なんとか絞り出した提案は、即却下されてしまった。


 しょうがないので ボクは人さし指でこめかみを揉む。

 こうすると、アイデアがよく出るんだ。


「……あ! じゃあさ、奇跡で雨を降らすから、それを浴びるってのはどうかな?」


「それ、汚くない?」


「奇跡で降らす雨は飲み水になるから、きっとキレイだよ」


 アンジュさんは腕を組んで、「うぅ~ん」としばらく唸ったあと、


「じゃあ、それでいいけど……。でもさ、今日は雲ないみたいだけど、雨は降るの?」


 ボクの背中ごしにある、天空石の地図画面を指さした。

 振り向いて確認すると、たしかにあたりには雲ひとつない。今日は晴天なんだ。


「そうかぁ……。それじゃあ、こうしよう!」


 ボクは地図画面を閉じて、奇跡ツリーを開く。

 迷うことなく『雲』の奇跡に1ポイントを割り振った。


 『雲』……天空城の家の煙突から、雲を出すという天候の奇跡だ。

 『天候の奇跡』はトップメニューにある『奇跡』のアイコンから使うので、さっそくタッチしてみる。


 すると……『雨』と『雷』の隣に、新しく「New」のマークがついた『雲』のアイコンがあった。


 さっそく使ってみようと、『雲』アイコンをタップ。

 真上から見た地図の、天空城のアップに切り替わった。


 天空城にあるボクの家の煙突から、白いものがもこもこと出ているのが見える。

 ボクとアンジュさんは、揃ってホコラの外を見た。


 そして、「……おおっ!?」とハモる。

 柔らかそうな真っ白い雲が、泡みたいに家の煙突からあふれ出ていたんだ。


「すごーい、綿菓子みたい! ソラ、さっそく雨雲にしてみてよ!」


 アンジュさんからせがまれて、ボクは続けて『雨』のアイコンに触れる。

 天空城の上にたちこめる雲を雨雲に変えると……さっそく大量の雨粒が降りそそいだ。


「うわあーっ! シャワーみたーいっ!!」


 雪を見た犬みたいに、ホコラの外に飛び出していくアンジュさん。

 古代ギリシャのキトンみたいな服を、おかまいなしにびしょ濡れにしながら……雨に打たれていた。


「アハハハハハハ! 気持ちいいーっ!」


 笑いながら両手を広げ、天空城の庭でグルグル回っている。

 つられてラヴィさんも踊りだす。そしてポポも、他のみんなも。


 唯一フルールだけは、畑のカカシみたいに立ち尽くしていた。

 その前をせわしなく行き来して、はしゃぐアンジュさん。


「ねーねー! フルールも踊ろうよ!」


「……不承諾しました。踊る理由がわかりません。説明をお願いします」


「説明って!? 花なのに雨が嬉しくないの!?」


「不承諾しました。自分が花であるということと、雨が降ったことにより『嬉しい』という感情になる因果関係が、自分には理解できません」


「もぉーっ! 難しいことはいいから踊ろうよぉーっ! ほら、こんな風に……!」


 アンジュさんは片足立ちになり、フィギュアスケートみたいに高速回転する。

 そして案の定、目を回していた。


「承諾しました。でもその前に、警告します。そこから7時の方角、10センチ先は地面がありません」


「えっ、何……!? きゃあっ!?」


 次の瞬間、アンジュさんの姿が……短い悲鳴とともにガクンと沈んだ。

■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:13)


 今回は『雲』に1ポイントを割り振りました。未使用ポイントが2あります。

 括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。


 ●天候の奇跡

  雲

   (1) LV1 雲     … 家の煙突から雲を出せる

   (0) LV2 虹     … 虹を出せる

   (0) LV3 ???   … ???

  風

   (0) LV1 風     … 風を起こせる

   (0) LV2 竜巻    … 竜巻を起こせる

   (0) LV3 ???   … ???

  雨

   (1) LV1 雨     … 雨を降らせる

   (0) LV2 洪水    … 洪水を起こす

   (0) LV3 ???   … ???

  雪

   (0) LV1 雪     … 雪を降らせる

   (0) LV2 大雹    … 大きな雹を降らせる

   (0) LV3 ???   … ???

  雷

   (1) LV1 雷     … 雷を落とす

   (0) LV2 導雷    … 目標に誘導する雷を落とす

   (0) LV3 ???   … ???

  火

   (0) LV1 火の粉   … 火の粉を降らせる

   (0) LV2 火の玉   … 火の玉を降らせる

   (0) LV3 ???   … ???


 ●創造の奇跡

  魔法生物

   (2) LV1 ゴーレム  … ゴーレムを創る

   (1) LV2 小人成長  … 小人を人間にする

   (0) LV3 ???   … ???

  有機生物

   (1) LV1 絶滅    … 生命を絶滅させる

   (1) LV2 成長促進  … 生命の成長を早める

   (0) LV3 ???   … ???

  回復

   (1) LV1 治癒    … 病気や怪我を治す

   (0) LV2 死者蘇生  … 死んだものを蘇らせる

   (0) LV3 ???   … ???


 ●神通の奇跡

  神の手

   (1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る

   (0) LV2 ウェポン  … 武器を出す

   (0) LV3 ???   … ???

  神の叡智

   (0) LV1 現界の声  … この世界の声を聞く

   (0) LV2 異界の声  … 異界からの声を聞く

   (0) LV3 ???   … ???


 ●天空城の奇跡

  高度

   (0) LV1 高度アップ  … 天空城をさらに高く飛ばせる

   (0) LV2 天空界    … 「天空界」まで飛ばせるようになる

   (0) LV3 ???    … ???

  速度

   (0) LV1 速度アップ  … 天空城の移動速度があがる

   (0) LV2 高速移動   … 高速移動ができる

   (0) LV3 ???    … ???

  流脈

   (0) LV1 消費減少   … 奇跡力の消費を抑える

   (0) LV2 放出     … 天空城から物体を放出できる

   (0) LV3 ???    … ???

  障壁

   (0) LV1 防御障壁  … 天空城を守るバリアを張る

   (0) LV2 水中潜行  … 水中に潜れるようになる

   (0) LV3 ???   … ???


 ●太陽の奇跡

  気温上昇

   (0) LV1 気温上昇  … 気温を上げる

   (0) LV2 猛暑    … 猛暑にする

   (0) LV3 ???   … ???

  気温下降

   (0) LV1 気温下降  … 気温を下げる

   (0) LV2 寒波    … 寒波を起こす

   (0) LV3 ???   … ???

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