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19 はじめての肉は、熊の肉でした

「……す……すごいすごいすごいっ!! 蜂をあんな風に操れるなんて!! まるで誘導弾みたいだ……!! すごい……すごい技だよっ……!!」


「……こ……怖い怖い怖いっ! た……助けてくれたのは嬉しいけど……まさか身体のなかに蜂がいるだなんて……! それも、あんなにいっぱい……! 怖い……怖いよっ……!」


 ボクとアンジュさんの反応は対照的だった。


 ボクはフルールのロボットみたいな技に大興奮。

 でもアンジュさんのほうは、可愛い子猫だと思って育ててみたらライオンでした、みたいな裏切りにあったようなショックを受けている。


 しかしボクらになんと言われようと、フルールはどこ吹く風のようだ。


「花と蜂は共生関係にあります。自分はフラワーゴーレムですので、蜂を体内に有するのは自然なことだと判断します」


 なるほど、とボクは納得する。


 図鑑で見た時から思ってたんだけど、蜂って強そうな見た目で好きなんだ。

 そんな格好いいのを、自由に操れるなんて……いいなぁ、と羨ましくなってしまう。


 でも、アンジュさんは説明されてもなお嫌そうだった。

 熊からの恐怖を引きずっているのか、えぐえぐと涙を溢れさせている。


「は……花には蜂はつきものだけどぉ……蜂なんて怖いよぉ……間違って飛び出しちゃったりしたらどうするのぉ?」


「蜂は自分の命令によってのみ外に出ます。それ以外では出ることはありません」


「でも……くしゃみとかしたときに、はずみでピュッて飛び出したりしない?」


「ゴーレムに不随意運動は存在しません。また自分の体内では蜂蜜が生成されていますので、いずれ食料としても提供できるという利点があります」


「えっ!? 蜂蜜を作ってるの!? アタシ、蜂蜜大好き!」


 蜂蜜と聞いたとたん、色めきたつアンジュさん。

 激しい夕立ちのあとの晴天みたいに、涙で濡れていた瞳が輝き出す。


「それでは、完成したら進呈します」


「やったぁーっ! 約束だよっ!? あ……そうだ! 蜂蜜とサツマイモがあれば……大学芋が作れちゃう! よぉーし、がんばるぞぉーっ! えいっ、えいっ、おーっ!!」


 先ほどまでのどん底の空気はどこへやら、元気いっぱいに立ち上がり、拳を天に突き上げるアンジュさん。

 ボクは彼女の立ち直りの速さに、本当に感心してしまった。


  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


「ソ…ソラッ!? ダイジョウブ!? イタクナイ!? シッカリ!!」


 まるで遭難した我が子を見つけたかのように、顔を真っ青にしながら一目散に走ってくるラヴィさん。

 騒ぎを聞きつけて、集落のみんなも駆けつけてくれたようだ。


 少ししてピエールも来てくれたので、ボクは倒れている熊を抱えて持って帰るようお願いする。

 熊は2メートルくらいあって、かなり重そうだったんだけど……ピエールにとっては特に問題ないようで、熊をお姫様抱っこして運んでくれた。


 ボクはボクで動けなかったので、ラヴィさんに抱っこしてもらって、集落まで連れて帰ってもらう。

 その道中、手の甲が光っていることに気づいた。


 熊を倒したから……ってボクが倒したわけじゃないけど、フルールが熊を倒したからレベルアップしたんだろう。

 ふと、隣を歩いていたアンジュさんが話しかけてくる。


「……ねぇソラ、あの熊、どうするの?」


「え? 毛皮を剥いで、肉を食べるつもりだよ」


「ええっ!? 食べちゃうの!?」


「うん、殺した生き物は食べないと。熊肉は栄養があるしね。それに……狩猟はいずれやるつもりだったんだ。ちょうどいい機会だから、男の子たちに解体を覚えてもらおうと思って」


「そ、そうなんだ……」


 アンジュさんはそれ以上、何も言わなかったけど……なぜか熊を食べることに対して気後れしてるようだった。


 集落に着いてから、ボクは天空城の家にあるベッドで少し休んだ。

 腰をひどく痛めてたんだけど、『治癒』の奇跡があるおかげで、横になっているだけですぐに良くなった。


 ボクは腰をひねって、もうどこも痛くないことを確認すると、ベッドから跳ね起きる。


「ソラ モウ オキテ ダイジョウブ?」


 つきっきりで看病してくれたラヴィさんは、心配でしょうがないようだ。


「うん、もう平気! それよりも熊を解体しなきゃ!」


 ボクは寝室から出て、その勢いのまま外へと飛び出す。


 するとピエールが、家の前で熊を抱っこしたまま待っていた。

 集落のみんなもいて、ボクが出て来るのを待っていたようだ。


「よぉし、熊を解体するよ! 力に自信のある子、ボクについてきて!」


 ボクはピエールに頼んで、集落からかなり外れたところにある、川下に熊を運んでもらった。


 解体は水で洗う必要があるから川のそばにしたんだけど、血がいっぱい流れるはずだから、川下のほうを選んだ。

 それと匂いもするはずだから、なるべく集落から離れたところでやることにした。


 河原に熊を仰向けにして、大の字になるように置いてもらう。


「よし……いよいよ解体だ。ウオンさん、まずは石オノで、股のところから首のあたりまで切れ目を入れて」


「ヨシッ!」


 待ってましたとばかりにウオンさんが熊の腹に跨り、大きな石オノを振り下ろす。

 「ウオン! ウオオン!」と威勢のいいかけ声とともに、ザクザクと皮を切り裂いていく。


「じゃあ次はみんなで、切れ目を引っ張って。上着を脱がすみたいにして皮を剥ぐんだ」


 みんなは熊の左右に分かれ、裂け目に指を突っ込む。

 綱引きみたいに踏ん張って、皮をメリメリと剥がしていく。


 ……本当はボクも手伝いたいんだけど、まだ力がないから邪魔になるだけだと思って、指示に徹した。

 女の子たちのほとんどは遠巻きに見てるだけだったんだけど、解体に参加しているエイヤさんと、ボクの背後で寄り添っているラヴィさんだけは熊のすぐ近くにいる。


 エイヤさんは女の子のなかでいちばんの力持ちで、男の子にも負けない。

 本人も力仕事が好きなので、頼りにさせてもらってるんだ。

 いまも「エイヤ! エイヤッ!!」と勇ましく熊の皮と格闘している。


 しかしラヴィさんは血が苦手のようで、ずっと顔をそらしていた。

 でも音と匂いで想像しているようで、ボクにギュッと抱きついてくる。


「あの……ラヴィさん、無理してここにいなくていいんだよ? 他の女の子たちと一緒に遠くにいても……」


「ウウン ソラノ ソバニ イル」


 しかしラヴィさんは、気丈に首を振った。


 皮を剥ぎ終えたあと、肉を切り分け、内臓を取り出す。

 初めて見る熊の肉は、分厚い脂身に覆われていた。


 熊は冬眠をするから、この分厚い脂肪が必要なのかな……とボクは思った。


 熊の解体は数人がかりでやっても時間がかかり、終わる頃には夜になっていた。

 石オノの歯がいくつも欠けてしまったので、途中からボクとタチギさんで石器を作り、新しい石オノを渡しながら解体してもらった。


 とれた肉は、すぐに食べる分と保存する分に分けた。

 保存する分は、急ごしらえで作った干し肉台に入れて乾かす。これは明日にでも燻製にしようと思う。


 じゅうたんみたいな大きな熊皮が取れたので、洗って干す。

 これは衣服を作るのに使うつもりだ。


 そしてもちろん、今夜のゴハンは熊肉。ラヴィさんに料理してもらった。

 臭みを取るためにハーブを入れたらしい、特製の熊汁。


 ボクが生まれて初めて口にする、肉の感想は……、


「こ……これが……肉っ……! まさに、肉ってカンジだ……!」


 柔らかくてホクホクの魚とちがって、中身が詰まっているような……ギッシリというか、ガッツリとした歯ごたえ。

 噛みしめるとじゅわっと肉汁があふれて、口いっぱいに広がる。


 ひと口食べるごとに……身体の底からモリモリとエネルギーが湧いてくるみたいだ……!


 昔の人は、脳を食べると頭が良くなると信じていたらしい。

 その時は理解できなかったけど、いまならその気持がわかる。


 だって、この熊肉を食べていると……まるで熊の力強さを分けてもらってるような気分になるんだ……!


 熊の肉は、みんなにも大好評だった。

 特に、解体してくれた男の子や女の子は、感激のあまり雄叫びをあげながら食べている。


 でも……アンジュさんはいつもと変わらず、輪の外でリンゴをかじっていた。

 なんとかして、アンジュさんにも肉を食べてもらえないかな……とボクが思っていると、


「……ハイ」


 ラヴィさんが、木の枝に刺した赤い物体をアンジュさんに手渡していた。


「なに? このシワシワのやつ」


「ヤイタ リンゴ」


「えっ、リンゴを焼いちゃったの?」


「アタタカイモノ タベナイト ダメッテ ソラガ イッテタ」


「いや、そうかもしれないけど……リンゴを焼くなんて……」


「ワタシ タベテ ミタラ オイシカッタ」


「……ホントに?」


「ウン タベテ ミテ」


 そう言われても、アンジュさんはまだ半信半疑そうだった。

 湯気をたてる縮んだリンゴと、ラヴィさんの顔を交互に見ている。


 でも、いよいよ観念したようで……木の枝の端を持って、リンゴに口を近づけた。

 おそるおそる、リンゴの端をちょこっとだけ齧る。


「あちち……はふ、はふ……んんっ!? ホントだ! おいしいっ!?」


 子供のように目をまんまるにするアンジュさんに、母親のようにやさしく微笑みかえすラヴィさん。

 ボクはふたりの邪魔をしちゃ悪いかなと思ってたんだけど、


「お……おーいっ! ボクもひとくち食べさせてーっ!」


 もうガマンできなくなって、ふたりの元に走っていた。

■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:13)


 今回は割り振ったポイントはありません。未使用ポイントが3あります。

 括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。


 ●創造の奇跡

  魔法生物

   (2) LV1 ゴーレム  … ゴーレムを創る

   (1) LV2 小人成長  … 小人を人間にする

   (0) LV3 ???   … ???

  有機生物

   (1) LV1 絶滅    … 生命を絶滅させる

   (1) LV2 成長促進  … 生命の成長を早める

   (0) LV3 ???   … ???

  回復

   (1) LV1 治癒    … 病気や怪我を治す

   (0) LV2 死者蘇生  … 死んだものを蘇らせる

   (0) LV3 ???   … ???


 ●天候の奇跡

  雲

   (0) LV1 雲     … 家の煙突から雲を出せる

   (0) LV2 虹     … 虹を出せる

   (0) LV3 ???   … ???

  風

   (0) LV1 風     … 風を起こせる

   (0) LV2 竜巻    … 竜巻を起こせる

   (0) LV3 ???   … ???

  雨

   (1) LV1 雨     … 雨を降らせる

   (0) LV2 洪水    … 洪水を起こす

   (0) LV3 ???   … ???

  雪

   (0) LV1 雪     … 雪を降らせる

   (0) LV2 大雹    … 大きな雹を降らせる

   (0) LV3 ???   … ???

  雷

   (1) LV1 雷     … 雷を落とす

   (0) LV2 導雷    … 目標に誘導する雷を落とす

   (0) LV3 ???   … ???

  火

   (0) LV1 火の粉   … 火の粉を降らせる

   (0) LV2 火の玉   … 火の玉を降らせる

   (0) LV3 ???   … ???


 ●神通の奇跡

  神の手

   (1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る

   (0) LV2 ウェポン  … 武器を出す

   (0) LV3 ???   … ???

  神の叡智

   (0) LV1 現界の声  … この世界の声を聞く

   (0) LV2 異界の声  … 異界からの声を聞く

   (0) LV3 ???   … ???


 ●天空城の奇跡

  高度

   (0) LV1 高度アップ  … 天空城をさらに高く飛ばせる

   (0) LV2 天空界    … 「天空界」まで飛ばせるようになる

   (0) LV3 ???    … ???

  速度

   (0) LV1 速度アップ  … 天空城の移動速度があがる

   (0) LV2 高速移動   … 高速移動ができる

   (0) LV3 ???    … ???

  流脈

   (0) LV1 消費減少   … 奇跡力の消費を抑える

   (0) LV2 放出     … 天空城から物体を放出できる

   (0) LV3 ???    … ???

  障壁

   (0) LV1 防御障壁  … 天空城を守るバリアを張る

   (0) LV2 水中潜行  … 水中に潜れるようになる

   (0) LV3 ???   … ???


 ●太陽の奇跡

  気温上昇

   (0) LV1 気温上昇  … 気温を上げる

   (0) LV2 猛暑    … 猛暑にする

   (0) LV3 ???   … ???

  気温下降

   (0) LV1 気温下降  … 気温を下げる

   (0) LV2 寒波    … 寒波を起こす

   (0) LV3 ???   … ???

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